雑居ビルやテナントビルの防火管理で、必ず出てくるのが「統括防火管理者」です。「テナントごとに防火管理者を置いているのに、まだ何か必要なの?」と戸惑う方も少なくありません。
- 統括防火管理者は建物全体の防火管理を統括する人(消防法第8条の2)
- 対象は管理権原が分かれている建物のうち、高さ31m超または階数・収容人員が基準を超えるもの
- 各管理権原者が協議して定め、遅滞なく届出が必要
- テナントごとの消防計画は建物全体の消防計画に適合させなければならない
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目次
統括防火管理者とは
ひとつの建物に複数のテナントが入り、それぞれが自分の区画を管理している——これが「管理について権原が分かれている」状態です。この場合、テナントごとに防火管理者を選任しても、建物全体を見る人がいません。
階段や廊下といった共用部の避難経路、建物全体の避難訓練、火災時の連携——これらを誰も統括していなければ、いざというときに機能しません。そこで置かれるのが統括防火管理者です。
統括防火管理者が必要な建物
対象となるのは、いずれも「管理について権原が分かれている」建物です。そのうえで、次のいずれかに当てはまるものが対象になります(消防法第8条の2第1項、消防法施行令第3条の3)。
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| 建物の区分 | 条件 |
|---|---|
| 高層建築物 | 高さ31mを超えるもの ※用途・階数・収容人員の要件はありません |
| (6)項ロ等を含むもの 自力避難が困難な方の入所施設 |
地階を除く階数3以上 かつ 収容人員10人以上 |
| 特定用途を含むもの 上記以外 |
地階を除く階数3以上 かつ 収容人員30人以上 |
| (16)項ロ 非特定用途の複合用途 |
地階を除く階数5以上 かつ 収容人員50人以上 |
| 準地下街 | 要件なし(該当すれば対象) |
| 地下街 | 消防長または消防署長が指定するもの |
- 高さ31m超のビルは、用途も階数も収容人員も関係なく対象(管理権原が分かれていれば)
- 「テナントごとに防火管理者を置いたから終わり」ではない
- オーナー1人が建物全体を管理している場合は、そもそも管理権原が分かれていないので対象外
そもそも「管理権原が分かれている」とは
統括防火管理者の要否は、すべてここから始まります。管理権原者とは、消防庁の通知で次のように示されています。
つまり「誰が実際に防火の管理を行うべき立場か」で決まります。建物の形態によって、次のように分かれます。
| 建物の形態 | 管理権原者の考え方 |
|---|---|
| 所有者が自ら管理 | 所有者。単一のことが多い |
| マスターリース・サブリース | 契約内容により、賃貸人・転貸人・入居者に分かれる |
| 区分所有(管理組合) | 共用部は管理組合、専有部は各区分所有者 |
| 信託・不動産証券化 | 信託銀行・特定目的会社・アセットマネージャー等の契約関係による |
| 指定管理者制度・PFI | 協定・契約の内容による |
また同じ通知では、複数のテナントで1人の防火管理者を「共同選任」するよう促す指導は誤りであり、管理権原ごとに選任するよう指導すべき旨が明記されています。「まとめて1人でいいですよ」という運用は、法令上は正しくありません。
統括防火管理者は何をするのか
消防法第8条の2第1項は、統括防火管理者に行わせる業務を次のように定めています。
- 建物全体についての消防計画の作成
- その消防計画に基づく消火・通報・避難の訓練の実施
- 廊下・階段・避難口その他の避難上必要な施設の管理
- その他、建物全体についての防火管理上必要な業務
ポイントは「共用部」と「全体の訓練」の2つ。
- テナントごとの防火管理者は自分の区画しか見ない
- しかし火災時に人が逃げるのは共用の廊下と階段
- ここを見る人がいなければ、避難経路に物が置かれていても誰も是正できない
- 協議がまとまらない——テナントが多いほど、誰が統括を担うかで停滞しがち
- 権限の付与があいまい——「名前だけ統括」で、実際には何も指示できない
- 全体の訓練が実施できない——各テナントの営業時間がバラバラで日程が合わない
- テナント入替えのたびに計画が古くなる——更新されないまま形骸化
いずれも、協議の内容と権限の範囲を文書に残しておくことで大きく改善します。統括防火管理者の要件(施行規則第3条の3)自体が「権限が付与されていること」「説明を受け十分な知識があること」を求めているため、文書化は要件充足の裏付けにもなります。
統括防火管理者の資格と権限
資格
原則として甲種防火管理者の資格を持つ人から選びます。ただし延べ面積が小さい建物では乙種でも可とされる場合があります(消防法施行令第4条)。
あわせて、施行規則第3条の3が定める3つの要件を満たす必要があります。
- 各管理権原者から、建物全体の防火管理業務を遂行するために必要な権限が付与されていること
- 各管理権原者から、業務の内容について説明を受けており、十分な知識を有していること
- 各管理権原者から、建物の位置・構造・設備の状況について説明を受けており、十分な知識を有していること
権限——テナントの防火管理者に「指示」できる
統括防火管理者は、必要があると認めるときに、各テナントの防火管理者に対して必要な措置を講ずるよう指示することができます(消防法第8条の2第2項)。単なる取りまとめ役ではなく、法律上の指示権を持っています。
選任したら届出が必要
統括防火管理者を定めたときは、遅滞なく所轄の消防長または消防署長へ届け出ます。解任したときも同様です(消防法第8条の2第4項)。
選任されていないと認められる場合、消防長・消防署長は選任すべきことを命ずることができ、業務が法令や消防計画に従って行われていない場合には必要な措置を命ずることができます(同条第5項・第6項)。
定めないとどうなる?
統括防火管理者が選任されていないと認められる場合、消防長・消防署長は選任すべきことを命ずることができます(消防法第8条の2第5項)。また、業務が法令や全体の消防計画に従って行われていない場合には、必要な措置を講ずべきことを命ずることができます(同条第6項)。
防火管理者・防災管理者との違い
| 制度 | 誰が対象 | 判定の基準 |
|---|---|---|
| 防火管理者 | 建物または各テナント | 用途 × 収容人員(10人/30人/50人以上) |
| 統括防火管理者 | 管理権原が分かれた建物全体 | 高さ31m超、または階数 × 収容人員 |
| 防災管理者 | 大規模・高層の建物 | 階数 × 延べ面積(1万㎡以上など) |
なお、防災管理が必要な建物では、防火管理者と防災管理者は同一人物でなければなりません(消防法第36条第2項)。「兼任してもよい」ではなく兼任が義務である点に注意してください。
よくある質問
まとめ
- 統括防火管理者は管理権原が分かれた建物の全体を統括する
- 高さ31m超なら用途・階数・人数に関係なく対象
- 各管理権原者が協議して定め、遅滞なく届出
- テナントの消防計画は全体計画に適合させる
- テナントの防火管理者に指示する権限がある
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条の2、第36条/消防法施行令第3条の3、第4条、第46条/消防法施行規則第3条の3 e-Gov法令検索
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※本記事は2026年7月時点の法令に基づいています。個別の判断は所轄消防署または㈱防災屋までご確認ください。




