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千日デパートビル火災で防火管理者と管理権原者の過失はどこまで問われたか|ビル側とテナント側で分かれた注意義務

千日デパートビル火災でビル側とテナント側はどこまで問われたかを示すアイキャッチ画像

一つのビルに複数の事業者が入っているとき、防火管理の責任はどこで分かれるのでしょうか。
昭和47年に大阪市のデパートビルで起きた火災では118名が亡くなり、ビル側の防火管理者と、7階で営業していたキャバレーの管理権原者・防火管理者の3人が業務上過失致死傷罪に問われました。
最高裁は平成2年に3人の上告を棄却し、有罪が確定しています。
この決定が示しているのはビル側とテナント側が、それぞれの立場で別々の注意義務を負うということです。

ビルの防火管理者とテナントの防火管理者、どちらが責任を負うんですか。

この事件では両方が責任を問われました。

ビル側が火事を知らせてくれなかったら、テナントは仕方ないのでは。

その言い分は通りませんでした。
何が義務とされたのか、この記事で順に見ていきます。

この判例の要点
  • 昭和47年の千日デパートビル火災で、ビル側の防火管理者とテナント側の管理権原者・防火管理者の3人の有罪が確定しました
  • ビル側の防火管理者は、工事中の階の防火区画シャッター等を閉め、立会いを置く義務を怠ったとされました
  • 決定は、ビル所有会社には法令上の規定の有無を問わず、火災の拡大を防ぐ可能な限りの措置を講ずべき注意義務があったとしました
  • テナントの防火管理者は、階下からの出火を想定した避難誘導訓練を平素から行う義務を怠ったとされました
  • テナントの管理権原者は、訓練不足を知りながら防火管理者の業務を具体的に監督しなかったとして過失を認められました

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千日デパートビル火災の決定で、ビルの防火管理者は工事の階の防火区画を閉め立会いを置く義務、テナントの防火管理者は階下の出火を想定した避難誘導訓練の義務、テナントの管理権原者は防火管理者の業務を具体的に監督する義務を負うとされたことをまとめた図

どんな火災だったのか

最上階が紺色で示された高いビルの右側に、独立した階段室が付いている建物を示したイメージ
まず、どんな建物でどんな火災だったのかを押さえます。
決定が前提とした事実だけを並べます。
  • 昭和47年5月13日午後10時25分ごろ、大阪市のデパートビル3階の寝具売場から出火した
  • 建物は地下1階・地上7階・塔屋3階建てで、所有会社が6階以下をデパートとして使い、7階の大部分を別の会社が賃借してキャバレーを営む雑居ビルだった
  • デパートは午後9時に閉店し、その後の売場は無人で、ビル側の保安係員だけが防火と防犯にあたっていた
  • 7階のキャバレーだけが午後11時まで営業し、多数の客と従業員がいた
  • 出火当時、3階では別のテナントが発注した電気工事が行われていた
  • 売場の防火区画シャッターと防火扉は、閉店後も閉められていなかった
  • 全館に一斉に知らせる放送設備は6階以下にしかなく、7階へは1階の保安室から外線電話で連絡するほかなかった
  • 煙はエレベーターの昇降路・階段・換気ダクトを通って7階に流れ込み、客と従業員118名が亡くなり、42名が負傷した
ビル側にもテナント側にも、それぞれ欠けがありました。
当夜の保安係員は火の勢いが強く消火できないまま避難し、全員がキャバレーへの通報を失念していました。
キャバレー側では、下の階と完全に遮断された安全な階段は南側の1か所だけでしたが、その階段を使った避難誘導訓練も、階下からの出火を想定した訓練も一度も行われていませんでした。
救助袋は1個だけで一部が破損し、従業員は入口の開け方を知らず、救助袋を使えませんでした。
自分の施設で、夜間も営業している区画への連絡手段と、その区画の避難経路を一度確認してください。

同じビルでも、営業時間が違うと危険が変わるんですね。

閉店後の無人の売場と、営業中の店が同居していました。

ビル側とテナント側でそれぞれ何が問われたのか

中央のてんびんの両方の皿に書類の束がのり、左にビルの模型、右にカウンターといすが置かれた、ビル側とテナント側の立場を比べるイメージ
起訴されたのは、ビル側とテナント側の両方の関係者でした。
検察官の主張と被告側の言い分を分けて見ます。 問われたのはビル側1人とテナント側2人です。
ビル側は、所有会社の管理課長でデパートの防火管理者だった人物です。上司の管理部次長も起訴されましたが、第一審の途中で亡くなっています。
テナント側は、キャバレーを営む会社の代表取締役で管理権原者だった人物と、支配人で防火管理者だった人物です。
第一審の大阪地方裁判所は3人とも無罪としましたが、控訴審の大阪高等裁判所は逆転して3人を有罪とし、管理課長は禁錮2年6月(執行猶予3年)、代表取締役と支配人は禁錮1年6月(執行猶予2年)とされました。
被告側は、閉店後にシャッターを全部閉める法令上の根拠はない、工事の立会いは工事をするテナント側が付けるべきだ、消防の訓練でも安全な階段を使うよう指導されていない、と主張して上告しました。
どの言い分がどう扱われたかは、この後の2つの見出しで見ます。

無罪から有罪に変わったんですね。

最高裁は控訴審の有罪判断を維持しました。

裁判所が義務違反と認めたのはどこか

デパートの売場の天井から灰色の防火区画シャッターが半分下りていて、左に閉じた防火扉、右に脚立と電気工事の工具箱が置かれた様子を示したイメージ
最高裁は上告を棄却したうえで、職権で3人の過失を検討しました。
まずビル側の防火管理者について見ます。
閉店後の(デパート)内で火災が発生した場合、(略)容易にそれが拡大するおそれがあったから、(ビル所有会社)としては、火災の拡大を防止するため、法令上の規定の有無を問わず、可能なかぎり種々の措置を講ずべき注意義務があったことは、明らかである(略)被告人(管理課長)としては、自らの権限によりあるいは上司である管理部次長の指示を求め、工事が行われる本件ビル三階の防火区画シャッター等を可能な範囲で閉鎖し保安係員またはこれに代わる者を立ち会わせる措置を採るべき注意義務を履行すべき立場にあったというべきであり、右義務に違反し、本件結果を招来した被告人(管理課長)には過失責任がある。
法令に書いていないことも理由にはなりませんでした。
決定は、工事中の3階で最小限必要なもの以外の防火区画シャッター等を閉め、保安係員などを立ち会わせ、出火したらすぐ出火場所側のシャッターを閉め、キャバレーへ火災を知らせる体制をとっていれば、煙の流入を減らし、客と従業員を避難させられたと認めています。
テナント側の管理権原者についても、救助袋の修理や取替えが放置されていたことなどから訓練が足りないことを知りながら、防火管理者の業務を具体的に監督しなかった点が過失とされました。
防火管理者が上司の指示を求めて動くという形は、現在の消防法施行令第3条の2第3項にも、必要に応じて管理権原者の指示を求めると定められています。
自分の施設で工事が入る日は、その階の防火区画と立会いの段取りを、事前に決めておいてください。

工事の日だけでも、シャッターを閉めて人を付けていればよかったんですね。

決定はこの火災に限ってその措置で足りたと見ています。

ビル側から通報がなかったことは責任を免れる理由になったのか

窓の下に折りたたんだ救助袋を収めた金属の箱があり、その右に避難口の絵表示が付いた階段室の扉が閉じている様子を示したイメージ
ここが、この決定で他の記事では触れられにくい部分です。
テナントの防火管理者の言い分がどう扱われたかを見ます。
被告人(支配人)において、あらかじめ階下からの出火を想定し、避難のための適切な経路の点検を行ってさえいれば、(南側の)階段が安全確実に地上に避難することができる唯一の通路であるとの結論に到達することは十分可能であったと認められる。(略)したがって、保安係員らがいずれも(キャバレー)に火災の発生を通報することを全く失念していたという事情を考慮しても、右注意義務を怠った被告人(支配人)の過失は明らかである。
ビル側の落ち度はテナント側の免責になりませんでした。
支配人側は、前年の消防訓練でも南側の階段からの避難が最も安全だとは指導されず、火の気のない6階以下からの出火を日ごろ心配する必要はないと主張しました。
決定は、建物の高い階で多数の客を扱う店の防火管理者として、階下で火災が起きても客を避難誘導できるよう、平素から訓練しておく義務があったとしました。
代表取締役の「支配人に訓練の義務がない以上、自分にもない」という言い分も、支配人に義務がある以上、前提を欠くとして退けられています。
ビル側についても、控訴審は1階から4階の売場のシャッター等を閉店後に閉めるべきだとしていましたが、最高裁はこの火災に限って見れば工事中の3階の措置で足りたと範囲を絞っています。
自分の店より下の階で火災が起きた場合に、どの階段なら安全に地上へ出られるかを、図面と現地で確かめておいてください。

消防から指導されていなくても、自分で確かめる必要があるんですね。

経路の点検をしていれば気づけたと判断されました。

明日からなにをすればよいのか

木の机の上に線だけの建物の平面図とファイルと電話機が置かれ、右の壁に非常ベルと閉じた階段室の扉がある、日々の確認事項を示したイメージ
決定が認めた範囲の事実から、ビル側とテナント側が確認できることを整理します。
一般論ではなく、この事案で問題になった点に絞ります。 確認することは立場ごとに分かれます。
ビル側の防火管理者は、閉店後や夜間に工事が入るとき、その階の防火区画シャッターと防火扉をどこまで閉め、誰を立ち会わせ、出火したらどれを閉めるかを決めておきます。
夜間も営業している区画があるなら、出火をすぐ知らせる手段があるかを確かめます。この事案では外線電話しかなく、それも使われませんでした。
テナントの防火管理者は、自分の店より下の階からの出火を想定し、安全な避難経路を点検したうえで、その経路と避難器具を使う訓練をしておきます。
テナントの管理権原者は、避難器具の修理や訓練の実施状況を報告させ、防火管理者の業務が実際に行われているかを確かめます。
現在は、管理権原が分かれた一定の建物では消防法第8条の2により統括防火管理者を協議して定め、建物全体の消防計画を作ることになっています。
㈱防災屋でも、テナントごとの消防計画と建物全体の計画の見直し、訓練の記録整備をご相談いただけます。

工事の日の段取りと、下の階から出火したときの逃げ道を確認します。

ビル全体の連絡手段も一緒に確認してください。

よくある質問

Qビル側から火災の通報がなかった場合、テナントの防火管理者は責任を問われませんか?
Aこの決定では、保安係員が通報を失念していた事情を考慮しても、支配人の過失は明らかとされました。
Q法令に書かれていない措置まで求められるのですか?
A決定は、ビル所有会社には法令上の規定の有無を問わず火災の拡大を防ぐ可能な限りの措置を講ずべき注意義務があったとしました。ただし、この事案では工事中の3階に絞って判断しています。
Q管理権原者は防火管理者を選任していれば足りますか?
Aこの決定では、訓練が足りないことを知りながら具体的な監督をしなかった代表取締役の過失が認められました。
Q消防の訓練で指導されなかった避難経路まで自分で確かめる必要がありますか?
A支配人側は指導がなかったと主張しましたが、決定は経路の点検をしていれば安全な階段に気づけたとして、その言い分を退けました。

まとめ

✔昭和47年の千日デパートビル火災で、ビル側とテナント側の3人の有罪が確定しました
✔ビル側の防火管理者は工事中の階の防火区画を閉め、立会いを置く義務を怠ったとされました
✔ビル所有会社には法令上の規定の有無を問わず可能な限りの措置を講ずべき注意義務があったとされました
✔テナントの防火管理者は階下からの出火を想定した避難誘導訓練を怠ったとされました
✔ビル側が通報を失念した事情があっても、テナント側の過失は否定されませんでした
✔テナントの管理権原者は具体的な監督を怠ったとして過失を認められました
✔工事の日の段取り、夜間の連絡手段、下の階からの避難経路を今日から確認できます

工事の段取りと避難経路を、ビル側と一緒に見直します。

ビル側もテナント側もそれぞれの立場で義務を負います。
㈱防災屋でもご相談を承っています。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 平成2年11月29日 最高裁判所第一小法廷決定(上告棄却。最高裁判所刑事判例集44巻8号)
  • 大阪高等裁判所判決(控訴審)、大阪地方裁判所判決(第一審)
  • 消防法第8条第1項(当時の条番号。現行法で確認済み)、消防法第8条の2
  • 消防法施行令第3条の2
  • 刑法第211条

※判決文の引用中の人名と店舗名・会社名は、いずれも役割を示す表記(被告人(管理課長)・ビル所有会社など)に置き換えています。本記事は確定した決定の内容を要約したものです。決定当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。

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