防火管理者の仕事を怠ると、行政指導や罰則だけでなく刑事責任が問われることがあります。
昭和44年に東北地方のホテルで起きた火災では60数名の死傷者が出て、選任されていた防火管理者が業務上過失致死傷罪に問われました。
判決はいくつかの注意義務違反を認めた一方で、検察官が主張した義務のうち認められなかったものもはっきり示しています。
この判例が突きつけているのは火災報知設備のスイッチと非常口の扉という日常の運用そのものが刑事責任に直結するという事実です。
防火管理者って、そこまで重い責任を負うんですか。
業務上過失致死傷罪の成立が認められた判例があります。
何をしていたら罪に問われたんですか。
受信機のスイッチと非常口の扉です。
認められなかった主張まで、この記事で見ていきます。
- 昭和44年の火災で防火管理者に業務上過失致死傷罪の成立が認められました
- 決め手は自動火災報知設備の受信機の管理義務を怠ったことです
- 非常口の取手を紐で縛ったまま放置したことも義務違反とされました
- 一方で誘導灯と誘導標識の維持管理については義務違反が認められませんでした
- 避難器具は権限がなくても管理権原者に具申する義務があるとされました
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目次
どんな火災だったのか

判決が認定した事実だけを並べます。
- 昭和44年2月5日、東北地方の温泉地にあるホテルで発生した
- 建物は本館・別館・娯楽施設・客室棟からなり、総面積は約18,916平方メートル、客室は約220室で収容人員は約1,300名だった
- すべて鉄筋コンクリートなどの耐火建造物で、外見上は火災に対してきわめて安全に見えた
- 当日の宿泊客は約300名で、そのうち170ないし180名が大宴会場でショーを見物していた
- 出火したのは大広間ステージ裏の狭い控室で、ステージとの隔壁はベニヤ板張りだった
- 死傷者は60数名にのぼった
判決がまず認定したのは、建物が耐火構造であることと、火災のときに人が死なないことは別だという点です。
内装や家具に可燃物が多ければ、構造が燃えなくても黒煙と有毒ガスが廊下を伝わって充満します。判決はそれを「瞬時に失神窒息死せしめるに至る危険性」と表現しました。
つまり防火管理者が見なければならないのは躯体ではなく、内装と家具と避難経路です。自分の建物が耐火建築物であることは、防火管理を軽くする理由になりません。
まずは自分の建物の内装と、避難経路に置かれている物を一度見て回ってください。
鉄筋コンクリートでも安全とは言えないんですね。
躯体ではなく内装と避難経路を見てください。
防火管理者のどこが問われたのか

どの主張が通りどの主張が通らなかったかを見るために、まず争点を並べます。
- 火災の発生と避難の通報を怠った(自動火災報知設備の受信機を正常に作動する状態に管理しなかった)
- 玄関と非常口のドアを開放できる状態に保たず、フロント要員への指導と訓練も怠った
- ショーの観客に対して出入口と非常口の位置を告知しなかった
- 2階以上の客室等に避難ロープなどの避難器具を備え付けなかった
通報・扉・告知・避難器具です。いずれも防火管理者の日常業務そのもので、特別な状況の話ではありません。
被告人側は、施設や設備の拡充は自分に委任されていない職務であり、誘導灯にも故障はなかったと反論しました。つまり「権限がなかった」という反論です。
判決はこの4つを1つずつ検討して、認めるものと認めないものを分けました。ここが実務にとっていちばん役に立つ部分です。
自分の建物でこの4つが今どうなっているかを、読みながら当てはめてみてください。
権限がなかった、という反論は通るんですか。
争点によって結論が違います。
1つずつ見ていきましょう。
裁判所が義務違反と認めたのはどこか

判決が認定した経緯は、日常の運用がそのまま事故につながる典型例です。
受信機は暖房の過熱でしばしば火災でもないのに鳴っていて、そのたびに従業員がスイッチを操作して止めていました。その慣れを放置したことが、防火管理者の注意義務違反と認められています。
判決は、スイッチが正常なら20ないし30秒でベルが鳴り、放送設備で出火場所を知らせて早期に誘導できたはずだと認定しました。つまり数十秒の差が結果を分けたという判断です。
あわせて、玄関と非常口のドアを開放できる状態に保つ義務と、フロント要員を指導・訓練する義務の違反も認められ、業務上過失致死傷罪が成立するとされました。量刑は禁錮2年、執行猶予2年です。
自分の建物の受信機を今すぐ見て、主音響と地区音響のスイッチが切られたままになっていないか確認してください。
止めたまま忘れる、うちでも起こりそうです。
止めたら戻すところまでを運用に入れてください。
逆に義務違反とされなかったのはどこか

どこで線が引かれたのかは、義務違反が認められた部分と同じくらい重要です。
誘導灯と誘導標識は各所に設置され、故障もなかったと認定されました。だから維持管理の注意義務を怠ったとはいえない、という判断です。
さらに判決は、口頭での位置の告知義務まで課すことはできないとしました。誘導灯や案内図で位置が容易に知り得る状況にあるなら、ショーの合間にわざわざ口で説明する義務はないという線引きです。
避難器具についても、権限を委任されていなかったことと、避難階段の設置を数度にわたって具申していたことが認定されています。つまり、やるべきことをやっていた部分は認められています。
自分の建物では、誘導灯が点いているか、点検で不良が出ていないかを記録として残しておいてください。
やっていたことはちゃんと認められるんですね。
だから記録を残すことに意味があります。
明日からなにをすればよいのか

すでにある設備を機能する状態に戻すことと、権限がないことを放置しないことです。
判決は、権限がなければ管理権原者に具申して設置を促すところまでが防火管理者の業務上の注意義務だとしました。何もしないという選択肢は残されていません。
逆に言えば、具申した事実が残っていれば、それは自分を守る材料になります。この事案でも、避難階段の設置を数度にわたり具申していたことが認定されています。
やることは3つです。受信機の主音響と地区音響のスイッチが切られたままになっていないか確認すること。非常口の取手が縛られたり施錠されたりしていないか確認すること。そして自分の権限で直せないことは管理権原者に文書で具申して控えを残すことです。
今日のうちに受信機の前に立って、スイッチの並びを写真に撮っておいてください。
具申した記録が自分を守るというのは納得です。
口頭ではなく文書で具申して控えを残してください。
よくある質問
まとめ
まず受信機のスイッチを見に行きます。
具申は文書で残すようにします。
設備を増やす前に
すでにある設備を機能する状態に戻してください。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 60数名の死傷者を出したホテル火災につき消防法第8条第1項の防火管理者に業務上過失致死傷罪の成立が認められた事例(昭和50年3月29日 福島地方裁判所郡山支部判決)
- 消防法第8条(当時)
- 消防法施行令第4条・第25条(当時)
- 刑法第211条・第54条
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)所収の判例を参考に、独自に解説を作成
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(防火管理者・会計係の従業員など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。





