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劇場の客席はなぜ避難口誘導灯を省略できるのか|客席避難口2以上と歩行距離で決まる特例を解説

劇場の客席と避難口誘導灯のイメージ

映画館や劇場の客席には、避難口誘導灯の設置が消防法令で義務づけられています。
ところがある条件を満たす劇場では、この誘導灯を設置しなくてよいという特例があります。
もとは一部地域だけの実験的な規制緩和でしたが、平成20年の改正で全国の劇場に広がりました。
客席避難口の数と歩行距離、照明装置の3条件を満たせば、誘導灯なしでも消防法令上問題ありません。

うちの劇場、客席に誘導灯を付けていないんですが大丈夫でしょうか。

条件を満たせば実は付けなくてよい劇場もあるんです。
順番に確認していきましょう。

特例があるとは知りませんでした。
うちの劇場も当てはまるか心配です。

客席の広さと避難口の数がポイントになります。
まず制度の成り立ちから見ていきますね。

この記事の結論
  • 令別表第一(一)項の劇場等で、避難階の床面積500平方メートル以下・客席の床面積150平方メートル以下なら特例の対象になります。
  • 客席避難口を2以上設け、歩行距離が20メートル以下であることが条件です。
  • すべての客席避難口に、感知器と連動し手動点灯もできる非常電源付きの照明装置を設ける必要があります。
  • 誘導標識の特例は歩行距離の基準が30メートル以下と、誘導灯より緩やかです。
  • この特例はもともと構造改革特別区域法の実験的措置で、平成20年の省令改正で全国の劇場に展開されました。

劇場の誘導灯の省略特例の条件をまとめた図解

劇場の誘導灯の特例はなぜ全国展開されたのか

特区で実績を積んだ規制緩和が全国の劇場に展開される様子のイラスト
消防法令の規制緩和には、まず一部地域で試してから全国に広げるという手順を踏むものがあります。
劇場の誘導灯・誘導標識の特例も、その代表例のひとつです。
消防法施行規則の一部を改正する省令の公布について(消防庁予防課長通知、平成20年総務省令第55号・平成20年4月30日公布) 今回の改正は、構造改革特別区域法第3条第1項に基づき閣議決定された構造改革特別区域基本方針別表第1「411」に「劇場等における誘導灯及び誘導標識に関する基準の特例の適用措置」が盛り込まれており、構造改革特別地域内の一定の要件を満たす劇場等については、避難口誘導灯及び誘導標識について、それらの設置及び維持に係る消防法施行令第26条の規定を適用しないことができることとなっているところ、これまでの特区内の劇場等における当該特例措置の運営実績及びそれに伴う知見の蓄積を踏まえて検討した結果、防火安全上の支障がないことが認められたため、消防法施行規則第28条の2を改正することによって、当該特例措置の全国展開を図ることとするものです。
特区で実績を積んだ規制緩和が、そのまま全国のルールになりました。
構造改革特別区域法は、地域を限定して規制を試験的に緩和し、問題がなければ全国展開する仕組みです。
劇場の誘導灯・誘導標識の省略も、この枠組みで生まれた特例のひとつでした。
特区内での運用実績を消防庁が検証し、防火安全上の支障がないと判断されたことが全国展開の決め手になっています。
つまりこの特例は、思いつきの緩和ではなく実際の運用データに基づいた制度だということです。

特区だけの話だと思っていたので意外です。

今は全国どこの劇場でも条件を満たせば使える特例ですよ。

どんな劇場のどの階が対象になるのか

客席の床面積が150平方メートル以下の小規模な劇場のイラスト
特例が使えるのは、劇場ならどこでもというわけではありません。
建物の用途と規模、そして客席の階に条件が付いています。
消防法施行規則第28条の2第1項第2号 前号に掲げるもののほか、令別表第一(一)項に掲げる防火対象物の避難階(床面積が500平方メートル以下で、かつ、客席の床面積が150平方メートル以下のものに限る。)で次のイからハまでに該当するもの
対象になるのは映画館・劇場・演芸場・観覧場、つまり令別表第一(一)項の防火対象物だけです。
しかも建物全体ではなく、避難階、つまり地上に直接出られる階に限られます。
その避難階のうち、床面積が500平方メートル以下で客席の床面積が150平方メートル以下という小規模な劇場だけが対象です。
大規模な多目的ホールやシネマコンプレックスの大スクリーンなど、客席が広い施設は最初からこの特例の対象外になります。

うちは小さな劇場だから対象になりそうです。

面積を測って確認してみましょう。
次は具体的な条件を見ていきます。

客席避難口に求められる3つの条件とはなにか

客席避難口2箇所と歩行距離20メートル、照明装置を示すイラスト
対象になる劇場でも、誘導灯を省略できるのは自動ではありません。
客席避難口そのものに3つの条件が課されています。
ア 客席避難口(客席に直接面する避難口をいう。以下同じ。)を2以上有すること。イ 客席の各部分から客席避難口を容易に見とおし、かつ、識別することができ、客席の各部分から当該客席避難口に至る歩行距離が20メートル以下であること。ウ すべての客席避難口に、火災時に当該客席避難口を識別することができるように照明装置(自動火災報知設備の感知器の作動と連動して点灯し、かつ、手動により点灯することができるもので、非常電源が附置されているものに限る。)が設けられていること
3つの条件は、避難口の数・見つけやすさ・非常時に光る仕組みの3点セットです。
まず客席に直接面した避難口が2箇所以上あることが前提になります。
そのうえで客席のどこからでもその避難口を見通せて、歩行距離が20メートル以内であることが必要です。
最後に、すべての客席避難口には火災を感知すると自動で点灯し、手動でも点灯でき、非常電源も備えた照明装置を設けなければなりません。
誘導灯そのものは無くても、これらの照明装置が代わりに避難口を照らす役目を担います。

照明装置は誘導灯と同じものを付ければいいんですか。

誘導灯そのものである必要はありませんが、連動・手動点灯・非常電源の3つは欠かせません。

誘導灯と誘導標識で歩行距離が違うのはなぜか

誘導灯と誘導標識で歩行距離の基準が異なることを示すイラスト
同じ客席避難口の特例でも、誘導灯と誘導標識では基準の数字が違います。
この違いを取り違えると、片方だけ条件を満たさない事態になりかねません。
消防法施行規則第28条の2第3項第2号 前号に掲げるもののほか、令別表第一(一)項に掲げる防火対象物の避難階で次のイからハまでに該当するもの イ 客席避難口を2以上有すること。ロ 客席の各部分から客席避難口を容易に見とおし、かつ、識別することができ、客席の各部分から当該客席避難口に至る歩行距離が30メートル以下であること。ハ すべての客席避難口に、火災時に当該客席避難口を識別することができるように照明装置が設けられていること。
誘導灯は20メートル、誘導標識は30メートルと、歩行距離の基準が違います。
誘導灯の特例は歩行距離20メートル以下が条件でしたが、誘導標識の特例は30メートル以下と、10メートル分緩やかです。
これは通路誘導灯や誘導標識全体の基準でも、誘導灯より誘導標識のほうが歩行距離の許容範囲が広いことと同じ考え方によります。
また誘導標識側の照明装置には、誘導灯側にあった「自動火災報知設備の感知器の作動と連動」という要件が課されていません。
誘導灯を省略できても誘導標識まで省略できるとは限らないので、2つの特例は別々に条件を確認する必要があります。

誘導灯と誘導標識、両方とも同じ条件だと思っていました。

数字も連動の要否も違うので、それぞれ別に確認してくださいね。

明日からなにを確認すればよいのか

劇場の管理者が客席の寸法や避難口を確認するイラスト
特例を使うかどうかは、劇場の管理者が自分で判断できるものではありません。
まずは現状を確認し、所轄消防署へ相談することから始めます。
消防法施行令第26条第1項 誘導灯及び誘導標識は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める防火対象物又はその部分に設置するものとする。ただし、避難が容易であると認められるもので総務省令で定めるものについては、この限りでない。
まずは客席の面積と避難口の数を実測することから始めます。
客席の床面積が150平方メートル以下か、避難階の床面積が500平方メートル以下かを図面と現地の両方で確認してください。
次に客席避難口が2箇所以上あるか、歩行距離が20メートル(誘導灯)・30メートル(誘導標識)の範囲に収まっているかを測ります。
照明装置が感知器と連動しているか、手動点灯と非常電源が機能しているかは、実際に作動試験をして確かめておきましょう。
最終的にこの特例を適用してよいかどうかは、所轄消防署の判断を仰いでから決めてください。

うちの劇場もさっそく確認してみます。

測った数字を持って、所轄消防署に相談するのが確実ですよ。

よくある質問

Q客席の床面積が150平方メートルを超えたら、誘導灯は絶対に省略できないのか?
Aこの特例(規則第28条の2第1項第2号)は使えなくなります。ただし居室一般の免除規定(同項第1号、歩行距離20メートル以下・避難階以外は10メートル以下)が別途使える場合もあるので、そちらの条件も確認してください。
Q客席避難口の照明装置は、市販の誘導灯を流用してもよいか?
A誘導灯そのものである必要はなく、感知器連動・手動点灯・非常電源の3要件を満たす照明装置であれば足ります。誘導灯を転用する場合もこの3要件を満たしているか確認してください。
Q誘導標識側の照明装置にも感知器との連動が必要か?
A誘導標識の特例(第3項第2号)には連動の要件はありません。ただし識別できる照明装置を設けることは誘導灯側と共通の条件です。
Q避難階以外の階にある客席にもこの特例は使えるか?
A使えません。この特例は令別表第一(一)項の防火対象物の「避難階」に限定されており、2階以上の客席には別の免除規定を確認する必要があります。

まとめ

対象は令別表第一(一)項の劇場等の避難階に限られます。
避難階の床面積500平方メートル以下・客席の床面積150平方メートル以下が条件です。
客席避難口は2以上必要です。
誘導灯側の歩行距離は20メートル以下です。
誘導標識側の歩行距離は30メートル以下と、誘導灯より緩やかです。
誘導灯側の照明装置には感知器連動・手動点灯・非常電源の3要件が必要です。
もともと構造改革特別区域法の特区限定措置で、平成20年の省令改正で全国展開されました。

特例の条件がよく分かりました。
さっそく現地で実測します!

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法施行規則の一部を改正する省令(平成20年総務省令第55号・平成20年4月30日公布)による消防法施行規則第28条の2の改正(消防庁予防課長通知)
  • 消防法施行規則第28条の2第1項第2号・第3項第2号(避難口誘導灯・誘導標識を設置することを要しない防火対象物又はその部分)
  • 消防法施行令第26条(誘導灯及び誘導標識の設置基準)

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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