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小規模な雑居ビルに配られた訓練マニュアルとはなにか|歌舞伎町ビル火災後にできた開店前訓練の中身を解説

小規模ビルに配られた訓練マニュアルとはなにか

小規模ビル避難等訓練マニュアルについて(平成16年3月5日 消防安第31号)は、開店前や閉店後のわずかな時間で消火・通報・避難の訓練を行えるようにした簡易マニュアルです。
平成13年の歌舞伎町ビル火災のあと、消防庁は全国の小規模雑居ビルを点検しましたが、いちばん多かった違反は自衛消防訓練の未実施でした。
そこで消防庁は特別な設備がなくても始められる、開店前後の数分でできる訓練の型をつくって配布することにしました。
この記事ではマニュアルが作られた背景と、実際に使うときの注意点を確認します

うちの店は狭くて、開店前に大がかりな訓練をする時間がありません。

実はこのマニュアルは、まさにそういうお店のために作られたものです。

歌舞伎町の火災のあと、訓練不足が問題になったんですね。

はい、その反省から生まれた仕組みを見ていきましょう。

この記事の結論
  • 小規模ビル避難等訓練マニュアルは平成16年3月5日付け消防安第31号として発出されました
  • 歌舞伎町ビル火災後の点検で自衛消防訓練の未実施が最も多い違反だったことがきっかけです
  • 対象は特定防火対象物で収容人員300人未満、非特定防火対象物で500人未満の建物です
  • 特に消防法施行令第4条の2の2第1項第2号にあたる避難階段が手薄な建物を重点的に指導する内容です
  • マニュアルは年2回以上の正式な訓練義務を代わりに満たすものではありません

歌舞伎町ビル火災から訓練不足の指摘を経て小規模ビル避難等訓練マニュアルができるまでの流れ

小規模ビル向けの訓練マニュアルはなぜ作られたのか

物が積まれた雑居ビルの階段室と鳴らないベル
歌舞伎町の火災から浮かび上がったのは、設備ではなく運用の弱さでした。
訓練の実施率そのものが低かった実態を確認します。
小規模ビル避難等訓練マニュアルについて(平成16年3月5日 消防安第31号 消防庁防火安全室長) 平成13年9月に発生した新宿区歌舞伎町ビル火災を踏まえた消防審議会答申(平成13年12月26日付け)において、当該火災が大惨事になった要因として「①階段室の物品存置、避難訓練の未実施、消防用設備等の点検未実施等防火管理が不適切であったこと。②自動火災報知設備のベルが停止されていた可能性が高いこと等により、火災の発見が遅れ、初期消火、通報、避難誘導等の初期対応を的確に行うことができなかったこと。」が挙げられ(略)小規模雑居ビルに係る違反の状況をみると、訓練の実施が的確に行われていないものが多いところです。
設備の欠陥より先に、訓練という日常動作がそもそも行われていませんでした。
消防審議会答申は歌舞伎町の火災が大惨事になった要因として、階段室への物品存置避難訓練の未実施を挙げています。
さらに自動火災報知設備のベルが止められていた疑いもあり、発見の遅れが初期消火・通報・避難誘導の失敗につながりました。
一斉立入検査でも小規模雑居ビルの違反の多くは訓練の未実施に集中していたため、消防庁は特別な予算がなくても始められる実践的なマニュアルを用意することにしました。
作っただけで終わらせない、という発想がこのマニュアルの出発点です。

うちも通路に段ボールを置きっぱなしにしていました。

それが避難の妨げになると、火災のとき命取りになります。

どんな建物がマニュアルの対象になるのか

避難階段が1本の小さいビルと2本ある大きいビルの比較
マニュアルは大きな施設ではなく、身近な小規模ビルを想定しています。
どこまでの規模が対象になるのか確認します。
小規模ビル避難等訓練マニュアルについて(前掲) 記 1 小規模ビル避難等訓練マニュアル適用対象物 特定防火対象物で収容人員300人未満のもの及び非特定防火対象物で収容人員500人未満のものを対象とするが、特定防火対象物、特に消防法施行令第4条の2の2第1項第2号に該当するものを中心に指導するものであること。
消防法施行令第4条の2の2第1項 法第八条の二の二第一項の政令で定める防火対象物は、別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ及び(十六の二)項に掲げる防火対象物であつて、次に掲げるものとする。(略)二 前号に掲げるもののほか(略)当該避難階以外の階から避難階又は地上に直通する階段(略)が二(略)以上設けられていないもの
対象は決して大規模施設ではなく、身近な中小規模の建物です。
特定防火対象物なら収容人員300人未満、非特定防火対象物なら500人未満という比較的小さな建物が対象になります。
その中でも重点的に指導するのは、避難階段が2つ未満しかない建物です。
逃げ道が細いビルほど、実際に体を動かして確かめる訓練の効果が大きいという考え方です。
規模の小ささではなく、避難ルートの手薄さが優先順位を決めています。

避難階段が1本しかないビルって、意外と多い気がします。

はい、そういう建物ほどこの訓練が生きてきます。

マニュアルは訓練になにを求めているのか

開店前の店で消火器の使い方を練習するスタッフと簡易マニュアルのシート
中身は決して難しいものではありません。
むしろ「これだけでいい」という割り切りが特徴です。
小規模ビル避難等訓練マニュアルについて(前掲) 記 2 小規模ビル避難等訓練マニュアルの概要 本マニュアルは、開店前、閉店後のわずかな時間で防火対象物の関係者が簡単に消火、通報及び避難に係る訓練が実施できる程度の内容であり、設置されている消防用設備等、避難施設に応じて必要最小限のものであること。 3 小規模ビル避難等訓練マニュアルの内容 別添の5組のシートで構成されており(略) ①消火訓練マニュアル ②通報訓練マニュアル ③避難訓練マニュアル―階段、通路を使用した場合― ④避難訓練マニュアル―避難器具を使用した場合― ⑤避難訓練マニュアル―避難器具取扱い―
用意されたのは開店前後の数分で終わる、必要最小限の訓練です。
中身は消火訓練通報訓練・避難訓練(階段や通路を使う場合/避難器具を使う場合/避難器具の取扱い)の5種類のシートです。
建物に設置されている消防用設備や避難施設に合わせて、必要な分だけを選んで使う設計になっています。
周知の際には「あなたもできる簡単消防訓練」という別紙もあわせて活用するよう案内されています。
特別な訓練日を設けなくても、開店準備や閉店作業のついでに1つずつこなせる分量です。

5種類もあると聞くと身構えてしまいます。

でも1回に1枚ずつで十分と考えられている内容です。

実務で見落としやすいのはどこか

1回だけの訓練カレンダーと年2回の訓練カレンダーの比較
このマニュアルをやれば義務は終わり、と考えるのは早すぎます。
別に果たすべき義務が残っていることを確認します。
消防法施行規則第3条第10項 令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ又は(十六の二)項に掲げる防火対象物の防火管理者は、令第三条の二第二項の消火訓練及び避難訓練を年二回以上実施しなければならない
簡易マニュアルは正式な訓練義務の代わりにはなりません。
消防法施行規則第3条第10項は、対象になる防火対象物の防火管理者に消火訓練及び避難訓練を年2回以上実施するよう義務づけています。
小規模ビル避難等訓練マニュアルは、この義務化された訓練の実施率が低かったことを踏まえて、まず始めるきっかけとして配られたものです。
開店前の数分で終わる簡易訓練を1回やっただけで済ませず、年2回以上の訓練を消防計画に位置づけて継続する必要があります。
「簡単にできる」という位置づけを、「これだけでよい」と読み違えないよう注意してください。

うちは1回だけ形だけの訓練をして満足していました。

それでは年2回の義務を果たしたことにはなりません。

明日からなにを確認すればよいのか

通報訓練で電話をかけるスタッフと消火器を持つ店主
やることは特別ではなく、今日から始められることばかりです。
具体的な確認事項を整理します。
小規模ビル避難等訓練マニュアルについて(前掲) 本マニュアルの活用方法等は下記のとおりであり、防火管理講習、立入検査等の機会をとらえて、小規模ビルの関係者に配布するなどして、小規模ビルにおいて効果的かつ効率的な避難等訓練の実施を促進していただくために活用されるようお願いします。
まずはマニュアルを入手し、開店前後の数分を訓練にあてることから始めます。
防火管理講習や立入検査の機会に配布されることが多いので、所轄の消防署に確認してみてください。
消火訓練・通報訓練・避難訓練のシートを1つずつ選び、開店前や閉店後の数分で実際に体を動かして確認します。
あわせて、年2回以上の消火・避難訓練という正式な義務を消防計画に落とし込み、実施記録を残すことも忘れないでください。
小さな積み重ねが、いざというときの初期消火・通報・避難誘導の速さにつながります。

消防署に確認して、まずマニュアルをもらってきます。

はい、開店前の数分からさっそく始めてみてください。

よくある質問

Qこのマニュアルはいまも入手できますか?
A通知そのものを新たに廃止・改正する後継の通知は見当たりませんが、内容の中心である開店前後の簡易訓練という考え方はいまも有効です。入手方法は所轄の消防署や防火管理講習の機会に確認してください。
Qマニュアルをやれば年2回の訓練義務は不要になりますか?
Aいいえ。消防法施行規則第3条第10項が定める年2回以上の消火訓練及び避難訓練の義務は別に存在し、このマニュアルはその実施率を上げるための入り口として配布されたものです。
Qどんな建物が重点的に指導される対象ですか?
A特定防火対象物で収容人員300人未満、非特定防火対象物で収容人員500人未満の建物のうち、特に避難階段が2つ未満しかない建物が重点的に指導する対象とされています。
Qマニュアルにはどんな種類がありますか?
A消火訓練通報訓練・避難訓練(階段や通路を使う場合/避難器具を使う場合/避難器具の取扱い)の合わせて5種類のシートで構成されています。

まとめ

小規模ビル避難等訓練マニュアルは平成16年3月5日、消防安第31号として発出されました
きっかけは歌舞伎町ビル火災後の点検で自衛消防訓練の未実施が最も多かったことです
対象は特定防火対象物で収容人員300人未満、非特定防火対象物で500人未満の建物です
重点的な指導対象は避難階段が2つ未満の建物です
内容は開店前後のわずかな時間でできる必要最小限の訓練です
構成は消火・通報・避難(階段・避難器具・器具取扱い)の5種類のシートです
年2回以上の正式な訓練義務を代わりに満たすものではありません

開店前のちょっとした時間でできるなら、今日からやってみます!

その積み重ねが命を守る力になります。㈱防災屋でもご相談を承っております。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
主な活動

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

参考・出典

  • 小規模ビル避難等訓練マニュアルについて(平成16年3月5日 消防安第31号 消防庁防火安全室長)
  • 消防法施行令第4条の2の2第1項第2号
  • 消防法施行規則第3条第10項

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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