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舞台幕は防炎処理をしても照明器具の使い方次第で火災になるのはなぜか|取扱いの留意点を解説

舞台幕は防炎処理をしても照明器具の使い方次第で火災になるのはなぜかを示すアイキャッチ画像

舞台幕は消防法上の防炎対象物品として、基準を満たした防炎処理が施されています。
けれど劇場やホールでは、その防炎処理をした舞台幕が着火・延焼した火災事例が実際に起きました。
「舞台幕の取扱いについて」という消防庁の通知は、この火災事例の調査結果をもとに書かれています。
たどってみると舞台幕の防炎性能だけでなく照明器具の使い方まで管理することが実務の防御線になると分かります。

うちのホールのどん帳も防炎処理された生地だと聞いています。
それなら照明を近づけても大丈夫なんでしょうか。

いいえ、防炎処理をしていても特定の条件下では着火することがあると消防庁の通知が示しています。
まずその条件から見ていきましょう。

照明の当て方くらいで火が付くようなことがあるんですか。

はい、高出力の照明器具の近接や幕の重なりが関わってきます。
通知の内容を順番に整理していきましょう。

この記事の結論
  • 舞台幕(どん帳等)は消防法施行令第4条の3により防炎対象物品に位置づけられています
  • 防炎加工された舞台幕でも、照明器具の過度の加熱幕の熱の蓄積という条件下では着火・延焼のおそれがあります
  • 特に注意が必要なのは可搬式の照明器具や、本番中に追加・移動して設置された照明器具です
  • セッティング時の最小照射距離・離隔距離の確保照明器具の固定が求められます
  • 幕の昇降・開閉時の常時監視と初期消火体制の確立まで含めて通知は求めています

舞台幕火災は照明器具の過度の加熱と幕の熱の蓄積が原因で起き最小照射距離の確保と初期消火体制の確立が求められることを示した図解

舞台幕は防炎処理をしても照明器具の使い方次第でなぜ火災になるのか

舞台の背景幕と離れた位置に設置された照明トラスのスポットライトを並べた劇場の舞台のイメージ
舞台幕はどん帳など劇場やホールの舞台で使われる幕で、消防法上は基準を満たした防炎対象物品として扱われています。
それでも実際に着火・延焼した火災事例が起き、消防庁が通知を出す事態になりました。
「舞台幕の取扱いについて」(平成10年 消防予第126号 消防庁予防課長) 近年、舞台用機器、利用形態の多様化等により、特定の条件下においては、所定の防炎性能を有する舞台幕であっても着火及び燃焼の継続・拡大が起きた火災事例が発生したことから、こうした現象の解明のため、財団法人日本防炎協会において「舞台幕火災調査委員会」が設置され、検討が行われてきたところである。
防炎処理は燃えにくくする措置であって、絶対に燃えないことを保証するものではありません
通知が示すとおり、舞台用照明機器の高出力化や利用形態の多様化が進んだことで、基準を満たした舞台幕でも特定の条件下では着火・延焼した事例が確認されました。
これを受けて財団法人日本防炎協会が「舞台幕火災調査委員会」を設けて原因を調査し、その結果がこの通知にまとめられています。
つまり舞台幕の防炎性能を過信せず、照明器具の使い方まで含めて管理することが求められています。
劇場やホールの防火管理者は、この通知が事故が起きたあとの再発防止策であることを念頭に読む必要があります。

防炎処理さえしていれば安全だと思っていました。

照明器具の扱い方も安全のうちに入ります
次は具体的にどの範囲が対象になるかを見ていきましょう。

どの舞台幕とどの照明器具が対象になるのか

離れた位置のスポットライトに青いチェックマークを幕に接した位置のスポットライトに赤い禁止マークを付けて距離の違いを示したイメージ
通知が対象にしているのは、消防法令で防炎対象物品に位置づけられている舞台幕と、それを照らす舞台用の照明器具です。
まず対象の範囲を法令の定義で確認します。
消防法施行令第4条の3第3項 法第八条の三第一項の政令で定める物品は、カーテン、布製のブラインド、暗幕、じゆうたん等(略)、展示用の合板、どん帳その他舞台において使用する幕及び舞台において使用する大道具用の合板並びに工事用シートとする。
「舞台幕の取扱いについて」(平成10年 消防予第126号) 至近距離で舞台幕を照射する際に、高出力で収光性の高い舞台用照明器具(ハロゲンランプを使用したスポットライト等)を使用した場合は、面積当たりの照射熱量が大きいため、定められた最小照射距離を守らない等、使用法を誤ると着火源となる可能性がある。また、光学的にホットスポット(光の焦点)がある照明器具は、特に注意を要する。
対象は「どん帳その他舞台において使用する幕」全般で、劇場だけでなくホールや多目的施設の舞台幕も含まれます。
照明器具側は高出力で収光性の高いスポットライトや、ホットスポット(光の焦点)を持つ機種が特に注意対象です。
舞台袖に置かれた可搬式の照明や、舞台幕の直下に置かれた床置式のローホリゾントライトも対象に含まれます。
「布や幕」だけでなく「照明器具の種類と置き場所」まで含めて対象を捉える必要があります。
自館の舞台照明がどの種類にあたるか、まずは機材リストで確認してください。

スポットライトなら全部注意しないといけないんでしょうか。

高出力でホットスポットのある機種は特に注意が必要です。
次は通知が求める具体的な対策を見ましょう。

通知は舞台幕の取扱いに何を求めているのか

トラスに固定された照明器具が舞台幕から安全な距離を保っている様子を示したイメージ
通知は火災につながる2つの条件を示し、それを避けるための具体的な留意事項を挙げています。
まず火災につながる条件から見ます。
「舞台幕の取扱いについて」(平成10年 消防予第126号) 防炎加工された舞台幕は、通常の使用状態においては特段の問題はないが、以下のような特定の条件下にあっては、着火及び燃焼の継続・拡大のおそれがある。(1)高出力の照明器具が接触・近接すること等により、継続的に過度の加熱が行われる場合(2)幕が重なったり束ねられている等、熱が蓄積しやすい状態にある場合
燃えやすくなる条件は「過度の加熱」と「熱の蓄積」の2つだけです
これを避けるために通知は、セッティング時の最小照射距離・離隔距離の確保と、照明器具の固定を求めています。
さらに舞台幕の昇降・開閉のたびに照明器具へ接触しないよう常時の監視も欠かせません。
防炎加工された幕であっても着火の可能性がある以上、初期消火体制の確立まで含めて通知は求めています。
条件を知っておけば、リハーサルや本番前の点検で何を見ればよいかが具体的になります。

条件がその2つだけなら、確認しやすそうですね。

そのとおりです。
ただ見落としやすい箇所もあるので、次に確認しましょう。

実務で見落としやすいのはどこか

人物が可搬式のスポットライトを舞台幕に近づけて赤い禁止マークが付いているイメージ
見落としやすいのは、固定した照明よりも、あとから追加したり動かしたりする照明器具です。
通知はこの点を明示的に注意しています。
「舞台幕の取扱いについて」(平成10年 消防予第126号) セッティング時における舞台幕と照明器具との最小照射距離及び離隔距離を十分に確保すること。特に可搬式の照明器具並びに追加又は移動して設置された照明器具については、舞台幕との距離、開閉の際の引っかかり等に十分注意すること
落とし穴は「本番中に動く照明」です
固定設置の照明は最初に距離を確保すれば済みますが、可搬式の照明器具や本番中に追加・移動する照明は、その都度距離が変わってしまいます。
照明器具が衝撃などで向きを変え、至近距離から舞台幕を照射する状態になっていないかも見落としがちです。
また、舞台幕を重ねたり束ねたりして保管する際に熱がこもりやすい置き方になっていないかも点検の対象です。
本番中の照明操作をリハーサルで一度通しで確認すると、動く照明の死角に気づきやすくなります。

本番中に動かすライトまでは、正直気にしていませんでした。

通知が名指しで注意している箇所です。
最後に日常の点検事項をまとめます。

明日から舞台幕の点検で何を確認すればよいのか

チェックリストを持つ人物と消火器が舞台幕とスポットライトの脇に置かれているイメージ
通知が求める内容は、点検項目として日常の確認に落とし込めます。
最後に、その他の参考情報も含めて確認事項を整理します。
「舞台幕の取扱いについて」(平成10年 消防予第126号) (その他)「舞台幕火災調査委員会」における実験の結果、素材が「貫八別珍」等の綿素材等であって当該素材に防炎処理を行う舞台幕よりも、原糸原料の合成反応の段階から難燃化された素材の舞台幕の方が、熱分解温度が高く、着火の可能性は低いことが明らかになったので、参考までにお伝えする。
確認すべきことは大きく4つです。
①セッティング時に照明器具と舞台幕の最小照射距離・離隔距離が確保され固定されているか、②舞台幕の昇降・開閉時に照明器具への接触を監視する担当者がいるか、③舞台幕を重ねたり束ねたりせず保管できているか、④防炎加工された幕でも初期消火体制を確認しているか、です。
今後幕を新調する際は、原糸から難燃化された素材のほうが着火しにくいという実験結果も選定の参考にできます
これらは特別な工事や届出を要するものではなく、日常の点検と本番前の確認で対応できる内容です。

今週のリハーサルで、照明係と一緒に確認してみます。

それが一番確実です。
よくある質問もまとめておきます。

よくある質問

Q防炎加工された舞台幕なら照明器具をどれだけ近づけても問題ないですか?
Aいいえ。「舞台幕の取扱いについて」(平成10年消防予第126号)が示すとおり、防炎加工された舞台幕でも高出力の照明器具が継続的に過度の加熱を与える条件では着火・延焼のおそれがあります。最小照射距離・離隔距離を確保してください。
Q本番中に照明を動かしても大丈夫ですか?
A可搬式の照明器具や、本番中に追加・移動して設置された照明器具は、通知が特に注意すべき対象として明示しています。移動のたびに舞台幕との距離を確認し、照明器具の固定を確実に行ってください。
Q舞台幕はどのように保管すればよいですか?
A幕を重ねたり束ねたりすると熱が蓄積しやすい状態になり、着火・延焼のおそれが高まるとされています。保管や幕さばきの際は、熱がこもらない状態を保つよう気を付けてください。
Q舞台幕を新調するときに気を付けることはありますか?
A通知は参考情報として、素材に防炎処理を後から施した幕よりも、原糸原料の段階から難燃化された素材の幕のほうが熱分解温度が高く着火しにくいという調査結果を示しています。新調の際の選定材料として活用できます。

まとめ

舞台幕(どん帳等)は消防法施行令第4条の3により防炎対象物品に位置づけられています
防炎加工された舞台幕でも特定の条件下では着火・延焼のおそれがあることが通知の前提です
危険な条件は照明器具の過度の加熱幕の熱の蓄積の2つです
特に注意が必要なのは可搬式・追加移動設置の照明器具です
セッティング時の最小照射距離・離隔距離の確保器具の固定が求められます
幕の昇降・開閉時の常時監視と初期消火体制の確立も欠かせません
新調時は原糸から難燃化された素材のほうが着火しにくいとされています

防炎処理された幕でも、照明の使い方次第で火災になることが分かりました。
今度は舞台の照明機材を確認してみます。

照明器具の距離と固定、そして開閉時の監視の3点を見る癖をつければ十分です
㈱防災屋でもご相談を承っています。

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参考・出典

  • 「舞台幕の取扱いについて」(平成10年 消防予第126号 消防庁予防課長)
  • 消防法第8条の3
  • 消防法施行令第4条の3
  • e-Gov 法令検索

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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