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無料低額宿泊所はなぜ消防法の対象外でも消火器を置くべきなのか|厚生労働省令が求める防火対策と年1回の避難訓練を解説

無料低額宿泊所はなぜ消防法の対象外でも消火器を置くべきなのかと題した記事のアイキャッチ画像

無料低額宿泊所は、生活に困窮する人が無料または低額な料金で利用できる宿泊施設です。
収容人員によっては消防法上の防火対象物にすら該当せず、消防用設備の設置義務が生じないケースがあります。
しかし令和元年に施行された厚生労働省令は、消防法の枠組みとは別に防火対策を求めています。
消防法の対象外だからといって、消火器も訓練も不要というわけではありません。

うちは生活に困窮している方向けの宿泊所を運営しています。
収容人員が少ないので、消防法の届出義務は無いと聞きました。

消防法の対象外でも、厚生労働省令が別に防火対策を求めています。
まずはその中身を確認しましょう。

消防法にかからないなら安心だと思っていました。
実は違うんですね。

無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準という省令が、消火器の整備や訓練の実施を求めています。
今日はその内容を一緒に確認していきましょう。

この記事の結論
  • 無料低額宿泊所は、令和元年厚生労働省令第34号(無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準)の対象です
  • 消防法上の防火対象物に該当せず設置義務が生じない施設でも、同省令第12条第3項は消火器・自動火災報知設備等の整備に努めることを求めています
  • 訓練については努力義務ではなく、同省令第8条第2項が少なくとも年1回以上の実施を義務付けています
  • 消防法上の防火対象物に該当する施設は、消防計画・消防訓練の実施をもって省令の要求を兼ねられます
  • 「消防法の対象外だから訓練は不要」という理解は誤りで、施設の規模を問わず訓練の実施記録を残す必要があります

無料低額宿泊所の防火対策の4つの確認事項を示す図解

無料低額宿泊所の防火対策はなぜ通知として出されたのか

無料低額宿泊所の建物と基準省令制定を示す書類のイラスト
無料低額宿泊所の防火対策は、令和元年に厚生労働省が基準省令を定めたことをきっかけに動き出しました。
消防庁はこの制定を受けて、消防機関向けに通知を発出しています。
「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準に係る厚生労働省の取組について(情報提供)」(令和元年12月27日 事務連絡 消防庁予防課)=都道府県等の福祉部局から相談等があった場合には必要な助言等をされるようお願いします。福祉部局にその情報を共有する等、必要な連携を図るようお願いします。
この通知は、消防機関が福祉部局からの相談に的確に答えられるようにするための情報提供です。
無料低額宿泊所は社会福祉法第68条の5に基づく施設で、生計困難者のために無料または低額な料金で住まいを提供します。
基準省令(令和元年厚生労働省令第34号)は令和元年8月19日に公布され、令和2年4月1日に施行されました。
建物の防火対策は本来、建築基準法と消防法が所管する分野なので、福祉部局だけでは判断できない場面が出てきます。
そこで消防庁が音頭を取り、都道府県等の消防機関に対して、福祉部局からの相談に応じられるよう体制を整えるよう求めたのがこの通知です。

通知が出た理由がよく分かりました。
厚生労働省と消防庁が連携していたんですね。

はい、福祉部局から相談を受けた消防機関が困らないよう、消防庁が情報提供としてまとめた通知です。
次は対象になる施設の範囲を見てみましょう。

無料低額宿泊所は消防法上どちらの用途に区分されるのか

個室が並ぶ宿泊所の建物と受付カウンターを見比べるイラスト
無料低額宿泊所は建物の使い方によって、消防法上の用途区分が変わります。
区分が変われば、防火管理者を選任すべき収容人員の基準も変わります。
消防法施行令第1条の2第3項第1号 ロ 別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項イ、ハ及びニ、(九)項イ、(十六)項イ並びに(十六の二)項に掲げる防火対象物(略)で、収容人員が30人以上のもの ハ 別表第一(五)項ロ、(七)項、(八)項、(九)項ロ、(十)項から(十五)項まで、(十六)項ロ及び(十七)項に掲げる防火対象物で、収容人員が50人以上のもの
寄宿舎や下宿に近い運営なら(5)項ロ、旅館や宿泊所に近い運営なら(5)項イに区分されます。
一般的には、個室を長期にわたって貸し出す無料低額宿泊所は(5)項ロ(寄宿舎、下宿又は共同住宅)に該当すると想定されています。
ただし不特定多数の人が主として短い期間宿泊し、入居者の入れ替わりが頻繁な運営実態であれば、(5)項イ(旅館、ホテル及び宿泊所その他これらに類するもの)に該当する場合があります。
(5)項イは収容人員30人以上、(5)項ロは収容人員50人以上で防火管理者の選任義務が生じ、必要な設備の基準も変わります。
自施設がどちらに当たるかを自己判断せず、運営実態を伝えたうえで所轄の消防署に確認しておくことが大切です。

うちの施設は個室が並ぶタイプです。
(5)項ロに当たりそうですね。

宿泊者の入れ替わりが頻繁だと(5)項イになることもあります。
迷ったら所轄の消防署に確認するのが確実です。

基準省令は消火器と訓練になにを求めているのか

消火器と自動火災報知設備の感知器を並べたイラスト
基準省令第12条は、建物が建築基準法と消防法を守ることを前提としたうえで、さらに踏み込んだ努力義務を課しています。
第8条は非常災害への備えとして、訓練の実施を明確な義務にしています。
無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(令和元年厚生労働省令第34号)第12条=(略)2 無料低額宿泊所の建物は、消防法(昭和23年法律第186号)の規定を遵守するものでなければならない。3 前項の規定にかかわらず、無料低額宿泊所は、消火器の設置、自動火災報知設備等の防火に係る設備の整備に努めなければならない。
同基準第8条=無料低額宿泊所は、消火設備その他の非常災害に際して必要な設備を設けるとともに、非常災害に対する具体的計画を立て、非常災害時の関係機関への通報及び連絡体制を整備し、それらを定期的に職員に周知しなければならない。2 無料低額宿泊所は、非常災害に備えるため、少なくとも1年に1回以上、定期的に避難、救出その他必要な訓練を行わなければならない。
消火器や自動火災報知設備の整備は努力義務ですが、訓練の実施は明確な義務です。
第12条第2項が消防法の規定を守ることを確認的に定めたうえで、第3項は消防法の設置義務が無い場合でも消火器・自動火災報知設備等の整備に努めるよう求めています。
一方、第8条第2項の訓練は「努めなければならない」ではなく「行わなければならない」と書かれており、努力義務ではなく実施義務です。
訓練の対象は避難だけでなく、救出その他必要な訓練を含み、少なくとも年1回以上、定期的に実施することが求められます。
規模の小さな施設であっても、この訓練義務からは逃れられません。

消防法の設置義務が無くても、消火器は置いた方がいいんですね。
少し身が引き締まりました。

はい、消火器はあくまで努力義務です。
ただし訓練の実施は義務なので、特に注意してください。

対象外だから訓練不要という理解はなぜ間違いなのか

建物と避難誘導される人たちに訓練の必要性を示すイラスト
消防法上の防火対象物に該当しない無料低額宿泊所は、防火管理者の選任義務や消防訓練の届出義務を負いません。
ここで「だから訓練もしなくてよい」と考えてしまうのが典型的な落とし穴です。
「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準に係る厚生労働省の取組について(情報提供)」別添の想定問答=消防法施行令第1条の2第3項に規定する防火対象物(収容人員が(5)項イは30人以上、(5)項ロは50人以上)に該当しない無料低額宿泊所であっても、基準省令第8条第2項の訓練は実施する必要がある。アパート型で各戸が独立している建物でも同様である。
消防法上の義務が無いことと、基準省令上の義務が無いことは、まったく別の話です。
消防法施行令が定める収容人員の基準に届かない小規模な施設は、消防法上の防火管理者選任義務や訓練の届出義務を負いません。
しかし基準省令第8条第2項は、消防法上の義務の有無にかかわらず、すべての無料低額宿泊所に年1回以上の訓練実施を求めています。
「消防法の対象外だから何もしなくてよい」という理解のまま運営を続けると、福祉部局から改善を求められたときに説明ができなくなります。
訓練は実施するだけでなく、実施した日付と内容を記録に残しておくことが実務上のポイントです。

消防法の対象外だから訓練もしなくていいと思い込んでいました。
危なかったです。

その誤解は多くの施設で見られます。
年1回以上の訓練は基準省令が直接求めている義務です。

明日からなにを確認すればよいのか

チェックリストを持つ担当者が消火器と書類を確認するイラスト
基準省令の訓練義務は、消防法上の消防計画や訓練と重ねて実施することが認められています。
二重に負担を抱える必要はなく、既存の取り組みを活かせる場面も多くあります。
無料低額宿泊所のうち、消防法施行令第3条の2第1項に規定する消防計画を定めている場合は、当該計画をもって基準省令第8条第1項の「非常災害に対する具体的計画」とみなして差し支えない。また、同令第3条の2第2項に規定する「消火、通報及び避難の訓練」を実施した場合は、その実施をもって基準省令第8条第2項の訓練を実施したものとみなして差し支えない。
まず自施設の用途区分と収容人員を確認することから始めます。
消防計画の届出義務がある施設は、その消防計画と消火・通報・避難訓練をもって基準省令の要求を満たせます。(5)項イに該当する施設は消防法施行規則第3条第10項により年2回以上の実施が必要です。
消防計画の届出義務が無い施設は、独自に非常災害対応計画をつくり、少なくとも年1回以上の避難・救出等の訓練を実施し、実施記録を保存します。
消火器や自動火災報知設備は消防法上の設置義務が無くても、入居者の安全を考えれば整備を検討する価値があります。
判断に迷う点があれば、自己判断せずに所轄の消防機関へ相談することが、遠回りに見えて一番確実な近道です。

まずは収容人員と用途区分を確認して、訓練の記録を残すようにします。

その順番で進めれば大丈夫です。
分からないことがあれば遠慮なく相談してください。

よくある質問

Q無料低額宿泊所は消防法上の防火対象物に必ず該当しますか?
A必ずではありません。収容人員が消防法施行令第1条の2第3項が定める基準((5)項イは30人以上、(5)項ロは50人以上)に届かない施設は、防火対象物としての設置義務や防火管理者の選任義務を負いません。ただし、この場合でも基準省令の努力義務・実施義務は別に適用されます。
Q消火器や自動火災報知設備を設置しないと基準省令違反になりますか?
A基準省令第12条第3項は努力義務として規定されており、設置しないこと自体が直ちに法令違反になるわけではありません。ただし、入居者の安全確保の観点から整備が望まれており、都道府県等による指導の対象になり得ます。
Q訓練を実施した記録は残す必要がありますか?
A基準省令自体は記録の様式までは定めていませんが、実施した日付・内容を記録に残しておくことで、福祉部局や消防機関から確認を求められた際に説明責任を果たせます。実務上は記録の保存を強くおすすめします。
Q消防計画を届け出ている施設は、基準省令の訓練を別に行う必要がありますか?
A消防法施行令第3条の2第2項の消火・通報及び避難の訓練を実施していれば、その実施をもって基準省令の訓練を行ったものとみなして差し支えありません。ただし(5)項イに該当する施設は年2回以上の実施が必要な点に注意してください。

まとめ

無料低額宿泊所は令和元年厚生労働省令第34号の対象であり、消防法とは別の防火対策義務を負います
消防法施行令第1条の2第3項により、(5)項イは収容人員30人以上、(5)項ロは収容人員50人以上で防火対象物としての義務が生じます
基準省令第12条第3項は、消防法の設置義務が無くても消火器・自動火災報知設備等の整備に努めることを求めています
基準省令第8条第2項の訓練は努力義務ではなく、少なくとも年1回以上の実施義務です
(5)項イ該当施設は消防法施行規則第3条第10項により年2回以上の訓練が必要です
消防計画や消防法上の消火・通報・避難訓練を実施していれば、その実施をもって基準省令の訓練を行ったものとみなして差し支えありません
「消防法の対象外だから訓練不要」という理解は誤りで、施設の規模を問わず訓練の実施記録を残すことが実務の出発点です

今日で無料低額宿泊所の防火対策がすっきり整理できました。
ありがとうございました!

㈱防災屋でもご相談を承っております

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準に係る厚生労働省の取組について(情報提供)」(令和元年12月27日 事務連絡 消防庁予防課)
  • 無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(令和元年厚生労働省令第34号)第8条・第12条
  • 社会福祉法(昭和26年法律第45号)第68条の5
  • 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第1条の2第3項・第3条の2
  • 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条第10項

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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