「防火管理者は社内の誰かに頼めばいい」——そう考えている会社は少なくありません。
ですが防火管理者は、火災で死傷者が出たときに、選任された個人が刑事責任を問われる立場でもあります。
過去の重大火災の判例では、現場の担当者だけでなく経営トップまでもが有罪となったケースがあります。
消防庁の検討会資料と実際の判例から、防火管理者を安易に引き受けるリスクを見ていきましょう。
うちも去年、若い社員になんとなく頼んじゃいました。
それ、火災が起きたら本人が刑事責任を問われます。
え、社長の私じゃなくて、その社員個人がですか。
はい。社長も社員個人も両方です。判例で見てみましょう。
- 火災で死傷者が出ると、防火管理者は業務上過失致死傷罪に問われる可能性があります
- 千日デパートビル火災では現場の管理課長個人が過失責任を問われました
- ホテル・ニュージャパン火災では経営トップの監督不足も有罪の理由とされました
- 「忙しかった」「選任を忘れていた」は過失を否定する理由にはなりません
- だからこそ防火管理者はセルフ選任とプロ代行の2択で選ぶべきです
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目次
防火管理者が負う法的責任とはどのようなものか

消防庁の検討部会資料は、火災で死傷者が出た場合の法的責任を整理しています。
消防法令違反そのものは行政上の責任にとどまりますが、その違反が原因で死傷者が出れば話は別です。防火管理者や管理権原者は、業務上過失致死傷罪という刑事責任を個人として問われる可能性があります。
過失が認定される鍵は予見可能性と結果回避義務違反の2つです。危険を予測できたのに、それを防ぐ行動を取らなかった、という構造が成立すると過失になります。
次の見出しから、実際にこの構造で有罪となった重大火災の判例を見ていきます。
予見できたのに防がなかった、で過失になるんですね。
実際の判例を見てみましょう。
千日デパートビル火災で現場の管理課長はなぜ有罪になったのか

最高裁判所まで争われたこの事件で、過失を問われたのは経営者だけではありませんでした。
この事件では、デパートの管理課長個人、キャバレーの管理権原者、そして防火管理者だった支配人の3者それぞれが、別々の注意義務違反で有罪とされています。
管理課長は経営者ではなく、あくまで会社の指示を受けて工事現場の管理を任されていた立場でした。それでも、防火区画の閉鎖という具体的な行動を怠ったという一点で、個人として刑事責任を免れませんでした。
「会社の業務として任されていただけ」という立場は、過失責任を軽くする理由にはなりません。
任されていただけの課長個人が有罪になったんですね。
はい。経営トップも別の事件で有罪になっています。
ホテル・ニュージャパン火災は経営トップの監督責任も問うた

社長は、自分で消防計画を作っていたわけではありません。それでも、防火管理者を指揮監督する立場にありながら不備を放置したことが、経営トップ本人の過失と認定されました。
消防当局から度重なる指導・勧告を受けていたにもかかわらず改善しなかった、という経緯も過失の認定を後押ししています。
防火管理者を選任すれば経営者の責任が消えるわけではなく、選んだ側にも監督義務が及ぶという点が、この判例のもう一つの教訓です。
選んだ社長にも監督責任があるんですね。
そのとおりです。言い訳が通らなかった例も見てみましょう。
忙しくて対応できなかったは通用するのか

2つの火災の判例が、この問いにはっきり答えています。
経営者が現場にいられない事情そのものは、裁判所も問題にしていません。問われたのは、対応できないなら代わりの措置を取るべきだったのに、それを怠り続けたという事実です。
同じ構図は平成13年の歌舞伎町雑居ビル火災(死者44名)でも見られます。この事件では、建物所有者や経営者に加えて現場で防火管理業務に従事していた者も被告人となり、うち複数名の過失が認定されました。役職の重さにかかわらず、実際に業務を担っていた人が責任を問われています。
「選任されているのに何もしていない」状態は、火災が起きた瞬間に個人の刑事責任へと変わります。
うちの社員も、選任されてたの忘れてそうです…。
それがいちばん危ないパターンです。
防火管理者はセルフ選任とプロ代行の二択で選ぶ時代へ

それでも防火管理者を自社の誰かに割り振るだけの会社は少なくありません。
ひとつは、社内の従業員からセルフ選任する道。もうひとつは、権限と業務内容を委ねた専門業者にプロ代行してもらう道です。
セルフ選任そのものは違法ではありません。ですが判例が示すとおり、選ばれた本人が業務の重さを理解せず、消防計画も訓練も点検も後回しにしたまま火災が起きれば、個人の刑事責任という重い結果につながります。数字が示すとおり、選任すらしていない事業所、選任していても計画を作っていない事業所が、全国に少なからず存在します。
㈱防災屋では、防火管理者の業務委託(代行)サービスを行っています。消防計画の作成から訓練・点検まで専門知識を持つ担当者が継続して対応するため、「選任したのに何もできていない」というリスクを避けたい会社にとって、有力な選択肢になります。
セルフかプロか、選ぶこと自体が大事なんですね。
何となく選ぶことだけはやめてください。
よくある質問
まとめ
うちも一度、社員が本当に対応できているか確認してみます。
プロ代行も含めて検討してみようと思います。
それが一番大事な一歩です。
セルフかプロか、今のうちに選び直してください。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防庁予防課「関係者不在施設における法的責任について」令和7年度第1回火災予防の実効性向上検討部会 参考資料(令和7年7月31日)
- 最高裁判所第一小法廷平成2年11月29日判決(千日デパートビル火災)
- 最高裁判所第二小法廷平成5年11月25日判決(ホテル・ニュージャパン火災)
- 東京地方裁判所平成20年7月2日判決(歌舞伎町雑居ビル火災、出典:一般財団法人日本消防設備安全センター「消防関係等判例集」)
- 神戸地方裁判所平成19年12月12日判決(宝塚市カラオケボックス火災)
- 刑法第211条、民法第709条・第415条
- 総務省消防庁「令和3年版消防白書」
※本記事は消防庁の検討会資料および公表されている判例に基づく一般的な解説です。判決文は要旨を紹介したものであり、個別の事案への当てはめや法的な助言を目的とするものではありません。具体的な法的責任の判断については、弁護士等の専門家にご相談ください。





