天井にはめ込まれた四角い金属の枠や、壁の腰の高さに付いている小さな操作箱を、排煙設備だと意識して見ることはあまりありません。
この設備がややこしいのは、消防法にも建築基準法にも同じ名前で出てくるところです。
名前は同じでも、置く理由も構造の基準も点検の根拠も別々に書かれています。
この記事では、二つの排煙設備がどう分かれているのかと、防火管理者が何を確認すればよいのかを解説します。
天井の排煙口は消防設備の点検で見てもらったはずなのに、別の業者さんにも同じところを見られました。
同じ設備を二度見ているのではなく、根拠の違う二つの制度が動いていることがあります。
まず名前が同じ理由から整理しましょう。
同じ排煙設備なのに二つあるという言い方がまだ飲み込めません。
消防法のものは消防隊のため、建築基準法のものは建物の中にいる人のためと考えると整理できます。
条文の並びを順に見ていきましょう。
- 排煙設備は消防法と建築基準法の両方に規定があり置かれる目的が違います。(消防法施行令第7条第6項・建築基準法第35条)
- 消防法の排煙設備は消火活動上必要な施設の一つで消防隊の消火活動のために置かれます。(消防法施行令第7条第6項)
- 消防法で必要になるのは地下街と舞台部と地階又は無窓階の三つの区分です。(消防法施行令第28条第1項)
- 消防法の基準は防煙区画ごとの排煙口と手動起動装置を柱に組み立てられています。(消防法施行規則第30条)
- 点検の根拠も別で消防法の点検報告と建築基準法の定期検査に分かれます。(消防法第17条の3の3・建築基準法第12条第3項)
▼

目次
排煙設備が消防法と建築基準法の両方に出てくるのはなぜか

それぞれがどの並びに置かれているかを見ると性格がわかります。
消防法の排煙設備は消火活動上必要な施設の一つで、連結送水管や非常コンセント設備と同じ並びに置かれています。
つまり消防隊が建物に入って活動するための設備として整理されているということです。
これに対して建築基準法の排煙設備は、廊下や階段や出入口といった避難施設と同じ条文に並んでいます。
こちらは建物の中にいる人が逃げるためのもので、出発点がそもそも違います。
自分の建物にどちらが入っているかは、消防用設備等の点検結果報告書に排煙設備の欄があるかどうかで見当が付きます。
連結送水管と同じ仲間だと聞くと納得できます。
その並びを覚えておくと迷いません。
次はどの建物に義務が生じるのかを見ます。
消防法で排煙設備が必要になるのはどの建物か

対象は三つの号に限って書かれています。
一 別表第一(十六の二)項に掲げる防火対象物で、延べ面積が千平方メートル以上のもの
二 別表第一(一)項に掲げる防火対象物の舞台部で、床面積が五百平方メートル以上のもの
三 別表第一(二)項、(四)項、(十)項及び(十三)項に掲げる防火対象物の地階又は無窓階で、床面積が千平方メートル以上のもの
一号の(16の2)項は地下街で、延べ面積が1,000平方メートル以上のものが対象です。
二号の(1)項は劇場・映画館・演芸場・観覧場・公会堂・集会場で、建物全体ではなく舞台部の床面積が500平方メートル以上かどうかで判断します。
三号の(2)項はキャバレーや遊技場など、(4)項は百貨店や物品販売店舗、(10)項は駅などの停車場、(13)項は駐車場や格納庫で、いずれも地階又は無窓階の床面積が1,000平方メートル以上のものが対象になります。
なお同条第3項と消防法施行規則第29条は、直接外気に開放されている部分や一定の消火設備が設けられている部分について設置しないことができると定めています。
建物全体ではなく舞台部だけで数えるのですね。
号ごとに面積の数え方が違うので図面で確かめてください。
次は求められている中身です。
消防法の排煙設備には何が求められているのか

細目は消防法施行規則にさらに詳しく書かれています。
一 排煙設備は、(略)火災が発生した場合に生ずる煙を有効に排除することができるものであること。
二 排煙設備には、手動起動装置又は火災の発生を感知した場合に作動する自動起動装置を設けること。
三 排煙設備の排煙口、風道その他煙に接する部分は、煙の熱及び成分によりその機能に支障を生ずるおそれのない材料で造ること。
四 排煙設備には、非常電源を附置すること。
消防法施行規則第30条は、天井面から50センチメートル以上下がった垂れ壁などで区切った防煙区画ごとに排煙口を一つ以上設け、区画の各部分から排煙口までの水平距離を30メートル以下にすることを求めています。
手動起動装置は防煙区画ごとに設け、操作部は壁に付ける場合で床面から0.8メートル以上1.5メートル以下、天井からつり下げる場合はおおむね1.8メートルの高さとされています。
さらに同条は、特別避難階段の附室や非常用エレベーターの乗降ロビーを消火活動拠点と呼び、そこに給気口を設けることまで求めています。
逃げる人のためだけの設備なら給気口は要らないので、この一点だけでも消防法の排煙設備が消防隊のためのものだと読み取れます。
階段の附室に空気を送りこむための口だったのですね。
消防隊が拠点にする場所を煙から守る考え方です。
次は落とし穴を見ておきましょう。
実務で見落としやすいのはどこか

二つの法律で検査の根拠が分かれています。
消防法の排煙設備は消防用設備等なので、消防法第17条の3の3による点検と消防長又は消防署長への報告の対象です。
建築基準法の排煙設備は建築設備として、第12条第3項の定期の検査と特定行政庁への報告の対象になり得ます。
後者は政令で定めるもののほか特定行政庁が指定するものが対象という組み立てなので、自分の建物が入るかどうかは所在地の指定を確認しないとわかりません。
現場側の落とし穴もあり、手動起動装置の前に台車や段ボールを置くと、規則が求めている「容易に接近することができる箇所」という条件が崩れます。
また排煙口は風道に接続されているとき閉鎖状態を保つ構造とされているので、ふだん閉じていること自体は故障ではありません。
つまり報告する相手までが別々になるということですね。
消防署と特定行政庁で窓口が分かれます。
最後に明日の動き方をまとめます。
明日からなにを確認すればよいのか

まず条文が求めている表示から見るのが早道です。
(ロ)当該防煙区画内を見とおすことができ、かつ、火災のとき容易に接近することができる箇所に設けること。
(ニ)操作部の直近の見やすい箇所に排煙設備の起動装置である旨及びその使用方法を表示すること。
操作部の前に棚や台車が寄せられていないか、使用方法の表示が掲示物やポスターで隠れていないかを歩いて確かめてください。
次に直近の消防用設備等の点検結果報告書を開き、排煙設備の欄があるかどうかを見ます。
欄が無ければ消防法の対象ではない可能性があるので、そのときは建築の図面や定期報告の書類に排煙設備の記載がないかを確認します。
両方に出てくる建物なら、消防署への点検報告と特定行政庁への定期報告の二本立てで管理していることになるので、消防計画の点検に関する記載も現状に合っているかを見直しておくと安全です。
まずは報告書に排煙設備の欄があるかを見てみます。
そこが出発点で十分です。
最後によくある質問を確認しておきましょう。
よくある質問
まとめ
操作箱の前に置いてある台車を今日どけてきます。
それが今日いちばん効く一手です。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第17条第1項・第17条の3の3
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第7条第6項・第28条
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第29条・第30条
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)第12条第3項・第35条
- 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第16条第3項・第126条の2・第126条の3
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





