高さ31メートルを超える大きなビルや、広い敷地に建つ大規模な建物には、消防用水の設置が必要です。
国の消防法施行令では、必要な水量は建物の面積から計算し、上限は決まっていません。
一方、大阪市消防局の運用基準には、防火地域と準防火地域では水量の上限を120立方メートルにでき、水平距離を140メートルまで延ばせる特例があります。
この記事では、大阪市の特例が国のどの条文と告示を借りているのかを順にたどり、東大阪市・堺市の基準とも比べます。
大阪市内で延べ10万平方メートルのビルを計画しています。
消防用水を計算したら160立方メートルになりました。
防火地域か準防火地域なら、120立方メートルにできる特例があります。
大阪市の運用基準に書かれています。
国の計算より少なくてよいのですか。
はい、施行令第32条を使った大阪市の特例です。
国の条文から順に読んでいきましょう。
- 国の消防法施行令第27条では、消防用水の水量は面積を決まった数で割り、20立方メートルを掛けて計算し、上限はありません
- 大阪市の運用基準は、施行令第32条を適用し、防火地域と準防火地域の建物は規定水量の上限を120立方メートルにできるとしています
- 国の「各部分から100メートル以下」という距離も、消防水利の基準第5条に適合する消防用水なら140メートル以下にできるとしています
- 第5条は、指定水量の10倍以上の能力があり、消防ポンプ自動車が5台以上同時に部署できる水利の定めです
- 今回確認した堺市の審査基準には上限や140メートルの特例は見当たらず、東大阪市の公開資料には消防用水の基準がありませんでした
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目次
国の基準では消防用水の水量はどう決まるのか

どんな建物に必要かは、消防法施行令第27条第1項で決まります。
二 別表第一に掲げる建築物で、その高さが三十一メートルを超え、かつ、その延べ面積(地階に係るものを除く。以下この条において同じ。)が二万五千平方メートル以上のもの
第1号の建物は床面積を、第2号の建物は延べ面積を、次の数で割ります。
| 建物の区分 | 割る面積 |
|---|---|
| 第1号の建物(耐火建築物) | 7,500平方メートル |
| 第1号の建物(準耐火建築物) | 5,000平方メートル |
| 第1号の建物(その他の建築物) | 2,500平方メートル |
| 第2号の建物(高さ31メートル超) | 12,500平方メートル |
この式には上限がないので、建物が大きくなるほど水量も増えます。
たとえば高さ31メートルを超え、延べ10万平方メートルの建物なら、100,000÷12,500=8で、160立方メートルになります。
どんな建物に設置義務があるかは、消防用水の設置義務の記事で解説しています。
面積が倍になれば、水量も倍になるのですね。
はい、国の式は面積に比例して増えるだけです。
次は、大阪市の上限の特例を見ましょう。
大阪市の運用基準は水量の上限をどう定めているのか

その最後の第5 特例基準に、次の定めがあります。
2 防火地域及び準防火地域(都市計画法(昭和43年法律第100号)第8条第1項に規定するものをいう。)に設置される防火対象物については、消防用水の規定水量の上限値を120立方メートルとすることができる。
施行令第32条は、消防長または消防署長の判断で、施行令の基準を適用しないことができる仕組みです。
- まず施行令第27条第3項第1号の式で、規定水量を計算します。
- 建物が都市計画法第8条第1項の防火地域または準防火地域にあるかを確かめます。
- 当てはまれば、運用基準の第5 特例基準の柱書により施行令第32条を適用する形になります。
- 特例基準の2により、規定水量の上限を120立方メートルとすることができます。
- 120立方メートル以下の計算結果はそのままで、特例で減るのは120立方メートルを超える分だけです。
| 建物の例(高さ31メートル超) | 国の式の規定水量 | 大阪市の防火・準防火地域 |
|---|---|---|
| 延べ50,000平方メートル | 50,000÷12,500=4 → 80立方メートル | 80立方メートル(変わらない) |
| 延べ100,000平方メートル | 100,000÷12,500=8 → 160立方メートル | 120立方メートルにできる |
| 延べ200,000平方メートル | 200,000÷12,500=16 → 320立方メートル | 120立方メートルにできる |
運用基準の凡例では、印のない項目は法令基準(消防庁の通知などで示された法令解釈を含む)と説明されており、第5 特例基準の見出しにも◆は付いていません。
ただし「することができる」という書き方で、施行令第32条は消防長または消防署長が認めるときの規定なので、計画の段階で管轄の消防署と協議することが前提です。
構造の条件が書かれていないのは意外です。
はい、文面は地域だけで区切っています。
次は、距離の特例を見ましょう。
水平距離140メートルの特例は何を借りているのか

国の施行令第27条第3項第2号は、次のように定めています。
借りている先を順にたどると、次のようになります。
- 国の施行令第27条第3項第2号は、各部分から100メートル以下と定めています。
- 大阪市の特例基準の3は、消防水利の基準第5条に適合する消防用水なら140メートル以下でよいとしています。
- 消防水利の基準第5条は、指定水量の10倍以上の能力と、消防ポンプ自動車が同時に5台以上部署できることを条件にしています。
- 「指定水量」は、同じ告示の第3条第1項に定める数量のことです。
- 第3条第1項は、常時貯水量40立方メートル以上または取水可能水量毎分1立方メートル以上で、連続40分以上の給水能力を求めています。
大きな池や大容量の水槽のように、消防車が何台も並んで取水できる水利を想定した定めと読めます。
第5条はもともと市町村が消防水利を配置するときの基準で、その条件を満たす消防用水なら、大阪市は距離を140メートルまで延ばしてよいとしているわけです。
140メートルは、告示の数字をそのまま使っているのですね。
はい、条件も告示の第5条から借りています。
次は、大阪市のほかの決まりも見ましょう。
大阪市の消防用水にはほかにどんな決まりがあるのか

こちらは見出しに◆が付いており、凡例では行政手続法上の行政指導に当たる基準と説明されています。
2 水量等
屋内消火栓設備の基準(第3.2)を準用するほか、1個の消防用水の有効水量は40立方メートル以上とすること
3 構造
その設置場所に応じ、次の(1)から(3)までに定めるところによるほか、水槽等を用いる場合は、屋内消火栓設備の基準(第3.3)を準用する。なお、全ての消防用水は、法第21条の規定に基づく指定消防水利とすることが望ましいこと
3 採水口を設ける場合は、消防ポンプ自動車の吸管接続部から採水口までの距離を2メートル以内とすること。ただし、採水に支障がないものについては、おおむね5メートル以内とすることができる。
大阪市は1個40立方メートル以上を求めているので、上限の120立方メートルなら、40立方メートルの水槽3個までに収まる計算です。
また第2の柱書は、地盤面下4.5メートルを超える部分にポンプと採水口を設ける場合(3(2))には、施行令第27条第3項第1号の「4.5メートル以内の部分」の規定を適用しないとしています。
なお特例基準の1は、大阪市の仮設建築物の特例として、条件を満たす仮設建築物には消防用水を設置しないことができるとしています。
1個40立方メートルは、行政指導なのですね。
はい、見出しの◆が行政指導の印です。
最後に、東大阪市と堺市を比べましょう。
東大阪市や堺市では消防用水の上限はどう書かれているのか

水量については、施行令第27条第3項によるほかとして、次の定めを置いています。
(ア) 水源は、他の消火設備とは使用方法が異なることから併用しないこと。★
(イ) 政令第27条第2項の規定により消防用水が必要となる場合の水量の算出にあっては次の例によること。
今回確認した堺市の第19には、水量の上限や140メートルの特例は見当たりませんでした。
東大阪市は、今回確認した公開資料(消火器具・自動火災報知設備・避難器具・誘導灯・連結送水管・非常コンセント)に消防用水の基準がありませんでした。
| 項目 | 大阪市 | 堺市 | 東大阪市 |
|---|---|---|---|
| 水量の上限 | 防火・準防火地域で120立方メートル(無印) | 今回確認した基準に見当たらない | 公開資料に消防用水の基準なし |
| 水平距離 | 消防水利の基準第5条に適合すれば140メートル(無印) | 今回確認した基準に見当たらない | 公開資料に消防用水の基準なし |
| 1個の有効水量 | 40立方メートル以上(◆) | 40立方メートル以上(★) | 公開資料に消防用水の基準なし |
| 消防水利の指定 | 指定消防水利とすることが望ましい(◆) | 届出をして指定を受ける(★) | 公開資料に消防用水の基準なし |
1個40立方メートル以上は大阪市と堺市で同じで、上限と距離の特例は大阪市だけに書かれていました。
同じ敷地に建物が2棟以上ある場合の数え方は、渡り廊下でつながった建物の消防用水の記事で解説しています。
堺市で同じビルを建てると、160立方メートルのままですか。
公開基準の範囲では国の式どおりが出発点です。
建てる市の消防局に必ず確かめましょう。
よくある質問
まとめ
計画地が防火地域か準防火地域かを都市計画図で確かめます。
そのうえで管轄の消防署に特例を相談します!
水量が決まれば、水槽の大きさや採水口の数も見通せます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」凡例・第4章 消防用水(第2 水源、第3 取水部の設置場所、第5 特例基準 1〜3) https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」(第二十二版)第1章 総則(凡例)・第19 消防用水(Ⅰ 3 指定消防水利、Ⅱ 細目 1(2)イ・7 その他) https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 東大阪市 消防用設備等の運用基準(公開資料6件) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 消防法施行令第27条第1項・第3項第1号・第2号、第32条
- 消防水利の基準(昭和39年消防庁告示第7号)第3条第1項・第5条 https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/post27/
※本記事は公表されている法令および各市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。個々の建物で特例を使えるかの判断は、所轄消防署にご確認ください。





