小規模な高齢者施設などにある火災通報装置には、119番通報のあとに受話器を取らず、スピーカーとマイクで消防機関と話せるものがあります。
これは単に便利な電話機ではなく、通話へ切り替わる動作まで点検項目に入る設備です。

小規模な高齢者施設などにある火災通報装置には、119番通報のあとに受話器を取らず、スピーカーとマイクで消防機関と話せるものがあります。
これは単に便利な電話機ではありません。法令上は「特定火災通報装置」と呼ばれ、通話へ切り替わる動作まで点検項目に入っています。
この記事では、通常の火災通報装置との違い、対象となる建物、そして点検で確かめる3点を整理します。
目次
火災時に受話器を取らせないのはなぜか

火災通報装置は、手動起動装置を操作したり、自動火災報知設備と連動したりして、電話回線経由で消防機関へ通報する設備です。所在地や建物名などを、あらかじめ記憶した音声で伝えた後に通話を行います。
小規模な福祉施設では、通報を始めた職員が、避難の介助や初期対応から手を離せない場面があります。そこで、送受話器を持つ操作を挟まず、スピーカーとマイクで通話できるようにしたのがハンズフリー通話機能です。

ここで大切なのは、自動通報だけで会話まで不要になるわけではないことです。消防機関側からは、出火場所、避難状況、取り残された人の有無などの確認を受ける可能性があります。ハンズフリー機能は、その確認に応答する人が受話器のところへ移動しなくてよいようにする仕組みです。
消防庁の基準は、火災通報装置を「蓄積音声情報により通報するとともに、通話を行うことができる装置」と定義しています。特定火災通報装置は、そのうちハンズフリー通話機能を持つものです。 火災通報装置の基準(消防庁告示第1号)
どの建物の装置が「特定火災通報装置」になるのか

「ハンズフリー機能がある」だけで、すべての火災通報装置が特定火災通報装置になるわけではありません。
消防庁告示は、次の2つを満たす建物に設けるハンズフリー機能付き火災通報装置を、特定火災通報装置と定義しています。
- 消防法施行令別表第一の(6)項イ(1)〜(3)またはロに掲げる防火対象物であること
- 延べ面積が500㎡未満であること
このため、判断の順番を逆にしてはいけません。まず「この機器はハンズフリーか」ではなく、建物の用途・面積と、設置されている機器の仕様をセットで見る必要があります。
たとえば、同じグループホームでも、増築や用途変更で延べ面積・用途構成が変わっているなら、以前の点検票をそのまま使えるとは限りません。また、建物が対象用途であっても、現に設置されている装置が特定火災通報装置かは、銘板、機器仕様書、点検票で確認します。
消防庁告示の定義では、対象は「(6)項イ(1)から(3)まで及びロに掲げる防火対象物で、延べ面積が500㎡未満のものに設けるもの」とされています。制度の対象を、単に「小さい福祉施設」と言い換えて判断しないことが安全です。 火災通報装置の基準・第2
点検で確認するハンズフリー通話の3項目

特定火災通報装置の点検では、音声が流れるかだけでは足りません。通話機能等として、次の3項目を確認します。
| 確認する動き | 点検時に見ること |
|---|---|
| 録音メッセージ後に自動で通話へ移る | 受話器を取らずに通話状態へ変わるか |
| メッセージ中でも手動で通話へ切り替える | 途中で切替操作ができるか |
| 電話回線を保持する | 終話まで回線が切れずに通話できるか |
ポイントは、1番目と2番目が別の試験だということです。
「音声が終われば自動で通話に切り替わる」ことを確認しても、音声の途中に介助状況などを急いで伝えたいときに、手動切替ができなければ別の不具合が残ります。さらに、切替後に回線が保持されなければ、通話を始められても意味がありません。
消防庁の点検基準は、この3点を特定火災通報装置に限る点検項目として明記しています。平成21年の通知でも、点検票・試験結果報告書に「ハンズフリー通話への移行状況」「切替状況」「電話回線の保持状況」を追加したと説明されています。 別表第13・消防機関へ通報する火災報知設備の点検の基準 消防予第128号
一般の火災通報装置と同じ点検だと思うと何を見落とすのか

一般の火災通報装置にも、蓄積音声情報の送出、消防機関からの呼返しへの応答、手動で送受話器側へ切り替える機能などが求められます。
しかし、特定火災通報装置は、その「送受話器側への切替」とは別に、ハンズフリー通話への自動移行・手動切替・回線保持を求められます。一般装置向けのチェック項目をそのまま流用すると、スピーカー・マイクで通話が成立するまでの動作を確認しないままになるおそれがあります。
反対に、建物に通常の火災通報装置が設置されているのに、特定火災通報装置の欄まで無理に埋める必要もありません。必要なのは、設備の種類に合った点検票を使うことです。
次の3つは、点検前にそろえておくと判断が早くなります。
- 点検票に「特定火災通報装置」またはハンズフリー通話に関する項目があるか
- 機器の銘板・仕様書に、ハンズフリー通話機能が記載されているか
- 建物の用途区分と延べ面積が、設置時から変わっていないか
点検を依頼する側は、試験操作の詳細を自分で行う必要はありません。ただし、「火災通報装置は点検済みです」という報告だけで終わらせず、ハンズフリー通話の3項目まで対象だったかを点検票で確かめると、設備の実態と報告内容がつながります。
明日から確認するなら、機器・建物・点検票を同じ日に照合する

最初に見るべきものは、消防署への届出書類ではなく、現場の機器と直近の点検票です。
- 火災通報装置の銘板・仕様書で、ハンズフリー通話機能の有無を確認する
- 直近の点検票で、「ハンズフリー通話への移行」「切替」「電話回線の保持」の記録を確認する
- 建物の用途区分と延べ面積を、増築・用途変更の後も含めて確認する
- 記録がない、機器の種類が分からない、用途・面積が変わっている場合は、点検業者と所轄消防署へ確認する
とくに注意したいのは、電話回線やIP電話への変更です。火災通報装置は、電話回線との接続状態が機能に直接関わります。通信環境を変更したときは「普段の電話が使えるから大丈夫」と判断せず、火災通報装置として必要な試験・確認ができているかを点検業者に確認してください。
火災通報装置の点検は、通報そのものを試す作業ではありません。火災時に、通報後の会話までつながるかを確認する作業です。小規模な福祉施設ほど、避難介助と情報伝達が同時に必要になるため、ハンズフリー通話の3項目を「機器の付加機能」と軽く見ないことが大切です。
よくある質問
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
監修・編集:青木俊輔(㈱防災屋 代表取締役/消防設備士)
本記事は公表情報をもとに、消防・防火管理の実務上の着眼点を一般化して解説したものです。
参考・出典
- 火災通報装置の基準(平成8年消防庁告示第1号)
- 消防機関へ通報する火災報知設備の点検の基準(別表第13)
- 消防予第128号(平成21年3月30日)
- 青木マーケ(株)「消防検査とは?確認項目と『消防検査済証』受け取りまでの流れを解説!」(参考画像)
※本記事は公表されている法令および消防庁資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





