テナントの改装工事が決まったとき、消防への段取りは施工会社の仕事だと思われがちです。
ところが消防法は、工事のあいだの火の管理を管理権原者と防火管理者の側に置いています。
しかも建てている途中の建物にまで、防火管理者を定める義務が生じる場合があります。
条文をたどると新築の工事と既存建物の改装で義務の置き場所が違うことが見えてきます。
来月から店舗の内装工事が入ります。
工事中のことは施工会社に任せておけばよいのでしょうか。
そこが分かれ目です。
工事中の火の管理は建物側の防火管理者の業務として条文に書かれています。
建てている途中の建物に防火管理者、という話も聞いたことがあります。
あります。
建物の規模と工事の段階で決まります。
新築と改装の違いから順に見ていきましょう。
- 工事中の火気の使用又は取扱いの監督は、消防法第8条第1項により防火管理者に行わせる業務です
- 新築の工事中の建築物でも、収容人員が50人以上で規模の要件に当たれば防火管理者を定めます
- 総務省令の要件は外壁及び床又は屋根を有する部分が規模以上で、かつ電気工事等の工事中のものです
- 工事中の建築物の消防計画は、定めるべき事項が既存の建物とは別に決められています
- 既存の建物の改装は新たな選任ではなく、今ある消防計画に立会いの定めを加えて変更を届け出ます
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目次
工事中の防火管理は誰が担うのか

その根っこは消防法第8条第1項にあります。
条文の主語は管理について権原を有する者、つまりビルのオーナーやテナントの管理権原者です。その人が防火管理者を定め、この監督までを行わせる義務を負います。
工事の作業そのものは施工会社が担いますが、その火の使い方を見ておく責任は建物側に残るという構造です。
実際に溶接や溶断の火花は非常に高温になり、離れた可燃物へ飛んで着火します。誰かが見ていなければ気づけません。
だからこそ工事の打合せに防火管理者が入る必要があります。施工会社から工程表をもらう段階で、火を使う日と場所を先に押さえておいてください。
工事は任せていても、見る責任はこちらに残るということですね。
そのとおりです。
まずは工程表で火を使う日を確かめるところから始めてください。
新築の工事中に防火管理者の選任が必要になるのはどの建築物か

その線引きは消防法施行令と消防法施行規則の二段構えで決まっています。
二 新築の工事中の次に掲げる建築物で、収容人員が五十人以上のもののうち、総務省令で定めるもの
イ 地階を除く階数が十一以上で、かつ、延べ面積が一万平方メートル以上である建築物
ロ 延べ面積が五万平方メートル以上である建築物
ハ 地階の床面積の合計が五千平方メートル以上である建築物
政令が定めるのは規模と人数です。収容人員が50人以上で、階数11以上かつ延べ面積1万平方メートル以上、または延べ面積5万平方メートル以上、または地階の床面積の合計が5,000平方メートル以上のいずれかに当たる建築物が土台になります。
そのうえで規則が二つの条件を重ねています。ひとつは外壁及び床又は屋根を有する部分がその規模に達していること、もうひとつが電気工事等の工事中であることです。
外壁と床がそろえば内部に可燃物が持ち込まれ、閉じた空間で煙がたまるようになります。そこへ配線や仕上げの作業が入る段階を、法令は区切りとして選んだことになります。
大規模な新築を手がける場合は、この段階に入る前に選任の届出の準備を進めておくと後追いになりません。
基礎を打っている段階ではなく、建物の形ができてからが対象なんですね。
そうです。
規模の要件に当たる新築なら、電気工事が始まる時期を工程表で押さえておいてください。
工事中の消防計画には何を定めなければならないのか

定めるべき事項が、消防法施行規則で別に並べられています。
イ 消火器等の点検及び整備に関すること。
ロ 避難経路の維持管理及びその案内に関すること。
ハ 火気の使用又は取扱いの監督に関すること。
ニ 工事中に使用する危険物等の管理に関すること。
ホ 前号イ及びトからヌまでに掲げる事項
ヘ イからホまでに掲げるもののほか、防火対象物における防火管理に関し必要な事項
イからニまでは工事現場そのものの話です。消火器等の点検、避難経路の維持管理と案内、火気の使用又は取扱いの監督、そして工事中に使用する危険物等の管理が並びます。
ホが指している前号イおよびトからヌまでは、自衛消防の組織、防火管理上必要な教育、訓練の定期的な実施、災害が発生した場合の消火活動と通報連絡と避難誘導、消防機関との連絡です。
つまり現場の火の管理に加えて、自衛消防の組織と訓練と消防機関との連絡までは工事中でも求められます。
なお括弧書きにあるとおり、仮使用認定を受けた部分は完成した建物と同じ第1号の扱いになります。使ってよいと認められた部分は、そのぶん定める事項が増えると読んでおいてください。
工事中でも自衛消防の組織と訓練は求められるのですか。
ホの読み替えで入ってきます。
現場の人数が動くので、連絡体制は工事の節目ごとに見直すのが安全です。
既存の建物を改装する工事で見落としやすいのはどこか

営業しながらの改装工事は、先ほどの新築の枠には入りません。
このルは、完成して使っている建物の消防計画に定める事項を並べた第1号の中にあります。増築、改築、移転、修繕、模様替えの工事は、こちらで受けとめる形です。
書くべき中身として名指しされているのが立会いです。防火管理者またはその補助者が現場に立ち会うこと、そして火気の使用又は取扱いの監督が、消防計画の項目として求められています。
使用中の建物を工事すると、営業している使用部分と工事部分が同じ建物の中で混ざります。仕切りの向こうで火花が出ているのに、こちら側は通常営業という状態が生まれます。立会いを定めておく意味はここにあります。
自分の建物の消防計画を開いて、この項目が空欄のままになっていないかを確かめてください。工事の予定がなくても、あらかじめ書いておくべき事項です。
うちの消防計画に立会いの欄があるか、正直おぼえていません。
そこがよくある空欄です。
工事の予定がなくても書いておくべき事項なので、一度開いてみてください。
工事が決まったらなにから着手すればよいのか

工事のたびに動くのはここです。
順番としては、まず自分の建物が新築の工事中なのか、使用中の建物の改装なのかを分けます。改装であれば第1号ルの立会いの定めを消防計画に置き、変更を届け出る流れです。
条文が「管理について権原を有する者の指示を受けて」と書いているとおり、防火管理者が単独で決める話ではありません。管理権原者と工事の内容を共有してから作成します。
工事部分は出火の危険が上がるので、火元責任者や補助者の人数を工事期間だけ増やす形にしておくと現実的です。設計の段階から施工会社と協議しておけば、あとから体制を組み直す手間が要りません。
届出の様式や添付の求めは所轄で運用が分かれます。工事が決まった時点で消防署に一度相談しておくのが、いちばん確実です。
変更にも届出が必要だったんですね。
条文の最後の一文がそれです。
工事が決まった時点で所轄消防署に相談しておくと、様式の行き違いがなくなります。
よくある質問
まとめ
新築と改装で受けとめる条文が違うと分かって整理できました。
まず消防計画を開いてみます。
立会いの定め、火を使う日の把握、そして変更の届出。
この3つを押さえれば工事中の防火管理は形になります。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 消防法第8条
- 消防法施行令第1条の2第3項
- 消防法施行令第3条の2
- 消防法施行規則第1条の2
- 消防法施行規則第3条第1項
- e-Gov 法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





