粉末消火設備の貯蔵容器室をのぞくと、起動装置のレバーを引いてもすぐに白い粉が噴き出すわけではないことに気づくことがあります。
実は消防法施行規則は、加圧式の粉末消火設備に定圧作動装置という部品を義務づけており、貯蔵容器等の圧力が設定圧力になるまで放出弁を開かせない仕組みを定めています。
また起動から放射までの流れは二酸化炭素消火設備と共通する部分もありますが、緊急停止装置や危険標識のように二酸化炭素にしか義務づけられていない基準もあります。
この記事では、加圧式粉末消火設備の起動から放射までの仕組みを、消防法施行規則の条文から解説します
うちの粉末消火設備、起動レバーを引いてもすぐには粉が出ないみたいなんです。
これって故障してるんでしょうか。
故障ではなく、定圧作動装置という部品が設定圧力になるまで放出弁を開かせない仕組みです。
条文にもその作動条件が定められています。
二酸化炭素消火設備とは起動の仕組みが違うということですか。
共通する部分もありますが、粉末消火設備には無い基準もあります。
順番に見ていきましょう。
- 加圧式粉末消火設備は起動後すぐに放出弁が開かず、定圧作動装置が設定圧力になるまで待つ仕組みを持つ
- 圧力調整器は2.5メガパスカル以下に調整し、起動用ガス容器は内容積0.27リットル以上・充てん比1.5以上という独立基準を持つ
- 起動装置は手動式が原則で、音響警報を鳴らしてからでなければ操作できない点は二酸化炭素消火設備と共通する
- 全域放出方式でも緊急停止装置・危険標識・閉止弁の設置義務は二酸化炭素消火設備の規定にしかなく、粉末消火設備には適用されない
- 遅延装置と放出後の表示灯だけは、二酸化炭素消火設備と共通して求められる保安措置である
▼
目次
加圧式粉末消火設備はなぜ独自の起動の仕組みを持つのか

条文は、設定した圧力になるまで放出弁を開かせない部品の設置を義務づけています。
起動装置を操作すると、まず加圧用ガスが貯蔵容器等へ送り込まれ、内部の圧力が高まっていきます。
設定圧力に達するまでは放出弁が開かないため、加圧が不十分なまま粉末が放射されて消火剤が防護区画全体に行き渡らない事態を防ぎます。
定圧作動装置は貯蔵容器等ごとに設けることが条文で義務づけられており、まとめて一台で済ませることはできません。
点検では、この装置が消防庁長官が定める基準に適合した製品であるかを点検記録で確認します。
起動レバーを引いた瞬間に粉が出るわけじゃないんですね。
はい。
圧力が設定値に達するまでは、放出弁そのものが開かない構造になっています。
圧力調整器と起動用ガス容器はどんな役割を持つのか

その役目を担うのが起動用ガス容器と圧力調整器です。
起動用ガス容器は内容積0.27リットル以上・ガス量145グラム以上、充てん比1.5以上という独立した数値基準を満たす専用のボンベです。
このガスが配管を通じて貯蔵容器等へ送り込まれ、圧力調整器を経て2.5メガパスカル以下に調整されたうえで定圧作動装置へ伝わります。
調整前の高い圧力のまま貯蔵容器等にかかり続けると、容器や配管に想定を超える負荷がかかるおそれがあるため、この調整の工程が挟まれています。
点検では起動用ガス容器のガス量が基準を下回っていないかを、点検資格者が確認します。
起動用ガス容器って、二酸化炭素消火設備にもあるものと同じ部品なんですか。
役割は似ていますが、粉末消火設備独自の数値基準を満たす専用の容器です。
共用はできません。
起動装置と音響警報装置はどのように連動するのか

この部分は二酸化炭素消火設備と共通する仕組みです。
条文は起動装置と音響警報装置について、第十九条(不活性ガス消火設備の基準)の該当箇所をそのまま準用する形をとっています。
準用元の規定では、常時人のいない場所など手動式が不適当な場合を除き手動式を原則とし、起動装置の放出用スイッチは音響警報装置を起動する操作を行った後でなければ操作できないと定められています。
音響警報装置も、起動操作と連動して自動的に鳴動する仕組みが求められる点まで同じ準用のかたちです。
ただし準用の範囲には限りがあり、このあと見る保安措置では粉末消火設備に適用されない項目が出てきます。
起動の仕組みは二酸化炭素と同じなんですね。
この部分は共通ですが、この先の保安措置には粉末だけ適用されない基準があります。
全域放出方式に緊急停止装置や危険標識が無いのはなぜか

しかし粉末消火設備の条文を読むと、準用される項目がそこまで及んでいないことが分かります。
準用元の第十九条第五項第十九号イには、二酸化炭素を放射する設備向けに(イ)遅延装置から(ホ)危険標識まで五つの保安措置が定められていますが、粉末消火設備の第十六号が準用するのは(イ)・(ロ)・(ニ)の三つだけです。
二酸化炭素消火設備に義務づけられる集合管や操作管の閉止弁((ハ))、人体への危害を示す危険標識((ホ))、さらに起動装置側の緊急停止装置(第十四号イ(ロ)に規定)は、粉末消火設備の準用範囲に含まれていません。
条文はその理由までは書かれていませんが、消火剤の性質の違いによって保安措置の範囲が区別されているとみられます。
点検や巡視で二酸化炭素消火設備と同じ表示や装置を粉末消火設備にも探してしまうと、条文には無いものを探すことになるため注意します。
二酸化炭素の設備にあった、あの警告の標識は粉末には無いんですか。
はい。
粉末消火設備の条文には危険標識の設置義務は定められていません。
点検のときになにを確認すればよいのか

条文の内容を踏まえて、確認の観点を整理します。
- 定圧作動装置が貯蔵容器等ごとに設けられ、消防庁長官が定める基準に適合する製品であるか
- 圧力調整器が2.5メガパスカル以下に調整できる状態を保っているか
- 起動用ガス容器のガス量・充てん比が基準どおりに保たれているか
- 起動装置の操作部が音響警報を鳴らしてからでなければ操作できない状態になっているか
- 粉末消火設備には無い危険標識や緊急停止装置を、誤って二酸化炭素消火設備の基準で探していないか
一方で、音響警報が起動操作の後に鳴るかという流れは、点検の立会いで防火管理者自身でも確認しやすい部分です。
最も見落としやすいのは、二酸化炭素消火設備と粉末消火設備を同じ基準で点検しようとしてしまうことです。
粉末消火設備の条文に無い項目(危険標識・緊急停止装置・閉止弁)を点検表に加えていないか、点検業者との打ち合わせの際に確認しておくと行き違いを防げます。
設備の種類ごとに条文の準用範囲が違うことを踏まえたうえで、点検結果を読み合わせることが大切です。
同じ消火設備でも、点検で見るポイントが違うんですね。
はい。
設備の種類ごとに条文が違いますので、点検表もその設備に合ったものかを確認しています。
よくある質問
まとめ
粉末と二酸化炭素、それぞれの設備に合った点検ができそうです!
粉末消火設備の点検でご不明な点があれば、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法施行規則第二十一条第四項第八号・第九号・第十三号・第十四号・第十五号・第十六号(粉末消火設備の技術上の基準)
- 消防法施行規則第十九条第五項第十四号・第十五号・第十七号・第十九号(不活性ガス消火設備の技術上の基準。粉末消火設備が準用する規定)
- 消防法施行令第十二条(消火設備に関する基準)
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





