バルコニーの手すりの根元に、使ったことのない金物が突き出ています。
横の収納箱を開けると重たい円盤とロープが入っていて、これで本当に降りられるのかと不安になります。
この器具は緩降機といい、降りる速さから取付け方まで法令で細かく決められています。
この記事では緩降機がどんな仕組みで人を降ろすのかを条文から解説します。
バルコニーに緩降機がありますが誰も使い方を知りません。
まず力を入れて降りる器具ではないと知ってください。
速さを保つのは調速器という部品の仕事です。
勝手に落ちていく速さになったりしないのでしょうか。
省令が速さの上限と下限まで決めています。
まずは器具がなにでできているのかから押さえましょう。
この記事の結論
- 緩降機は使用者が自重で自動的に連続交互に降下する避難器具です。(緩降機の技術上の規格を定める省令第2条第1号)
- 本体は調速器と調速器の連結部とロープと着用具で構成されます。(同令第3条第1項第2号)
- 降下速度は毎秒16センチメートル以上150センチメートル以下と決められています。(同令第9条第1号)
- ロープの長さは取付位置から降着面までとしなければなりません。(消防法施行規則第27条第6号ロ)
- 型式適合検定の表示が付いていないものは設置の工事に使えません。(消防法第21条の2第4項)
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目次
緩降機はどんな部品でできているのか

省令が名前を付けた部品がそろって初めて緩降機と呼べます。
緩降機の技術上の規格を定める省令第二条第一号 緩降機 使用者が他人の力を借りずに自重により自動的に連続交互に降下することができる機構を有するものをいう。/同令第三条第一項第二号 調速器、調速器の連結部、ロープ及び着用具で構成されるものであること。
中心にあるのが調速器で、同令第2条第4号は緩降機の降下速度を一定の範囲に調節する装置と定義しています。
その調速器を取付け具につなぐのが調速器の連結部、身体を保持するのが着用具で、ロープと着用具をつなぐ金具は緊結金具と呼ばれます。
定義の柱は連続交互という言葉で、ひとりが降りるともう一方の着用具が上がってくるので、次の人がそのまま続けて降りられます。
つまり自分の腕力で速さを加減する器具ではなく、体重さえ掛ければ機械の側が速さを決めてくれる器具だということです。
収納箱の円盤が調速器だったのですね。
そのとおりです。
次はその調速器がどこまでの速さを保つのかを見ましょう。
降りる速さはどこまで決められているのか

上限と下限の両方が数値で示されています。
緩降機の技術上の規格を定める省令第九条第一号(抜粋) (略)二百五十ニュートン、六百五十ニュートンに最大使用者数を乗じて得た値に相当する荷重及び最大使用荷重に相当する荷重を左右交互に加えて、左右連続してそれぞれ一回降下させた場合、いずれも十六センチメートル毎秒以上百五十センチメートル毎秒以下であること。
下限が毎秒16センチメートル、上限が毎秒150センチメートルなので、体重の軽い人でも重い人でもこの幅に収まるように調速器が働きます。
荷重の側も同令第5条が押さえていて、緩降機の最大使用荷重は最大使用者数に1,000ニュートンを乗じた値以上でなければならないとされています。
さらに同令第8条の強度試験では、最大使用荷重に3.9を乗じた静荷重を5分間掛けても調速器やロープが壊れないことが求められます。
ロープを水に1時間浸したあとの含水降下試験や、マイナス20度と50度に24時間置いたあとの低温試験と高温試験まであるので、雨や寒さで速さが変わる心配は規格の側で潰されています。
いちばん速くても歩くくらいの速さなのですね。
その範囲を保つのが調速器の役目です。
次は建物の側に求められることを見ましょう。
建物側は緩降機をどう取り付けておくのか

取り付ける建物の側にも別の条文がかかっています。
消防法施行規則第二十七条第六号 緩降機は、次のイからハまでに定めるところにより設けること。 イ 緩降機は、降下の際、ロープが防火対象物と接触して損傷しないように設けること。 ロ 緩降機のロープの長さは、取付位置から地盤面その他の降着面までの長さとすること。 ハ 緩降機の取付け具は、次の(イ)から(ハ)までに定めるところによること。 (イ) 取付け具は、防火対象物の柱、床、はりその他構造上堅固な部分又は堅固に補強された部分に緩降機を容易に取り付けることができるように設けること。 (ロ) 取付け具は、ボルト締め、溶接その他の方法で堅固に取り付けること。
イ号が求めているのは降下中にロープが建物に接触して損傷しないことなので、取付け具は壁面から十分に張り出している必要があります。
ロ号のロープの長さは取付位置から降着面までで、途中で足りなくなる長さは認められません。
取付け具は柱や床やはりなど構造上堅固な部分に、ボルト締めや溶接で留めることが(イ)と(ロ)に書かれています。
あわせて消防法施行令第25条第2項第2号は、避難器具を避難に際して容易に接近でき、階段や避難口から適当な距離にあり、使用について安全な構造を有する開口部に設置することを求めています。
金物が壁から長く出ているのには理由があったのですね。
ロープを守るための張り出しです。
次は現場で外しやすいところを見ましょう。
実務で見落としやすいのはどこか

だからこそ置ける階と使える器具の取り違えが起こります。
消防法第二十一条の二第四項(抜粋) 検定対象機械器具等は、第二十一条の九第一項(略)の規定による表示が付されているものでなければ、販売し、又は販売の目的で陳列してはならず、また、検定対象機械器具等のうち消防の用に供する機械器具又は設備は、第二十一条の九第一項の規定による表示が付されているものでなければ、その設置、変更又は修理の請負に係る工事に使用してはならない。
消防法施行令第25条第1項の柱書は、避難器具を設置する階から避難階と11階以上の階を除いているので、高層階に緩降機を置いて済ませることはできません。
同条第2項第1号の表を見ると、令別表第一(六)項の病院や福祉施設などでは六階以上の階に適応する避難器具として滑り台と救助袋と避難橋しか挙がっておらず、緩降機は含まれていません。
器具そのものについても、消防法施行令第37条第12号が緩降機を検定対象機械器具等としているため、型式適合検定に合格した表示のないものを設置工事に使うことは上の条文で禁じられています。
収納箱の前に荷物を積んでしまう扱いも同じくらい多いので、同令第25条第2項第3号がいう速やかに取り付けられる状態が保てているかを見てください。
収納箱の前が掃除道具の置き場になっています。
今日のうちに空けてしまいましょう。
最後に確認の手順をまとめます。
明日からなにを確認すればよいのか

本体に刻まれた表示を読むだけで、確かめるべきことの大半は分かります。
緩降機の技術上の規格を定める省令第十六条(抜粋) 緩降機は、次の各号に掲げる事項を、その見やすい箇所に容易に消えないように表示しなければならない。 一 型式 二 型式番号 三 ロープ長 四 最大使用荷重 五 最大使用者数 六 製造者名又は商標 七 製造年月 八 製造番号 九 取扱い上の注意事項
まずロープ長を読み、取付位置から地面までの高さと比べてください。
次に最大使用者数を読めば、一度に降りられる人数が分かるので、訓練の説明にそのまま使えます。
そのうえで収納箱の前と降りる先の地面に物が無いかを見て、日付とともに記録に残せば消防計画の自主検査として積み上がります。
緩降機は消防法施行令第7条第4項第1号の避難器具として消防用設備等にあたるので、消防法第17条の3の3の定期点検と報告の対象にもなります。
表示を写真に撮って消防計画に貼っておきます。
それが訓練のときの説明資料になります。
まずは収納箱の前を空けてください。
よくある質問
Q緩降機は一度に何人まで降りられますか?
A機種ごとに決まっていて、緩降機の技術上の規格を定める省令第4条第4項第7号は、ロープの両端にそれぞれ最大使用者数に相当する数の着用具を離脱しない方法で連結してあることを求めています。最大使用者数は一回で降下できる使用者の最大数のことで、同令第16条第5号により本体の見やすい箇所に表示されています。まずはその表示を読んでください。
Q緩降機のロープはどれだけの長さが必要ですか?
A消防法施行規則第27条第6号ロは、緩降機のロープの長さを取付位置から地盤面その他の降着面までの長さとすることと定めています。屋上や庇の上など地面以外に降りる造りであれば、その降着面までが基準になります。増築や外構の変更で降りる先の高さが変わったときは、ロープ長の表示と現地の高さが合っているかを確かめてください。
Q可搬式緩降機と固定式緩降機はなにが違いますか?
A緩降機の技術上の規格を定める省令第2条は、常時取付け具に固定されて使用するものを固定式緩降機、使用時に取付け具に取り付けて使用するものを可搬式緩降機としています。可搬式は同令第3条第3項により調速器の質量が10キログラム以下であることと、取付け具に安全環により確実かつ容易に取り付けられることが求められます。収納箱に本体が入っているものは可搬式です。
Q緩降機も消防用設備等の点検の対象になりますか?
A対象になります。消防法施行令第7条第4項第1号はすべり台や避難はしごや救助袋とならべて緩降機を避難器具として挙げており、避難器具は同項の避難設備すなわち消防用設備等の一つです。したがって消防法第17条の3の3により定期に点検して、その結果を消防長または消防署長へ報告する義務がかかります。
まとめ
✔緩降機は自重で自動的に連続交互に降下する避難器具です。
✔本体は調速器と連結部とロープと着用具で構成されます。
✔降下速度は毎秒16センチメートル以上150センチメートル以下です。
✔最大使用荷重は最大使用者数に1,000ニュートンを乗じた値以上です。
✔取付け具は柱や床やはりなど堅固な部分に取り付けます。
✔ロープは取付位置から降着面まで届く長さが要ります。
✔避難階と11階以上の階には避難器具を設置しません。
まずは表示板を読みに行ってきます。
それだけで訓練の中身が変わります。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第17条の3の3・第21条の2第4項
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第7条第4項第1号・第25条・第37条第12号
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第27条第6号
- 緩降機の技術上の規格を定める省令(平成6年自治省令第2号)第2条・第3条・第4条・第5条・第8条・第9条・第10条・第11条・第16条
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





