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消火ボールを投げれば火は消えるのか|昭和の試験結果と令和の検証でわかった限界を解説

消火ボールは投げるだけで消えるのか

「投げるだけで火が消える」という消火ボールを、見たことはないでしょうか。
昭和39年、消防庁消防研究所は投げ込み消火弾の見本品を試験し、消火器具としては認められないという結果を示しました。
その後も同じ仕組みの商品は形を変えて売られ続け、令和4年には東京消防庁が改めて実際の消火効果を検証しています。
この記事では、消火弾に関する昔と今の試験結果から、実際の消火能力と正しい使い方を解説します。

うちの近所でも「投げるだけで消える」という消火ボールが売られているのを見たことがあります。

実はその消火ボールは、消防法上の消火器とは別の扱いなんです。
まずは昭和の試験結果を見てみましょう。

見た目は消火器と似ているのに、扱いが違うんですね。

はい。
今日は昭和と令和、2つの試験結果を一緒に確認していきましょう。

この記事の結論
  • 昭和39年、消防庁消防研究所が消火弾を試験した結果、消火器具としては認められないと結論づけられました。
  • 消火弾は消防法施行令第7条の消火器具にも、第37条の検定対象にも当たりません。
  • 条件を満たしても消火弾9個でようやく消火器1本分の能力しか認められていません。
  • 令和4年の検証では、投げても3人に1人以上が火元に当てられませんでした。
  • 天ぷら油の火災に投げ込むと、油が飛散して延焼が拡大する危険があります。

消火ボールの命中率・消火能力・天ぷら油への危険・閉鎖空間での使い方をまとめた図解

消火弾はなぜ国の試験を受けることになったのか

試験台の上のガラス製消火弾見本品とクリップボード
投げるだけで火を消せるとされる商品には、実は長い歴史があります。
昭和39年当時の試験の経緯を確認しましょう。
消火弾については、消防法施行令第7条の規定する消火器具に、また、同施行令第37条に規定する検定を受けなければならない消防用機械器具等にはいずれも該当しないところであるが、全国消火弾製造販売同業会提出の消火弾の見本品について、当庁消防研究所において試験の結果、消火弾の基準に関し別紙のとおりの報告があったので、この旨通知する。(消火弾に関する試験結果について 昭和39年7月23日 自消丙予発第75号 消防庁予防課長)
消火弾は消火器具ではありません。
全国消火弾製造販売同業会が見本品を提出し、消防庁消防研究所が試験を行ったことが今回の通知の出発点です。
試験の結果、消防法施行令第7条が定める消火器具のいずれにも当てはまらず、第37条の検定対象にも含まれないことが明記されました。
つまり消火弾は、国が消火器のように性能を保証する仕組みの外にある商品だったのです。
この立ち位置は、今の投げ込み消火弾や消火ボールにもそのまま当てはまります。

消火器と同じようなものだと思っていたので、検定を受けていないというのは驚きです。

はい。
次の章で、今どんな商品がこの消火弾に当たるのかを見ていきましょう。

投げ込み消火弾はどのような商品を指すのか

段ボール箱の中の球状の消火用品と通販のスマートフォン画面
消火弾という言葉は昔のものですが、同じ仕組みの商品は今も通販で買えます。
どんな製品が対象になるのかを確認しましょう。
昨今、インターネットによる通信販売で多種多様な海外製の簡易消火具が入手しやすくなり、検定対象機械器具等及び自主表示対象機械器具等以外の簡易消火具(以下「簡易消火具等」という。)も流通している。(簡易消火具等の初期消火効果に関する検証 消防科学セーフティレポート第59号 令和4年 東京消防庁)
今も海外製の消火ボールが通販で買えます。
昭和39年当時の消火弾は、ガラス製アンプルに薬液を入れて投げる球状の製品でした。
現在もボール型ボトル型の投てき消火具、火薬で破裂させるタイプなど、同じ仕組みの商品が通信販売で入手できます。
これらは日本の検定制度も自主表示制度も通っていない場合が多く、性能は製造者の説明だけが頼りです。
次の章では、実際にどれほどの消火能力があるのかを確認します。

うちにも似たような球状の消火用品があります。あれも同じ扱いになるんですね。

可能性があります。
次の章で、試験が示した具体的な消火能力を見てみましょう。

試験の結果は消火弾にどれだけの能力を認めたのか

9個並んだ小さな球体と1本の消火器
当時の試験は、消火弾に一定の条件を付けたうえで能力を認めました。
その条件と実際の能力を確認しましょう。
貴同業会より依頼のあった消火弾に関する試験の結果について下記のとおり回答します。記 消火器規格(昭和36年12月28日、消防庁告示第6号)第3条に規定するA火災第2模型(A-1能力単位測定用)1個を用いて、同条の試験方法に準じて、提出された見本品について試験した結果次の四つの条件を充足し、かつ、適正に使用される場合、その消火能力については9個をもってA-1相当の能力を有するものと認められる。条件 (1) 薬液容量:600cc以上 (2) 薬液比重:温度20°C±3°Cにおいて1.1以上 (3) 含有成分:アンモニウム、アルカリ土類金属の塩化物、硫酸塩、炭酸塩又はリン酸塩等を100cc当り2.5g以上 (4) 容器:投てきに容易な大きさ及び形状のガラス製アンプル入(3ヶ所以上の異なった部分で測定したガラスの平均厚さ1.2mm以下のもの)(消火弾に関する試験結果について 別紙 昭和39年5月29日 自消研甲庶発第44号 消防庁消防研究所長)
条件を満たしても、消火弾1個の能力はごく小さいものでした。
試験は薬液の量・比重・成分・容器の割れやすさという4つの条件をすべて満たした場合に限って能力を認めています。
それでも消火能力は9個で消火器1本分に相当する程度で、単体では極めて限定的な能力しかありません。
条件のどれか一つでも欠ければ、この能力自体が保証されないことにも注意が必要です。
令和4年の検証では、この弱さが実際の火災でどう表れるかが確認されています。

たった消火器1本分にしかならないのに、試験に合格した扱いになるのは意外です。

条件をすべて満たした場合だけの数字です。
次の章では、実際に投げてみた検証結果を見てみましょう。

実務で見落としやすいのはどこか

天ぷら油の鍋に投げ込まれる球状の消火用品と禁止マーク
令和4年の検証は、投げるという使い方そのものに弱点があることを示しました。
見落としやすい2つの危険を確認しましょう。
投てき距離2.0mの近距離であっても、12名中4名、全投てき者の1/3が的(略)に当たらず、4名が的の端や角といった火炎の抑制効果もほとんど期待できない部分に当たった。(簡易消火具等の初期消火効果に関する検証 消防科学セーフティレポート第59号 令和4年 東京消防庁)
天ぷら油火災が生じた鍋に投てき消火具を投入すると発火した油が周囲に飛散する。(略)周囲に可燃物がある状況や低い天井の台所でこのような発火油の飛散、火炎拡大が生じれば、深刻な延焼拡大が予想される。(簡易消火具等の初期消火効果に関する検証 消防科学セーフティレポート第59号 令和4年 東京消防庁)
投げても当たらず、当てても油には使えません。
実際に消防吏員12名が投げた検証では、3人に1人以上が的に当てられませんでした。
火災時の緊張状態では、さらに命中率が下がることも考えられます。
また天ぷら油の火災に投げ込むと、油が飛散して延焼が拡大する危険があり、多くの製品が油火災への使用を禁止しています。
「投げれば消える」という思い込みそのものが、落とし穴になっています。

咄嗟のときに冷静に的へ投げるなんて、想像より難しそうです。

はい。
次の章で、明日からどう備えればよいかを整理しましょう。

明日からなにを確認すればよいのか

箱の中に収められた球状の消火用品と天井の自動消火設備
消火弾に頼りきらないための備え方を整理します。
確認すべきポイントを見ていきましょう。
「付記」この文書の趣旨を他に利用する場合には、消火能力のみならず、必ず上記の四つの条件についても明記すること。(消火弾に関する試験結果について 別紙 昭和39年5月29日 自消研甲庶発第44号 消防庁消防研究所長)
投てきによる使用では火源に当たらない、又は当たっても消火効果が発揮できない可能性が非常に高い。誤使用により油火災に投てきした場合は延焼拡大及び熱傷危険がある。(簡易消火具等の初期消火効果に関する検証 消防科学セーフティレポート第59号 令和4年 東京消防庁)
消火弾は消火器の代わりにはできません。
販売時に消火能力だけを宣伝し、必要な条件を明記していない商品は、性能を確かめる手段がないと考えましょう。
消火器や住宅用自動消火装置など、検定や性能評定を受けた製品を優先的に備えるのが安全です。
どうしても消火弾を使う場合は、天ぷら油の鍋には投げ込まず、閉鎖された空間にあらかじめ設置しておく使い方に限定しましょう。
不安な場合は、専門業者に相談してください。

消火弾だけに頼るのは危ないんですね。備え方を見直します。

はい。
次はよくある質問を確認していきましょう。

よくある質問

Q消火ボールは消防法上の消火器として認められていますか?
A消火ボール(投げ込み消火弾)は、消防法施行令第7条が定める消火器具にも、第37条の検定対象にも該当しません。国が性能を保証する仕組みの外にある商品です。
Q消火弾1個でどれくらいの火を消せますか?
A昭和39年の試験では、4つの条件を満たした場合に限り、9個で消火器1本分に相当する能力が認められました。条件を満たさない製品では、この能力自体が保証されません。
Q投げれば確実に火元に当てられますか?
A令和4年の検証では、投てき距離2.0mの近距離でも3人に1人以上が的に当てられませんでした。当たっても容器が効果的に割れなければ消火効果は発揮できません。
Q天ぷら油の火災に投げ込んでもよいですか?
A投げ込むと発火した油が飛散し、延焼が拡大する危険があります。多くの製品が油火災への使用を禁止しており、天ぷら油の鍋には使わないでください。

まとめ

昭和39年、消防庁消防研究所が消火弾を試験し、消火器具・検定対象のいずれにも該当しないという結果を示しました
消火弾は消防法施行令第7条の消火器具にも第37条の検定対象にも当たりません。
条件を満たしても、消火弾の消火能力は9個で消火器1本分に相当する程度でした。
4つの条件のどれか一つでも欠ければ、この能力自体が保証されません。
令和4年の検証では、投てき距離2.0mでも3人に1人以上が的に当てられませんでした
天ぷら油の火災に投げ込むと、油が飛散して延焼が拡大する危険があります。
消火弾は消火器の代わりにはならず、検定や性能評定を受けた製品を優先しましょう

消火ボールを過信せず、消火器を優先して備えようと思います。

はい。㈱防災屋でもご相談を承っています。消火器の選び方や設置についても、お気軽にお声がけください。

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参考・出典

  • 消火弾に関する試験結果について(通知)(昭和39年7月23日 自消丙予発第75号)
  • 消火弾に関する試験結果について 別紙(昭和39年5月29日 自消研甲庶発第44号)
  • 簡易消火具等の初期消火効果に関する検証(消防科学セーフティレポート第59号 令和4年 東京消防庁)
  • 消防法施行令第7条(消防用設備等の種類)
  • 消防法施行令第37条(検定対象機械器具等の範囲)

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知等に基づく一般的な解説です。製品ごとの性能や表示は個別に異なる場合があります。使用にあたっては製品の表示・注意書きと所轄消防署の助言をご確認ください。

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