BLOG

高圧ガス施設の危険な状態はなぜ応急措置にだけ罰則があるのか|届出義務との違いと5つの届出先を解説

鎖で固定された高圧ガスボンベが並ぶ工業用ガス貯蔵ヤードの外観

高圧ガスの施設のそばで、配管からシューっと音がして煙のようなものが漏れていたら、あなたはどうしますか。
「うちの施設じゃないから関係ない」と通り過ぎてしまう人もいるかもしれません。
実は高圧ガス保安法は、こうした危険な状態を見つけた人に対して、所有者でなくても届け出る義務を課しています。
本記事では高圧ガス保安法第三十六条が定める応急の措置と届出の仕組み、そして罰則の有無を解説します。

高圧ガスの施設の異常って、所有者や従業員が気づいたときだけの話じゃないんですか。
通りすがりの人には関係ない気がします。

いいえ、発見した人なら誰でも届出の対象です。
条文を順番に見ていきましょう。

でも、応急の措置をとる人と届け出る人が別だと、誰が何をすればいいのか分かりにくいです。
両方とも同じように大事な義務なんですよね。

実は、応急の措置には罰則がありますが届出そのものにはありません。
次はその中身を見てみましょう。

この記事の結論
  • 高圧ガス保安法第三十六条は、施設が危険な状態になったときの所有者等の応急措置と発見者の届出という二段階を定めています
  • 対象になるのは製造施設・消費施設に加え貯蔵所や充塡容器まで含む幅広い施設です。
  • 一般高圧ガス保安規則第八十四条は、退避や安全な場所への移動など具体的な応急の措置を定めています
  • 届出先は都道府県知事・警察官・消防吏員・消防団員・海上保安官5者のいずれでもかまいません。
  • 応急の措置には罰則がありますが、届出義務そのものには罰則が明記されていません

高圧ガスの施設が危険な状態になったら所有者の応急措置と発見者の届出という二段階の義務が生まれる流れを示す図解

高圧ガス施設の危険な状態はなぜ複数の立場に義務を課すのか

金属ラックに並ぶ高圧ガスボンベと、高さの違う2枚の腕木を持つ道しるべを並べたイラスト
高圧ガスの施設で危険な兆候が出たとき、法律はまず誰に何をさせようとしているのでしょうか。
条文は二段構えになっています。
高圧ガス保安法第三十六条第一項(危険時の措置及び届出) 高圧ガスの製造のための施設、貯蔵所、販売のための施設、特定高圧ガスの消費のための施設又は高圧ガスを充塡した容器が危険な状態となつたときは、高圧ガスの製造のための施設、貯蔵所、販売のための施設、特定高圧ガスの消費のための施設又は高圧ガスを充塡した容器の所有者又は占有者は、直ちに経済産業省令で定める災害の発生の防止のための応急の措置を講じなければならない
高圧ガス保安法第三十六条第二項 前項の事態を発見した者は、直ちにその旨を都道府県知事又は警察官、消防吏員若しくは消防団員若しくは海上保安官に届け出なければならない
第一項と第二項は、義務を負う人がまったく違います。
第一項が動かすのは施設や容器の所有者又は占有者で、応急の措置を講じる責任を負うのはこの人たちだけです。
ところが第二項は「前項の事態を発見した者」と書くだけで、所有者かどうかを問いません
たまたま近くを通りかかった人であっても、危険な状態に気づいた時点で届出義務を負う立場になります。
自分の施設ではないから関係ない、とは言えない条文構造になっているわけです。

なるほど、所有者の義務と発見者の義務は別物なんですね。
じゃあどんな施設が対象になるんでしょうか。

対象になる施設は幅広いです。
次はその範囲を見てみましょう。

応急の措置や届出はどんな場面で必要になるのか

弁から蒸気が漏れる高圧ガス製造施設と、へこんで倒れた高圧ガスボンベを並べたイラスト
条文が対象にする施設は、製造の現場だけではありません。
どんな施設が対象になるかを確認しましょう。
高圧ガス保安法第三十六条第一項(再掲・要旨) 高圧ガスの製造のための施設、貯蔵所、販売のための施設、特定高圧ガスの消費のための施設又は高圧ガスを充塡した容器が危険な状態となつたとき
対象になる施設は、製造・貯蔵・販売・消費という場面に加え、容器そのものにも及びます。
製造施設や消費施設で圧力の異常や漏えいが起きた場合はもちろん、貯蔵所に置かれた容器がへこんだり傷んだりした場合も対象です。
つまり施設の種類を問わず、高圧ガスを扱うあらゆる場所が条文の射程に入っています。
どの場面でも、危険な状態になったと言える段階で義務が生まれる点は共通しています。
次は、実際にどんな応急の措置が求められるのかを確認しましょう。

うちは貯蔵所だけなんですが、それでも対象になるんですか。
製造の許可を持っていなくても心配です。

はい、貯蔵所も充塡容器も対象です。
次は求められる措置の中身を見てみましょう。

一般高圧ガス保安規則が定める応急の措置とは具体的に何か

施設から離れる作業員と、水槽に半分沈められた高圧ガスボンベを並べたイラスト
「応急の措置」の具体的な中身は、高圧ガス保安法の本体には書かれていません。
一般高圧ガス保安規則が定めています。
一般高圧ガス保安規則第八十四条(危険時の措置・要旨) 法第三十六条第一項の応急の措置は、①製造施設又は消費施設が危険な状態になったときは製造又は消費の作業を中止しガスを安全な場所に移すか大気中に安全に放出し必要な作業員以外は退避させること、②貯蔵所又は充塡容器等が危険な状態になったときは充塡容器等を安全な場所に移し必要な作業員以外は退避させること、③これらの措置を講ずることができないときは従業者や付近の住民に退避するよう警告すること、④充塡容器等が外傷又は火災を受けたときはガスを安全に放出するか水中に沈め若しくは地中に埋めることと定めている。
状況に応じて選べる4段階の措置が用意されています。
まず作業を中止してガスを安全な場所に移すか大気中に放出する、それが難しければ従業員や周辺住民に退避を呼びかける、容器が外傷や火災を受けた場合は水中に沈めるか地中に埋めるという順番になっています。
注目したいのは、3番目の措置に付近の住民への退避の呼びかけまで含まれている点です。
自施設の中だけで完結させる対応ではなく、周辺地域を巻き込む前提で措置が設計されています。
次は、この事態を見つけた人がどこへ届け出ればよいのかを見ていきましょう。

水に沈めるとか、退避を呼びかけるとか、かなり具体的なんですね。
マニュアルに落とし込んでおいたほうがよさそうです。

状況ごとの優先順位を先に決めておくと安心です。
次はこの届出義務に罰則があるのかを見てみましょう。

応急の措置にはなぜ罰則があり届出義務そのものには無いのか

ボンベを安全な場所へ運ぶ人に青いチェックマーク、机の上の書類ファイルに赤い禁止マークを添えたイラスト
高圧ガス保安法には細かい罰則が数多くありますが、この第三十六条は少し様子が違います。
罰則の章を実際に確認してみましょう。
高圧ガス保安法第八十三条(要旨) 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。二 (略)第三十六条第一項…の規定に違反したとき。四の三 故なく都道府県知事又は警察官、消防吏員若しくは消防団員若しくは海上保安官に第三十六条第一項の事態の発生について虚偽の届出をしたとき
第一項の応急の措置と第二項の届出は、罰則の重さがまったく違います。
所有者又は占有者が応急の措置を怠れば、第八十三条第二号により三十万円以下の罰金の対象になります。
ところが第二項の届出義務そのものは、単に届け出なかっただけでは罰則の条文に登場しません。罰則が及ぶのは、事態の発生について嘘の届出をした場合だけです。
つまり黙っていた人より、嘘をついた人のほうが重く扱われる作りになっています。
罰則が無いことは「怠ってもよい」という意味ではありません。危険な状態を放置すれば、それ自体が被害拡大の原因として重い責任を問われかねないからです。

届け出なくても罰則が無いなら、正直後回しにしてしまいそうです。
急いで対応しなくてもいい気がしてきました。

罰則の有無と危険の大きさは別物です。
次によくある質問をまとめます。

明日からなにを確認すればよいのか

都道府県庁や警察消防海上保安の記章を掲示する人と、机の上の緊急対応マニュアルを並べたイラスト
条文の仕組みが分かったところで、実務に落とし込みましょう。
確認すべきポイントを整理します。
高圧ガス保安法第三十六条第二項(再掲) 前項の事態を発見した者は、直ちにその旨を都道府県知事又は警察官、消防吏員若しくは消防団員若しくは海上保安官に届け出なければならない
まず、届出先の連絡手段を従業員だけでなく周辺の関係者にも周知してください。
都道府県知事・警察官・消防吏員・消防団員・海上保安官のどこに連絡してもよいので、最寄りの通報先を掲示物などで明確にしておくと迷いが減ります。
次に、一般高圧ガス保安規則第八十四条が示す4段階の応急の措置を自施設の状況に当てはめ、誰が何を担当するかをあらかじめ決めておきましょう。
応急の措置には罰則があり届出義務には無いという違いを踏まえても、両方とも先延ばしにする理由にはなりません。
罰則の有無にかかわらず、今日のうちに応急の措置の手順と届出先を確認しておいてください。

届出先の掲示、うちでも作ってみます。
応急の措置の担当も決めておかないと。

通報先の周知が一番の備えになります。
次によくある質問をまとめます。

よくある質問

Q発見した人が施設と無関係でも届出義務はありますか?
Aはい、高圧ガス保安法第三十六条第二項は「前項の事態を発見した者」とだけ定めており、所有者や従業員に限定していません。通りがかりの人でも対象です。
Q届出を怠ったら罰則を受けますか?
A条文上、第三十六条第二項の届出義務そのものに罰則は明記されていません。ただし応急の措置(第一項)を怠れば三十万円以下の罰金の対象になり、虚偽の届出をした場合も同様に罰せられます。
Q対象になる施設はどこまで含まれますか?
A製造施設・消費施設・第一種貯蔵所・第二種貯蔵所に加え、高圧ガスを充塡した容器そのものも対象です。施設の種類を問わず、危険な状態になれば条文が適用されます。
Q応急の措置はどの順番で行えばよいですか?
A一般高圧ガス保安規則第八十四条は、作業の中止と安全な場所への移動または放出→退避の呼びかけ→水中への水没や地中への埋設という優先順位を示しています。状況に応じてどの段階から始めるかが変わります。

まとめ

高圧ガス保安法第三十六条は、施設等の所有者等による応急の措置と発見者による届出という二段階の規制です
対象になるのは、製造施設・消費施設・貯蔵所・充塡容器等という幅広い施設です。
一般高圧ガス保安規則第八十四条は、退避や安全な場所への移動など4段階の応急の措置を定めています
届出は所有者に限らず、事態を発見した人なら誰でも対象になります。
届出先は都道府県知事・警察官・消防吏員・消防団員・海上保安官のいずれでもかまいません。
応急の措置には罰則がありますが、届出義務そのものには罰則が明記されていません
ただし事態の発生について虚偽の届出をすれば、罰則の対象になります。

高圧ガス施設の届出義務がよく分かりました。
うちの応急対応マニュアルも見直してみます。

日頃の周知徹底が一番の備えになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 高圧ガス保安法(昭和26年法律第204号)第36条・第83条
  • 一般高圧ガス保安規則(昭和41年通商産業省令第53号)第84条

※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の判断や通報の手続については、所轄の都道府県または警察署・消防署にご確認ください

BLOGカテゴリ
最新の記事
防火管理者代行サービス
無料1分概算見積
鎖で固定された高圧ガスボンベが並ぶ工業用ガス貯蔵ヤードの外観
高圧ガスの施設のそばで、配管からシューっと音がして煙のようなものが漏れていたら、あなたはどうしますか。 「うちの施設じゃないから関係ない」と通り過ぎてしまう人もいるかもしれません。 実は高圧ガス保安法は、こうした危険な状...