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従業員が初期消火でけがをしたら誰が補償するのか|消防法の災害補償が届く範囲と労災保険との違いを解説

従業員が初期消火でけがをしたら誰が補償するのかを解説する記事のアイキャッチ画像

自衛消防隊の初期消火や消防訓練の最中に、従業員がけがをすることがあります。
このとき消防法にも災害補償の制度がありますが、これは市町村が消防作業に協力した人を補償するための制度です。
自分の会社の火災で消火にあたった従業員が、そのまま対象になるとは限りません。
誰が対象で誰が対象外かは条文で線が引かれています

訓練中に社員がけがをしたら、消防のほうから補償が出るんでしょうか。

消防法の補償は消防作業に従事した人のための制度です。
自社の訓練はここに入りません

では実際の火災で初期消火をした場合はどうなるんでしょう。

そこは火元がどこかで扱いが分かれます。
条文の順に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 消防法第36条の3第1項の災害補償は市町村が政令の基準に従い条例で行う制度です
  • 対象になるのは第25条第2項で協力した人と第29条第5項で消防隊に従事させられた人です
  • 補償の種類は療養補償から葬祭補償までの7つで、金額の土台になる補償基礎額は原則1万円です
  • 火元の区画の所有者や勤務者は、消防法施行規則第52条第1項で補償の対象から外されています
  • 自社の火災や訓練でけがをした従業員は労働者災害補償保険など事業主側の制度で備えることになります

消防法の災害補償が届く人と届かない人を消防隊に頼まれた人と現場附近で協力した人と他の区画の勤務者と火元の区画の勤務者の4つで示した図解

消防法の災害補償とはどういう制度なのか

市役所の庁舎と腕を負傷した人物と書類の束を並べたイメージ
消防法には、消防の仕事に巻き込まれてけがをした人を救済するための災害補償の規定があります。
支払うのは会社でも保険会社でもなく、市町村です。
消防法第三十六条の三第一項 第二十五条第二項(略)又は第二十九条第五項(略)の規定により、消火若しくは延焼の防止若しくは人命の救助その他の消防作業に従事した者又は第三十五条の十第一項の規定により市町村が行う救急業務に協力した者が、そのため死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり又は障害の状態となつた場合においては、市町村は、政令で定める基準に従い条例の定めるところにより、その者又はその者の遺族がこれらの原因によつて受ける損害を補償しなければならない
補償するのは市町村です。
条文は「政令で定める基準に従い条例の定めるところにより」と書いており、金額や手続の細かいところは市町村の条例で決まります。
同じ制度でも、請求する先は火災が起きた場所の市町村になります。
これは事業主が従業員に対して負う責任とはまったく別の制度です
まずは自分の建物のある市町村に損害補償の条例があるかを確認しておくと、いざというときに動けます。

会社ではなく市町村が払う制度なんですね。

はい。
中身は所在地の市町村の条例で決まるので一度確認しておいてください。

どの立場で消火にあたった人が補償の対象になるのか

消防隊員が指し示す先でホースの筒先を持つ一般の人物と建物を並べたイメージ
先ほどの条文は、対象になる人を条項で名指ししています。
名指しされているのは第25条第2項と第29条第5項です。
消防法第二十五条 火災が発生したときは、当該消防対象物の関係者その他総務省令で定める者は、消防隊が火災の現場に到着するまで消火若しくは延焼の防止又は人命の救助を行わなければならない。 2 前項の場合においては、火災の現場附近に在る者は、前項に掲げる者の行う消火若しくは延焼の防止又は人命の救助に協力しなければならない。 消防法第二十九条第五項 消防吏員又は消防団員は緊急の必要があるときは、火災の現場附近に在る者を消火若しくは延焼の防止又は人命の救助その他の消防作業に従事させることができる
対象は現場に居合わせて協力した人です。
第25条第2項は火災の現場附近に在る者の協力義務で、たまたま近くにいて手を貸した人がここに入ります。
第29条第5項は、消防吏員や消防団員に求められて消防作業に従事した人です。
第25条第1項の応急消火義務者は、この第1項の名指しに入っていません
消防法施行規則第46条は応急消火義務者として火災を発生させた者・火災の発生に直接関係がある者・火災が発生した消防対象物の居住者又は勤務者を挙げており、自分の建物で真っ先に動く立場の人ほどこの条文からは外れています。

近くにいて手伝った人と、消防隊に求められた人が対象なんですね。

そのとおりです。
応急消火義務者はここには挙がっていない点を押さえてください。

補償として何がどれだけ支払われるのか

病院のベッドと硬貨の山とカレンダーを並べたイメージ
補償の中身は市町村の条例で決まりますが、その土台になる基準は政令に置かれています。
種類と金額の考え方はこの政令を見ればわかります。
非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令第一条 (略)消防法第三十六条の三の規定による消防作業に従事した者又は救急業務に協力した者に係る損害補償(略)の種類は、次に掲げるものとする。 一 療養補償 二 休業補償 三 傷病補償年金 四 障害補償(略) 五 介護補償 六 遺族補償(略) 七 葬祭補償 同令第二条第二項第二号 (略)消防作業従事者(略)が消防作業(略)に従事し(略)たことにより死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり(略)た場合には、一万円とする。ただし、その額が、その者の通常得ている収入の日額に比して公正を欠くと認められるときは、一万五千円を超えない範囲内においてこれを増額した額とすることができる
用意されている補償は7つです。
療養補償・休業補償・傷病補償年金・障害補償・介護補償・遺族補償・葬祭補償が並びます。
金額の土台になる補償基礎額は、消防作業に従事した人の場合は原則1万円です。
その人の収入の日額に比べて公正を欠くと認められるときは1万5000円まで増額できます
実際の賃金がいくらであっても、この額を土台にして計算する仕組みになっている点は知っておいてください。

つまり給料が高い人でも土台の額は決まっているということですね。

はい。
補償基礎額には政令の上限があるので実額の補填を前提にした制度ではありません。

自分の会社の火災で消火した従業員はなぜ対象から外れるのか

二つの区画に分かれた建物と左右に立つ二人の人物と区画の境目に置かれた禁止マークのイメージ
第25条第1項で消火にあたった人にも、補償の道がまったく無いわけではありません。
ただしその入口は、専有部分がある建物に限って開きます。
消防法第三十六条の三第二項 消防対象物が構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの(以下この条において「専有部分」という。)がある建築物その他の工作物であり、かつ、専有部分において火災が発生した場合であつて、第二十五条第一項の規定により、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助に従事した者のうち、次に掲げる者以外の者が、そのため死亡し(略)たときも、前項と同様とする。 一 火災が発生した専有部分の各部分の所有者、管理者、占有者その他の総務省令で定める者(略) 消防法施行規則第五十二条第一項 法第三十六条の三第二項第一号の総務省令で定める者は、次に掲げる者とする。 一 火災が発生した専有部分の各部分の所有者、管理者、占有者、居住者及び勤務者 二 火災を発生させた者 三 火災の発生に直接関係がある者
火元の当事者は外れる仕組みです。
規則第52条第1項第一号は、火災が発生した専有部分の所有者・管理者・占有者・居住者と並べて勤務者を挙げています。
自分の勤め先の区画から出火して初期消火にあたった従業員は、この号に当たるため補償の対象になりません。
そもそも専有部分が無い建物では第2項の入口自体が開きません
一棟をまるごと1社で使っている工場や店舗では、第25条第1項の活動でけがをしても消防法の補償には結び付かないという整理になります。

自社ビルだと消防法の補償は出ないということですか。

条文の建て付けはそうなっています。
だからこそ事業主側の備えが要ります。

明日からなにを備えておけばよいのか

クリップボードを持つ人物と書類棚と表紙に盾の紋章が付いた書類を並べたイメージ
消防法の補償で埋まらない部分は、事業主側の制度で受け止めることになります。
その代表が労働者災害補償保険です。
労働者災害補償保険法第七条第一項 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。 一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付(略) 非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令第十八条第一項 市町村(略)は、損害補償を受けるべき者が他の法令(条例を含む。)の定めるところによる療養その他の給付又は補償を受けた場合においては、同一の事由については、その受けた療養その他の給付又は補償の限度において、損害補償の責を免かれるものとする。
二階建てで考えると整理できます。
従業員が業務として行う自衛消防活動や訓練でけがをした場合は、業務災害として労働者災害補償保険の対象になりうる場面です。
仮に市町村の補償と重なっても、政令第18条第1項によって同一の事由については受けた給付の限度で市町村の補償が免責されるため、二重に受け取る形にはなりません。
訓練の実施責任者と補助者を消防計画で決め、訓練前の資器材の点検と服装の指示まで書いておいてください
そのうえで、労働者災害補償保険の適用を所轄の労働基準監督署に、市町村の損害補償条例の有無を所轄消防署に確認しておくと、事故が起きてからの動きが早くなります。

消防法と労災を二階建てで考えればいいんですね。

はい。
訓練の安全管理を消防計画に落とすところから始めてください。

よくある質問

Q隣のテナントの火災を手伝ってけがをした従業員は対象になりますか?
A専有部分がある建物で他の専有部分から出火した場合は、消防法施行規則第52条第1項が挙げる者に当たらない限り対象になりえます。具体的な判断は所轄消防署にご確認ください。
Q消防隊から手伝うよう求められた場合はどうなりますか?
A消防吏員又は消防団員が消防法第29条第5項により従事させた場合は、第36条の3第1項が名指しする消防作業従事者として補償の対象になります。
Q補償の請求はどこにすればよいのですか?
A補償を行うのは市町村です。手続は市町村の条例で定められているため、火災が起きた場所の市町村の窓口にお問い合わせください。
Q労災保険が出たら市町村の補償は受けられなくなりますか?
A政令第18条第1項により、同一の事由については受けた給付の限度で市町村が損害補償の責を免れると定められています。全額が消えるという意味ではありません。

まとめ

消防法第36条の3第1項の災害補償は市町村が条例で行う制度です
名指しされているのは第25条第2項第29条第5項で消防作業に従事した人です
補償の種類は療養補償から葬祭補償までの7つと政令で定められています
補償基礎額は原則1万円で、公正を欠くときでも1万5000円が上限です
火元の専有部分の勤務者は規則第52条第1項で対象から外されています
専有部分が無い建物では第36条の3第2項の入口自体が開きません
自社の活動でのけがは労働者災害補償保険など事業主側の制度で備えます

誰が対象で誰が対象外か、条文の線がはっきりしました。

訓練の安全管理を消防計画に書き足すところから始めてください
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参考・出典

  • 消防法第25条・第29条・第36条の3
  • 消防法施行規則第46条・第52条
  • 非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令第1条・第2条・第18条
  • 労働者災害補償保険法第7条
  • e-Gov 法令検索

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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