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屋外看板の材質
大阪市消防局の報告書では、防火地域内に設置された高さ3mを超える看板について、主要な部分を不燃材料で造るか、不燃材料で覆う必要があったとされています。
しかし、火災建物の屋外看板①、②、③については、いずれも法令が求める不燃材料ではなく、不適合だったとされています。
ここは非常に重要です。
看板の材料に「難燃材料」や「防炎製品」と書かれていても、建築基準法上の不燃材料と同じ意味ではありません。
✅ 防炎:火がついても燃え広がりにくい性能
✅ 難燃:燃えにくい性能
✅ 不燃:一定の試験で燃焼や有害な変形などが認められない性能
それぞれ求められる性能と法的な扱いが異なります。
今回の火災では、屋外看板と建物の外壁との間に隙間があり、その空間を火炎や熱気が上昇する、いわゆる煙突効果によって、火が急速に上へ燃え広がった可能性も指摘されています。
消防隊員を襲った急激な燃焼現象
大阪市消防局の報告書によると、午前10時13分、消防隊が東側建物5階の事務室の扉を開けた直後、背後で急激な燃焼現象が発生しました。
扉を開ける直前まで、室内の煙は薄く、熱気もほとんど感じられなかったとされています。
報道では、この現象について、室内に新鮮な空気が流れ込むことで爆発的に燃焼するバックドラフトが発生した可能性が指摘されています。
急激な熱気や炎、煙が室内階段を通じて6階へ上昇し、消防隊員2人が建物内に取り残されることになりました。さらに、間仕切りや扉が多く、内部構造を把握しにくい建物だったことも、救出活動を難しくしたとされています。
今回の火災を「たばこのポイ捨てだけが原因」と考えるのは正確ではありません。
出火原因はたばこの吸い殻だったとしても、被害がここまで拡大した背景には、
✅ 周辺に置かれていた雑品
✅ 室外機
✅ 木製工作物
✅ 不燃材料ではなかった屋外看板
✅ 看板と外壁との隙間
✅ 建物内部の複雑な構造
✅ 急激な燃焼現象
など、複数の要因が重なっています。
重大火災は、たいてい一つの原因だけで起きるのではなく、小さな不備や危険な行動が連鎖して発生します。
たばこのポイ捨ては「マナー違反」で済まない
ここは率直に言います。
僕は三重県出身で、静岡県浜松市にも4年住んでいました。大阪に来てから、路上喫煙や吸い殻のポイ捨てを目にする機会が多いと感じています。
もちろん、「大阪の人は全員マナーが悪い」という話ではありません。
ただ、火のついたたばこを捨てる行為は、単なるマナー違反ではありません。今回の火災が示したとおり、条件が重なれば、建物を焼き、人の命を奪い、消防隊員まで危険にさらす行為になります。
「今まで火事にならなかったから大丈夫」という考え方が一番危険です。
同じことは、モバイルバッテリーにもいえます。
何度も落としたバッテリーをそのまま使い続けたり、膨らんだバッテリーを放置したり、不適切な方法で廃棄したりすれば、自分自身が火災の原因をつくる可能性があります。
火災を起こせば、刑事責任だけでなく、民事上の損害賠償責任まで問われる可能性があります。
刑事責任と民事責任は別に考える
今回の男性が問われているのは刑事上の責任ですが、火災を起こした場合は、それとは別に民事上の責任が発生します。
刑事事件は、国が犯罪に対して刑罰を科す手続です。
一方、民事事件では、建物の所有者、テナント、被害を受けた人、亡くなった方の遺族などから、損害賠償を請求される可能性があります。
ビル2棟が焼損した今回のような火災では、建物、設備、営業損失、休業損害などを含めると、損害額が極めて大きくなる可能性があります。
火災保険から保険金が支払われた場合でも、それで加害者の責任が完全になくなるとは限りません。
保険会社は、保険金を支払った範囲で、被害者が持っていた加害者への損害賠償請求権を取得し、加害者に請求することがあります。これを請求権代位といいます。
消防法令違反があれば火災保険は出ないのか
この点は誤解されやすいため、正確に整理しておきます。
消防設備点検をしていなかった、または消防法令違反があったという事実だけで、直ちに火災保険が不払いになるとは限りません。
実際に保険金が支払われるかどうかは、
✅ 保険契約の内容
✅ 契約時の告知内容
✅ 違反を保険会社が把握していたか
✅ 保険事故との因果関係
✅ 被保険者の故意や重大な過失
✅ 約款上の免責事由
などによって判断されます。
今回の建物では、過去の立入検査で、防火対象物点検の未実施や、自動火災報知設備の一部不備などが指摘されていました。一部は是正済みでしたが、未是正の項目もありました。
ただし、例えば「防火対象物点検を実施していなかったから、この火災が拡大した」と直ちに結論づけられるわけではありません。
点検を実施していなかったことと、火災の発生・拡大との因果関係は別に立証する必要があります。
反対に、自動火災報知設備などが明らかに故障しており、それを長期間放置した結果、発見や避難が遅れたのであれば、保険や損害賠償の判断に影響する可能性があります。
「違反があっても絶対に保険が出る」「点検していなければ絶対に保険が出ない」という単純な話ではありません。
自己破産すれば損害賠償はなくなるのか
建物の損害が数億円規模になった場合、個人が全額を支払うことは現実的に困難です。
そこで自己破産の問題が出てきます。
ただし、文字起こしにある「人命が関わっていれば自己破産できない」という説明は、少し正確ではありません。
自己破産の申立て自体は可能です。
問題は、破産後にその損害賠償債務が免責されるかどうかです。
一般論として、建物などの物的損害に関する債務は、免責の対象になる可能性があります。
一方、故意または重大な過失によって人の生命・身体を害した不法行為に基づく損害賠償請求権は、破産法上の非免責債権とされ、自己破産をしても支払義務が残る可能性があります。
ただし、今回の具体的な損害賠償請求が非免責債権に該当するかどうかは、刑事事件とは別に、民事上の過失、因果関係、損害の内容などを踏まえて判断されます。
したがって、現時点で「自己破産しても一切免責されない」と断定することはできません。
防犯カメラが犯人特定と火災抑止につながる
今回、男性の関与が浮上したきっかけの一つが、現場周辺の防犯カメラです。
捜査関係者によると、火災直前に男性が屋外で吸い殻を捨てる様子が映っていたと報じられています。
防犯カメラは、事件が起きた後に犯人や原因を特定するだけでなく、設置されていること自体が迷惑行為や犯罪の抑止につながります。
戸建住宅であれば、玄関や敷地内を映すカメラの設置を検討する価値があります。
共同住宅の場合は、共用部分へ勝手に設置することはできないため、管理会社や管理組合の承認が必要です。また、道路や近隣住宅を必要以上に撮影しないなど、プライバシーへの配慮も欠かせません。
街中の防犯カメラが増えれば、放火やポイ捨ての抑止だけでなく、火災発生時の原因究明にも役立つ可能性があります。
屋外看板の問題を全国で点検する必要がある
火災原因調査について勉強すると、大規模な火災や、全国で同様の事故が起きる可能性がある火災については、消防庁長官が火災原因調査を行う制度があることを学びます。
小規模な消防本部では、専門的な火災調査に十分な人員を割けない場合があります。
また、特定の製品や設備が原因となる火災が各地で発生している場合には、同様の火災が全国で起きていないかを調べ、必要に応じて注意喚起や対策につなげます。
今回の火災については、大阪市消防局という全国有数の大規模消防本部が調査しているため、調査人員や専門性の問題は比較的小さかったと考えられます。
一方、僕が気になっているのは、屋外看板の問題が全国的に横展開されているのかという点です。
道頓堀のように大きな屋外看板が連続して設置されている地域は、全国にもあります。
外壁と看板の間に隙間があり、看板に法令上必要な不燃材料が使われていなければ、今回と同じように火が縦方向へ急速に燃え広がる可能性があります。
大阪市は、火災後の調査で、建築基準法上の申請が必要だった屋外看板について、申請されたことを確認できなかったと公表しています。
書類だけで確認するのではなく、現地で材料、寸法、設置状況、外壁との隙間まで確認する仕組みが必要です。
防火管理は建物ごとのオーダーメイド
先日、全国チェーンの飲食店から、防火管理業務や消防設備点検、消防訓練についてご相談をいただき、心斎橋の店舗を確認してきました。
その店舗は比較的新しく、建物もきれいだったため、基本的には通常の防火管理を確実に実施していけば問題ないと考えています。
しかし、同じ飲食店でも、
✅ 築年数が古い
✅ 階段が一つしかない
✅ 避難経路が複雑
✅ 周辺建物との距離が近い
✅ 屋外看板や室外機が多い
✅ 夜間営業をしている
✅ 外国人客や不特定多数の利用者が多い
といった条件があれば、消防法の最低基準を守るだけでなく、その建物固有のリスクに合わせた対策が必要になります。
防火管理は、消防計画を一度作って終わりではありません。
建物の構造、用途、従業員数、営業時間、利用者の特徴などを踏まえて、建物ごとにオーダーメイドで考える必要があります。
まとめ:小さな不注意で人生が変わる
今回の道頓堀ビル火災では、火のついたたばこの吸い殻を捨てるという一つの行動が、周辺の雑品、室外機、屋外看板、建物構造などと連鎖し、消防隊員2人が亡くなる最悪の結果につながりました。
火災を起こして自分が当事者になれば、刑事責任、民事上の損害賠償、仕事や生活への影響など、人生を大きく左右する事態になります。
火災を防ぐためには、消防設備を設置するだけでは足りません。
✅ 火気を適切に管理する
✅ たばこの吸い殻を確実に消火する
✅ 建物周辺に可燃物を放置しない
✅ 消防設備を定期的に点検する
✅ 避難経路を確保する
✅ 屋外看板や増改築部分の法令適合を確認する
✅ 消防訓練を実施する
こうした一つひとつの行動が重要です。
自社だけでは適切な防火管理が難しい場合は、消防設備士や防火管理の専門家に相談してください。
以上、㈱防災屋の青木でした。
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