BLOG

認知症高齢者グループホームはなぜ法令違反が無くても立入検査で指導されるのか|大村市の火災を受けた消防庁通知を解説

認知症高齢者グループホームはなぜ法令違反が無くても立入検査で指導されるのかを解説する記事のアイキャッチ画像

認知症高齢者グループホームでは、施設の規模が小さくても大きな被害につながることがあります。
ある火災をきっかけに、消防庁は全国の消防機関へ立入検査と指導の強化を指示しました。
ポイントは、法令違反の有無だけでは測れない危険性をどう見つけるかという視点です。
この記事では、その通知が示した確認の視点と、施設側が今日からできる備えを解説します。

うちのグループホームは消防法令どおりに設備を設置しています。
それなら立入検査で特に何か言われることはないですよね。

実はそうとも言い切れません。
法令違反が無くても指導の対象になる仕組みがあります。

違反していないのに指導されるということですか。

はい、その理由を順番に確認していきましょう。

この記事の結論
  • 平成18年の認知症高齢者グループホーム火災を受け、消防庁は全国の消防機関へ立入検査と指導の強化を指示しました
  • 対象は認知症高齢者グループホームとその他の類似施設です
  • 消防機関は在館者の特性・避難のしやすさ・防火管理の状況という4つの要素を確認します
  • 法令違反が無い施設であっても、危険性が高いと判断されれば指導の対象になります
  • 明日からは夜間の職員体制と二方向避難の可否を確認し、消防計画・訓練の実施状況を見直します

認知症高齢者グループホームへの立入検査と指導の流れを示した図解

認知症高齢者グループホームの火災はなぜ全国指導のきっかけになったのか

長崎県大村市の認知症高齢者グループホーム火災を受け消防庁長官による火災原因調査が発動されたことを示すイメージ
火災は施設の規模を問わず、一晩で命を奪うことがあります。
小さな共同生活の場だからといって、その危険は小さくなりません。
認知症高齢者グループホーム等に係る防火安全対策の指導について(平成18年1月10日 消防予第8号 消防庁予防課長) 去る1月8日に発生した長崎県大村市の認知症高齢者グループホームの火災において死者7名、負傷者2名の犠牲が出たことは誠に遺憾です。当庁においては、火災発生後直ちに消防法第35条の3の2及び第35条の3の3の規定に基づき、消防庁長官による火災原因調査を発動して職員を現地に派遣し、関係当局とも協力の上、調査を行っているところです。
この通知は、ひとつの火災の直後に出された緊急の指導文書です
平成18年1月、長崎県大村市の認知症高齢者グループホームで発生した火災により、7名が犠牲になりました。
消防庁は火災原因調査を発動する一方で、同じ火災が全国のどこでも起こり得るという危機感から、類似施設への立入検査の強化を全国の消防機関へ指示しました。
検討会での本格的な対策とりまとめを待たず、当面の対応として先に指導が動き出した点が、この通知の性格をよく表しています。
まずはこの通知が「事故が起きてから急いで出された指示」だと押さえておきます。

火災が起きるまでは、特に何も言われていなかったんですか。

平成18年当時はそうでした。
この火災をきっかけに全国一斉の指導が始まりました。

どんな施設が立入検査と指導の対象になるのか

認知症高齢者グループホームその他の類似施設が立入検査と指導の対象になることを示すイメージ
通知が指導の対象にしている施設は、思ったより幅があります。
自分の施設が当てはまるかどうかを確認しておきます。
認知症高齢者グループホームその他の類似施設について立入検査を行い、法令違反が認められた場合には所要の措置を講ずるとともに、法令違反がない場合であっても、下記1に示す点を考慮し、在館者の判断能力や行動能力等の特性を踏まえると火災時の危険性が高いと判断される場合は、下記2に示すような適切な対応を講ずるよう指導されるよう努めること。
対象は認知症高齢者グループホームだけではありません
通知は「その他の類似施設」という言葉で、認知症対応型以外の小規模な共同生活の場も対象に含めています。
共同生活援助や小規模多機能型居宅介護のように、少人数が同じ建物で寝泊まりする形態であれば、名称が違っても同じ視点で見られる可能性があります。
自分の施設が「認知症高齢者グループホーム」という名称でなくても、油断はできません。
入居者の状態や生活形態を基準に考える必要があります。

うちは名称としては「認知症対応型」ではないのですが、対象になりますか。

名称よりも実態で見られます。
入居者の状態が近ければ同じ視点で確認されると考えてください。

消防機関は何を確認してどう指導するのか

在館者の特性や避難のしやすさなど4つの要素を確認して指導することを示すイメージ
消防機関がチェックする視点は、通知の中に具体的に示されています。
自己点検にもそのまま使える内容です。
考慮すべき要素 ア 在館者の中に認知症高齢者や要介護度の高い者が多数含まれる。イ 建物の各居室から屋外等の安全性の高い場所に避難するのに、比較的長い時間を要する(各室から容易に屋外に避難できるか、二方向避難が可能か等の要素が重要)。ウ 出火及び延焼拡大防止上有効な状況にない(防炎物品は使用されているか、火気使用設備の状況はどうか、喫煙管理の状況はどうか、収容物は多いか少ないか等の要素が重要)。エ 消防計画の作成、消防訓練の実施等が行われていない
夜間を含む職員数が、火災時の初期消火、避難誘導等の初期対応を講ずる上で十分な状況にあるか検討し、これらに遅れが生ずる可能性が高い場合は、出火原因及び延焼拡大要因として想定されるものを可能な限り排除する、認知症高齢者や要介護度の高い者を容易に避難できる室に居住させるよう配慮する、自動火災報知設備を設置し火災の早期発見に努める等の対応を検討されたいこと。
確認の視点は大きく4つです
在館者の状態、避難にかかる時間、出火・延焼防止の状況、そして消防計画・訓練の実施状況という順番で見ていきます。
どれか1つが悪いというより、夜間の職員数まで含めて総合的に危険性が高いと判断された場合に、具体的な対応が求められます。
居室の配置を工夫する、自動火災報知設備を設置するといった対応は、法令の最低基準を満たしているかどうかとは別の話です。
自施設をこの4つの視点で一度点検しておくと、指導を受ける前に対応できます。

4つのうち、どれが一番重視されるんですか。

優先順位というより組み合わせです。
特に夜間の職員体制は見落としがちなので注意してください。

法令違反がなくても指導される施設があるのはなぜか

法令違反が無くても危険性が高いと判断されれば指導の対象になることを示すイメージ
この通知の一番の特徴は、法令違反の有無を判断基準にしていない点です。
なぜそこまでする必要があったのかを確認します。 「合法だが危険」という状況が起こり得たからです
平成18年当時、規模の小さいグループホームはスプリンクラー設備の設置義務がかかっていないケースが少なくありませんでした。
法令上は問題がなくても、認知症高齢者が多く入居し、夜間の職員が少なく、避難に時間がかかる施設は現実には危険です。
だからこそ通知は「違反の有無」ではなく「実質的な危険性」で指導するという枠組みを打ち出しました。
消防法施行令第12条第1項第1号ロ スプリンクラー設備は、次に掲げる防火対象物又はその部分に設置するものとする。別表第一(6)項ロ(1)及び(3)に掲げる防火対象物
この課題は、後年の法改正で対象施設のハード基準そのものが強化されることで解消に向かいました
認知症対応型老人共同生活援助事業を行う施設は、現在では令別表第一(6)項ロ(1)に位置づけられ、延べ面積を問わずスプリンクラー設備の設置が義務になっています。
一方で、要介護度が低い高齢者向けの施設など、別表第一(6)項ハに区分される施設には今も面積・階数による基準が残っています。
「うちは法令違反がないから安全」と決めつけず、この通知が示した視点を今も持ち続ける必要があります。

今はスプリンクラーの設置義務が強化されたなら、この通知はもう関係ないんじゃないですか。

対象施設のハードは強くなりましたが、職員体制や避難のしやすさという視点は今も同じように大切です。

明日から確認すべきことはなにか

夜間の職員体制と二方向避難の可否を明日から確認することを示すイメージ
最後に、今日から確認できることを手順として整理します。
通知が挙げた4つの視点は、そのまま自己点検リストとして使えます。
また、認知症高齢者グループホーム等の実態と課題を把握する必要があるので、実態調査の依頼について、追って通知する予定です。
確認すべきことは大きく4つです
まず在館者の要介護度や判断能力を把握し、二方向避難が可能かを確認します。
次に防炎物品の使用状況や喫煙管理を点検し、出火・延焼の芽を減らします。
そのうえで夜間を含む職員体制を見直し、消防計画の作成や訓練の実施状況を確認します。
通知にあるとおり、実態調査の依頼が追って届く可能性もあるため、今のうちに記録を整理しておくと安心です。

つまり、法令の基準を満たしているかだけでなく、実際に避難できるかどうかを自分たちでも確認しておくということですね。

そのとおりです。
今日のうちに4つの視点で点検しておいてください。

よくある質問

Qなぜ法令違反が無くても指導の対象になるのですか?
A平成18年の長崎県大村市の火災を受け、消防庁が法令違反の有無だけでは測れない危険性を確認する枠組みを示したためです。在館者の特性や避難のしやすさを踏まえて総合的に判断されます。
Q対象になるのは認知症高齢者グループホームだけですか?
Aいいえ。通知はその他の類似施設も対象に含めています。少人数が共同生活する形態であれば、名称が異なっても同じ視点で確認される可能性があります。
Q危険性が高いと判断されると何を求められますか?
A出火・延焼要因の排除、認知症高齢者や要介護度の高い者を容易に避難できる室への配置、自動火災報知設備の設置など、夜間の職員体制も踏まえた具体的な対応を検討するよう指導されます。
Q今はスプリンクラー設置義務が強化されたので関係ないのでは?
A認知症対応型の施設は面積を問わず設置義務になりましたが、要介護度が低い高齢者向け施設などは今も面積・階数の基準が残っています。職員体制や避難のしやすさという視点は今も有効です。

まとめ

平成18年の長崎県大村市の認知症高齢者グループホーム火災を受け、消防庁は全国の消防機関へ立入検査と指導の強化を指示しました
対象は認知症高齢者グループホームとその他の類似施設です
法令違反が認められた場合には所要の措置を講じます
法令違反が無い場合であっても、危険性が高いと判断されれば指導の対象になります
確認の視点は在館者の特性・避難のしやすさ・出火防止の状況・消防計画や訓練の実施状況の4つです
認知症対応型の施設は現在、延べ面積を問わずスプリンクラー設備の設置が義務になっています
明日からは夜間の職員体制と二方向避難の可否を確認し、消防計画・訓練の実施状況を見直してください

法令違反が無くても指導される理由がよく分かりました
今日中に4つの視点で点検してみます。

はい。
夜間の職員体制と避難のしやすさは特に見落としがちなので注意してください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
主な活動

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

参考・出典

  • 認知症高齢者グループホーム等に係る防火安全対策の指導について(平成18年1月10日 消防予第8号 消防庁予防課長)
  • 消防法第35条の3の2・第35条の3の3
  • 消防法施行令第12条第1項第1号ロ
  • 消防法施行令別表第一(6)項ロ(1)

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

BLOGカテゴリ
最新の記事
防火管理者代行サービス
無料1分概算見積
認知症高齢者グループホームはなぜ法令違反が無くても立入検査で指導されるのかを解説する記事のアイキャッチ画像
認知症高齢者グループホームでは、施設の規模が小さくても大きな被害につながることがあります。 ある火災をきっかけに、消防庁は全国の消防機関へ立入検査と指導の強化を指示しました。 ポイントは、法令違反の有無だけでは測れない危...