階段が二つあるビルは安全だと考えている管理権原者は少なくありません。
ところが建築基準法施行令は、その二つの階段までの歩く道筋が同じ通路を通っていないかまで見ています。
重複区間と呼ばれるこの区間は、長さによっては是正が必要になります。
この記事では建築基準法施行令第121条第3項を条文から読み解き、自分の建物の重複区間をどう測ればよいかまで落とし込みます。
うちのビルには階段が二つありますが、両方とも一階の同じ廊下を通ってからでないと外に出られません。
これは問題になりますか。
その共通の廊下が重複区間にあたるかもしれません。
建築基準法施行令が長さの上限を決めています。
階段を二つに増やしても意味がないということもあるのですか。
数を増やせば安心だと思っていました。
重複区間が長いと、そこで火災が起きたときに二つの階段が同時にふさがれます。
第121条第3項が定める考え方を順番に見ていきましょう。
- 二以上の直通階段を設けても、そこへ至る歩行経路が重なっていたら火災に弱いままだというのが建築基準法施行令第121条第3項の考え方です
- 重複区間の長さの上限は、第120条が定める歩行距離の数値の二分の一です
- 第120条の歩行距離は居室の種類で30メートル・50メートル・40メートルの三区分に分かれます
- 居室の各部分から重複区間を経由せずに避難上有効なバルコニー等に避難できる場合は上限が適用されません
- 二以上の直通階段を設ける義務自体は第121条第1項の六つの号に該当する階だけに生じます
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目次
直通階段を二つ設ければそれだけで安全といえるのか

ところが建築基準法施行令は、その二つの階段までの歩く道筋そのものにも制限を置いています。
条文がいう重複区間とは、居室のどこから出発しても両方の階段へ向かう経路が共通してたどる区間のことです。
その区間で出火すれば二つの階段が同時にふさがれる可能性があり、階段を二つに増やした意味が失われます。
だから条文は重複区間そのものを禁止するのではなく、長さの上限を決めて危険を絞り込む作りになっています。
上限の具体的な数値は後の章で見ていきます。
両方とも同じ通路を通ってからでないと行けないのですが、大丈夫でしょうか。
気になっていました。
そこがまさに重複区間です。
長さによっては是正が必要になるので、次で基準を確認しましょう。
どんな建物のどの階でこの制限が働くのか

まずは二以上の直通階段が義務になる階かどうかを押さえます。
第121条第1項は六つの号に分けて対象を列挙しており、劇場や店舗のように床面積や用途で区切られるものと、ホテルや共同住宅のように居室の床面積の合計で区切られるものが並んでいます。
号ごとの詳しい基準はこの記事では立ち入りませんが、まずは自分の建物のどの階が該当するのかを図面で洗い出すことが出発点になります。
該当する階が無ければ、そもそも第3項の重複区間の制限も働きません。
逆に一つでも該当すれば、その階の避難計画は後の章の数値と必ず突き合わせてください。
うちは五階建ての事務所なのですが、対象になるのかよく分かりません。
どこを見ればよいですか。
第121条第1項の六つの号のどれかに当たるかを、まず図面で確認してください。
号ごとの詳しい基準は改めて解説します。
重複区間の長さはどこまで認められるのか

条文が置いているのは、長さの上限という具体的な物差しです。
第120条の表は居室の種類を三区分に分けており、窓のない居室や百貨店・マーケットなど法別表第一(い)欄(四)項の用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する居室は構造にかかわらず30メートル、病院や共同住宅など同表(い)欄(二)項の居室は主要構造部を準耐火構造などとした場合に50メートルでその他の場合は30メートル、それ以外の居室は同じく50メートルと40メートルという並びです。
第121条第3項はこの数値の二分の一を重複区間の長さの上限にしているので、たとえば準耐火構造の事務所(その他の居室)なら50メートルの半分で25メートル、非耐火の建物なら40メートルの半分で20メートルが上限になります。
第120条第2項の準不燃材料による加算や第3項の15階以上の減算も表の数値そのものを読み替える書き方なので、重複区間の上限にも同じように反映されます。
つまり自分の建物の歩行距離の上限がわかれば、それを二で割るだけで重複区間の上限が出せます。
うちは準耐火構造の事務所ビルです。
歩行距離の上限が50メートルなら、重複区間は25メートルまでですね。
歩行距離の上限を二で割るだけで求められます。
実際に図面で測ってみてください。
実務で見落としやすいのはどこか

条文はただし書きで抜け道を用意しているからです。
居室の各部分から、重複区間を経由しないで避難上有効なバルコニーや屋外通路などへ直接出られるなら、長さの上限は適用されません。
逆にいえば、重複区間の長さだけを測って超えているから違反だと即断するのは早計で、代わりの避難経路の有無まで確認する必要があります。
また二以上の直通階段を設ける義務そのものには第121条第4項に小規模建築物の緩和があり、階数が三以下で延べ面積が二百平方メートル未満などの条件を満たせば第1項の一部の号が適用されないケースもあります。
重複区間の制限(第3項)と設置義務の緩和(第4項)は別々の規定なので、混同しないよう条項番号を確かめながら読んでください。
重複区間が長めなのが気になっていたのですが、バルコニーに出られる経路が別にあります。
それでも直さないといけませんか。
そのバルコニーが避難上有効なものなら、ただし書きにより上限は適用されません。
経路が実際に機能するかを確かめておいてください。
明日からなにを確認すればよいのか

確認の順番を決めておくと迷いません。
- 図面で避難階以外の各階を確認し、第121条第1項の号に該当する階があるかを洗い出す
- 該当する階では二つの直通階段までの通常の歩行経路を図面上でたどり、共通してたどる重複区間があるかを確かめる
- 重複区間があれば長さを測り、居室の種類ごとの歩行距離の数値の二分の一と比べる
- 超えている場合は、重複区間を経由しない避難上有効なバルコニー等への経路が別にあるかを確認する
- 是正が必要なら、増築や間仕切りの変更を検討する前に特定行政庁や設計者に相談する
重複区間そのものは図面上で経路を描いてみないと見えてこないため、避難計画図を持っている設計者や管理会社に確認するのが早道です。
数値を超えていても是正の方法は間仕切りの位置を変える・出口を増やすなど複数あるので、まずは専門家と現況を共有してください。
防火管理者ひとりで判定を確定させる必要はなく、特定行政庁への確認を挟みながら進めれば十分です。
重複区間があるかどうかは自分たちだけでは判断が難しそうです。
まずは設計者に確認してみます。
歩行経路の図を用意してもらうと話が早く進みます。
数値が出たら、いつでもご相談ください。
よくある質問
まとめ
数え方が分かったので、今度の点検で重複区間の長さを実際に測ってみます。
図面と現場が合わないときは早めに確かめておくのが安全です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)第35条
- 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第120条・第121条
- e-Gov法令検索(デジタル庁)
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





