特定建築物定期調査は、調査員が現地で建物を歩いて劣化を見つけるだけの作業ではありません。
現地調査に先立ち、所有者や管理者への聞き取り(ヒアリング)を行い、増築の履歴や過去の点検記録、耐震診断の実施状況などを確認する工程が業務基準に定められています。
このヒアリングの内容次第で、現地でどこを重点的に見るかという調査の的が絞られます。
本記事では、特定建築物定期調査のヒアリングで確認される5つの項目と、それぞれがなぜ調査前に必要とされるのかを解説します。
調査の日は、いきなり建物を見て回るだけだと思っていました。
その前に聞き取りがあるんですね。
はい、調査員はまず所有者や管理者にヒアリングを行い、増築履歴や過去の記録を確認します。
これをもとに現地調査の重点を絞り込むんです。
うちは増築したこともあるので、何を聞かれるのか気になります。
耐震診断のことも関係あるんでしょうか。
はい、耐震診断や耐震改修の実施状況もヒアリング項目のひとつです。
順番に5つの項目を見ていきましょう。
- 増築・改築・用途変更の履歴は、調査を重点的に行う箇所を絞り込む手がかりになる
- 関連図書の整備状況を確認するのは、平面図が調査計画図や調査結果図の基礎になるため
- 前回の定期調査の記録は、指摘事項が改善されているかを確認する材料になる
- 耐震診断・耐震改修の実施状況は、耐震改修促進法に基づく所有者の取り組みを把握するために確認する
- 建築物の不具合等の状況を聞き取るのは、防災上影響がある内容を現地調査に反映させるため
▼

目次
増築や改築の履歴はなぜ調査前に確認するのか

こうした変更の際に、建築確認を要しない規模の工事が不適正な状態のまま残っていることも少なくありません。
建築確認が必要な規模の工事であれば、完了検査などの記録が残っています。
一方、確認を要しない小規模な増築や模様替えは、記録が残らないまま行われていることもあります。
そこで調査員は、所有者への聞き取りによってこうした変更の有無を把握し、変更箇所を重点的に確認します。
過去の増築で使われた材料や工法が、現在の基準と食い違っていないかを見る手がかりにもなります。
うちも数年前に増築したことがあります。
そういう履歴も聞かれるものなんですね。
はい、増築や改築の履歴は調査の重点箇所を絞り込む材料になります。
工事の内容を教えていただけると調査がスムーズです。
関連図書の整備状況はなぜ調査に欠かせないのか

これらの図書がそろっているかどうかも、ヒアリングで確認される項目のひとつです。
平面図は、どこをどう調査するかという調査計画図を作るときの基礎資料になります。
調査結果をまとめる調査結果図も、この平面図をもとに作成します。
また、特定建築物については維持保全に関する準則又は計画の作成が建築基準法第8条第2項で求められており、この作成状況もあわせて確認されます。
図書が整っていない場合は、現地での実測などから調査を組み立て直す必要が生じます。
設計図って、古い建物だと残っていないこともありますよね。
そういう時はどうするんですか。
その場合は現地で実測しながら調査を組み立てます。
ただ平面図があると調査がぐっとスムーズになります。
前回の定期調査の記録はどう活かされるのか

そのため、前回までの調査記録も重要なヒアリング項目になります。
経年劣化は年々進むため、前回と同じ箇所を追って進行の程度を比較することが調査の基本になります。
また、一部を抽出して行う抽出調査では、前回調査していない箇所を優先して選ぶといった調整も行われます。
前回の報告書や指摘事項の控えを保存しておくことが、次回以降の調査を円滑にする第一歩です。
定期報告の実施状況そのものも、建築物の安全確保のために確認される項目のひとつです。
前に指摘された箇所って、また見てもらえるんですか。
ちゃんと記録しておいた方がよさそうですね。
はい、前回の指摘箇所は改善状況を必ず確認します。
報告書を保管しておいていただけると調査がスムーズです。
耐震診断や耐震改修の実施状況はなぜ確認するのか

耐震改修促進法に基づく所有者の取り組み状況が、この項目の背景にあります。
耐震改修促進法では、一定規模以上の特定既存耐震不適格建築物の所有者に耐震診断・耐震改修の努力義務が定められています(同法第14条)。
病院や百貨店など不特定多数が利用する建物などは、所管行政庁から指導・助言や指示を受けることもあります(同法第15条)。
昭和56年6月1日の新耐震基準の前後で建物の耐震性が大きく異なるため、この日付が調査の目安のひとつになります。
ヒアリングで把握した耐震診断・改修の状況は、現地調査での構造面の確認にも反映されます。
うちは古い建物なので、耐震のことは正直気になっていました。
調査でもそこを見てもらえるんですね。
はい、耐震診断や改修の実施状況もヒアリングで確認します。
必要な場合は所管行政庁への相談もご案内できます。
建築物の不具合情報はなぜヒアリングで把握するのか

こうした情報も、ヒアリングを通じて調査に反映されます。
外装材や広告塔など屋外に取り付けられたものの脱落、バルコニーや屋上の手すりのぐらつきは、落下事故につながりかねない不具合です。
過去に火災や浸水があった場合も、その履歴が建物のどこかに影響を残していることがあります。
所有者や管理者が把握している些細な情報でも、防災上の影響が疑われれば現地調査の対象に加えられます。
気になる箇所があれば、調査当日を待たずに早めに伝えることが、的確な調査につながります。
そういえば、ベランダの手すりが少しぐらついている気がします。
これも伝えた方がいいですか。
はい、そうした情報はぜひ教えてください。
手すりの脱落は重大事故につながるので、重点的に確認します。
よくある質問
まとめ
ヒアリングでどんなことを聞かれるのか、よく分かりました!
次の調査までに準備しておきます。
はい、事前の準備があると調査がよりスムーズになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第8条第2項・第12条第1項(e-Govで現行条文を確認)
- 建築基準法施行規則第5条第2項(e-Govで現行条文を確認)
- 建築物の耐震改修の促進に関する法律第14条・第15条(e-Govで現行条文を確認)
※本記事は建築基準法・同施行規則及び建築物の耐震改修の促進に関する法律の現行条文をもとに、特定建築物定期調査のヒアリングで確認される代表的な項目を解説したものです。ヒアリングの具体的な進め方や確認項目の範囲は、調査を依頼する業者や建築物の状況によって異なります。実際の調査にあたっては、建築物調査員等の専門資格者にご確認ください。





