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アジ化ナトリウムはなぜ危険物と毒物の両方の規制を受けるのか|盗難や紛失は警察署だけに届け出る理由を解説

実験室の保管庫にアジ化ナトリウムの危険物と毒物の表示が並んでいるイメージ

消防法上の危険物なのに、毒物及び劇物取締法の毒物にも指定されている薬品があります。
アジ化ナトリウムは、エアバッグのガス発生剤や試薬・医療検体の防腐剤として使われる金属のアジ化物です。
危険物としての届出はしていても、毒物劇物側の規制まで意識できているとは限りません。
この記事では二重規制の中身と、盗難や紛失のときに見落としやすい届出先の違いを通達から解説します。

うちでもアジ化ナトリウムを試薬として保管しています。
危険物としての届出はしているので、それで十分だと思っていました。

危険物の届出だけでは足りません。
アジ化ナトリウムは毒物及び劇物取締法の毒物にも指定されています。

危険物と毒物、両方の規制がかかるということですか。

そのとおりです。
それぞれの義務と、事故のときの届出先の違いを見ていきましょう。

この記事の結論
  • アジ化ナトリウム(金属のアジ化物)は消防法上、第5類第10号に該当する危険物です。
  • エアバッグのガス発生剤試薬・医療検体の防腐剤として使われています。
  • 平成10年12月の政令改正で毒物及び劇物指定令に追加され、平成11年1月1日から毒物に指定されました。
  • 危険物としての届出と毒物及び劇物取締法上の規制は別の法律に基づく別の義務です。
  • 飛散等は保健所・警察署・消防機関のいずれかへ、盗難・紛失は警察署だけに届け出ます。

アジ化ナトリウムは第5類の危険物であり毒物にも指定されていて飛散は保健所警察署消防機関のいずれか盗難紛失は警察署だけに届け出ることをまとめた図解

アジ化ナトリウムはなぜ毒物に指定されることになったのか

危険物の保管庫に置かれたアジ化ナトリウムの容器と自動車のエアバッグのガス発生剤を並べた図
事故ではなく、食品への混入事件がきっかけでした。
平成10年当時の状況を通達から確認します。
アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤の取扱いに関する情報について(平成10年10月26日 消防危第93号 消防庁危険物規制課長) アジ化ナトリウムについては、消防法上、第5類に該当する危険物として、その安全の確保にご尽力頂いているところである。同物品は、これまで毒劇物としての指定は行われていなかったところであるが、先般、これを飲食物に混入させる事件が連続して発生したことを踏まえ、厚生省医薬安全局長から都道府県知事等に対し、(略)当該物品を毒劇物に指定することとしたこと、及び指定までの間、毒劇物に準じて取り扱うよう営業者及び業務上取扱者に周知徹底を図るべき旨が通知されたところである。
指定されていなかった理由は流通量の少なさでした。
アジ化ナトリウムは高い毒性を持つ物質ですが、当時は流通量が少ないと判断され、毒物及び劇物取締法に基づく毒劇物として指定されていませんでした。
ところが、これを飲食物に混入させる事件が連続して発生し、国民に保健衛生上の危害と不安をもたらしたことから、厚生省が毒物指定の手続きに着手します。
指定には一定の期間がかかるため、消防庁は指定されるまでの間の暫定措置として、この通達を各都道府県の消防主管部長に発出しました。
危険物としての規制はすでに存在していましたが、それとは別に毒物劇物側の対応が動き出した経緯を押さえておきます。

もともと毒物に指定されていなかったのは意外でした。

危険物としての規制とは別枠の話です。
次の章で毒物として指定された範囲を見ていきましょう。

毒物に指定された範囲はどこまでか

実験室の棚に並ぶ小さな試薬容器と施錠された保管庫を並べた図
対象は濃度ではっきり線引きされています。
条文と通知を突き合わせて確認します。
毒物及び劇物指定令等の一部改正について(通知)(平成10年12月24日 医薬安第159号 厚生省医薬安全局安全対策課長) 次に掲げる物が毒物に指定されたこと。アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤。ただし、アジ化ナトリウム0.1%以下を含有するものを除く。施行期日について 平成11年1月1日から施行することとされたこと。
毒物及び劇物指定令第1条第1号 法別表第1第28号の規定に基づき、次に掲げる物を毒物に指定する。1 アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤。ただし、アジ化ナトリウム0.1%以下を含有するものを除く
原体とほとんどの製剤が対象になります。
毒物に指定されたのはアジ化ナトリウムそのもの(原体)と、これを含有する製剤です。
除かれるのはアジ化ナトリウムを0.1%以下しか含まない製剤だけで、それ以外の濃度は原則として対象に入ります。
用途は試薬や医療検体の防腐剤、自動車のエアバッグのガス発生剤が代表的で、研究施設や検査機関、自動車部品の製造現場など幅広い分野で扱われています。
自分が扱っている製品の含有濃度を、まず成分表やSDS(安全データシート)で確認することが最初の一歩です。

うちで扱っている試薬は濃度が高いものだけです。
これは対象になりますか。

0.1%を超えていれば対象です。
SDSの含有量表示で確認してください。

危険物と毒物どちらの規制も本当に必要なのか

紺色の許可証と赤色の許可証を並べて置いた図
結論から言うと、どちらも必要です。
根拠になる条文をそれぞれ確認します。
アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤の毒物指定について(平成11年 消防危第1号 消防庁危険物規制課長) アジ化ナトリウムについては、「アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤の取扱いに関する情報について」(平成10年10月26日付け消防危第93号)において、同物品が毒劇物に指定されるまでの間の取扱いについて通知したところであるが、今般、厚生省医薬安全局安全対策課長から別紙のとおり毒物及び劇物指定令の一部が改正され、同物品が毒物に指定された旨通知があったので、通知する。
危険物の規制に関する政令第1条第3項 法別表第1第5類の項第10号の政令で定めるものは、次のとおりとする。1 金属のアジ化物
危険物の規制と毒物の規制は別の法律に基づく別物です。
アジ化ナトリウムは危険物の規制に関する政令第1条第3項第1号の「金属のアジ化物」にあたるため、消防法上は第5類第10号の危険物です。
一方で、平成11年からは毒物及び劇物取締法上の毒物としても指定されています。
危険物としての貯蔵・取扱いの許可や届出、危険物取扱者の選任は消防法令の義務であり、毒物劇物としての盗難防止措置や事故時の届出は毒物及び劇物取締法の義務です。
どちらか一方を満たせばもう一方が免除されるわけではなく、同じ物質に二つの法律が並んで適用されます。

危険物取扱者がいれば、毒物劇物の資格者は不要ということはないのですか。

法律が別なので免除にはなりません。
次の章で特に見落としやすい場面を確認しましょう。

盗難や紛失のときも消防機関に届け出てよいのか

扉が開いて中身が空になった保管庫と警察署の建物を並べ警察署の右に青いチェックマークを置いた図
ここが実務でいちばん間違えやすい場面です。
毒物指定前の暫定運用と、現行法の条文を見比べます。
アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤の取扱いについて(平成10年10月22日 医薬発第944号 厚生省医薬安全局長 別紙1 記3) アジ化ナトリウムが飛散し、又は盗難にあい、若しくは紛失したときは直ちに、その旨を保健所、警察署又は消防機関に届け出ること
毒物及び劇物取締法第17条 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その取扱いに係る毒物若しくは劇物(略)が飛散し、漏れ、流れ出し、染み出し、又は地下に染み込んだ場合において、不特定又は多数の者について保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちに、その旨を保健所、警察署又は消防機関に届け出るとともに(略)。2 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その取扱いに係る毒物又は劇物が盗難にあい、又は紛失したときは、直ちに、その旨を警察署に届け出なければならない
暫定運用と現行法では、届出先の切り分けが違います。
平成10年当時の暫定通知は、毒物指定前の特例的な運用として飛散・盗難・紛失をまとめて三択(保健所・警察署・消防機関)にしていました。
しかし正式に毒物指定された現在に適用されるのは、毒物及び劇物取締法第17条という条文そのものです。
不特定又は多数の者に保健衛生上の危害が生ずるおそれがある飛散等のときは、第1項により保健所・警察署・消防機関のいずれかでよいとされています。
一方で、盗難又は紛失のときは第2項が適用され、届出先は警察署だけに限定されます。「盗難・紛失なら消防にも連絡すればよい」という思い込みは、現行法では誤りです。

保管庫の鍵が壊されて中身が無くなっていたら、消防にも連絡すればいいですよね。

いいえ、盗難や紛失は警察署だけです。
飛散したときだけ消防機関も選べます。

明日からなにを確認すればよいのか

作業服の人物がクリップボードを持ち保管庫を点検している図
最後に確認する順番をまとめておきます。
自分の施設の取扱状況から始めます。 確認の起点は含有濃度と保管方法です。
まずSDSや成分表でアジ化ナトリウムの含有濃度が0.1%を超えているかを確認します。超えていれば毒物及び劇物取締法上の毒物です。
次に、保管場所に施錠がされているか、在庫量を定期的に点検して使用量を把握できているかを見直します(毒物及び劇物取締法第11条)。
そのうえで、事故が起きたときの届出先を飛散等盗難・紛失で分けて、社内の連絡体制や掲示物に反映しておきます。
危険物としての届出だけで安心せず、毒物劇物側の義務も棚卸しすることが実務上の起点になります。

つまり、飛散と盗難紛失を分けて連絡先を掲示しておけばよいのですね。

そのとおりです。
まずはSDSで含有濃度を確認するところから始めましょう。

よくある質問

Q危険物としての届出をしていれば毒物及び劇物取締法の手続きは不要ですか?
Aいいえ。危険物の規制に関する政令に基づく届出と、毒物及び劇物取締法に基づく規制は別の法律の別の義務です。アジ化ナトリウムを取り扱う場合は、危険物側と毒物劇物側の両方の手続きを確認する必要があります。
Q0.1%以下しか含まないアジ化ナトリウム製剤も毒物として規制されますか?
A対象になりません。毒物及び劇物指定令第1条第1号は、アジ化ナトリウム0.1%以下を含有するものを明確に除外しています。ただし消防法上の危険物該当性は別に確認が必要です。
Qアジ化ナトリウムが飛散した場合はどこに届け出ますか?
A不特定又は多数の者に保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、保健所、警察署又は消防機関のいずれかに直ちに届け出ます(毒物及び劇物取締法第17条第1項)。
Q盗難や紛失のときも消防機関に届け出てよいですか?
Aいいえ。盗難又は紛失のときは、警察署だけに直ちに届け出ることが定められています(毒物及び劇物取締法第17条第2項)。消防機関や保健所は届出先に含まれません。

まとめ

アジ化ナトリウム(金属のアジ化物)は消防法上、危険物の規制に関する政令第1条第3項第1号により第5類第10号の危険物に該当します。
エアバッグのガス発生剤試薬・医療検体の防腐剤として使われています。
平成10年12月24日の政令改正で毒物及び劇物指定令に追加され、平成11年1月1日から毒物に指定されました。
対象はアジ化ナトリウム原体及びこれを含有する製剤で、0.1%以下を含有するものは除かれます。
消防法上の危険物としての届出と、毒物及び劇物取締法上の規制は別の法律に基づく別の義務です。
飛散等で保健衛生上の危害のおそれがあるときは保健所・警察署・消防機関のいずれかに届け出ます(法第17条第1項)。
盗難又は紛失のときは警察署だけに届け出ます。この違いを取り違えないよう確認します。

まずはSDSで含有濃度を確認します

含有濃度と保管場所の施錠の二つが起点です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤の取扱いに関する情報について(平成10年10月26日 消防危第93号 消防庁危険物規制課長)
  • アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤の毒物指定について(平成11年 消防危第1号 消防庁危険物規制課長)
  • 危険物の規制に関する政令第1条第3項第1号
  • 毒物及び劇物指定令第1条第1号
  • 毒物及び劇物取締法第17条

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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