BLOG

高層の複合ビルはなぜ限界時間で防火管理体制を検証するのか|自衛消防隊の対応事項と区画形成の手順を解説

高層の複合ビルが限界時間で防火管理体制を検証することを解説する記事のアイキャッチ画像

高さ31mを超えるビルに、事務所飲食店舗が同居している。
そんな高層の複合ビルで火災が起きたとき、自衛消防隊の初期対応は本当に間に合うのか。
消防庁が示したのは、区画ごとに区切った「限界時間」という数字の物差しでした。
その限界時間を訓練でどう検証するのかが、今回のテーマです。

うちのビルは訓練を年に何度もやっていますが、それで十分なのか正直分かりません。

回数をこなすだけでは、間に合うかどうかは見えません。
「限界時間」という数字で検証する仕組みがあります。

うちのビルがその対象になるのかも、実はよく分かっていません。

そこから確かめましょう。
対象になる建物、限界時間の考え方、そして明日からの確認事項まで順に見ていきます。

この記事の結論
  • 指導マニュアルの対象は、高さ31mを超える高層建築物のうち、構成用途が主に事務所及び飲食店舗である複合用途防火対象物です
  • 出火区画・隣接区画・竪穴隣接区画のそれぞれに、危険なレベルに達するまでの時間を「限界時間」として設定します
  • 限界時間はスプリンクラー設備の有無や内装の仕上げ状況によって変わります
  • マニュアルが想定していない特殊な建物では、消防本部の判断で新しい対応を積極的に評価してよいとされています
  • 検証訓練は消防法施行規則の消火訓練・避難訓練の一環として実施できます

高層複合ビルの防火管理を限界時間で検証する4つの対応手順を示した図解

高層の複合ビルはなぜ限界時間で防火管理体制を検証するのか

高層の複合ビルとストップウォッチを並べて防火管理体制の時間検証を示したイメージ
高層の複合ビルの防火管理体制については、これまでも行政指導が積み重ねられてきました。
しかし、訓練を実施しているかどうかを確認するだけでは、実際の火災で間に合うかまでは分かりません。
高層複合用途防火対象物における防火管理体制については、従前から重点的に御指導願っているところであるが、今般、別添のとおり標記マニュアルを作成したので通知する。今後、高層複合用途防火対象物の防火管理体制の指導に当たっては、本マニュアルを参考に指導されたい。(平成3年5月14日 消防予第98号 消防庁予防課長)
数字の物差しを訓練にあてはめて検証する発想が、この通知の核心です。
マニュアルの目的は、火災が発生した場合に従業員及び来客者の安全確保を図れるよう、防火管理体制の整備に関する指導方法を示すことにあります。
個々の対応事項がきちんと行われたかどうかは、防災センター等で情報を一元化して管理する必要があるとも定められました。
行政指導だけで終わらせず、数字で検証するところまで踏み込んだ点が、それまでの通知と違うところです。

訓練の実施記録だけでは足りない、ということですね。

はい、そこが今回の指導マニュアルの狙いです。
まずは自分のビルが対象になるかどうかから見ていきましょう。

指導マニュアルの対象になるのはどんな建物か

高さ31mの目印と事務所階及び飲食店舗の階が同居する高層ビルを示したイメージ
対象になるかどうかは、高さと用途の組み合わせで決まります。
自分のビルが当てはまるのかを、まずここで確認しておきましょう。
このマニュアルの対象は、高さ31mを超える高層建築物のうち、構成用途が主に事務所及び飲食店舗である複合用途防火対象物とする。なお、既に通知された防火管理体制指導マニュアルの対象となる部分が存する場合には、その部分について当該マニュアルを適用すること。また、上記以外の高層建築物についても指導マニュアルの考え方に準じて指導することが望ましいこと。
高さと用途の両方がそろって初めて対象になります
まず高さは31m超。建築基準法上の高層建築物と同じ線引きです。
そして用途は、事務所飲食店舗が主な構成である複合用途防火対象物(消防法施行令別表第一(16)項イ)に絞られます。
片方だけそろっていても対象にはなりません。オフィス専用の高層ビルや、31m以下の複合ビルはこのマニュアルの直接の対象ではないということです。
ただし、対象外の高層建築物についても考え方に準じた指導が望ましいとされているので、自分のビルの管理体制を見直す材料として十分に使えます。

うちは飲食店舗が少しだけ入った事務所ビルですが、それでも対象になるのでしょうか。

用途の主従は所轄の消防署が実態で判断します。
高さ31mを超えているなら、一度相談しておくと確実です

限界時間はどんな考え方で決まるのか

閉じた防火シャッターに合格の印を付け くさびで開いたままの防火戸に禁止の印を付けたイメージ
限界時間という言葉が指すのは、時間そのものではなく「危険になるまでの猶予」です。
その猶予をどう区切るかが、マニュアルの中心部分になります。
火災の比較的早期に火煙が危険なレベルに達することが想定される出火区画、隣接区画及び竪穴隣接区画に限界時間を設定するものとする。出火場所の感知器の発報から、出火区画内が危険なレベルに達すると想定されるまでの時間を「出火区画の限界時間」、隣接区画内が危険なレベルに達すると想定されるまでの時間を「隣接区画の限界時間」、竪穴隣接区画が危険なレベルに達すると想定されるまでの時間を「竪穴隣接区画の限界時間」とする。
火元から遠いほど猶予が長く設計されています
出火区画・隣接区画・竪穴隣接区画の順に、限界時間は長く設定される仕組みです。区画をまたぐたびに、防火戸や防火シャッターという壁が1枚増えるためです。
限界時間の長さは一律ではなく、スプリンクラー設備の設置の有無や、壁・天井の内装の仕上げ状況によって変わるよう定められています。内装の燃えにくさが、そのまま猶予の長さに反映される考え方です。
隊員が実際に行う対応は、出火場所の確認・現場確認・消防機関への通報・初期消火に続き、防火戸と防火シャッターを閉鎖して区画を形成することが柱になります。
自分のビルの防火戸や防火シャッターが、日常的に物を挟まれたまま開けっぱなしになっていないか、一度点検してみる価値があります。

防火戸の前に台車を置いていたことがあります。
あれは限界時間そのものを削っていたんですね。

そのとおりです。
閉鎖に支障がないかを、今日の巡回で確かめてみてください。

マニュアルが想定していない建物ではどうするか

大きな吹き抜けを持つ特殊な形状のビルと標準的な箱形の事務所ビルを見比べる人のイメージ
このマニュアルは、あくまで一般的な構造・形態の建物を前提に作られています。
では、想定から外れる特殊な建物ではどう扱われるのか。
指導マニュアルにおける対応事項、限界時間の設定等は、一般的な構造、形態の高層複合用途防火対象物を想定して定められたものであるので、指導を行っていく過程において、指導マニュアルで想定していない特殊な形態の高層複合用途防火対象物の対応事項等について、新たな考え方が示された場合等においては、各消防本部においてこれを積極的に評価すべきものであること。
マニュアルは固定の正解ではありません
大きな吹き抜けや曲面ガラス壁を持つビルのように、想定外の形態では、消防本部の判断で読み替えや追加の対応が検討されます。
建物側にとっての落とし穴は、検証訓練で限界時間内に対応が完了しなかった場合です。その場合は、逃げ遅れの確認や防火戸等の最終的な閉鎖、隊員の避難といった手順まで含めて訓練が行われ、対応事項や体制そのものの見直しが必要になります。
一度基準を満たしたからといって、増改築や用途変更のたびに条件が変わることも忘れてはいけません。

去年テナントが入れ替わったのですが、それだけでも見直しの対象になりますか。

可能性は十分あります。
内装や用途構成が変わった時点で一度確認しておきましょう。

明日から確認すべきことは何か

防災センターの操作卓の前でストップウォッチとクリップボードを持つ担当者のイメージ
限界時間は、決めて終わりの数字ではありません。
事前訓練と検証訓練を繰り返して、初めて意味を持ちます。
検証を行う際には、避難誘導の指示のあった時点から避難所要時間の経過後に、逃げ遅れの確認、防火戸等の最終的な閉鎖、隊員の避難等を行うものとする。訓練及び検証に当たっての対応事項の実施方法は、おおむね次のとおりであるが、個々の防火対象物の実態に応じたものとなるよう配慮することが必要である。
訓練は一度きりで終わらせません
事前訓練で対応事項の手順を確認したうえで、検証訓練で実際に限界時間内に収まるかどうかを測ります。
この一連の訓練は、消防法施行規則第3条に基づく消火訓練・避難訓練の一環として実施でき、別立ての特別な行事にする必要はありません。
建物側で今日からできるのは、対応事項の実施状況を防災センター等で一元管理できているかの確認です。個々の隊員の動きが記録に残っていなければ、検証そのものが成り立ちません。
まずは直近の訓練記録を見直し、限界時間という物差しで振り返る習慣をつけてみてください。

今までの訓練記録を、限界時間という物差しで見返してみます。

それが一番の近道です。
記録が薄い部分から優先して確認していきましょう

よくある質問

Q高さ31mちょうどのビルは対象になりますか?
Aマニュアルの対象は高さ31mを超える高層建築物とされています。ちょうど31mの建物は文言上の対象外ですが、実務上の扱いは所轄消防署に確認するのが確実です。
Q限界時間は誰が計算するのですか?
A建物の条件をもとに消防本部が指導のなかで確認していくものです。建物側はスプリンクラー設備の有無や内装の仕上げ状況など、条件そのものを正確に伝えることが役割になります。
Q検証訓練で時間内に終わらなかったらどうなりますか?
Aその場で終わりではありません。逃げ遅れの確認や防火戸等の最終的な閉鎖まで行ったうえで、対応事項や体制の見直しを検討することになります。
Qこの訓練は年に何回やる必要がありますか?
A検証訓練そのものの回数は、消防法施行規則第3条に基づく消火訓練・避難訓練の実施頻度の枠組みの中で扱われます。具体的な回数や時期は所轄消防署と相談して決めてください。

まとめ

対象は高さ31mを超え、事務所と飲食店舗が主な複合用途防火対象物です
限界時間は出火区画・隣接区画・竪穴隣接区画の3段階で設定されます
時間の長さはスプリンクラー設備の有無と内装の仕上げで変わります
隊員は通報・初期消火に続き防火戸と防火シャッターの閉鎖で区画を形成します
想定外の建物では消防本部の判断で新しい対応が積極的に評価されます
時間内に終わらなければ対応事項や体制の見直しが必要になります
検証訓練は消防法施行規則の消火訓練・避難訓練の一環として実施できます

限界時間という物差しで、うちの訓練を見直せそうです。
まずは記録から確認します!

対象の確認、区画の形成、そして検証訓練。
この3つを押さえれば大きく外しません
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
主な活動

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

参考・出典

  • 高層複合用途防火対象物における防火管理体制指導マニュアルについて(平成3年5月14日 消防予第98号 消防庁予防課長)
  • 消防法施行令別表第一(16)項イ
  • 消防法施行規則第3条
  • 建築基準法施行令第112条(防火区画)
  • 消防実務六法 通達編

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

BLOGカテゴリ
最新の記事
防火管理者代行サービス
無料1分概算見積
高層の複合ビルが限界時間で防火管理体制を検証することを解説する記事のアイキャッチ画像
高さ31mを超えるビルに、事務所と飲食店舗が同居している。 そんな高層の複合ビルで火災が起きたとき、自衛消防隊の初期対応は本当に間に合うのか。 消防庁が示したのは、区画ごとに区切った「限界時間」という数字の物差しでした。...