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高層階から避難階まで下りきれないときはどこへ逃がすのか|水平避難と一時避難場所の考え方を解説

高層ビルの上層階にあるオフィスフロアから遠くの街並みを見下ろしている写真

高い建物ほど、階段で避難階まで下りきるのに時間がかかります。
防災管理者を置かなければならない建物は、そもそも階数も延べ面積も大きいものばかりです。
逃げ道を下向きだけに置いておくと、下りきる前に階段が使えなくなったときに手がなくなります。
消防庁のガイドラインは、水平避難ができるかどうかを避難の基本方針として消防計画に書くよう示しています

うちは20階建てで、上の階から地上まで下りると訓練でも15分以上かかります。
本番でこれだけかかるのは大丈夫なのでしょうか。

下りきる以外の逃がし方を用意しておく考え方があります。
同じ階で横へ移る水平避難です。

横へ移るというのは、建物の中にとどまるということですか。
消防計画にそんな書き方をしてよいものでしょうか。

ガイドラインが一時避難場所という言い方で示しています。
どこまでが標準でどこからが推奨なのかを順に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 防災管理対象物は11階以上で延べ面積1万平方メートル以上のような大きな建物が中心で、階段で下りきるには時間がかかります
  • 避難の基本方針として水平避難の可否と全館避難か部分避難かの選択を消防計画に書きます
  • 水平避難は防火区画などを使って同じ階の別の側へ移る逃がし方です
  • 避難途中階の一時避難場所を使う避難はガイドラインの推奨事項で盛り込むかどうかは建物側の判断です
  • 防災管理側の条文は安全区画を名指ししていないので避難施設として自分で書き起こします

高層階の避難で階段を確かめ水平に移し一時避難場所を決めて消防計画に明記する流れを並べた図解

避難階まで下りきれない建物とはどんな建物なのか

高い建物の長い階段を大勢が列になって下りていく様子と低い建物を並べたイラスト
まず、防災管理者を置く建物がどのくらいの規模なのかを確かめます。
対象は政令で階数と延べ面積の組み合わせによって決められています。
消防法施行令第46条 法第三十六条第一項の政令で定める建築物その他の工作物は、第四条の二の四の防火対象物とする。 消防法施行令第4条の2の4第一号 別表第一(一)項から(四)項まで(略)に掲げる防火対象物(略)で、次のいずれかに該当するもの イ 地階を除く階数が十一以上の防火対象物で、延べ面積が一万平方メートル以上のもの ロ 地階を除く階数が五以上十以下の防火対象物で、延べ面積が二万平方メートル以上のもの ハ 地階を除く階数が四以下の防火対象物で、延べ面積が五万平方メートル以上のもの
線は階数と面積の組み合わせで引かれています
いちばん上のイは11階以上で延べ面積1万平方メートル以上ですから、一つの階だけでも数百人が働いている規模になります。
ロは5階から10階までで2万平方メートル以上、ハは4階以下で5万平方メートル以上です。
どの線に当たっても、階段の一本あたりに乗ってくる人数は小さな建物とは桁が違います。
自分の建物がどの号のどのイロハに当たるのかを、まず届出の控えで確かめておいてください。

階段の数は建築の基準で足りているはずなのですが。
それでも下りきれないことがあるのでしょうか。

階段の本数と、そこに何人が同時に入ってくるかは別の話です。
まずは階ごとの収容人員を出してみてください。

避難の基本方針は誰がどこに定めておくのか

防災管理者が消防計画の書面を前に置いて説明しているイラスト
逃がし方を決めるのは、その場の判断ではなく計画の仕事です。
作るのは防災管理者で、届け出る先は所轄の消防長または消防署長です。
消防法施行令第48条第1項 防災管理者は、総務省令で定めるところにより、当該防災管理対象物についての防災管理に係る消防計画を作成し、所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。 消防法施行規則第51条の8第1項第一号ロ 避難通路、避難口その他の避難施設の維持管理及びその案内に関すること。
「大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドライン」(平成31年 総務省消防庁)本編第2 3⑵エ 当該建物の特徴に応じた避難の基本方針を明確に記載する(水平避難の可否、全館避難・部分避難の選択、避難方向の選択)
基本方針として決めるのは三つです
水平避難ができるかどうか、全館避難にするか部分避難にするか、そしてどちらの方向へ逃がすかの三つが並んでいます。
このガイドラインは項目の頭に印を付けており、○印は標準的に盛り込まれる事項という意味です。
つまり避難の基本方針そのものは、高層かどうかにかかわらず書いておく側の項目になります。
消防計画を開いて、この三つが文章として書かれているかを今日のうちに見てください。

うちの計画には避難誘導班の名簿は載っていますが、方針という文章はありません。
これは書き足すところですね。

そのとおりです。
誰が動くかの前に、どこへ逃がすかを先に決めておく順番になります。

水平避難と一時避難場所とはどういう逃がし方なのか

同じ階の壁の開口部を通って隣の区画へ移り一時避難場所に集まる人を示したイラスト
ここからが高層の建物に固有の話になります。
ガイドラインは、下りきるのに長い時間がかかる場合の逃がし方を別に挙げています。
「大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドライン」(平成31年 総務省消防庁)本編第2 3⑵エ 高層の建物の場合、避難階到着まで長時間を要する場合の避難対策について、防火区画等を活用した水平方向への避難、避難途中階の一時避難場所を活用した避難について検討し具体化する
建築基準法施行令第112条第7項 建築物の十一階以上の部分で、各階の床面積の合計が百平方メートルを超えるものは、第一項の規定にかかわらず、床面積の合計百平方メートル以内ごとに耐火構造の床若しくは壁又は法第二条第九号の二ロに規定する防火設備で区画しなければならない
移る先はすでに建物の中にあります
11階以上の部分は建築基準法施行令が100平方メートルごとの区画を求めており、内装を準不燃材料にすれば200平方メートル、不燃材料にすれば500平方メートルまで広げられます(同条第8項・第9項)。
この壁と防火設備が水平方向への避難の受け皿になります。
避難途中階の一時避難場所のほうは、下へ向かう途中の階でいったん人をとどめる場所を指します。
ただしこの項目はガイドラインの●印すなわち盛り込むことが推奨される事項で、盛り込むかどうかの選択は建物側の判断に委ねられています。
自分の建物の防火区画図を出し、どの階のどの壁が区画線なのかを一度確かめてください。

つまり区画の向こう側へ渡らせて、そこで消防隊を待たせるという形ですね。
新しく壁を作る話ではないわけですか。

すでにある防火区画を使う前提の書き方になっています。
だから最初にやるのは図面の確認です。

避難のときエレベーターはどう扱うのか

エレベーターに乗り込む人に禁止の印を付け同じ階を水平に移る人に可の印を付けたイラスト
下りきれないと聞くと、エレベーターを使えないのかという話になります。
ガイドラインはこれを使用制限という言葉で計画に書かせています。
「大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドライン」(平成31年 総務省消防庁)本編第2 3⑵エ エレベーターの使用制限及びその管理方法等について記載する。 同 3⑶エ エレベーターが停止した際の対応策について記載する。 (例2)エレベーター会社の安全確認までは使用停止させることを記載する
止まる前提で書くのが基本になります
ガイドラインは地震の側でエレベーターの停止と閉じ込めへの対応を別に書かせているので、避難の手段として当てにする書き方はできません。
そのうえ消防法と施行令と施行規則の防災管理の条文には、エレベーターの使用制限を定めた規定がありません
書く場所は規則第51条の8第1項第一号ロの避難施設の話か、同項第二号ホの地震発生時の応急措置の側になります。
条文が名前を出してくれない項目なので、計画に自分の言葉で一行を足すところから始めてください。

足の悪い方をどうやって下ろすのかが、いつも訓練で問題になります。
エレベーターが使えないとなると余計に困ります。

そこがまさに水平避難の出番です。
ガイドラインは自力避難困難者に付ける介助要員を指定して書くようにと示しています。

明日からなにを確かめればよいのか

机の上に広げた平面図を二人で確認しているイラスト
最後に、条文の書き分けを見ておきます。
防火管理と防災管理では、同じ避難施設の号でも並んでいる言葉が違います。
消防法施行規則第3条第1項第一号ニ(防火管理) 避難通路、避難口、安全区画、防煙区画その他の避難施設の維持管理及びその案内に関すること。 消防法施行規則第51条の8第1項第一号ロ(防災管理) 避難通路、避難口その他の避難施設の維持管理及びその案内に関すること。 消防法施行規則第51条の11の2 (略)同項第四号中「避難口、安全区画、防煙区画」とあるのは「避難口」と(略)読み替えるものとする。
防災管理の側では安全区画と防煙区画が落ちています
落ち方は書き忘れではなく、統括防災管理者の全体計画を定めた第51条の11の2が読み替えで明文で外しているので、意図された書き分けだと読めます。
それでも受け皿が無いわけではなく、条文はどちらも「その他の避難施設」で閉じているので、区画を使う逃がし方はここに入ります。
つまり条文の例示に頼らず自分で書き起こす必要がある項目だ、ということです。
明日は防火区画図と消防計画を並べ、水平避難の可否と全館避難か部分避難かの選択が文章になっているかを確かめてください。

防火の計画を写してくれば足りると思っていました。
写すと逆に言葉が余ってしまうということですね。

写すだけでは足りない側と余る側の両方が出ます。
だから号ごとの突き合わせを一度やっておくと後が楽になります。

よくある質問

Q水平避難ができる階かどうかは何を見て判断すればよいですか?
A竣工図のうち防火区画図を見ます。建築基準法施行令第112条第7項は11階以上の部分について区画を求めているので、その階には区画線とそこを通る防火設備があります。どの開口部を通って移るのかは建物ごとに違うので、判断に迷うときは所轄消防署に図面を持って相談してください。
Q一時避難場所は消防計画に必ず書かなければならないのですか?
Aガイドラインでこの項目に付いている印は●で、盛り込むことが推奨される事項です。ガイドラインは推奨事項を盛り込むかどうかの選択は防火対象物の判断に委ねられていると書いています。一方で水平避難の可否を含む避難の基本方針のほうは○印なので、そちらは書いておく側になります。
Q全館避難と部分避難はどちらを選べばよいのですか?
Aどちらかに決めておくものではなく判断基準を決めておくものです。ガイドラインは地震の側で、建物の耐震性・周辺地域の危険性・収容人員の人数・移動障害の有無・帰宅困難者の人数等を踏まえて、地震規模ごとに避難するか在館するかの判断基準を定めるよう示しています。避難する場合の方法として全館一斉・全館逐次・部分という書き分けも挙げられています。
Q防火管理の消防計画に書いてあれば防災管理の側では省略できますか?
A省略はできません。防災管理に係る消防計画は消防法施行令第48条第1項によって別に作成し別に届け出るものだからです。ただし両方の規定を満たす形で一つの計画としてまとめる運用は認められているので、まとめる場合でも避難の基本方針が両方の側から読める書き方にしておいてください。

まとめ

防災管理対象物は11階以上で延べ面積1万平方メートル以上のような規模から指定されます
避難の基本方針は水平避難の可否と全館避難か部分避難かの選択と避難方向の選択の三つです
水平避難の受け皿は建築基準法施行令が求める11階以上の部分の区画です
避難途中階の一時避難場所を使う避難は推奨事項なので盛り込むかは建物側の判断です
エレベーターは使用制限として書き、避難の手段として当てにしません
防災管理側の条文は読み替えで安全区画と防煙区画を明文で外しています
受け皿は「その他の避難施設」なので自分で書き起こす必要があります

下りきる以外の道を先に決めておくという発想がありませんでした。
まずは防火区画図を出してみます。

図面と計画を並べるところから始めれば十分です。
書き方に迷ったら㈱防災屋でもご相談を承っています。

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参考・出典

  • 消防法(昭和23年法律第186号)第36条第1項
  • 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第45条・第46条・第48条第1項・第4条の2の4第一号
  • 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条第1項第一号ニ・第4条第1項第四号・第51条の8第1項第一号ロ及び第二号ホ・第51条の11の2
  • 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第112条第7項・第8項・第9項
  • 総務省消防庁「大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドライン」(平成31年)本編第2 3⑵エ・3⑶エ・3⑶ク
  • 消防庁「消防法の一部を改正する法律等の運用について」(平成21年1月29日 消防予第48号)2⑴④イ
  • e-Gov法令検索

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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