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自力避難が難しい人がいる施設はなぜ分刻みで避難訓練を管理するのか|一時待避場所と目標時間の考え方を解説

バルコニーの無い病院や施設はどう避難させるのかを解説する記事のアイキャッチ画像

入所者や患者の中に、自力で階段を下りて避難するのが難しい人がいる施設は少なくありません。
バルコニーや防火区画が無い建物では、いったん火災室の外に出ても安全な避難場所をどこに確保するかが課題になります。
平成25年10月の福岡市有床診療所火災をきっかけに、消防庁は「水平避難」による一時的な待避のしくみを具体的な時間の基準とともに示しました。
この記事では、対象になる施設の条件と、訓練を分刻みの目標時間で管理する考え方を解説します。

うちの施設にはバルコニーが無いんですが、それでも避難訓練はできますか。

できます。
一時待避場所という考え方を使えば、屋内でも安全に一時的に待避させられます。

一時待避場所というのは、そこにいれば安全ということですか。

いいえ。
あくまで屋外の地上に出るまでの一時的な場所という位置づけです。

この記事の結論
  • 平成25年10月の福岡市有床診療所火災を受け、消防庁は「水平避難有効性検証タスクフォース」で一時待避場所への水平避難訓練マニュアルを検討しました(平成30年3月30日 消防予第258号)
  • 対象は避難上有効なバルコニー等又は防火区画が設置されていない、自力避難困難な者が利用する病院・社会福祉施設等です
  • 訓練は火災室の戸の閉鎖・廊下の開口部の開放・一時待避場所への水平移動という行動ごとに目標時間を設定して管理します
  • 一時待避場所は最終避難場所ではなく、原則として屋外の地上への避難を行うまでの一時的な場所です
  • 目標時間内に完了できなかった場合は部分訓練・全体訓練を通じて改善するところまでが一連の訓練です

一時待避場所への水平避難の流れと目標時間の考え方を示した図解

バルコニーが無い病院や施設はなぜ避難訓練の見直しを迫られたのか

福岡市有床診療所火災を受けて消防庁が検討会を開いたことを示すイメージ
火災が起きたとき、建物の外までどう逃がすかは施設ごとに事情が異なります。
きっかけになった火災と、その後の検討の流れを確認します。
自力避難困難な者が利用する施設における一時待避場所への水平避難訓練マニュアルについて(平成30年3月30日 消防予第258号 消防庁予防課長) 平成25年10月に発生した福岡市有床診療所火災を受け開催された「有床診療所・病院火災対策検討会」では、(略)特に夜間において職員が1名となる可能性のある有床診療所及び病院については「有床診療所等における火災時の対応指針」等を活用し、より実践的な訓練を行うことが重要であるとの指摘がなされました。(略)特に小規模な社会福祉施設や有床診療所等の医療施設では、防火区画の形成やバルコニー等の設置がなされておらず、一時的な避難場所を確保することが困難な場合が想定されるところです。消防庁では、有識者等により構成する「水平避難有効性検証タスクフォース」を設置し、(略)「一時待避場所」の具体的な要件等や一時待避場所への水平避難による訓練方法について検討を行いました。
この通知は、夜間に少ない職員でどう逃がすかという課題への答えとして出されています。
平成25年10月、福岡市の有床診療所で発生した火災をきっかけに「有床診療所・病院火災対策検討会」が開かれました。
検討会では、夜間に職員が1名になる施設ほど実践的な訓練が必要だと指摘されています。
一方で、小規模な社会福祉施設や医療施設の多くは、防火区画やバルコニー等の設置が無く、避難のための一時的な場所を確保しづらい実情があります。
そこで消防庁は「水平避難有効性検証タスクフォース」を設け、屋内でも安全に一時待避できる場所の要件と訓練方法の検討を進めました。
この検討の結果が、平成30年の通知としてまとめられています。

夜間は職員が少ないから、避難に時間がかかるのは仕方ないと思っていました。

だからこそ訓練で時間を測り、あらかじめ改善しておくことが求められています。

一時待避場所への水平避難訓練はどんな施設が対象になるのか

バルコニーや防火区画が無い施設が一時待避場所への水平避難訓練の対象になることを示すイメージ
通知が示す訓練は、すべての施設が対象というわけではありません。
まずは自分の施設が当てはまるかどうかを確認します。
別添 自力避難困難な者が利用する施設における一時待避場所への水平避難訓練マニュアル 2 対象 本マニュアルの対象は、消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第1(6)項イ又はロに掲げる防火対象物のうち、自力避難困難な者が利用する施設で、次のすべてに該当するものとする。ア 避難上有効なバルコニー等又は防火区画が設置されていないもの。イ 主要構造部が準耐火構造(耐火構造を含む。)であるもの。ウ スプリンクラー設備、特定施設水道連結型スプリンクラー設備又はパッケージ型自動消火設備が技術上の基準に従い設置されていること。エ 自動火災報知設備(略)及び消防機関へ通報する火災報知設備(略)が技術上の基準に従い設置され、かつ、自動火災報知設備の感知器の作動と連動して消防機関へ通報されるものであること。オ 地階又は3階以上の階に自力避難困難な者が利用する居室が存しないこと。
対象になるのは、逃げ道が限られている施設に絞られています。
用途は消防法施行令別表第一(6)項イ又はロ(病院・診療所や社会福祉施設等)で、自力避難困難な者が利用する施設です。
そのうえで、避難上有効なバルコニー等や防火区画が無いことが前提になります。すでにバルコニー等がある施設は対象外です。
主要構造部が準耐火構造以上であることや、スプリンクラー設備等と自動火災報知設備の自動通報が設置されていることも条件です。
地階又は3階以上の階に自力避難困難な者の居室が無いことも要件のひとつで、消防本部の判断で読み替えが認められる場合もあります。
これらをすべて満たして初めて、次に説明する一時待避場所の設定に進めます。

うちはバルコニーが一部の階にしかありません。
それでも対象になりますか。

バルコニー等が無い居室があれば、その部分は対象になり得ます。
要件を1つずつ照らし合わせてください。

一時待避場所への水平避難はどんな時間で管理されるのか

一時待避場所への水平避難を目標時間で管理することを示すイメージ
訓練は、ただ行うだけでは足りません。
通知は、行動ごとに目標とする時間まで具体的に示しています。
2 待避完了までの目標時間の設定 一時待避場所への水平移動に係る目標時間は下表のとおりとする。(略)※1 寝具、布張り家具等の防炎性能が確保されている場合は+1分とする。※2 出火室となることが想定される全ての居室に煙感知器を設置している場合、火災の早期覚知が可能になることから、目標時間を延長する。
行動熱感知器(各居室)煙感知器・ソファ等あり煙感知器・ソファ等無し
火災室の戸の閉鎖完了1分2分3分
廊下の開口部の開放完了3分4分5分
一時待避場所への水平移動完了9分10分11分
目標時間は、感知器の種類と居室の状況によって変わります。
自動火災報知設備の発報を基準に、火災室の戸の閉鎖・廊下の開口部の開放・一時待避場所への水平移動という3つの行動ごとに目標時間が定められています。
熱感知器よりも早く煙を検知できる煙感知器のほうが持ち時間は長くなりますが、居室にソファ等の可燃物があると目標時間は短く設定されます。
布張り家具等の防炎性能が確保されている場合は1分の余裕が、煙感知器を全居室に設置している場合はさらに時間の延長が認められます。
この目標時間は、図上訓練や実働訓練で実際に達成できるかどうかを確かめるための基準になります。

熱感知器と煙感知器で、目標時間が違うのはなぜですか。

煙のほうが早く感知できる分、避難にかけられる時間の考え方が変わるためです。
居室の可燃物の状況もあわせて見ます。

一時待避場所を最終避難場所と勘違いするとどうなるのか

一時待避場所は最終避難場所ではなく屋外の地上への避難が原則であることを示すイメージ
一時待避場所という言葉から、そこで避難が終わると誤解されがちです。
通知は、この誤解を防ぐようはっきり注意しています。
火災時の避難における最終避難場所は「屋外の地上」とするのが基本であり、水平避難訓練マニュアルを活用した一時待避場所への水平避難を行う場合、当該一時待避場所への水平待避を行った後は、原則どおり、屋外の地上への避難を行うものであることから、各防火対象物への指導に際しては、当該防火対象物の関係者が、一時待避場所が最終避難場所になるとの誤解が生じることのないよう配慮されたいこと。
見落としやすいのは「一時待避場所に着けば安全」という思い込みです。
一時待避場所は、あくまで屋外の地上まで避難する途中の一時的な場所にすぎません。
消防隊が到着し救助活動ができる状況になれば、原則どおり屋外の地上への避難を続けます。
設定した目標時間内に一時待避場所までの避難が完了しなかった場合も、そのままにはできません。避難させる室の優先順位や避難経路、介助方法を再検討したうえで、部分訓練・全体訓練を通じて改善します。
訓練のたびに、この2点を関係者全員で確認しておくことが欠かせません。

一時待避場所にたどり着けば、もう安心してよいのかと思っていました。

そこで終わりではありません。
屋外の地上まで避難して初めて完了という位置づけです。

明日からなにを確認すればよいのか

火災発生時の初動対応の手順を確認することを示すイメージ
最後に、訓練で実際に確認すべき初動対応の流れを整理します。
通知が示す手順は、そのまま訓練のチェックリストとして使えます。
4 火災発生時の初動対応 (1)火災発生時の基本的な行動は、おおむね次のとおりとし、(略)オ 初期消火 携行した消火器により初期消火を行う。カ 火災室の戸の閉鎖 火災室からの退避及び初期消火終了後、直ちに火災室の戸を閉鎖する。キ 廊下の開口部の開放 一時待避場所への水平移動に係る活動時間を十分確保するため、廊下の開口部を開放する。
確認すべき手順は、大きく3つの段階に分かれます。
まず火災の覚知と消防機関への通報、現場の確認を行い、火災室の利用者等を退避させます。
次に初期消火を行ったうえで、火災室の戸を閉鎖し、廊下の開口部を開放して一時待避場所への水平移動の時間を確保します。
最後に一時待避場所へ水平避難させ、消防隊が到着したら避難状況や出火場所などの情報を引き継ぎます。
この一連の流れを、さきほどの目標時間と突き合わせながら次の訓練で確認してみてください。

手順が多くて、覚えるのが大変そうです。

1つずつ役割分担して訓練で体で覚えるのがいちばん確実です。
次の訓練から取り入れてみてください。

よくある質問

Qなぜ消防庁は一時待避場所という考え方を示したのですか?
A平成25年10月の福岡市有床診療所火災を踏まえた検討会で、夜間に職員が1名になる施設ほど実践的な訓練が必要だと指摘されたためです。バルコニー等が無い施設でも安全に一時待避できるよう、「水平避難有効性検証タスクフォース」が具体的な要件と訓練方法を検討しました。
Qどんな施設でも一時待避場所を設定できますか?
Aいいえ。主要構造部が準耐火構造以上で、スプリンクラー設備等と自動火災報知設備の自動通報が設置されているなど、複数の条件をすべて満たす施設に限られます。地階又は3階以上に自力避難困難な者の居室が無いことも条件です。
Q一時待避場所に着けば避難は終わりですか?
A終わりではありません。屋外の地上への避難が原則の最終避難場所で、一時待避場所はそこに至るまでの一時的な場所です。誤解が生じないよう指導することが通知でも求められています。
Q目標時間内に避難できなかったら訓練は失敗ですか?
A失敗ではありません。要因を検討して対応手順を改善し、再度確認するところまでが一連の訓練です。部分訓練と全体訓練を使い分けて手順を習得します。

まとめ

平成25年10月の福岡市有床診療所火災を受け、消防庁が一時待避場所への水平避難訓練マニュアルを策定しました(平成30年3月30日 消防予第258号)
対象は避難上有効なバルコニー等又は防火区画が設置されていない、自力避難困難な者が利用する病院・社会福祉施設等です
対象施設は主要構造部が準耐火構造以上で、スプリンクラー設備等と自動火災報知設備の自動通報が設置されていることが前提です
訓練は火災室の戸の閉鎖・廊下の開口部の開放・一時待避場所への水平移動という行動ごとに目標時間を設定します
目標時間は熱感知器か煙感知器か、居室にソファ等があるかによって変わります
一時待避場所は最終避難場所ではなく、原則として屋外の地上への避難を行うまでの一時的な場所です
目標時間内に完了できなかった場合は部分訓練・全体訓練を通じて改善し、再度確認するところまでが一連の訓練です

つまり、目標時間を意識するだけで訓練の中身が変わるんですね。

はい。
一時待避場所と目標時間の考え方を、次の訓練から取り入れてみてください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
主な活動

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

参考・出典

  • 自力避難困難な者が利用する施設における一時待避場所への水平避難訓練マニュアルについて(平成30年3月30日 消防予第258号 消防庁予防課長)
  • 消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第一(6)項イ・ロ
  • 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第112条(防火区画)

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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