台所や小さな店舗の天井に、火元をねらって自動で消火剤を放出する装置を見たことはあるでしょうか。
この装置は住宅用下方放出型自動消火装置と呼ばれ、平成6年に消防庁が性能と設置の基準を通知で定めています。
ただし、どんな建物にも無条件で設置できるわけではなく、消火器具の設置義務を代わりに満たせる範囲にも限度があります。
この記事では、この装置を設置できる建物と場所の条件、基準が求める中身、そして消火器具をどこまで減らせるのかを解説します。
うちみたいな小さい店舗でも、天井に取り付けるだけの自動消火装置なら消火器の代わりになるんでしょうか。
住宅用下方放出型自動消火装置のことですね。
平成6年の消防庁通知で、性能と設置の基準が定められています。
どんな建物のどこにでも設置してよいわけではないんですか。
はい。
設置できる建物や場所には条件があります。
順番に確認していきましょう。
この記事の結論
- 住宅用下方放出型自動消火装置は、平成6年の消防庁通知で性能と設置の基準が定められた、消火器具に代わる装置です。
- 消防法第17条により消火設備の設置が義務付けられた建物や、同法第10条の製造所等には設置できません。
- 消火剤に二酸化炭素やハロゲン化物を使うものは、常時人が居る場所には設置できません。
- 消火器具の設置能力単位を緩和できますが、5分の1以上の緩和は認められません。
- 同一の室に2台以上設置する場合は、出火場所を防護範囲とする装置が先に作動するよう設けます。
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住宅用の自動消火装置はなぜ基準が作られたのか
消火器は誰かが持って操作しなければ働きません。
天井や壁に付けておくだけで自動的に消火してくれる装置は、平成6年の通知でどう位置づけられたのでしょうか。
住宅に設ける自動消火装置については、「下方放出型簡易自動消火装置」にあつては「簡易自動消火装置等の性能及び設置の基準について」(昭和55年7月26日付け消防予第145号。以下「145号通知」という。)により運用を願っているところである。(略)この度、これら住宅に設ける自動消火装置のうち下方放出型簡易自動消火装置の名称を「住宅用下方放出型自動消火装置」とし、これに伴い、145号通知を廃止するとともに、下記のとおり定めたので通知する。(住宅用下方放出型自動消火装置の性能及び設置の基準について 平成6年3月9日 消防予第53号)
この通知は、既にあった簡易な自動消火装置の基準を整理し直すために出されました。
以前は「下方放出型簡易自動消火装置」として
昭和55年の145号通知で運用されていましたが、名称と基準が改めて整理されました。
住宅用下方放出型自動消火装置とは、一般家庭や小規模な防火対象物の
天井や壁に取り付け、下方に消火剤を放出して火元を覆い消火する装置です。
誰かが操作しなくても自動で作動するため、就寝中や無人の時間帯にも対応できる点が特徴です。
この基準ができたことで、設置する側も点検する側も、同じものさしで機器を確認できるようになりました。
消火器を置く代わりに、こういう装置を天井に付けてもいいってことなんですね。
そのとおりです。
ただし、どんな建物にも設置できるわけではありません。
次に設置できる範囲を見てみましょう。
どんな建物のどこに設置できるのか
自動で消火してくれるからといって、どんな建物にも使えるわけではありません。
通知が示す設置対象の条件を確認しましょう。
住宅用下方放出型自動消火装置は、次のいずれかに該当する防火対象物(防火対象物の部分を含む。以下同じ。)以外の防火対象物に限り設置することができる。(1) 消防法(昭和23年法律第186号)第17条の規定により消火器具以外の消火設備(屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、二酸化炭素消火設備、ハロゲン化物消火設備、粉末消火設備等)の設置が義務付けられている防火対象物 (2) 消防法第10条に規定する製造所等に該当する防火対象物(住宅用下方放出型自動消火装置の性能及び設置の基準について 平成6年3月9日 消防予第53号)
学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設について消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従つて、設置し、及び維持しなければならない。(消防法第17条第1項)
設置できるのは、他の消火設備の設置義務がなく、危険物施設でもない建物に限られます。
屋内消火栓設備やスプリンクラー設備など、消防法第
17条によって消火器具以外の消火設備の設置が義務付けられた建物には設置できません。
消防法第
10条に規定する製造所等、つまり危険物を扱う施設にも設置できません。
つまりこの装置は、あくまで
消火器具の代わりという位置づけであり、本格的な消火設備やスプリンクラー設備の代わりにはなりません。
設置を検討する際は、まず対象の建物がこの2つの条件に当てはまらないかを確認する必要があります。
うちは消火器だけを置いている小さな店舗なので、対象になりそうです。
その場合は対象になり得ます。
次は、基準が求める設置の中身を具体的に見ていきましょう。
基準は具体的に何を求めているのか
設置してよい建物だと分かっても、置き方や使う薬剤には細かい条件があります。
基準が定める主な項目を確認しましょう。
住宅用下方放出型自動消火装置は、消火対象物の状況に応じ、壁ぎわ、室の中央部、厨房設備等当該消火対象物を有効に防護できるように、当該装置に表示されている取付け高さに応じて有効防護面積内ごとに設けること。(略)消火薬剤に二酸化炭素又はハロゲン化物(ハロン1301を除く。)を使用するものにあつては、常時人が居る場所には設置しないこと。(略)床面積100平方メートル以上の部分に設置する場合は、床面積100平方メートル未満ごとに不燃材料、難燃材料等で区画して設けるものであること。(住宅用下方放出型自動消火装置の性能及び設置の基準について 平成6年3月9日 消防予第53号)
置き場所と薬剤の種類、そして防護できる範囲が細かく決められています。
壁ぎわや室の中央、厨房など、火元になりやすい場所ごとに、装置に表示された
有効防護面積の範囲内に設置しなければなりません。
一般火災用と油火災用など、想定する火災の種類に応じた薬剤区分の装置を選ぶ必要もあります。
二酸化炭素やハロン1301以外のハロゲン化物を使う装置は、
常時人が居る場所には設置できません。
床面積が100平方メートルを超える部分に設置する場合は、100平方メートル未満ごとに不燃材料等で区画することも求められます。
うちは常に誰かいる事務所なんですが、その場合はガスタイプは使えないってことですね。
そのとおりです。
次は特に見落としやすいポイントを確認しましょう。
実務で見落としやすいのはどこか
装置を付けたからといって、消火器具を全部撤去してよいわけではありません。
見落とされやすい2つのポイントを確認しましょう。
設置された機器の有効防護面積に応じて消火器具の設置能力単位を減ずることができるものであること。また、当該有効防護面積の部分は、消防法施行規則第6条第6項の規定については適用しないことができるものであること。ただし、消火器具の能力単位の5分の1以上を緩和することは適当でないものであること。(住宅用下方放出型自動消火装置の性能及び設置の基準について 平成6年3月9日 消防予第53号)
前各項の規定により設ける消火器具は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める部分から、それぞれ一の消火器具に至る歩行距離が20メートル以下となるように配置しなければならない。(消防法施行規則第6条第6項)
消火器具の緩和には5分の1という上限があり、歩行距離の規定を外せるだけで能力単位は残ります。
装置の有効防護面積の分だけ、消火器具の
設置能力単位を減らすことができます。
その範囲では、消火器具を歩行距離20メートル以内に配置する規定を適用しないこともできます。
ただし
5分の1を超える緩和は認められておらず、装置があっても消火器具を大きく減らせるわけではありません。
また、同一の室内に2台以上設置する場合は、出火した場所を防護範囲とする装置が先に作動するように設ける必要もあります。
装置を付けたら消火器はもう置かなくていいと思っていました。
5分の1までしか緩和できません。
最後に、明日から確認すべき手順をまとめます。
明日からなにを確認すればよいのか
最後に、設置を検討するときの具体的な確認手順を整理します。
基準に沿って、順番に見ていきましょう。
住宅用下方放出型自動消火装置は、設置場所の周囲の最高温度が装置に表示された使用温度範囲内であることを確認すること。同一室内に2以上の装置を設ける場合は、必ず出火場所を防護範囲とする方の装置が先に作動するように設置すること。(住宅用下方放出型自動消火装置の性能及び設置の基準について 平成6年3月9日 消防予第53号)
設置前に、対象の建物・薬剤区分・緩和の範囲という3つを順番に確認しましょう。
まず、建物が消防法第
17条による消火設備の設置義務や第
10条の製造所等に該当しないかを確認します。
次に、設置場所の最高温度と想定される火災の種類に合った薬剤区分の装置かどうかを取扱説明書で確認します。
最後に、消火器具を減らす場合は
5分の1以内に収まっているかを計算し、所轄の消防署に確認しましょう。
判断に迷う場合は、自己判断せず所轄消防署や専門業者等に相談することをおすすめします。
つまり建物と薬剤、緩和の範囲を順番に確認すればいいんですね。
はい、その通りです。
次によくある質問を確認しましょう。
よくある質問
Q住宅用下方放出型自動消火装置を設置すれば消火器を無くしてもよいですか?
Aいいえ。有効防護面積の範囲で消火器具の設置能力単位を減らすことはできますが、5分の1以上を緩和することは認められません。装置は消火器の代わりを一部果たすものであり、全部を置き換えるものではありません。
Qどんな建物にも設置できますか?
Aいいえ。屋内消火栓設備やスプリンクラー設備など、消防法第17条により消火器具以外の消火設備の設置が義務付けられている防火対象物や、同法第10条に規定する製造所等には設置できません。
Qハロゲン化物を使うタイプはどこにでも置けますか?
A置けません。二酸化炭素又はハロン1301以外のハロゲン化物を使用する装置は、常時人が居る場所には設置できません。ハロン1301を使用するものも、電子計算機室や厨房設備のある室など決められた室に限られます。
Q同じ部屋に複数台設置してもよいですか?
A設置できますが、同一の室内に2以上設置する場合は、出火した場所を防護範囲とする装置が先に作動するように設ける必要があります。
まとめ
✔住宅用下方放出型自動消火装置は、平成6年の通知で性能と設置の基準が定められた、消火器具に代わる装置です。
✔消防法第17条で消火設備の設置が義務付けられた建物や、同法第10条の製造所等には設置できません。
✔壁ぎわや室の中央など、消火対象物の状況に応じた有効防護面積内に設置する必要があります。
✔二酸化炭素やハロン1301以外のハロゲン化物を使う装置は、常時人が居る場所には設置できません。
✔消火器具の緩和は認められていますが、能力単位の5分の1を超える緩和はできません。
✔同一の室内に2台以上設置する場合は、出火場所を防護範囲とする装置が先に作動するように設けます。
✔設置を検討する際は、対象建物・薬剤区分・緩和の範囲の順に確認し、迷ったら所轄消防署に相談しましょう。
天井に付けるだけの装置にも、これだけ細かい基準があるんですね。
はい。
設置や緩和の判断に迷ったときは、まずご相談ください。
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参考・出典
- 住宅用下方放出型自動消火装置の性能及び設置の基準について(通知)(平成6年3月9日 消防予第53号)
- 消防法第17条(消防用設備等の設置及び維持の義務)
- 消防法第10条(製造所等における危険物の貯蔵及び取扱いの制限)
- 消防法施行規則第6条第6項(消火器具の歩行距離による配置基準)
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。