オフィスとして貸していたビルの一室に、ある日突然飲食店が入ることがあります。
テナントの契約上は「業種変更」の一言で済む話ですが、消防法令の上ではビル全体の扱いが変わることがあります。
特に自動火災報知設備は、飲食店そのものの床面積ではなく建物全体の延べ面積で判定されるため、思いがけず設置義務が生じるケースがあります。
テナントの業種が一つ変わるだけで、ビル全体の防火対象物の区分と設備義務が動くことがあります。
うちのビル、1階の事務所が退去して、次は定食屋さんが入るらしいんです。
これって届出とか何か変わることあるんでしょうか。
実は変わることがあります。
飲食店が一軒入るだけで、ビル全体の防火対象物の区分が変わることがあるんです。
区分が変わると、設備を増やせと言われたりするんでしょうか。
その可能性があります。
どういう仕組みでそうなるのか、順番に見ていきましょう。
- 事務所だけだったビルに飲食店等が入ると、複合用途防火対象物に変わることがあります
- 加わった用途が(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに当たると、建物全体が(16)項イになります
- (16)項イになると、自動火災報知設備が建物全体の延べ面積300平方メートル以上で必要になります
- (16)項イは特定防火対象物として扱われ、既存不遡及の対象外になります
- テナントの入れ替え前に所轄消防署へ相談しておくことが実務上の対策です
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目次
事務所ビルに飲食店が入ると防火の扱いは何が変わるのか

その入口になっているのが「用途が二以上になったかどうか」という考え方です。
それまで事務所だけだったビルは、消防法施行令別表第一(15)項「前各項に該当しない事業場」の単独の防火対象物として扱われます。
ここに飲食店(別表第一(3)項ロ)が一軒入ると、建物の中に(15)項と(3)項という異なる二つの用途が併存することになり、条文上の「二以上の用途」に当たります。
ただし小さな休憩室や社員専用の食堂のように、主たる用途に従属的な部分と認められるものは、この二以上の用途には数えません。
一般の客を入れる飲食店かどうかが、区分が変わるかどうかの最初の分かれ目になります。
社員食堂ならセーフで、外のお客さんを入れる定食屋さんならアウトということですか。
おおまかにはそういう理解で大丈夫です。
次はどの用途が加わると区分そのものが変わるのかを見ていきましょう。
どんな用途が加わると建物全体が(16)項イになるのか

どちらになるかは、加わった用途の種類だけで決まります。
ロ イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物
一覧に入っているのは(1)項から(4)項まで(劇場・キャバレー等・飲食店・物品販売店舗)、(5)項イ(旅館・ホテル)、(6)項(病院・老人ホーム等の福祉施設)、(9)項イ(蒸気浴場等の公衆浴場)です。
飲食店は(3)項ロに当たるため、この一覧に含まれます。事務所ビルに飲食店が一軒入ると、建物全体は(16)項イという区分になります。
反対に、事務所と倉庫((14)項)のように、一覧に入っていない用途どうしの組み合わせであれば、複合用途にはなっても(16)項ロにとどまります。
イとロのどちらになるかで、この先の設備義務の内容が大きく変わってきます。
同じ複合用途でも、イとロで扱いが違うんですね。
はい。
次は(16)項イになると何が必要になるのかを見ていきましょう。
(16)項イになると自動火災報知設備はいつから必要になるのか

(16)項イは、この基準の中でも特有の数字が当てはめられます。
三 次に掲げる防火対象物で、延べ面積が300平方メートル以上のもの イ 別表第一(1)項、(2)項イからハまで、(3)項、(4)項、(6)項イ(4)及びニ、(16)項イ並びに(16の2)項に掲げる防火対象物
ここでいう延べ面積は、飲食店の床面積だけではなく建物全体の延べ面積です。飲食店そのものが10平方メートルほどの小さな店舗でも、ビル全体の延べ面積が300平方メートルを超えていれば対象になります。
複合用途の建物には、各部分をその用途の単独の防火対象物とみなして基準を当てはめる「みなす規定」(消防法施行令第9条)がありますが、この第3号はみなす規定の対象から除かれています。だからこそ、飲食店部分だけの面積ではなく建物全体の延べ面積で判定されます。
自動火災報知設備が必要になった場合、感知器や受信機は飲食店の区画だけでなく建物全体に設置することになります。
テナントの入居前に、建物全体の延べ面積が300平方メートルに達しているかどうかを確認しておく必要があります。
飲食店のスペースは狭いのに、ビル全体の面積で判定されるというのは意外でした。
はい、そこが見落とされやすい点です。
さらに古い建物だとどうなるかも次で説明します。
古い建物でも現行基準への適合を求められるのはなぜか

ところが(16)項イになると、この原則そのものが及ばなくなります。
四 (略)百貨店、旅館、病院、地下街、複合用途防火対象物(政令で定めるものに限る。)その他(略)特定防火対象物における消防用設備等(略)
消防法施行令第34条の4 法第17条の2の5第2項第4号の政令で定める複合用途防火対象物は、別表第一(16)項イに掲げる防火対象物とする。
百貨店・旅館・病院・地下街と並んで、複合用途防火対象物のうち(16)項イだけが特定防火対象物としてこの除外リストに載っています。(16)項ロは載っていません。
特定防火対象物に指定されると、工事が終わった年度の基準ではなく、現在の基準への適合が常に求められます。建物が何十年前に建てられたものであっても関係ありません。
つまり、飲食店の入居によって(16)項イに切り替わった瞬間から、自動火災報知設備に限らず建物全体の消防用設備等について現行基準への適合状況が問われる立場になります。
この切り替わりに気づかず古い基準のまま放置すると、後から一括で改修を求められる事態になりかねません。
うちのビル、築30年なんですが、それでも今の基準に合わせないといけないということですか。
(16)項イになった時点では、そうなります。
だからこそ入居前の確認が重要です。
テナントの入れ替え前に何を確認すればよいのか

契約を先に決めてしまう前に、この順番で確認してください。
- 新しいテナントの業種が別表第一(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに当たらないかを確認する
- 当たる場合は、建物が(16)項イに切り替わる前提で、建物全体の延べ面積を確認する
- 延べ面積が300平方メートル以上なら、自動火災報知設備の有無と設置範囲を確認する
- 既存の消防用設備等が現行基準に適合しているかを、契約前に所轄消防署へ相談する
特に賃貸ビルの場合、テナントの業種変更は入居者どうしの契約変更で決まってしまい、建物の防火対象物の区分が変わることまでは意識されないまま進んでしまうことがあります。
管理権原者(オーナーや管理会社)が、業種変更の情報を早い段階で把握できる仕組みを作っておくことも実務上の対策です。
判断に迷う場合や、既に(16)項イに該当していないか不安な場合は、所轄消防署に確認するのが確実です。
テナント募集の段階で、業種の確認をしておいたほうがいいんですね。
そのとおりです。
契約後に判明すると改修費用の負担で揉めやすいので、事前確認をおすすめします。
よくある質問
まとめ
テナントの業種一つでビル全体の扱いが変わるとは思っていませんでした。
募集の段階からちゃんと確認します。
用途の確認、区分の判定、設備の有無、所轄消防署への相談。
この順番で確認すれば判断を間違えません。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 消防法第17条の2の5第2項第4号
- 消防法施行令第1条の2第2項
- 消防法施行令第9条
- 消防法施行令第21条第1項第3号
- 消防法施行令第34条の4
- 消防法施行令別表第一
- e-Gov 法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





