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消防の違反是正はなぜ弁護士へ相談するほど複雑になるのか|名宛人の特定と送達をめぐる実務上の疑問を解説

違反是正の弁護士相談事業で名宛人や送達をめぐる相談が扱われることを示すアイキャッチ

消防から「警告書」や「改修命令書」が届いたとき、その名宛人が本当に自分でよいのか考えたことはありますか。
建物の所有や管理の形態が複雑になった今、消防機関自身も違反是正の実務でこうした法律問題に頭を悩ませています。
そのため消防庁は平成25年度から、消防機関が個別の案件について弁護士に相談できる体制を整えてきました。
今回は、その相談事業の枠組みと、名宛人や送達をめぐって実際に生じる法律問題について解説します。

うちのビルに消防から警告書が届いたら、誰宛てに来るのが正しいんでしょうか。

命令や警告の名宛人は権原を有する関係者と決まっていますが、実は消防機関のほうも判断に迷うことがあるんです。

消防のほうも迷うことがあるんですか。

はい、だから消防庁は平成25年度から、消防機関が弁護士に相談できる事業を続けているんです。

この記事の結論
  • 消防庁は平成25年度から全国9箇所の弁護士と契約し法律相談ができる体制を整えてきた
  • 対象は防火対象物の違反是正が中心だが危険物施設等の相談も可能
  • 命令の名宛人は「権原を有する関係者」(消防法第5条)で決まる
  • 所有者や代表者が変わった場合は前の命令の効力を改めて確認する必要がある
  • 警告や命令の文書は受け取りを拒んでも法的に到達したとみなされる場合がある

違反是正の弁護士相談がメール送付から現場対応まで進む4段階の流れを示す図解

違反是正の相談はなぜ弁護士へ相談するほど複雑になったのか

消防機関が弁護士へメールで法律相談を行うイメージ
雑居ビルなど建物の所有や管理の形態は、年々複雑になっています。
消防機関が違反是正を進めようとしても、消防法令の知識だけでは対応しきれない場面が増えてきました。
平成28年度違反是正推進に係る弁護士相談事業の実施について(通知)(平成28年3月28日付け消防予第89号 消防庁予防課長) 近年、雑居ビル等をはじめ建物の管理・所有形態が複雑になっていることや、行政措置に対する訴訟への対応等が生じてきていることなどを背景に消防法令に加えて幅広い高度な法律知識等が求められる事案が増加してきているところです。こうした状況を踏まえ、違反是正の具体的な案件に関し、法的な相談を行うことができるよう、平成25年度から、全国9箇所の弁護士と契約し、「違反是正推進に係る弁護士相談事業」を実施しています
背景にあるのは、建物の権利関係の複雑化と訴訟対応の増加です。
かつては消防法令の知識だけで判断できた案件でも、所有者や管理者が入り組んだ建物では誰に何を命じるか自体が難しくなっています。
行政措置に対して訴訟を起こされるケースも増え、消防機関には高度な法律知識が求められるようになりました。
そこで消防庁は平成25年度から、全国9箇所の弁護士と契約し、消防機関が個別案件を相談できる仕組みを設けました。
相談は原則メールで行い、決められた様式に事案の概要を書いて担当弁護士に送る形が取られています。

消防の担当者も、こんなふうに弁護士へ相談することがあるんですね。

はい、担当地域ごとに弁護士が決まっていて、メールでやり取りするんですよ。

相談の対象になるのはどんな案件か

防火対象物の警告書と危険物施設の両方が相談対象になるイメージ
防火対象物の違反是正が中心ですが、対象はそれだけではありません。
危険物を扱う施設についても、条件付きで相談できる仕組みになっています。
平成28年度違反是正推進に係る弁護士相談事業の実施について(通知)(平成28年3月28日付け消防予第89号) 2 相談内容 (1) 防火対象物の違反是正に関する各種法律相談 (2) 訴えの提起の応訴に関する各種法律相談 (3) 法的措置に係る書類の確認及び命令・告発等の手続の支援 (4) その他 ※ 危険物施設等に係る相談についても対応は可能であること。なお、相談内容については、原則として名宛人等の法律関係に係るものとし、施設そのものの技術基準等に関しては、対応ができない場合があることに留意すること。
相談の中心は「誰が名宛人になるか」という法律関係で、施設の技術基準そのものではありません。
相談内容は大きく分けて4つで、違反是正の法律相談・訴えの提起への応訴・法的措置の書類確認と手続支援・その他です。
危険物施設の案件でも相談は可能ですが、タンクの構造や配管といった技術基準の当否までは対象外になることがあります。
つまりこの窓口は、施設の安全対策そのものではなく、命令や警告の出し方を巡る法律問題のための相談先です。

技術的な相談ではなく、法律的な判断のための窓口なんですね。

そのとおりです。
この窓口は名宛人や送達など、法律関係の判断に絞った相談なんですよ。

実際にどんな法律問題が相談で扱われているのか

法人の代表者が不在になった建物の警告書を確認するイメージ
想定される相談事例として消防庁が示した内容を見ると、現場のリアルな悩みが見えてきます。
たとえば、警告書を渡そうにも相手の代表者が見つからないというケースです。
平成28年度違反是正推進に係る弁護士相談事業の実施について(通知)(平成28年3月28日付け消防予第89号)別添2「違反是正推進に係る弁護士相談事業」において想定される相談事例 4 名宛人関係 (1) 警告書等の交付にあたり、法人の代表者を確認したところ、代表取締役及び取締役(その配偶者)の2名が死亡しており、不在の状態になっています。このような場合、警告書等の名宛人は誰になりますか
消防法(昭和23年法律第186号)第5条第1項 消防長又は消防署長は、防火対象物の位置、構造、設備又は管理の状況について、火災の予防に危険であると認める場合(略)には、権原を有する関係者(略)に対し、当該防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止又は中止その他の必要な措置をなすべきことを命ずることができる。
この事例が示すとおり、名宛人が誰になるかは消防機関にとっても悩ましい論点です。
消防法第5条の命令や警告は、防火対象物について権原を有する関係者に対して行うものとされています。
法人の代表者が死亡していても、法人そのものが消えるわけではなく、新たな代表者や清算人などその時点で権原を持つ人を探す必要があります。
こうした確認は登記など複数の資料をたどる作業になり、消防機関だけでは判断しきれないことがあります。
だからこそ、個別の事案ごとに弁護士へ相談する仕組みが用意されているのです。

つまり、代表者が亡くなっても法人自体は残るということですね。

はい、新しい代表者や清算人を確認する作業が必要になるんです。

命令や警告を受けた側が見落としやすい落とし穴はどこか

建物の看板が旧所有者から新所有者へ掛け替えられるイメージ
命令を受けたあとに建物の持ち主が変わることも、珍しくありません。
このとき、前の持ち主に出された命令がどうなるのかは見落とされがちな論点です。
平成28年度違反是正推進に係る弁護士相談事業の実施について(通知)(平成28年3月28日付け消防予第89号)別添2「違反是正推進に係る弁護士相談事業」において想定される相談事例 5 警告・命令関係 (1) 防火対象物の使用停止命令や消防用設備等の設置命令を発動した防火対象物の所有者(名宛人)が売買等により変更となった場合、前所有者に対して発動した命令は有効でしょうか
命令の名宛人は「権原を有する関係者」なので、所有者が変われば見直しが必要になり得ます。
命令や警告はあくまで、その時点で権原を有していた人に対して出されたものです。
建物が売買などで新しい所有者に渡ると、前の所有者への命令がそのまま新しい所有者に及ぶかどうかはケースごとの判断が必要になります。
放置すれば「命令はもう効力がない」と誤解されたまま違反状態が続く恐れもあります。
こうした権利関係の変化こそ、消防機関が弁護士に相談する典型的な場面のひとつです。

うちの取引先も最近、建物を売却したと聞きました。

そういうときこそ、命令の効力がどうなるか消防に確認しておくと安心ですよ。

明日から何を確認すればよいのか

内容証明郵便の受け取りを迷う場面と消防への電話確認のイメージ
警告や命令の文書が届いたとき、受け取りを拒めば済むと考えるのは危険です。
今日からできる確認を、具体的に整理しておきましょう。
平成28年度違反是正推進に係る弁護士相談事業の実施について(通知)(平成28年3月28日付け消防予第89号)別添2「違反是正推進に係る弁護士相談事業」において想定される相談事例 6 文書送達関係 (1) 文書の送達で、内容証明郵便と配達証明郵便を併用した場合で、相手方が受け取りを拒否した場合には、当該文書が相手方に到達したこととなるのでしょうか
受け取りを拒んでも、法的には届いたと扱われる場合があります。
一般に文書は、相手が内容を了知できる状態に置かれれば到達したとみなされる余地があるとされています。
つまり受け取りを拒否しても、それだけで手続きが止まるとは限りません。
建物の所有者や代表者に変更があったときは、自分から消防本部へ確認しておくのが安全です。
疑問があれば、まずは所轄の消防本部に相談し、必要に応じてこうした弁護士相談の仕組みが使われることも知っておきましょう。

受け取りを拒否すればなかったことにできると思っていました。

そこが落とし穴です。
まずは所轄の消防本部に相談してみてください。

よくある質問

Q違反是正推進に係る弁護士相談事業とはなんですか?
A消防庁が平成25年度から全国9箇所の弁護士と契約し、消防機関が違反是正の個別案件について法的な相談を行える体制です。相談は消防機関を通じて行われる仕組みで、住民や事業者が直接この窓口へ相談できるものではありません。
Q危険物施設の違反是正でも相談できますか?
Aできます。ただし相談の中心は名宛人など法律関係で、施設そのものの技術基準に関する相談には対応できない場合があります。
Q命令を受けたあとに建物の所有者が変わったら、前の命令はどうなりますか?
A消防庁の想定事例でも取り上げられている論点で、前の所有者への命令がそのまま有効かはケースごとの判断が必要とされています。所有権が変わったら消防本部へ確認しておくと安心です。
Q警告書などの受け取りを拒否すればどうなりますか?
A一般に、受け取りを拒んでも内容を了知できる状態に置かれていれば法的に到達したとみなされる場合があります。受け取り拒否は解決策にはなりません。

まとめ

平成25年度から全国9箇所の弁護士と契約し法律相談ができる体制を整えてきた
背景には雑居ビル等の所有・管理形態の複雑化と行政訴訟対応の増加がある
相談は防火対象物の違反是正が中心だが危険物施設等の相談にも対応できる
相談内容は名宛人等の法律関係が中心で施設の技術基準そのものには対応しない場合がある
命令の名宛人は「権原を有する関係者」(消防法第5条)で決まる
文書を受け取り拒否しても法的に到達したとみなされる場合がある
所有者や代表者に変化があったら自分から消防本部へ確認しておくことが望ましい

これで名宛人や送達の考え方がよく分かりました!

違反是正や防火管理に関するご相談は、㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 平成28年度違反是正推進に係る弁護士相談事業の実施について(通知)(平成28年3月28日付け消防予第89号 消防庁予防課長)
  • 消防法(昭和23年法律第186号)第5条

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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