防火管理者を選任していない旅館やホテルで火災が起きたとき、経営者は何を問われるのでしょうか。
昭和55年に北関東の温泉地のホテルで起きた火災では、宿泊客と従業員45名が亡くなり、代表取締役の妻で実質的に経営を担っていた取締役が業務上過失致死傷罪に問われました。
最高裁は、肩書きや役割分担ではなく、実際にどんな権限を持ち、どんな義務を怠ったかを見て、上告を退けています。
この決定が示しているのは防火管理者がいない施設では、経営者自身が消防計画の作成と避難訓練を担うという前提です。
防火管理者を選任していないと、誰が責任を負うんですか。
実質的に経営を担う人が問われた判例があります。
代表取締役でなくても、責任を問われるんですか。
肩書きではなく実際の権限と関与が見られました。
何が義務とされたのか、この記事で順に見ていきます。
- 昭和55年のホテル火災で、実質的な経営者に業務上過失致死傷罪の成立が認められ、実刑が維持されました
- ホテルには防火管理者が選任されておらず、消防計画も未作成で、訓練も一度も行われていませんでした
- 最高裁は、防火管理者がいない以上消防計画を自ら作成するか、幹部従業員に作成させて避難訓練を行う義務があると示しました
- 防火戸と防火区画の未設置も義務違反とされ、設置していれば全員が避難できたと認定されました
- 代表取締役ではなくても、実際の権限と関与の実態で責任が判断されました
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目次
どんな火災だったのか

決定が前提とした事実だけを並べます。
- 昭和55年11月20日午後3時ごろ、北関東の温泉地にあるホテルで火災が発生した
- 建物は鉄骨木造5階建の旧館と、木造一部鉄骨の2階建の新館が接着し、1階と2階の中央部が連絡通路で結ばれていた
- 宿泊収容人員は約250名だった
- 建設会社の作業員が鉄柵の切断作業中に、切断機の炎を婦人風呂の外壁のすき間へ入れてしまった
- 煙は新館2階から連絡通路を通って旧館へ流れ込み、3階と4階まで広がった
- 連絡通路に防火戸がなく、旧館の階段部分も防火区画になっていなかった
- 従業員による適切な火災通報と避難誘導は行われなかった
- 宿泊客と従業員45名が亡くなり、22名が負傷した
ホテルでは、防火管理者の選任と届出も、消防計画の作成と届出も行われていませんでした。
消火・通報・避難の訓練は一度も実施されていませんでした。
自分の施設で、防火管理者の届出と消防計画、訓練の記録がそろっているか、まず手元で確認してください。
こんなに大きな被害だったんですね。
防火管理者はいなかったんですか。
防火管理者の選任そのものが行われていませんでした。
実質的な経営者はどこが問われたのか

検察官と被告側、それぞれの立場を分けて見ます。 問われたのは代表取締役の妻である取締役でした。
検察官は、消防計画を作らず、避難訓練をせず、防火戸と防火区画も設けなかったことが経営者の過失にあたるとして、業務上過失致死傷罪で起訴しました。
代表取締役の夫も同じ罪で起訴されましたが、夫は第一審の禁錮2年6月(執行猶予3年)の判決を受け入れて確定しています。
妻は、第一審の禁錮2年6月の実刑判決と、控訴審の控訴棄却判決を不服として、最高裁に上告しました。
上告の趣意は、判例違反、法令違反、事実誤認、量刑不当を挙げるものでした。
この記事では、被告側の主張のうち最高裁がどう扱ったかを後で詳しく見ます。
代表取締役じゃない人まで起訴されたんですね。
経営の実態を見て責任を問われました。
裁判所が義務違反と認めたのはどこか

義務違反とされた部分を見ます。
1つ目は、消防計画の作成と避難訓練の実施です。防火管理者がいないのだから、経営者が自ら、または幹部従業員に命じて行う義務があるとされました。
2つ目は、防火戸と防火区画の設置です。所轄の消防署や県の担当課から改善勧告を受けて、設備があれば煙と炎の流入を防げると知っていたのに、設けていませんでした。
決定は、消防計画に基づく訓練と防火戸・防火区画の設置が相まっていれば、少なくとも約30分間は旧館への煙の流入を止められ、旧館にいた全員が避難できたと認定しています。
なお、これらの措置をとることを難しくする事情は存在しなかったとされています。
自分の施設でも、行政から指摘を受けた改善事項が残っていないか、台帳で確認してください。
設備が無いのと、訓練が無いのと、両方が問われたんですね。
どちらか一方だけでも足りないと判断されました。
代表取締役でないことや支配人の存在は責任を免れる理由になったのか

被告側の主張が最高裁でどう扱われたか、認定された事実と合わせて整理します。
判例違反の主張は、引用された判例が本件と事案を異にするとして、そのまま退けられています。
認定された事実では、被告人は代表取締役ではなく取締役でしたが、代表取締役の夫が経営の意欲を失っていたこともあり、ホテルに常時詰めて従業員を指揮監督し、建物の維持管理や増改築も自ら実行していました。
支配人は置かれていましたが、一定額を超える支出や従業員の採用、給与の決定には被告人の承諾が必要で、防火防災の業務でもその都度被告人の指示を受けていました。
被告人と夫のほかに、管理権原者にあたる者はおらず、実質的にその地位にいた従業員もいなかったとされています。
決定はこれらを踏まえ、被告人は夫と共に経営管理業務を統括する最高の権限を持ち、防火防災の管理業務を行うべき立場にあったと判断しました。
自分の施設でも、支配人や担当者に任せている業務が、実際には誰の承諾で動いているかを一度整理してみてください。
支配人がいても、責任は軽くならなかったんですか。
決定は実際に誰が決めていたかを見ています。
明日からなにをすればよいのか

一般論ではなく、この事案で問題になった点に絞ります。 確認することは3つです。
1つ目は、防火管理者の選任と届出が済んでいるかです。消防法第8条第1項は、管理権原者に、防火管理者を定めて消防計画の作成や訓練などを行わせるよう求めています。
2つ目は、消防計画が作られ、消火・通報・避難の訓練が実施されているかです。この事案では計画も訓練もありませんでした。
3つ目は、消防署や行政から受けた改善勧告の履行です。勧告で内容を知っていたのに設備を設けなかったことが、過失の判断に含まれています。
旅館やホテルは消防法第17条の対象でもあります。設備の設置と維持は、防火管理者を置いたかどうかとは別に確認してください。
㈱防災屋でも、防火管理者の選任、消防計画の見直し、訓練の記録整備をご相談いただけます。
まず、届出と計画と訓練の記録を並べて見ます。
勧告を受けた項目の履行状況も一緒に確認してください。
よくある質問
まとめ
届出と計画と訓練、記録がそろっているか見ます。
防火管理者がいない施設では、
経営者自身が計画と訓練を担います。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 平成2年11月16日 最高裁判所第一小法廷決定(上告棄却)
- 昭和62年2月12日 東京高等裁判所判決(控訴棄却)
- 昭和60年5月15日 宇都宮地方裁判所判決
- 消防法第8条・第17条(当時の条番号。現行法で確認済み)
- 刑法第211条
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(被告人・代表取締役など)で記載しています。本記事は確定した決定の内容を要約したものです。決定当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。






