火災の現場では、消防吏員や消防団員が現場付近にいる人へ消火作業への従事を命じることができます。
一方で救急の現場では、同じ強さの権限は用意されていません。
消防法第35条の6第1項が定めているのは協力の要請であり、従事命令ではないからです。
この記事では救急業務における協力要請の性格と市町村の実施責任を消防庁の質疑応答に沿って整理します。
救急の現場で手伝ってくれ言われたら、断ったらあかんのか。
消火とは強さが違います。
救急業務については従事命令権までは考えず協力要請権に止めたものとされています。
ほなお医者さんを呼ぶんはどうなんや。現場におらん人やで。
できないとする理由はないとされています。
むしろ地元医師会等と協議のうえ措置を講じておくべきとまで述べられています。この記事でまとめて解説します!
- 救急業務については従事命令権までは考えず協力要請権に止めたものである
- 現場附近にある者以外の者に対する協力の要請ができないものとする積極的な理由はない
- 消防組織法および消防法の各第1条の災害による被害を軽減しという部分に法的根拠がありすべての市町村に救急業務を行なう責任がある
- 警察官職務執行法第3条の保護と救急業務とは性格を異にすることは明らかである
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目次
救急業務は従事命令ではなく協力要請にとどめられている

昭和40年4月9日付けの回答は、愛知県総務部長からの照会に答えたものです。
照会では現場附近にある者に対し協力を求める規定について、救急業務に関しては協力の要請とし、消防作業に関しては従事命令として特に区別した理由について如何と問われました。
火災は放っておけば燃え広がり、周囲の人命や財産にも及びます。
だからこそ強い権限が用意されているのに対し、救急は傷病者を搬送するという性格の違いから要請にとどめられたという説明です。
なお、この場合でも軽犯罪法第1条第8号の適用はあるものであることを念のため附記するとされています。
要請でも無視はできません。
軽犯罪法第1条第8号は、公務員の援助の求めに応じないことを取り上げた規定です。
命令ではないからといって、何をしてもよいということにはならないという整理になります。
現場にいない医師へ協力を求めることも否定されていない

同じ照会の一つめは、協力を求められる相手の範囲についてです。
照会では特殊な救急事故では現場において早急に医師による診断あるいは手当が必要となるが、この規定では救急隊員から事故の現場附近にある者以外のもの(医師等)に対し出動または協力の要請を行なうことはできないものと思料するがと問われました。
現場の外にも求められます。
そのうえで具体的な備えまで示されています。
したがつて市町村の消防機関としては地元医師会等と協議のうえ、かかる場合にも医師の現場への立会診断を求めるような措置を講じておくべきであるとされました。
条文にないからできない、で終わらせず、あらかじめ医師会と話をつけておけという積極的な姿勢が示されている点が特徴的です。
すべての市町村に救急業務を行なう責任がある

救急業務を実施する責任は、どの市町村にあるのでしょうか。
照会では消防法第35条の5第1項は政令の基準に該当する市町村に対してのみ救急業務の実施責任を課しており、それ以外の市町村に対しては何の規定もなく救急業務の実施責任はないものと思料されるという見方が示されました。
消防組織法及び消防法の各第1条に規定する災害による被害を軽減しという部分に救急業務に関する法的根拠があるわけであるから、顕在的であると潜在的であるとを問わずすべての市町村に救急業務を行なう責任があるとされました。
では条文で区別されているのは何なのかという点にも答えています。
ただ、それが市町村消防の現状からして人口段階により具体的に実施義務を課されているものと潜在的にその責任ありとされているものとに区別されているに過ぎないとされています。
小さな市町村であっても潜在的には責任を負っているという位置づけになります。
市町村間の救急応援協定は広域消防の見地から望ましい

実施義務が課されていない市町村について、周辺と協定を結ぶべきかも問われました。
照会は消防法第35条の5第1項に該当する市町村以外の市町村について応援協定あるいは協議会等により救急業務態勢の万全を期させる必要があるかというものです。
短い回答ですが、市町村の枠を越えて備えるべきという方向がはっきり示されています。
前の項目でみたとおり、すべての市町村に潜在的な責任があるという整理と対になっています。
自前で救急隊を持てない市町村であっても、協定や協議会という形で態勢を確保することが求められるということです。
警察官職務執行法の保護と救急業務は性格を異にする

昭和41年4月5日付けの回答は、和歌山県総務部長からの照会に答えたものです。
警察官職務執行法第3条第1項第2号は、負傷者などを保護しなければならない場合について定めており、救急業務との関係が問われました。
警察の保護は公安の維持という目的のための制度であり、時間的な制限も設けられています。
これに対して救急業務は傷病者を医療機関へ搬送することを任務としており、目的が異なるという整理です。
ただし、相互の協力は必要であるとされています。
別の制度でも協力は要ります。
よくある質問
まとめ
- 消火作業への従事命令権は火災の場合は主として延焼危険の排除の目的によるものである
- 救急業務の場合は態様と性格からみて従事命令権までは考えず協力要請権に止めたものである
- 協力要請の場合でも軽犯罪法第1条第8号の適用はあるものである
- 現場附近にある者以外の者に対する協力の要請ができないものとする積極的な理由はない
- 市町村の消防機関は地元医師会等と協議のうえ医師の現場への立会診断を求める措置を講じておくべきである
- 災害による被害を軽減しという部分に法的根拠がありすべての市町村に救急業務を行なう責任がある
- 市町村間の応援協定や協議会等は広域消防の見地からきわめて望ましいことである
- 警察官職務執行法第3条の保護と救急業務とは性格を異にするが相互の協力は必要である
命令やのうても、頼まれたら応じるんが筋っちゅうことやな。
そのとおりです。
事業所での急病や事故に備えた通報と応急手当の手順づくりもご相談ください。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第1条・第29条・第35条の5・第35条の6 e-Gov法令検索
- 消防組織法(昭和22年法律第226号)第1条・第6条 e-Gov法令検索
- 警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)第3条 e-Gov法令検索
- 軽犯罪法(昭和23年法律第39号)第1条 e-Gov法令検索
- 救急業務実施基準(昭和39年3月3日自消甲教発第6号)第4条
- 救急事故現場附近にある者に対する協力要請について(昭和40年4月9日付け 教養課長から愛知県総務部長あて回答)
- 市町村間における救急応援協定について(昭和40年4月9日付け 教養課長から愛知県総務部長あて回答)
- 市町村消防機関における救急業務の実施責任について(昭和40年4月9日付け 教養課長から愛知県総務部長あて回答)
- 消防法第35条の5と警察官職務執行法第3条との関連について(昭和41年4月5日付け 教養課長から和歌山県総務部長あて回答)
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)の市町村の救急業務に関する質疑応答を参考に、独自に解説を作成
※本記事は2026年8月時点の法令解釈に基づく一般的な解説です。個別の運用については所轄消防署にご確認ください。




