特定建築物定期調査の調査票には、通常の建物にはない項目が並ぶことがあります。
膜構造のドームやテント倉庫、免震構造のビル、高さ20mを超える建築物の避雷設備がそれにあたります。
これらは「特殊な構造等」としてまとめて扱われ、劣化の進み方も点検の視点も一般的な外壁や屋上とは異なります。
膜体の破れや免震装置のさびを放置すると、建築物全体の安全性能そのものが損なわれます。
うちのビルは免震構造なんですが、定期調査で何を見られるのかピンときません。
普通の点検と何が違うんでしょうか。
免震層のクリアランスや免震装置のさびなど、免震構造ならではの着眼点があります。
膜構造や避雷設備も含めて、5つの視点で解説します。
膜構造というと、うちの倉庫にあるテント屋根もそうですかね。
あれも定期調査の対象になるんですか。
膜体の破れや雨水のたまりは対象になります。
建物の種類ごとに見るべき箇所が決まっているので、順番に確認しましょう。
- 膜構造の建築物では、膜体・取付部材の破れや雨水貯留、ケーブルのズレを目視で確認する
- 膜構造・免震構造とも、3年以内の専門点検記録があれば、その記録の確認で調査に代えられる
- 免震構造の建築物では、免震装置のさびに加え、上部構造が動く範囲に障害物がないかを見る
- 避雷設備は突針・避雷導線の腐食や破損、断線の有無を確認する
- これらはいずれも建築基準法第12条の定期調査の一部であり、専門技術者の点検と役割分担しながら実施する
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目次
膜構造の建築物はなぜ膜体の破れや雨水のたまりを見るのか

まずは膜体本体と取付部材の状態を確認します。
膜体は環境条件によって劣化や損傷が急速に進む場合があるため、経年数だけで安心せず現況を見ることが大切です。
接合部の剥がれは、放置すると雨水の浸入から膜体内部の劣化につながります。
定期点検者による3年以内の点検記録があれば、実施日・点検者名・登録番号・総合所見を確認することで調査に代えられます。
記録がなければ、双眼鏡等を使って自分の目で全体を見渡すことになります。
膜屋根って高いところにあるので、近くまで登って見るものなんですか。
基本は双眼鏡等による目視で確認します。
3年以内の点検記録があれば、その内容で確認することも認められています。
膜の張力低下はなぜケーブルのズレで分かるのか

張力が下がると、目に見える形で変化が現れます。
押さえケーブルは、振動や摩擦によって本体膜を傷つけないよう補強布の上に設置されています。
しかし張力が下がるとケーブルの位置がズレて本体膜に直接接触する状態になり、これが続くと膜体に重大な損傷を与えるおそれがあります。
膜面のしわやたるみ、ケーブルが擦れた跡を見つけたら、単なる汚れと決めつけずに張力の低下を疑ってください。
ここでも3年以内の定期点検記録があれば、その結果の確認で足ります。
ケーブルが少しズレているくらいなら、様子見でもいいですよね。
ズレが進むと膜体の損傷に直結します。
継続していないか、次の調査までの変化を必ず記録しておきましょう。
免震装置はなぜ劣化を放置すると危ないのか

その性能は部材の状態に強く依存します。
免震構造の建築物は、地震時に地盤と上部構造との相対変位が在来の建物より大きくなる仕組みのため、免震部材の性能維持が建物全体の安全性に直結します。
免震層のピット内は人目につきにくく、障害物の放置や浸水による汚泥の堆積が起きやすい場所でもあります。
点検には「免震建物点検技術者」という専門資格者が関わる制度があり、竣工時検査・定期点検・応急点検・詳細点検の体制が整えられています。
免震建物点検技術者等による3年以内の点検記録があれば、その記録の確認で調査に代えられます。
免震層のピットって、普段は物置代わりに使ってしまいそうです。
実際にそれで免震性能を損なう例が報告されています。
物を置かない運用ルールを、日頃から所有者様と共有しておくことが大切です。
免震層の可動域になぜ物を置いてはいけないのか

地震時に建物が水平移動できなければ、免震の意味がありません。
玄関回りの犬走り部が道路面と一体的に舗装されていたり、簡単に動かせない構造物が設置されていたりすると、地震時に上部構造の水平移動を妨げてしまいます。
建物の外周では、成長した樹木やフェンスがクリアランスに入り込んでいないかも見落としやすい点です。
定期点検報告書に「対策が必要」と記載があるにもかかわらず、対策がなされていないケースも要是正の対象です。
免震装置そのものと可動域は同じ免震構造建築物への調査なので、まとめて確認すると効率的です。
玄関先の花壇を少し免震層の近くに置いていた気がします。
これも対象になりますか。
クリアランス内に固定された物があれば要是正の対象になり得ます。
調査の際に位置関係を一緒に確認しましょう。
避雷設備はなぜ突針の有無まで確認するのか

定期調査では、その設備が実際に機能する状態にあるかを見ます。
建築基準法第33条は、高さ20mを超える建築物に有効な避雷設備を設けるよう定めています。
避雷設備は突針(避雷針)、避雷導線(引下導線)、接地極で構成され、突針部に落ちた雷を導線経由で大地に逃がす仕組みです。
突針が脱落している、導線が断線している、といった状態はいずれも要是正の例として挙げられています。
定期点検記録に接地抵抗値の記載があれば、あわせて確認しておくと安心です。
屋上の避雷針って、遠目に見ただけで劣化が分かるものですか。
突針の脱落や導線の断線は双眼鏡でも確認できます。
屋上に上がれる場合は、接続部の腐食も近くで見ておきたいところです。
よくある質問
まとめ
普通の建物と見るところが全然違うんですね。
うちの免震装置も、次の調査で一緒に確認してもらいます!
特殊な構造は専門知識が要る分野です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第12条・第33条(e-Govで現行条文を確認)
- 建築基準法施行令第129条の14・第129条の15(e-Govで現行条文を確認)
- 平成14年国土交通省告示第666号(膜構造の構造方法に関する告示)
- 平成12年建設省告示第2009号(免震建築物の構造方法に関する告示)
※本記事は建築基準法・同施行令の現行条文をもとに、膜構造・免震構造・避雷設備に関する定期調査の一般的な着眼点を解説したものです。個別の建築物における調査項目や判定は、設計図書及び現地の状況に応じて異なります。実際の調査・点検にあたっては、建築物調査員等の専門資格者にご確認ください。





