テナントビルの共用廊下に、いつも段ボールが積まれています。
自分の階のことなら片づけられますが、他社が置いた荷物までは手が出せません。
建物全体をまとめる統括防火管理者には、その場面で使える権限が条文に書かれています。
この記事では統括防火管理者の指示権とその限界を条文から解説します。
共用廊下に他のテナントの荷物が積まれていて困っています。
統括防火管理者には指示の権限があります。
消防法が名指しで与えたものです。
テナントのオーナーさんに直接言ってもよいのでしょうか。
そこは条文が相手を限っています。
まずは権限の中身から見ましょう。
この記事の結論
- 統括防火管理者は部分ごとの防火管理者に必要な措置を指示できます。(消防法第8条の2第2項)
- 指示できるのは全体についての業務を行ううえで必要があると認めるときです。(消防法第8条の2第2項)
- テナントの消防計画は全体についての消防計画に適合させます。(消防法第8条の2第3項)
- 条文が指示の相手としているのは防火管理者であって管理権原者ではありません。
- 計画どおり行われていないときの命令は管理権原者に対して出ます。(消防法第8条の2第6項)
▼

目次
統括防火管理者の指示とはどんな権限なのか

条文はそれに加えて、各テナントの防火管理者へ指示を出す権限も与えています。
消防法第八条の二第二項 統括防火管理者は、前項の規定により同項の防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務を行う場合において必要があると認めるときは、同項の権原を有する者が前条第一項の規定によりその権原に属する当該防火対象物の部分ごとに定めた同項の防火管理者に対し、当該業務の実施のために必要な措置を講ずることを指示することができる。
消防法第8条の2第2項は、統括防火管理者が全体についての業務を行う場面で必要があると認めるときに、必要な措置を講ずることを指示できると定めています。
お願いや調整ではなく、法律上の権限として書かれているところが要点です。
裏づけがあるからこそ、共用部の管理や避難経路の確保といった建物全体にかかわる話を持ち出せます。
自分のビルで指示を出した記録が一度も無いなら、権限が無いのではなく使っていないだけかもしれません。
お願いではなく指示と書いてあるのですね。
条文の言葉どおりです。
次は相手が誰なのかを見ましょう。
指示を受ける相手はビルの中の誰になるのか

条文が相手として書いているのは部分ごとの防火管理者です。
消防法第八条第一項 学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店(略)、複合用途防火対象物(略)その他多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、政令で定めるところにより、当該防火対象物について消防計画の作成(略)その他防火管理上必要な業務を行わせなければならない。
消防法第8条第1項により、防火対象物の管理について権原を有する者は自分の権原の範囲について防火管理者を定めます。
管理権原が分かれた建物では、テナントごとにこの防火管理者が置かれます。
消防法第8条の2第2項の指示は、その部分ごとに定められた防火管理者へ向けられたものです。
オーナーや店長へ直接ものを言う権限ではないので、相手方の防火管理者が誰なのかを名簿で押さえておいてください。
テナントの防火管理者が誰かを知らない階があります。
そこから埋めるのが先です。
選任届出書の写しを管理権原者から取り寄せましょう。
テナントの消防計画は全体の計画にどこまで合わせるのか

条文はその二つの関係に、はっきりとした順序をつけています。
消防法第八条の二第三項 前条第一項の規定により前項に規定する防火管理者が作成する消防計画は、第一項の規定により統括防火管理者が作成する防火対象物の全体についての消防計画に適合するものでなければならない。
消防法第8条の2第3項は、部分ごとの防火管理者が作る消防計画が全体についての消防計画に適合するものでなければならないと定めています。
避難経路の取り方や通報の順序が全体計画と食い違っていたら、直すのはテナントの計画のほうです。
消防法施行規則第3条第1項は自衛消防の組織や避難施設の維持管理といった事項を消防計画に定めよと求めていますが、その中身が階ごとにばらばらでは全体の訓練が成り立ちません。
全体の計画を受け取ったら、自分の計画の同じ欄と並べて読み比べてください。
つまり食い違ったらうちの計画を直すのですね。
条文の向きはそちらです。
避難経路と通報の順序から見比べてください。
実務で見落としやすいのはどこか

そのときに条文が用意しているのは、統括防火管理者への罰則ではありません。
消防法第八条の二第六項 消防長又は消防署長は、第一項の規定により同項の防火対象物の全体について統括防火管理者の行うべき防火管理上必要な業務が法令の規定又は同項の消防計画に従つて行われていないと認める場合には、同項の権原を有する者に対し、当該業務が当該法令の規定又は同項の消防計画に従つて行われるように必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
消防法第8条の2第6項は、全体についての業務が法令や消防計画に従って行われていないと認めるときに、消防長又は消防署長が権原を有する者へ必要な措置を命ずることができるとしています。
指示に従わなかったこと自体を罰する規定は置かれていません。
統括防火管理者の指示は、その先で管理権原者の責任につながっていく仕組みになっているということです。
指示を出した日付と相手と中身を書き残しておくと、動かないテナントの話を管理権原者へ上げるときの材料になります。
指示した記録を残していませんでした。
今日から一行でよいので残しましょう。
日付と相手と中身の三点で足ります。
明日からなにを確認すればよいのか

まずは選任の届出から確かめてください。
消防法第八条の二第四項 第一項の権原を有する者は、同項の規定により統括防火管理者を定めたときは、遅滞なく、その旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
消防法第8条の2第4項は、統括防火管理者を定めたときも解任したときも、遅滞なく所轄消防長又は消防署長へ届け出よと求めています。
控えがあれば、いま誰が統括防火管理者なのかが一目で分かります。
次に全体についての消防計画を受け取り、自分の消防計画の同じ欄と並べて食い違いを洗い出してください。
そのうえで共用部の荷物や出口の前の置き物など、指示の対象になりそうな点を写真に残しておくと話が早く進みます。
全体の消防計画をまだ見たことがありません。
まずは写しをもらってください。
そこが適合を確かめる出発点になります。
よくある質問
Q統括防火管理者の指示に従わないテナントがあったらどうなりますか?
A指示に従わなかったこと自体を罰する規定は消防法に置かれていません。消防法第8条の2第6項により、全体についての業務が法令や消防計画に従って行われていないと消防長又は消防署長が認めた場合に、管理権原者へ必要な措置を命ずることができるとされています。指示の日付と相手と中身を記録して管理権原者へ報告しておくことが、この仕組みを働かせる前提になります。
Q指示はテナントのオーナーや店長に直接出せますか?
A消防法第8条の2第2項が相手方としているのは、管理権原者が消防法第8条第1項により部分ごとに定めた防火管理者です。オーナーや店長へ直接指示することを認めた規定は置かれていません。防火管理者が誰なのか分からないテナントがある場合は、選任届出書の写しを管理権原者から取り寄せて名簿にしておいてください。
Q統括防火管理者はどんな建物に必要ですか?
A消防法第8条の2第1項は、高さ31メートルを超える高層建築物その他政令で定める防火対象物で管理権原が分かれているものと、管理権原が分かれた地下街のうち消防長又は消防署長が指定するものを挙げています。消防法施行令第3条の3はその政令で定める防火対象物として、令別表第一(6)項ロ等で地階を除く階数が3以上かつ収容人員が10人以上のもの、(1)項から(4)項まで等で階数が3以上かつ収容人員が30人以上のもの、(16)項ロで階数が5以上かつ収容人員が50人以上のもの、(16の3)項に掲げるものを定めています。
Q防災管理でも同じように指示ができますか?
Aできます。消防法第36条第1項が消防法第8条の2の規定を準用しており、同項の読替表で統括防火管理者は統括防災管理者に、防火管理上は防災管理上に、防火管理者は防災管理者に読み替えられます。つまり統括防災管理者も、部分ごとに定められた防災管理者に対して必要な措置を講ずることを指示できます。
まとめ
✔統括防火管理者は部分ごとの防火管理者へ必要な措置を指示できます。
✔根拠は消防法第8条の2第2項にあります。
✔使えるのは全体についての業務に必要があると認めるときです。
✔相手は防火管理者であって管理権原者ではありません。
✔テナントの消防計画は全体についての消防計画に適合させます。
✔従われないときの命令は管理権原者に対して出ます。
✔統括防火管理者を定めたら遅滞なく届け出ます。
まずは全体の消防計画の写しをもらってきます。
それだけで共用部の話が進みます。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条第1項・第8条の2第1項・第2項・第3項・第4項・第6項・第36条第1項
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第3条の3・第4条
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条第1項
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





