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病院や劇場はなぜ耐火建築物でなくてもよい場合があるのか|建築基準法施行令が定める特定避難時間の基準を解説

点検員が図面を建物と照らし合わせている様子

病院や劇場、学校や飲食店には「耐火建築物にしなければならない」という規定があります。
ところが建築基準法には、耐火建築物と同じにしなくても認められる例外の道も定められています。
そのカギになるのが「特定避難時間」という、建物ごとに計算される時間の考え方です。
この考え方を知っておくと、建物の構造や設備を見る目が変わります。

うちの建物、3階建ての病院なんですが、全部を耐火構造にしなくていいと聞きました。
本当ですか。

はい、条件を満たせば特定避難時間という基準で耐火建築物と同じ扱いを受けられます。
まずは条文から確認していきましょう。

てっきり病院やホテルは全部耐火構造にしないといけないと思っていました。
そんな考え方があったんですね。

対象になる用途と規模、それに時間の基準まで順番に見ていきます。

この記事の結論
  • 建築基準法第27条第1項は、劇場・病院・学校・飲食店などの特殊建築物に、特定主要構造部を政令の技術的基準に適合させることを義務付けています
  • 対象になるのは別表第一(い)欄(1)項から(4)項の用途で、原則として3階以上の階を使う建物です。
  • 技術的基準を満たす方法の一つが、建築基準法施行令第110条が定める「特定避難時間」という考え方です
  • 特定避難時間はどれだけ短く算定されても、45分間を下回ることはありません。
  • 屋根や階段のように、特定避難時間の長さに関わらず一律30分間でよいとされる部位もあります

特定避難時間の基準を示した図解

病院や劇場はなぜ耐火建築物でなくてもよい場合があるのか

劇場のような建物と病院のような建物が並ぶ様子
「耐火建築物にする」以外にも安全を確保する方法があると聞いて驚く方は少なくありません。
まずは条文がどのように特殊建築物の構造を求めているのかを確認します。
(建築基準法第27条第1項)次の各号のいずれかに該当する特殊建築物は、その特定主要構造部を当該特殊建築物に存する者の全てが当該特殊建築物から地上までの避難を終了するまでの間通常の火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために特定主要構造部に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない(略)。
条文が求めているのは、避難が終わるまで倒壊しないことです。
「耐火構造にすること」そのものではなく、避難が終わるまで倒壊・延焼を防ぐ性能が求められています。
この性能の具体的な中身は、建築基準法施行令に委任されています。
劇場や病院のように不特定多数の人が利用する建物ほど、避難に時間がかかることを前提に基準が組まれています。
条文の考え方を理解しておくと、次に説明する「特定避難時間」という基準の意味も分かりやすくなります。

耐火構造にしなくていいって、意外でした。
何を基準に決まるんですか。

避難が終わるまで倒壊しないことが条文の求める中身です。
次はどんな建物が対象になるかを見てみましょう。

どの用途と規模の建物が対象になるのか

3階建ての建物に階数と床面積を示す図
すべての建物がこの規定の対象になるわけではありません。
用途と規模の両方から、対象になるかどうかを見ていきます。
(建築基準法第27条第1項第1号)別表第一(ろ)欄に掲げる階を同表(い)欄(1)項から(4)項までに掲げる用途に供するもの(階数が3で延べ面積が200平方メートル未満のものを除く。)
対象になるのは、3階以上の階を劇場や病院、学校や飲食店の用途に使う建物です。
別表第一(い)欄(1)項は劇場・映画館・演芸場など、(2)項は病院・ホテル・共同住宅など、(3)項は学校・体育館など、(4)項は百貨店・飲食店などです。
用途に加えて、階数がで延べ面積が200平方メートル未満の建物は、原則としてこの号の対象から除かれます。
実際の建物がどの用途に当たるかは、消防法上の防火対象物の区分とも重なる部分が多くあります。
自分の建物の用途と階数をまず確認することが、この規定を理解する第一歩になります。

うちは病院ですが3階建てで、対象になるかどうか微妙です。
どこで確認すればいいですか。

延べ面積によっては除外される場合もあります。
確認申請時の図書か特定行政庁への確認が確実です。

特定避難時間とはどうやって決まる時間なのか

壁と柱に大きな時計、屋根と階段に小さな時計が示された図
対象になる建物が満たすべき技術的基準の一つが「特定避難時間」という考え方です。
条文はこの時間をどのように定義しているのでしょうか。
(建築基準法施行令第110条第1号イ)特定避難時間(特殊建築物の構造、建築設備及び用途に応じて当該特殊建築物に存する者の全てが当該特殊建築物から地上までの避難を終了するまでに要する時間をいう。)(特定避難時間が45分間未満である場合にあつては、45分間とする。)
特定避難時間とは、建物にいる人全員が地上まで避難を終えるのに必要な時間のことです。
建物の構造・設備・用途に応じて、この時間は建物ごとに個別に算定されます。
どれだけ短く算定されても45分間を下回ることはなく、必ずこの時間以上とみなされます。
壁・柱・床・はりは、この特定避難時間のあいだ倒壊等の損傷を生じない性能が求められます。
「耐火構造」という一律の基準ではなく、建物ごとの避難のしやすさに応じた基準になっている点が特徴です。

うちの建物だと、この時間はどうやって分かるんですか。

確認申請の際に設計者が個別に算定します。
設計図書に記載があるので確認してみてください。

部位によって求められる時間はどう違うのか

敷地境界に近い外壁に時計が示され反対側の外壁には時計がない様子
特定避難時間はすべての部位に一律で適用されるわけではありません。
部位や位置によって、求められる時間が異なる場合があります。
(建築基準法施行令第110条第1号イ・ロ)屋根(軒裏を除く。)及び階段にあつては、加熱開始後30分間において構造耐力上支障のある損傷を生じないものであること。壁、床及び屋根の軒裏にあつては、加熱開始後特定避難時間(非耐力壁である外壁及び屋根の軒裏で、延焼のおそれのある部分以外の部分にあつては、30分間)当該加熱面以外の面の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないものであること。
屋根と階段は、特定避難時間の長さに関わらず一律30分間の性能で足ります。
壁・柱・床・はりが特定避難時間(最低45分間)を必要とするのに対し、屋根と階段はこれより短い基準で済みます。
さらに外壁や屋根の軒裏でも、建物を支えていない非耐力壁で、延焼のおそれのある部分以外であれば、同じく30分間まで基準が下がります。
つまり同じ建物の中でも、部位ごとに異なる時間の基準が組み合わさって成り立っています。
図面や仕様書を確認するときは、どの部位にどの時間の基準が適用されているかを混同しないようにします。

全部の部位が同じ時間だと思っていました。
屋根や階段は基準が違うんですね。

はい、部位ごとに求められる時間が異なります
図面を見るときはこの違いを意識してください。

明日からなにを確認すればよいのか

点検員が図面を建物と照らし合わせている様子
特定避難時間という基準の中身が分かったところで、実務でどこを確認すればよいかを整理します。
自分の建物に当てはめて、順番にチェックしてみてください。
  • 自分の建物が別表第一(い)欄(1)項から(4)項のどの用途に該当し、3階以上の階を使っているか確認する
  • 延べ面積や階数の要件から、この規定の対象になるかどうかを確認する
  • 確認申請時の設計図書に、特定避難時間の算定結果が記載されているか確認する
  • 増築や用途変更の予定がある場合は、当時の算定の前提が変わっていないか確認する
  • 不明な点があれば所轄の特定行政庁や指定確認検査機関に相談する
手順はまず自分の建物の用途と階数を確認し、この規定の対象になるかどうかを整理することから始めます。
対象になる場合は、確認申請時の図書に記載された特定避難時間の算定結果を確かめます。
増築や用途変更を予定しているときは、当時の算定の前提が変わっていないかを設計者に確認してください。

確認申請の図書、そういえば見たことなかったです。
今度確認してみます。

はい、まずは設計図書用途・階数の2点から確認してみてください。
不明な点があればいつでもご相談ください。

よくある質問

Q特定避難時間はどこで確認できるのか?
A確認申請時の設計図書に、算定の根拠と結果が記載されています。図書が手元にない場合は、確認済証を発行した特定行政庁や指定確認検査機関に問い合わせます。
Q特定避難時間が45分間を下回ることはあるのか?
Aありません。施行令第110条第1号イは、算定された特定避難時間が45分間未満であっても45分間とみなすと定めており、これが実質的な下限になります。
Q屋根や階段はなぜ特定避難時間より短い基準でよいのか?
A条文が屋根と階段を一律30分間と定めているためです。壁・柱・床・はりのように建物を支える主要な部分とは異なる位置づけの基準とされています。
Q特定避難時間の基準を使わない場合はどうなるのか?
A各部位を通常の耐火構造とする方法など、他の技術的基準を満たす必要があります。どちらの基準を採用するかは、確認申請の設計段階で決まります。

まとめ

建築基準法第27条第1項は、劇場・病院・学校・飲食店などの特殊建築物に、特定主要構造部の技術的基準への適合を義務付けています
対象になるのは別表第一(い)欄(1)項から(4)項の用途で、原則として3階以上の階を使う建物です。
技術的基準を満たす方法の一つが、施行令第110条が定める「特定避難時間」という考え方です
特定避難時間はどれだけ短く算定されても、45分間を下回ることはありません。
壁・柱・床・はりは特定避難時間、屋根と階段は一律30分間というように、部位によって求められる時間が異なります
外壁や屋根の軒裏でも、非耐力壁で延焼のおそれのある部分以外であれば、30分間まで基準が下がります。
確認申請の設計図書に記載された算定結果を確認し、増築や用途変更の際は前提が変わっていないかを確かめることが大切です。

特定避難時間という考え方がよく分かりました。
ありがとうございました!

こちらこそご相談ありがとうございます。
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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 建築基準法(昭和25年法律第201号)第27条第1項
  • 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第110条

※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の建物への適用や特定行政庁の運用は異なる場合があります。個別の判断は建築主事または指定確認検査機関にご確認ください。

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