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特定共同住宅の消火器具はなぜ置き換わるのか|歩行距離20メートルの基準と設置を省略できる範囲を解説

特定共同住宅の消火器具はなぜ置き換わるのか

分譲や賃貸のマンションを担当していると、消火器の本数が思ったより少ないと感じることがあります。
実はこれは手抜きではなく、消防法施行令第32条にもとづく特例が適用されている場合があるからです。
共同住宅は一戸建てが集まった構造とみなされ、一定の要件を満たすと消火器具の設置場所や本数が通常の建物と変わります。
ただしこれは建物全体を一律に免除する制度ではなく、住戸ごとの住宅用消火器とセットで初めて成り立つ仕組みです。

うちのマンション、共用廊下に消火器がぽつぽつとしか置いてないんです。
これって設置基準を満たしていないんじゃないでしょうか。

いいえ、それは令第32条の特例基準が適用されている共同住宅かもしれません。
各住戸に住宅用消火器が置かれている前提で、共用部分の消火器具を減らせる制度なんです。

どの共同住宅でも当てはまるんですか。
管理組合として何を確認しておけばいいでしょうか。

床面積などの要件を満たすかどうかがまず先です。
今日は消火器具に絞って、置き換えの仕組みを整理しますね。

この記事の結論
  • 消防法施行令第32条により、共同住宅では消防長・消防署長の判断で消防用設備等の基準が緩和されることがある
  • 対象になるのは特定共住省令第2条第1号が定める床面積などの要件を満たす「特定共同住宅等」に限られる
  • 住戸・共用室・管理人室ごとに置く住宅用消火器と、共用部分に置く消火器具は設置の考え方が別物
  • 共用部分の消火器具を省略できるのは、住宅用消火器が設置された部分に面する範囲だけ
  • 建物全体で一律に免除されるわけではなく、管理組合や所有者は範囲を図面で確認する必要がある

特定共同住宅は床面積百平方メートル以下が要件で住戸ごとに住宅用消火器共用部は歩行距離20メートルの基準で消火器具を配置し省略できるのは基準を満たした部分だけであることを示す図解

共同住宅の消火器具はなぜ普通のビルと扱いが分かれるのか

共同住宅とオフィスビルを並べて消防用設備等の扱いの違いを示す図
事務所ビルの消防用設備等は延べ面積や階数で機械的に決まりますが、共同住宅は少し違う判断が入ります。
まずはその根拠になっている条文を見てみましょう。
(消防法施行令第32条)この節の規定は、消防用設備等について、消防長又は消防署長が、防火対象物の位置、構造又は設備の状況から判断して、この節の規定による消防用設備等の基準によらなくとも、火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく、かつ、火災等の災害による被害を最小限度に止めることができると認めるときにおいては、適用しない。
この条文が特例のいちばんの土台です。
令別表第一(5)項ロの共同住宅は、住戸ごとに壁で区切られた個人住宅の集合体という性質があり、火災が起きても他の住戸へ燃え広がりにくいと評価されることがあります。
そこで消防長又は消防署長が、通常の基準どおりに設備を置かなくても被害を最小限に止められると個別に認めた場合に限り、消火器具や屋内消火栓設備などの基準が読み替えられます。
この読み替えの中身を具体的に定めているのが、令第29条の4第1項にもとづく総務省令(特定共住省令)です。
次の章で、その省令が対象とする建物の条件を見ていきます。

令32条って他の設備でも聞いたことがある気がします。
共同住宅だけの制度じゃないんですね。

そのとおりです。
共同住宅の場合は特定共住省令という専用の省令で、置き換えの中身が細かく決まっています。

どんな共同住宅がこの置き換えの対象になるのか

共同住宅の各住戸の床面積をメジャーで確認する図
すべての共同住宅がこの特例の対象になるわけではありません。
まず建物としての条件をクリアする必要があります。
(特定共同住宅等における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令 第2条第1号)特定共同住宅等 令別表第一(五)項ロに掲げる防火対象物(略)の用途以外の用途に供される部分が存せず、(略)各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分で独立して当該用途に供されることができるものをいう。)の床面積がいずれも百平方メートル以下であって、同表(五)項ロに掲げる防火対象物の用途に供される部分の床面積の合計が、当該防火対象物の延べ面積の二分の一以上のものに限る。(略)ものをいう。
ポイントは各住戸の床面積が百平方メートル以下であることです。
これは「独立した一戸一戸が小さく区切られているほど、火災が住戸をまたいで広がりにくい」という考え方にもとづく要件です。
あわせて建物の延べ面積の半分以上が住宅部分で占められている必要があり、店舗や事務所が主体の複合ビルはこの特例の対象になりません。
この条件を満たした建物が、消防庁長官が定める構造の基準にも適合すると「特定共同住宅等」として扱われます。
ここまでが建物全体としての入り口の要件で、次の章では設備そのものの中身に入ります。

うちは1階に管理人室があって、あとは全部住戸なんですが対象になりそうですか。

その用途だけなら可能性はあります。
ただ最終的には各住戸の床面積の実測と図面での確認が欠かせません。

住宅用消火器と消火器具はどこにどう分けて設置するのか

住戸内の住宅用消火器と共用廊下の消火器具を分けて設置する図
対象になる建物では、消火器具がまるごと無くなるのではありません。
置き場所によって置き換えられる中身が変わります。
(特定共住省令 第3条第3項第1号)住宅用消火器及び消火器具(令第十条第一項に定める消火器具のうち、住宅用消火器を除く。)は、次のイ及びロに定めるところによること。 イ 住宅用消火器は、住戸、共用室又は管理人室ごとに設置すること。 ロ 消火器具は、共用部分及び倉庫、機械室等(略)に、各階ごとに当該共用部分等の各部分から、それぞれ一の消火器具に至る歩行距離が二十メートル以下となるように、(略)技術上の基準の例により設置すること。
住戸の中と共用部分とで、設置の単位そのものが違います。
住宅用消火器は住戸・共用室・管理人室という「部屋」の単位で一本ずつ置く決まりです。
一方、廊下や倉庫、機械室といった共用部分の消火器具は、部屋単位ではなく歩行距離二十メートル以下という距離の基準で配置します。
これは通常の建物の消火器具(令第10条第2項の技術上の基準)と同じ考え方で、住戸内だけ住宅用消火器という特別なルールに置き換わっているイメージです。
この二重構造を理解していないと、共用部分の消火器具まで一律に減らしてよいと誤解しがちです。

じゃあ各部屋に住宅用消火器さえ置けば、廊下の消火器はもう要らないってことですか。

そこがよくある誤解なんです。
省略できる範囲には条件があるので、次の章で説明しますね。

二方向避難型や開放型でも消火器具の扱いは同じなのか

住宅用消火器が設置された住戸に面する廊下の消火器具だけ省略できる図
特定共同住宅等には二方向避難型・開放型・二方向避難開放型・その他という構造の分類があります。
設備によってはこの分類ごとに扱いが変わりますが、消火器具は少し違います。
(特定共住省令 第3条第1項の表)特定共同住宅等の種類(構造類型・階数を問わない) 通常用いられる消防用設備等 消火器具 必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等 住宅用消火器及び消火器具(略)
共同住宅用スプリンクラー設備や共同住宅用自動火災報知設備は、構造類型と階数によって内容が変わります。
たとえば二方向避難・開放型特定共同住宅等では十階以下と十一階以上とで報知設備の組み合わせが変わりますが、消火器具の置き換えだけは構造類型にも階数にも関係なく共通です。
共用部分の消火器具を省略できるのは、住宅用消火器が設置された住戸・共用室・管理人室に面する部分に限られるという条件(特定共住省令第3条第3項第1号ロただし書)も、二方向避難型でも開放型でもその他の型でも同じように適用されます。
つまり構造類型を先に判定しなくても、消火器具については同じものさしで考えてよいということです。
ただし面する部分かどうかは廊下・階段室ごとに個別に判断するため、点検のときは図面での確認が欠かせません。

構造類型を調べるのは大変そうですが、消火器具はそこまで気にしなくていいんですね。

はい、面する部分かどうかさえ図面で追えれば判断できます。
スプリンクラーや報知設備を検討するときとは分けて考えてくださいね。

明日から何を確認すればよいのか

共同住宅の消火器具をチェックリストで確認して消防署へ電話する図
ここまでの内容を、実際の確認作業に落とし込みます。
次の順番で見ていくと整理しやすくなります。 まず建物の点検済証や設計図書で、特定共同住宅等として扱われているかを確認します。
次に各住戸・共用室・管理人室に住宅用消火器が過不足なく設置されているかを点検記録で確認します。
あわせて共用部分の消火器具が歩行距離二十メートルの基準を満たしているかを図面で確認します。
省略されている区間があれば、面している部屋に住宅用消火器が実在するかを現地で突き合わせます。
不明な点は自己判断せず、所轄消防署または㈱防災屋のような専門業者に確認してください。

点検記録と図面を照らし合わせるだけなら、次の点検のときにできそうです。

はい、既存の点検のタイミングで十分です。
最後によくある質問もあわせて確認してくださいね。

よくある質問

Q一般的なマンションなら自動的にこの特例の対象になりますか?
Aいいえ。各独立部分の床面積が百平方メートル以下であることなど、特定共住省令第2条第1号が定める要件を満たした建物に限られます。
Q住戸に住宅用消火器を置けば共用部分の消火器具は一切要らなくなりますか?
Aいいえ。省略できるのは住宅用消火器が設置された部屋に面する部分だけで、それ以外の共用部分には引き続き消火器具が必要です。
Q歩行距離二十メートルとはどこからどこまでの距離ですか?
A共用部分等の各部分から、そこに設置される一の消火器具までの距離です。特定共住省令第3条第3項第1号ロが定める基準です。
Qこの特例は消防署に届け出れば自動的に認められますか?
Aいいえ。令第32条は消防長又は消防署長が個別に判断する規定であるため、建物ごとに図面等で構造・設備を確認したうえでの運用になります。

まとめ

消防法施行令第32条にもとづき、共同住宅では消防用設備等の基準が緩和されることがある
対象は各独立部分の床面積が百平方メートル以下などの要件を満たす特定共同住宅等に限られる
住宅用消火器は住戸・共用室・管理人室ごとに設置する
共用部分の消火器具は歩行距離二十メートル以下となるよう配置する
共用部分の消火器具を省略できるのは住宅用消火器が設置された部屋に面する部分だけ
同じフロアでも区間ごとに省略できる部分とできない部分が混在することがある
不明な点は自己判断せず所轄消防署や専門業者に確認する

普通の消火器具だけ見ていたら気づけなかったです。
住戸側の住宅用消火器とセットで見る、というのがよく分かりました。

そうなんです。
図面での確認が難しいときは、㈱防災屋でもご相談を承っております。

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法施行令第32条
  • 消防法施行令第29条の4第1項
  • 消防法施行令第10条第1項・第2項
  • 特定共同住宅等における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令(平成17年総務省令第40号)第2条第1号・第3条第3項第1号

※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。建物ごとの特例の適用可否は所轄消防署の判断によります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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