火災の調査で、消防から質問を受けることがあります。
消防法第32条第1項は調査のため必要があるときは関係のある者に対して質問をすることができると定めています。
この質問に答える義務はあるのか、答えなければ罰せられるのかは、条文からは読み取れません。
この記事では質問権の性質と資料提出命令との違いを消防庁の質疑応答に沿って整理します。
消防の質問には必ず答えなあかんのか。黙ってたら罰せられるんか。
質問権は任意です。
回答では強制調査権を定めたものでないとされ、消防法には本条関係の罰則の規定も設けられていません。
ほな嘘を言うても何も起きひんのか。それはさすがにまずいやろ。
そこに大きな差があります。
質問への虚偽には法的処置がありませんが、資料として提出したものが虚偽なら処罰の対象になります。この記事でまとめて解説します!
- 消防法第32条の質問権は一種の任意捜査権ともいうべきもので強制調査権を定めたものでない
- 消防法においては本条関係に罰則の規定を設けていない
- 質問に対する虚偽の申し立てには法的処置がないが第34条に基づき提出された資料が虚偽であれば第44条第2号により処罰の対象となる
- 第32条の関係のある者は第2条の関係者よりも意味が広く第三者も含まれる
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目次
質問権は任意であり強制調査権を定めたものではない

消防法第32条第1項の質問権について、その性質を問う照会があります。
照会では現実の面で種々の質問に対し、或いは解答を得られず、或いは虚偽の答をなす者があつて調査上支障をきたすことが多く困却しているという実情が述べられ、罰則の適用がなぜ法文化されないのかが問われました。
そのうえですなわち、この規定は強制調査権を定めたものでないことを注意しなければならないとされています。
してはならない行為も具体的に挙げられています。
本人の意思に反して強制的に質問に対する解答を要求したり、これに解答しない者に対して何らかの制裁を科したり、又は関係のある者を強制的に連行したり、等の行動をとつてはならないとされました。
答えるかどうかは本人次第です。
消防法には質問に関する罰則の規定が設けられていない

罰則がない理由についても、同じ回答の中で説明されています。
このような意味で、消防法においては、本条関係に罰則の規定を設けていないとされました。
強制的な質問によつて得たものが、何らの価値を伴うものでないのみならず、逆に職権乱用として訴えられることもあるものであるから、基本的人権を侵害しないように厳に戒めるとともに、適確な判断に基づく正確な質問によつて、適切な資料を作成するよう心がけねばならないとされています。
回答は警察官との対比でも締めくくられています。
強制捜査権を付与されている警察官についてさえ警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、いやしくも日本国憲法の保障する個人の自由及び権利の干渉にわたる等その権能を濫用することとなつてはならないという警察法の精神があると引かれています。
そのうえでこれによつて強制的に陳述を要求したり、これに応じない者に何らかの制裁を科したり、これを連行したり、被疑者を逮捕したり、又は証拠物を押収したりすることは許されていないのであるとされました。
強制の権限を持つ側でさえ限界があるのだから、任意である消防の質問権はなおさらだという筋立てです。
質問への虚偽に処置はないが資料の虚偽提出は処罰の対象になる

昭和28年5月6日付け国消総発第37号は、虚偽の陳述への措置についての照会です。
照会では火災が発生した事実を後日覚知したので、調査のため責任者に対して火災の有無について質問を行なつたところ、責任者はその事実を否定し、虚偽の申し立てをしたことが後日判明した場合、法的にいかなる処置をとることができるかと問われました。
火元責任者に対する原因や損害等の調査のための質問についてもこれに対する法的な処置はないとされています。
ただし回答はここで終わりません。
しかしながら、消防法第34条に基づき、火災の原因及び損害の程度を決定するために、火災により破損され、又は破壊された財産の調査上必要な資料の提出を命じ、これにより提出された資料が虚偽のものであつた場合は、同法第44条第2号の規定により消防法上処罰の対象となるとされました。
そのため御照会に係る事項が第34条に基づく資料として提出を命じうるものであれば、同条に基づき、同条の資料として提出させることが望ましいと助言が添えられています。
口頭の質問と資料の提出命令とでは、法的な重みがまったく異なるということです。
書面で求められたものについては、正確に作成して提出する必要があります。
関係のある者は関係者より広く第三者も含まれる

誰に質問できるのかについても照会があります。
消防法第2条第4項は関係者とは、防火対象物又は消防対象物の所有者、管理者又は占有者をいうと定義していますが、第32条第1項の質問はこの関係者以外にはできないのかが問われました。
第2条の関係者を要件とする規定は第4条や第5条や第25条や第34条であり、第2条の定義どおりの意味で差し支えないとされています。
これに対して第32条は性質が違うと説明されます。
第32条においては、種々の質問をして、それによつて適確な判断を行ない、適切な調査資料を作り上げて行くための対象となる人々を指すのであるから、第2条の関係者よりも意味の広い関係のある者としたのであつて、火災に関係ある者という意味であり、関係者は勿論のこと、それ以外の第三者も含まれるとされました。
近隣の人にも質問できます。
なお第32条第2項の関係のある官公署についても説明があります。
官公署とは、単にその建造物又は場所を指すものでなく、国又は地方公共団体の公務に従事する公務員が職務を行なうところ、すなわち、国又は地方公共団体の制度としての機関を指しているとされています。
損害調査には消火による損害が含まれるが人身の被害は別条による

調査すべき損害の範囲についても照会があります。
消防法第33条は火災により破損され又は破壊された財産と規定し、第31条は火災及び消火のために受けた損害と規定しているため、両者の関係が問われました。
理由として実際上火災によつて受けた損害と消火によつて受けた損害とは、理論上区別できても、実際には区別が困難であることなどが挙げられています。
一方で人身の被害は別に扱われます。
第33条においては、はつきり財産の損害調査となつているので、生命及び身体の被害の調査は入らないと解するとされました。
人の被害は第31条の側です。
よくある質問
まとめ
- 消防法第32条の質問権は一種の任意捜査権ともいうべきもので強制調査権を定めたものでない
- 本人の意思に反して強制的に解答を要求したり制裁を科したり連行したりしてはならない
- 消防法においては本条関係に罰則の規定を設けていない
- 質問に対する虚偽の申し立てに対する法的処置はない
- 第34条に基づき提出された資料が虚偽であれば第44条第2号により処罰の対象となる
- 第32条の関係のある者は第2条の関係者よりも意味が広く第三者も含まれる
- 第32条第2項の関係のある官公署とは国又は地方公共団体の制度としての機関を指す
- 第33条の損害には消火のために受けた損害を含めるが生命及び身体の被害は第31条によって調査する
口で言うのと書類で出すのとで、こんなに違うんやな。気をつけなあかん。
そのとおりです。
任意とはいえ調査への協力は原因究明と再発防止につながります。設備の復旧までご相談ください。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第2条・第31条・第32条・第33条・第34条・第44条 e-Gov法令検索
- 警察法(昭和29年法律第162号)第1条 e-Gov法令検索
- 消防法第32条にいう質問権の性質について
- 消防法第2条にいう「関係者」と第32条の「関係ある者」について
- 質問に対して虚偽の陳述をした者に対する措置について(昭和28年5月6日付け国消総発第37号 総務課長から西条市消防長あて回答)
- 調査すべき損害の範囲について
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)の質問通報の請求および破壊された財産の調査に関する質疑応答を参考に、独自に解説を作成
※本記事は2026年8月時点の法令解釈に基づく一般的な解説です。個別の運用については所轄消防署にご確認ください。




