カラオケ店の火災で、消防署が一度も査察に来ていなかったら、経営者の責任は軽くなるのでしょうか。
平成19年に兵庫県のカラオケ店で起きた火災では、2階にいた客の3名が亡くなり、5名が負傷しました。
経営者は業務上過失致死傷罪に問われ、弁護人は消防署が長年査察や指導をしていなかったことを過失の程度に影響する事情として主張しましたが、裁判所は退けています。
経営者には禁錮4年が言い渡されました。
この判決が示しているのは査察がなかったことは、経営者の責任を軽くする理由にならないということです。
消防署が来なかったのだから、仕方ない面もあるのではないですか。
そう主張した弁護人の言い分は、退けられました。
どうして退けられたんですか。
経営者自身が届出をしていなかったことなどが理由でした。
順に見ていきます。
- 平成19年の兵庫県のカラオケ店の火災で、経営者は業務上過失致死傷罪により禁錮4年とされ、確定しました
- 消防署が長年査察や指導をしていなかったという弁護人の主張は、過失を軽くする事情として退けられました
- 営業の届出をせず、消防署の査察や指導の対象になるのを免れていたのは経営者自身だと判断されました
- 厨房の改造後にぼやや空焚きを経験しながら、何も改善しなかったことも指摘されました
- 経営者の過失は、避難設備の不備にとどまらず、従業員の失火を誘発し客の死傷に直結する過失とされました
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目次
どんな火災だったのか

判決に書かれた事実だけを並べます。
- 平成19年1月20日の午後6時ごろ、兵庫県のカラオケ店の1階厨房で、アルバイトの従業員が中華鍋のサラダ油を強火で加熱していた
- 従業員は他の業務をしている間に加熱を忘れて厨房を離れ、午後6時30分ごろに油が発火した
- 建物は鉄骨造の2階建てで、延べ面積は約218平方メートル。火災のとき、店には客が17名いた
- 2階の客室にいた客8名が一酸化炭素を含む高温の煙を吸い、3名が亡くなり、5名が重軽傷を負った
- 2階は防音のために窓がすべてベニヤ板や石膏ボードでふさがれ、開口部が一切なかった
- 誘導灯や避難はしごなどの器具はなく、消火器は一度使ったあと確認せずに放置されていた
- 従業員は常連客を呼んで消火を手伝ってもらおうとしただけで、客への迅速な避難誘導はしていなかった
経営者は、建物の消防用設備の設置管理や防火管理上の措置を行う義務を負いながら、基本的な義務を何も果たさずに営業した過失などで業務上過失致死傷罪に問われました。
神戸地方裁判所は平成19年12月12日、経営者に禁錮4年を言い渡し、未決勾留の日数のうち270日を刑に算入しています。
2階の窓が全部ふさがれていたんですか。
逃げ道になる開口部が、2階には一つもありませんでした。
経営者は何を問われたのか

弁護人の主張が、この判決のいちばんの読みどころです。 経営者の過失と従業員の過失が重なったとされました。
経営者については、火災に備えて2階に開口部を設けて避難器具を置き、消火器を設置し、従業員に消火訓練をするといった防火管理上の措置を怠った過失が問われました。
従業員については、加熱中の中華鍋を放置して火を出した過失と、初期消火や避難誘導を適切にできなかったことが認定されています。
弁護人は最終弁論で、経営者の過失そのものは争いませんでした。
そのうえで、消防署員が私的にこの店を利用したことがあり、他の公的機関も店を知っていたのに、消防署が長年査察点検や防火指導をしていなかったことが、過失の程度に影響すると主張しました。
過失を争わないのに、何を主張したんですか。
責任の重さを軽くすべきだという主張です。
裁判所が義務を果たしていないと認めたのはどこか

火災発生に備えて、客の生命身体の安全を確保し、死傷者の発生を未然に防止するため、2階に開口部を設けて避難器具を設置し、同建物内に消火器を設置するとともに、従業員に対する消火訓練を実施し(略)防火上必要な措置を講じるべき業務上の注意義務があるのに、これをいずれも怠り、前記開口部、避難器具及び使用可能な消火器を設置せず、従業員に対する消火訓練を実施しなかった[/su_note] 防火管理の基本的な義務が果たされていませんでした。
経営者は、消防法第8条第1項の管理について権原を有する者として、消防計画の作成や消火訓練などの防火管理を行う立場にありました。
量刑の理由では、厨房を壁で仕切って見通せなくしたこと、ぼやや空焚きを経験しても改善しなかったこと、当日自分が勤務できないのに従業員1人に任せたことなども挙げられ、従業員の失火そのものが経営者の招いたものだとされました。
従業員が避難誘導をしなかったことも、経営者が一度も消火訓練をしていなかったことに起因すると判断されています。
その結果、経営者の過失は間接的な過失にとどまらず、客の死傷に直結する過失だとされました。
設備だけでなく、普段の運用も見られているんですね。
設備と訓練とふだんの対応が、あわせて問われました。
消防署が査察をしていなかったことは過失を軽くするのか

弁護人の主張に対して、判決は次のように答えました。
判決は、営業を始めるときの届出をしなかったために、消防署がこの建物を査察や指導の対象にしていなかったと認定しました。
署員が不備を指摘しなかったという点についても、厨房の改造後にぼやや空焚きを経験するなど注意を促される機会が何度もあったのに何も改善しなかったのだから、他の機会があれば改善したという主張自体が説得力を欠くとしました。
消防署に積極的な査察や指導を望む思いを被害者や遺族が抱くことは別として、経営者の過失との関係では軽くする事情にならない、という整理です。
なお、この判断は経営者の刑事責任についてのもので、消防機関の対応そのものを論じたものではありません。
査察に来なかった消防署にも責任があるのではないですか。
この判決が判断したのは経営者の過失の程度です。
明日からなにをすればよいのか

この事案で重く見られた点に絞ります。 まず届出と訓練を確かめます。
現在の消防法第8条第1項も、防火管理者を定めて消防計画を作らせ、それに基づく消火・通報・避難の訓練を行わせることを、管理について権原を有する者に求めています。
第8条第2項は、防火管理者を定めたときの届出を求めており、第17条第1項は、関係者に消防用設備等の設置と維持を求めています。
営業を始めるときの届出は、市町村の火災予防条例が定めている場合もあるため、所轄の消防署で漏れがないか確かめておくと安心です。
改装や配置換えのあと、ぼやや空焚きがあったときは改善のきっかけにし、従業員の初期消火と避難誘導の訓練を組み立てることは、㈱防災屋でもご相談いただけます。
査察を待たずに、自分で届出と備えを確かめます。
ぼやや空焚きがあったら、必ず対策に結び付けてください。
よくある質問
まとめ
届出と訓練を、営業を始める前に確かめます。
決めたら一度は実際に動いて確かめてください。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 平成19年12月12日 神戸地方裁判所判決(平成19年(わ)第168号 業務上過失致死傷被告事件)
- 消防法第8条第1項・第2項、第17条第1項(当時・現行)
- 刑法第211条(当時)
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(経営者など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。






