建物が火災に遭ったあと現場を調べに来るのは消防の職員だけとはかぎりません。
保険会社から派遣された調査員が焼けた設備や什器を見せてほしいと言ってくることがあります。
どちらも同じ現場を同じように見て回るので建物側からは違いが分かりにくいところです。
実はこの二者が並んで調べられることは消防法第33条という条文に書かれていて調べる相手によって使える権限も断ったときの扱いも変わります。
火災のあとに保険会社の方が来られて焼けた倉庫の中を見せてほしいと言われました。
これは断ってもよいものなのでしょうか。
消防法は消防と関係保険会社の認めた代理者の両方に火災のあとの調査を認めています。
ただし二者が使える権限はまったく同じではありません。
同じ現場を同じように見て回るのに違いがあるのですか。
資料の提出を命じたり立ち入って検査したりできるのは消防長又は消防署長だけです。
条文を一つずつ見ていきましょう。
- 火災のあとの調査は消防長又は消防署長が着手しなければならないものと消防法第31条に定められています
- 消防法第33条は消防と関係保険会社の認めた代理者の両方に火災で破損した財産の調査を認めています
- 資料の提出を命じたり立ち入って検査したりできるのは消防長又は消防署長だけで代理者にその権限はありません
- 第33条の調査を拒んだ者は30万円以下の罰金又は拘留の対象になります
- ただしこの号は両罰規定の対象から外れているため法人に罰金が科されることはありません
▼

目次
火災のあとの調査は誰がすることになっているのか

まず消防がどの条文を根拠に動いているのかを押さえておきます。
条文が「着手することができる」ではなく着手しなければならないと書いている以上、建物側が頼まなくても消防は調べに入ります。
そして調べる中身は火災の原因と、火災および消火のために受けた損害の二本立てになっています。
消火のために受けた損害まで含まれているので、放水で濡れた在庫や壊された建具も調査の対象に入ります。
建物側としては、消防が来ること自体は選べないものと考えて、来られる前提で書類と現場を整えておくのが現実的な備え方です。
消火の放水で濡れた分まで調べてもらえるのですね。
条文が損害の範囲に消火によるものを並べて書いています。
片づけてしまう前に濡れた場所の写真を残しておいてください。
保険会社の認めた代理者はなにを調べることができるのか

消防法そのものが二者を並べて書いています。
条文が調査の相手として挙げているのは火災により破損され又は破壊された財産で、人の被害ではなく物の被害が対象です。
目的も条文にはっきり書かれていて、火災の原因と損害の程度を決定するためという限られたものです。
逆にいえば、焼けていない棟や火災と関係のない帳簿まで見せる根拠はこの条文からは出てきません。
調査員が来たら、どこまでが火災で破損した部分なのかを建物側から先に線引きして案内すると、話が早く終わります。
焼けていない別棟まで見せる必要はないということですか。
この条文が挙げているのは破損され又は破壊された財産だけです。
案内する範囲を決めてから立ち会うようにしてください。
消防の調査と保険会社の調査ではなにが違うのか

違いは次の条文にはっきり出ています。
第33条の調査のための資料の提出命令も報告の求めも立入検査も、この条文の主語は消防長又は消防署長に限られています。
関係保険会社の認めた代理者は第34条第1項に出てこないので、命令の権限は持ちません。
つまり代理者の調査は建物側の協力があって初めて進むもので、そこが消防の調査との決定的な違いです。
保険の手続で書類を求められたときは、法律上の命令ではなく契約に基づく求めなのだと切り分けて考えると判断しやすくなります。
つまり保険会社の調査員には命令の権限がないということですね。
そのとおりで第34条第1項の主語は消防長又は消防署長だけです。
求められた書類が保険の契約上のものか法律上のものかを確かめてください。
調査を拒むと罰則はどうなるのか

第33条の調査には専用の罰則が用意されています。
第44条第23号は第33条の調査を名指しして挙げていて、罰は30万円以下の罰金又は拘留です。
一方で法人まで罰せられるかは別で、両罰規定である第45条第3号が挙げているのは第44条の第1号と第3号と第11号と第12号と第22号だけです。
第23号はそこに並んでいないので、拒んだ人が罰せられても法人に罰金が科されることはありません。
なお第34条第1項の資料提出命令に応じない場合は第44条第2号が別に用意されているので、断り方によって当たる号が変わる点にも注意が要ります。
断った担当者だけが罰せられて会社は対象外になるのですか。
第45条第3号の並びに第23号が入っていないためそうなります。
ただし現場で拒んだ担当者本人は罰金又は拘留の対象です。
火災のあと建物側はなにをしておけばよいのか

第34条第2項がその中身を指しています。
準用されるのは、個人の住居には承諾等がなければ立ち入らせないこと、請求があれば証票を示すこと、関係者の業務をみだりに妨害しないこと、知り得た関係者の秘密をみだりに漏らさないことの四つです。
そのうえで建物側の段取りとしては、まず片づける前に破損した場所を写真で残すことが第一です。
次に立ち会う担当者を決めて、来訪者が消防なのか保険会社の代理者なのかを名乗りと証票で確かめる手順を決めておきます。
最後に見せる範囲を火災で破損した部分に絞って案内すれば、消防の調査にも保険の手続にも同じ記録で対応できます。
写真と立会いの担当者を先に決めておけばよいのですね。
その二つを決めておくだけで当日の迷いがなくなります。
消防計画の中に火災のあとの記録の残し方まで書いておくと確実です。
よくある質問
まとめ
調べに来る人ごとにできることの範囲が違うと分かって気持ちが楽になりました。
写真の残し方から社内で決めておきます。
火災のあとの記録の残し方まで消防計画に書いておくと当日に迷いません。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第31条・第32条・第33条・第34条・第44条・第45条
- 消防法(昭和23年法律第186号)第4条第1項ただし書・第2項から第4項まで
- e-Gov法令検索(デジタル庁)
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





