排煙設備の定期検査報告書には「吸引式」「給気式」「加圧防排煙」という言葉が出てきますが、方式ごとに構造も検査項目もまったく違います。
いずれも火災時に煙を屋外へ逃がす仕組みですが、排煙機で直接吸い出す方式、外気を送り込んで押し出す方式、圧力差で煙の侵入そのものを防ぐ方式という3つの考え方があります。
どの方式が採用されているかによって、検査で確認すべき機器や判定基準表もまったく別のものになるため、まず建物にどの方式が備わっているのかを見分けられるようにしておく必要があります。
この記事では、平成20年国土交通省告示第285号が定める3つの排煙方式の仕組みと使い分けを、検査の現場で迷わないための見分け方まで含めて解説します。
排煙設備の点検で「吸引式」とか「給気式」とか言われても、正直どう違うのか分かりません。
どちらも火災の煙を逃がす仕組みですが、逃がし方がまったく違うんです。
そこでまずは3つの方式を整理してみましょう。
うちのビルにはどの方式が入っているのか、図面を見ればわかるものなんでしょうか。
排煙機があるか、給気送風機があるかを見れば見分けられます。
順番に見ていきましょう。
- 吸引式(機械排煙設備)は排煙機が煙を直接吸い出す、最も一般的な方式です。
- 給気式(特殊な構造の排煙設備)は外気を送り込んで煙を押し出す、通称「押出し排煙設備」です。
- 加圧防排煙設備は付室等に外気を送り込み圧力差で煙の侵入自体を防ぐ方式です。
- 特別避難階段の付室や非常用エレベーターの乗降ロビーでは、方式ごとに適用できる告示が指定されています。
- 報告書に記入する前に、まず排煙機と給気送風機のどちらが設置されているかを確認することが見分けの近道です。
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目次
吸引式(機械排煙設備)とはどんな仕組みなのか

排煙機1台がいくつもの防煙区画をまとめて受け持つ、もっともオーソドックスな方式です。
建築基準法施行令第126条の3にもとづき、床面積500平方メートル以内ごとに防煙壁で区画し、その防煙区画に排煙口と排煙機を設ける構造が基本になります。
排煙口が煙感知器や手動開放装置と連動して開くと、同時に排煙機が起動して煙を吸い出す仕組みで、居室・廊下・階段室の付室など幅広い場所で採用されています。
現場で天井を見上げてダクトと排煙機の吸込口が確認できれば、吸引式が採用されていると判断してよいでしょう。
天井に大きなダクトと羽根の音がする箱があったら、それが排煙機ということですか。
そのとおりです。
床面積500平方メートルごとに区画されているのが目印になります。
給気式(特殊な構造の排煙設備)とはどんな仕組みなのか

「押出し排煙設備」や「第2種機械排煙設備」とも呼ばれる給気式です。
平成12年建設省告示第1437号にもとづき、居室に外気を送り込む各室給気方式と、廊下等をまとめて給気する複数室統合給気方式があります。
排煙機を使わず給気送風機だけで成立する点が吸引式との大きな違いで、天井裏に排煙機が見当たらず、代わりに給気ダクトと送風機がある建物はこの方式の可能性があります。
建築基準法施行令上は「特殊な構造の排煙設備」という扱いになります。
排煙機が見当たらないのに、天井に別のダクトと送風機があるのはこのためなんですね。
そうです。
それは煙を「吸う」のではなく「押し出す」ための給気ダクトです。
加圧防排煙設備とはどんな仕組みなのか

特別避難階段の付室や非常用エレベーターの乗降ロビーで多く採用されています。
付室等の内部の圧力を周囲より高く保つことで、扉が開いた瞬間でも煙が逆流して入り込まないようにする仕組みで、圧力調整装置や空気逃し口が構造上の特徴になります。
避難する人が最後に通る階段室やエレベーターホールを守るための方式なので、排煙というより防煙に近い性格を持っています。
現場では給気口・給気送風機に加えて圧力調整装置や空気逃し口があるかどうかで見分けられます。
煙を追い出すのではなく、そもそも入れないようにする方式もあるんですね。
はい。
避難階段や非常用エレベーターを守るための、最後の砦のような設備です。
特別避難階段や非常用エレベーターではどの方式が使えるのか

告示ごとに対象となる部位が分かれているため、報告書を書く前に整理しておくと迷いません。
居室等の排煙設備は令第126条の3又は平成12年建設省告示第1436号(吸引式)・第1437号(給気式)のいずれかで足り、加圧防排煙は用いられません。
一方、特別避難階段の付室や非常用エレベーターの乗降ロビーは、告示第696号・第697号の中で吸引式・給気式・加圧防排煙のいずれかを選択できる号立てになっています。
同じ建物の中でも、居室は吸引式、階段室の付室は加圧防排煙というように部位ごとに方式が違うことは珍しくありません。
同じ建物なのに、場所によって方式が違うということもあるんですか。
よくあります。
居室は吸引式、階段室の付室は加圧防排煙という組み合わせも一般的です。
検査のときはどうやって方式を見分ければよいのか

検査に入る前に、まず建物のどこにどの方式が入っているかを押さえておきましょう。
排煙機だけがあれば吸引式、給気送風機だけがあれば給気式、給気送風機に加えて圧力調整装置や空気逃し口があれば加圧防排煙と、機器の組み合わせで概ね判断できます。
判断に迷う場合は、設計図書に添付された排煙系統図を確認すれば、部位ごとの方式が明記されています。
方式を確認したうえで、それぞれの検査項目・判定基準を扱った記事(あわせて読みたい参照)で具体的なチェックポイントを確認してください。
なるほど、機器の組み合わせを見れば方式が分かるんですね。
そうです。
迷ったら排煙系統図で確認するのが確実です。
よくある質問
まとめ
排煙設備の方式を意識して、今度は図面を見てみます!
排煙設備のことでも、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法施行令第126条の2・第126条の3(e-Gov法令検索)
- 平成12年建設省告示第1436号・第1437号
- 平成28年国土交通省告示第696号・第697号
- 東京都建築設備定期検査報告実務マニュアル2025年版(東京都、排煙方式の分類の論点整理として参照。本文は現行法令に基づき執筆)
※本記事は一般的な解説を目的としており、個別の建物における排煙方式の判定や検査方法を保証するものではありません。実際の検査・報告にあたっては、必ず最新の法令・告示および所轄の特定行政庁の指導によってください。




