太平洋の北の海域で巨大地震が起きるおそれがある地域だから、と言われても、自分の建物の話には思えないかもしれません。
けれど消防法施行規則は、指定された地域にある一定の防火対象物に対して、消防計画へ3つの事項を追加するよう求めています。
似た仕組みは南海トラフ地震にもありますが、根拠になる法律も対象地域も別物です。
「推進地域」という同じ呼び名が条文の中で2回別々に定義されている点が見落としの入口になります。
うちの建物、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の推進地域に入っていると総務から聞きました。
南海トラフの対策はもう消防計画に入れているので、それで足りますか。
それでは足りません。
日本海溝・千島海溝側の推進地域は、南海トラフとは別の法律で指定される別の制度です。
根拠が違うだけで、消防計画に書く内容も変わってくるのでしょうか。
指定の根拠法令と、対象になる建物の範囲を順に見ていきましょう。
- 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域は、南海トラフ地震の推進地域とは別の法律に基づく別の指定です
- 対象になるのは消防法施行規則第3条第8項が指す一定の防火対象物で、用途と規模による絞り込みがあります
- 指定を受けた建物は、消防計画に津波避難・防災訓練・教育広報の3事項を追加します
- 既存の建物は、指定があった日から6か月以内に消防計画へ定める必要があります
- 「推進地域」という同じ呼び名が、条文の中で南海トラフ側とは別の項で個別に定義されている点に注意します
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目次
日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の推進地域とはどこを指すのか

内閣総理大臣が指定する仕組みを確認します。
3 内閣総理大臣は、第一項の規定による推進地域の指定をしようとするときは、あらかじめ中央防災会議に諮問しなければならない。
4 内閣総理大臣は、第一項の規定による推進地域の指定をしようとするときは、あらかじめ関係都道県の意見を聴かなければならない。この場合において、関係都道県が意見を述べようとするときは、あらかじめ関係市町村の意見を聴かなければならない。
南海トラフ地震のときと同じ枠組みで、中央防災会議への諮問を経てから指定します。
意見を聴く先も一段深く、関係都道県だけでなく、都道県が意見を述べる前に関係市町村の意見まで聴く二段構えになっています。
南海トラフ側の条文が「関係都府県」の意見を聴くのに対し、こちらは「関係都道県」です。太平洋側の北のほうを想定した制度だと分かります。
自分の建物がある市町村がこの推進地域に入っているかどうかは、所在地の消防本部か都道府県の防災担当課に確認するのが確実です。
南海トラフと同じ内閣総理大臣の指定でも、根拠になる法律から別なんですね。
そのとおりです。
まずは所在する市町村が指定されているかどうかを確かめてください。
どの防火対象物が計画の追加事項の対象になるのか

対象は消防法施行規則が指し示す号でさらに絞り込まれています。
一 消防法施行令第一条の二第三項第一号に掲げる防火対象物(略)で不特定かつ多数の者が出入りするもの
二 (略)複合用途防火対象物のうち(略)収容人員の合計が三十人以上のもの(略)
十三 学校教育法(略)に規定する学校、同法に規定する専修学校、各種学校その他これらに類する施設
十四 授産施設、児童福祉法(略)に規定する児童福祉施設(略)、老人福祉法(略)に規定する老人福祉施設(略)
二十四 前各号に掲げる施設又は事業に係る工場、作業場又は事業場以外の工場等で、当該工場等に勤務する者の数が千人以上のもの
まず建物が令別表第一の該当項に当たるかを見て、そのうえで五号にわたる用途(不特定多数が出入りする施設・大規模な複合用途防火対象物・学校・福祉施設・大規模な工場等)のどれかに当たるかを確認します。
学校や老人福祉施設のように自力での避難が難しい人が多く出入りする施設が名指しされているのが特徴です。
さらに規則側で「対策推進基本計画で定める者が管理するものに限る」という限定が重ねられているため、施設の種類が当てはまっても対象になるとは限りません。
自分の建物がどの号に当たりそうかを確認したうえで、最終的な該当・非該当は所轄消防署に照会するのが確実です。
用途が当たっているだけでは決まらないんですね。
はい。
対策推進基本計画による限定まで含めて、所轄消防署に確認してください。
消防計画に追加しなければならない3つの事項とは何か

南海トラフの推進地域とまったく同じ3本立てです。
一 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に伴い発生する津波からの円滑な避難の確保に関すること。
二 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る防災訓練の実施に関すること。
三 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震による被害の発生の防止又は軽減を図るために必要な教育及び広報に関すること。
第一号は津波からの避難、つまり地震の揺れそのものより避難行動に重心を置いた書き方になっています。
第二号は防災訓練の実施そのものを消防計画に定めることを求めており、訓練を行うこと自体が計画上の義務になります。
第三号の教育及び広報は、従業員だけでなく利用者や来訪者への周知まで含めて考えておくと実務に落ちやすくなります。
南海トラフの推進地域の3事項と条文の書き方はほぼ同じですが、根拠になる法律と対象の地震が別だという点は変わりません。
南海トラフの推進地域と書く内容はほぼ同じなんですね。
内容は似ていますが、根拠は別の法律だという点を次で見ていきます。
南海トラフの推進地域と混同するとどこで見落とすのか

どちらの推進地域かを取り違えると、消防計画の中身がずれます。
同条第八項 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(略)第三条第一項の規定により日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域として指定された地域(次項及び第四条第六項において「推進地域」という。)(略)
第6項が定義するのは南海トラフ地震の推進地域、第8項が定義するのは日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の推進地域で、根拠になる特別措置法も施行令も別物です。
どちらも消防計画に加える事項は津波避難・防災訓練・教育広報の3本立てで書き方も似ているため、南海トラフ側の対応を済ませていると、こちらの指定も片づいたと思い込みやすくなります。
指定を受けた通知や公示を確認するときは、根拠になっている法律名まで見て、どちらの推進地域の話かを取り違えないようにしてください。
南海トラフと日本海溝・千島海溝はどちらも太平洋側の巨大地震を想定した制度ですが、指定の根拠になる特別措置法が異なる別々の制度として運用されています。
「推進地域」という言葉だけ見て、南海トラフの話だと思い込んでいました。
よくある取り違えです。
法律名まで確認する癖をつけておくと安心です。
自分の建物が対象かどうかはどう確認すればよいのか

新規の選任ではなく、既存の消防計画への追記です。
確認の順番は、まず自分の建物がある市町村が推進地域に入っているか、次に建物が施行令第3条の該当号(不特定多数施設・複合用途・学校・福祉施設・大規模工場等)に当たるか、そのうえで津波避難・防災訓練・教育広報の3事項を消防計画に追記する、という順番です。
指定の際にすでに建物が所在していた場合は、指定があった日から6か月以内に追記する期限が付きます。指定後に新たに建てられる建物の扱いはこの項には書かれていないため、所轄に確認してください。
追記した消防計画は、既存の届出と同じく変更の届出として所轄消防長または消防署長に提出します。
南海トラフ側の対応をすでに終えている建物でも、この制度は別扱いなので、指定の有無を改めて確認してから着手してください。
市町村の確認から始めるのが最初の一歩なんですね。
そうです。
そのうえで施行令の該当号を確かめる、という順番で進めてください。
よくある質問
まとめ
南海トラフとは別の制度だと分かったので、まず市町村への確認から始めます。
「推進地域」の呼び名だけで判断しないよう気をつけます。
その心がけが大切です。
指定の根拠になる法律名まで確認すれば、取り違えを防げます。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 消防法施行規則第3条第1項・第6項・第8項・第9項
- 消防法第8条
- 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法第3条
- 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法施行令第3条
- e-Gov 法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





