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密閉された空間の火災原因はどう特定されるのか|消去法による推定と証明の程度を解説

投光器で照らされた閉鎖された地下通路の焦げた壁面

目撃者もおらず、発火源を示す物的証拠も見当たらない火災が起きたら、原因はどうやって突き止められるのでしょうか。
直接の証拠が無ければ、原因は永遠に分からないままだと思う方もいるかもしれません。
実はこの疑問に答えを示した判決があり、消防法第31条が定める火災原因調査のあり方を考えるうえで欠かせない手がかりになります。
物的証拠が乏しくても、考えられる原因を一つずつ消去していけば、残った一つに強い蓋然性が認められるとされています

うちの建物で万が一火災が起きて目撃者もいなかったら、原因なんて分からずじまいになりそうで不安です。

実は、直接の証拠が無くても原因を認定できるとした判決があるんです。
消去法という考え方が使われています。

消去法だけで、本当に原因だと言い切ってしまってよいものなんでしょうか。

そこがこの判決のいちばんの核心です。
今日はその考え方を一緒に見ていきましょう。

この判例の要点
  • 消防法第31条により、消防長又は消防署長は火災の原因調査に着手する義務を負っています
  • 火災現場が閉鎖された空間の場合、発火源そのものを示す直接の物的証拠が乏しいことが少なくありません
  • 福岡地方裁判所は、考えられる原因をひとつずつ消去し、残った原因に強い蓋然性を認めました
  • 直接証拠が無ければ原因不明とすべきという考え方は、この事案では採用されませんでした
  • 防火管理者は点検記録や使用状況の記録を残しておくことが実務上の備えになります

物的証拠が無くても消去法によって火災の原因を認定できるという要点を示した図解

目撃者のいない火災で出火原因はどう調べられたのか

閉ざされた地下通路の焦げた壁面を投光器で照らして調べているイメージ
今回の判決のもとになったのは、坑内のように外部から閉ざされた空間で起きた火災です。
目撃者や、出火の瞬間を直接示す物的証拠に乏しいという条件は、多くの建物火災にも共通します。
  • 火災が発生した場所は、坑内のように外部から閉ざされた空間だった
  • 目撃者や、発火源そのものを直接示す物的証拠は乏しい状態だった
  • 争いは福岡地方裁判所に持ち込まれ、出火原因の認定方法そのものが問題になった
争われたのは、物証が乏しい状況でも原因を法的に認定してよいかという一点です
物的証拠が乏しい火災は、閉鎖された空間に限らず、深夜の無人の建物や倉庫でも起こり得ます。
出火原因が確定しなければ、再発防止策も保険金の請求も前に進みません。
まずは、この裁判で何が争点になったのかを見ていきましょう。

閉ざされた場所の火災だと、そもそも証拠を集めること自体が難しそうですね。

そうなんです。
だからこそ認定の方法そのものが裁判で問われました。

物的証拠がなくても出火原因を認定できるのか

虫眼鏡付きの検分台と空のチェックリストだけが置かれた検分台が並んでいるイメージ
物証があるかどうかで、原因の調べ方はまったく違うものになります。
今回の火災では、その前提そのものが崩れていました。
争点 火災の原因を認定するにあたり、発火源そのものを示す直接の物的証拠が無い場合に、考えられる原因を一つずつ排除していく消去法による推定だけで、法的な原因認定として認めてよいかが争われた。(福岡地方裁判所 昭和50年3月1日判決)
争いの土台にあったのは、証明とは何をもって足りるとするかという一点でした
直接証拠が無ければ原因不明とするしかないという考え方は、一見すると筋が通っているように見えます。
一方で、閉鎖された空間の火災では、そもそも直接証拠を得ること自体が構造的に難しいという事情もありました。
この対立が、福岡地方裁判所でどう決着したのかを次に見ていきます。

直接の証拠が無いなら、原因不明のままでも仕方ない気がしてしまいます。

そこがまさに争われた点なんです。
経験則という考え方がカギになります。

裁判所はなぜ消去法による推定を認めたのか

タバコやヒーターなど複数の原因候補の中から配線の束に虫眼鏡を向けているイメージ
福岡地方裁判所は、閉鎖された空間の火災という条件そのものに向き合って結論を出しました。
その考え方は、物証に乏しい火災全般にそのまま当てはまります。
認められた判断 火災現場が坑内のように閉鎖された空間である場合、出火の原因は、燃焼の状況や残された物的証拠を手がかりに、経験則に基づいて推定する以外に確かめる方法がない。考えられる原因をひとつずつ列挙し、消去法によって順に排除していった結果、残った原因がただひとつになったときは、経験則上、それが出火の原因であるとかなり強い蓋然性をもって認められる。(福岡地方裁判所 昭和50年3月1日判決)
ここでの結論は「証拠が無いから諦める」という話ではありません
考えられる原因を漏れなく列挙し、状況に照らしてひとつずつ排除していく手順そのものが、経験則にかなった証明の方法として認められました。
最後まで排除しきれずに残った原因には、それだけで強い蓋然性が備わるとされています。
つまり、物証そのものが無くても、筋道立てて絞り込む過程があれば原因の認定は可能だということです。

ひとつずつ消していって、残ったものが答えになるということですか。

そのとおりです。
漏れなく列挙することが前提になっている点も重要です。

直接証拠がなければ原因不明とすべきという主張はなぜ通らなかったのか

裁判官の木槌が書類の束の上に置かれているイメージ
直接証拠が無ければ原因不明とすべきだという考え方には、一定の説得力があります。
ですが、この判決はその立場を最後まで貫くことはしませんでした。
退けられた言い分 発火源そのものを示す直接の物的証拠が無ければ火災の原因は特定できないという考え方も成り立ち得る。しかし、坑内火災のように直接証拠を得ることが構造的に困難な事案でこの立場を貫くと、原因の認定自体が事実上不可能になってしまう。経験則に基づく消去法によって高い蓋然性が認められる限り、原因の認定は妨げられない。(福岡地方裁判所 昭和50年3月1日判決)
ここがいちばん実務に効く部分です
「証拠が無いから分からない」で調査を止めてしまうと、閉鎖された空間の火災は原理的に原因不明のまま残り続けてしまいます。
それでは再発防止にもつながらないため、経験則に基づく推定にも相応の証明力が認められました。
物証が無いことは、調査を諦める理由にはならないという点を押さえておく必要があります。

証拠がないなら仕方ない、では終わらせてもらえないんですね。

はい、再発防止のためにも原因を突き止める姿勢が優先されています。

防火管理者は火災原因の調査に備えて何を残しておけばよいのか

分電盤の点検口の前でチェックリストに記入している作業服の人物のイメージ
判決の考え方を踏まえると、防火管理者にできる備えはシンプルです。
消去法のプロセスで自分の管理が原因候補として残らないようにしておくことが要になります。
答 消防法第31条により、消防長又は消防署長は火災の原因調査に着手する義務を負う。物的証拠が乏しい場合でも、経験則に基づく消去法によって考えられる原因が一つに絞られれば、その原因はかなり強い蓋然性をもって認定され得る。防火管理者は、点検記録や使用状況の記録を日頃から残しておくことで、調査の際に自らの管理に不備が無かったことを示す材料にできる。
日頃の点検記録を残しておくことが、いちばん確実な備えになります
電気設備や火気を使う設備は、点検の日付と結果を記録に残し、いつでも取り出せる状態にしておきます。
使用状況の記録も同様に、誰がいつどのように使ったかが分かる形で残しておくと安心です。
記録が無いと、消去法の過程で自分の管理下の不備が原因候補として残ってしまうおそれがあります。

点検記録をきちんと残しておくだけでも、いざというときの備えになるんですね。

点検記録の残し方を今日から見直しておくと、いざというとき安心です。

よくある質問

Q目撃者や物証がない火災でも、消防はなぜ原因を特定できるのですか?
A消防法第31条により、消防長又は消防署長は火災の原因調査に着手する義務を負っています。物証が乏しくても、燃焼の状況などから考えられる原因をひとつずつ消去していく方法によって、残った原因を強い蓋然性をもって認定できるとされています。
Q消去法によって認定された原因は、裁判でも通用するのですか?
A今回取り上げた判決のように、閉鎖された空間の火災など直接証拠を得ることが構造的に難しい事案では、経験則に基づく消去法による推定にも相当な証明力が認められています。ただし個々の事案の証拠関係によって判断は異なり得ます。
Q建物の管理者や防火管理者は、この判断からどんな備えをすればよいですか?
A火気設備の点検記録や使用状況の記録を日頃から残しておくことが実務上の備えになります。記録が無いと、消去法の過程で自分の管理下の不備が原因候補として残ってしまうおそれがあります。
Q消防の火災原因調査と、警察の犯罪捜査はどう違うのですか?
A消防の調査は消防法第31条に基づく行政上の調査で、火災の原因と損害を明らかにすることが目的です。放火や失火の疑いがある場合は警察への通報と証拠の保全が別途義務付けられており、警察の捜査とは目的も権限の根拠も異なります。

まとめ

消防法第31条により、消防長又は消防署長は火災の原因調査に着手する義務を負っています
火災現場が閉鎖された空間の場合、直接の物的証拠が乏しいことが少なくありません
争われたのは、物的証拠が無くても消去法による推定だけで原因を認定してよいかという点でした
福岡地方裁判所は、考えられる原因を一つずつ消去し残った一つには強い蓋然性が認められると判断しました
直接証拠が無ければ原因不明とすべきという考え方は、この事案では採用されませんでした
消去法で残った原因は、経験則上かなり強い蓋然性をもって認定され得るとされています
防火管理者は日頃の点検記録や使用状況の記録を残しておくことが実務上の備えになります

消去法の考え方がよく分かりました、記録を見直します。

点検記録の整備でお困りのことがあれば、㈱防災屋でもご相談を承っております。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 福岡地方裁判所 昭和50年3月1日判決
  • 消防法第31条

※本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。

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