BLOG

救急車はなぜ無料なのか|市町村の救急業務と救急隊の設置基準

消防署の車庫に停まる後部扉を開けた救急車

救急車を呼んでも料金はかかりません。
これは慣行ではなく、古くから示されてきた法令解釈に基づくものです。
救急業務とは何か、なぜ費用を求めないのか、救急隊はどう配置されるのかは、あまり知られていません。
この記事では市町村の救急業務をめぐる扱いを消防庁の質疑応答に沿って整理します。

救急車はなぜ無料なのでしょうか。

昭和28年に整理されています。
回答では個人から手数料その他の金銭をとらないことが建前であると解されるとされています。

救急隊の数に決まりはあるのでしょうか。

基準はありますが固定ではありません。
人口10万につき1隊が基本ですがこの基準を固執する必要はないとされています。
この記事でまとめて解説します!

この記事の結論
  • 救急車の出動に要した経費は当該市町村の負担となすべきであつて出動の対象となつた個人から手数料その他の金銭をとらないことが建前である
  • 消防法にいう救急業務は救急隊によつて医療機関その他の場所に搬送することと定義されている
  • 救急隊の設置は人口10万につき1隊が基本だが立地条件や救急事故件数等を勘案して増設すべきで基準を固執する必要はない
  • 市町村間の救急業務の応援は相互応援や一部事務組合や協議会や事務委託のいずれかの方式による

救急車の出動費用は個人からとらないことが建前とされている

救急車の横に置かれた硬貨に赤い禁止の斜線が引かれたイラスト

昭和38年2月13日付けの回答は、彦根市消防長からの救急出動と料金制についての照会に答えたものです。
照会では救急自動車を出動させた場合被救護者より手数料等の名目で料金を徴収することが出来るか否かなどが問われました。

この件について示された行政実例が、昭和28年6月12日に総務課長から豊中市消防長あてに出された回答です。
そこでは救急車は市の財産又は営造物であると思料されるが、それの運用について受益者から料金又は実費弁償的な金銭を要求することができるかと問われていました。

回答はまず、地方自治法上の各制度に当てはまるかを順に検討します。
分担金とすることは利益のある事件を要件とする意味から救急車には不適当であるし、使用料は第三者使用を意味するのでこれに該当しないとされ、強いていえば特定個人のためにする場合という面から手数料とみられないこともないと述べられます。
しかし結論は明確です。
そもそも救急車の出動をなす場合は、消防機関に附与された任務を遂行するためのものであるので、その出動に対してたとえ若干の経費を要したにせよ、それは消防組織法第8条の規定の趣旨に鑑み、これを当該市町村の負担となすべきであつて、出動の対象となつた個人から手数料その他の金銭をとらないことが建前であると解されるとされました。
市町村が負担するのが建前です

救急車の出動は消防機関に与えられた任務の遂行であって、個人へのサービスの提供とは位置づけが違うという考え方です。
だから費用は個人ではなく市町村が負う、という筋道になっています。

個人から金銭をとらないことが建前なのですね。

古くから整理されています。
費用の扱いは、市町村の制度で確かめてください。

救急業務は搬送することと法律で定義されている

担架を積み込む救急車と離れて建つ医療機関のイラスト

そもそも救急業務とは何を指すのでしょうか。
消防法第2条第9項の定義が回答の中で引かれています。

救急業務とは、災害により生じた事故若しくは屋外若しくは公衆の出入する場所において生じた事故又は政令で定める場合における災害による事故等に準ずる事故で政令で定めるものによる傷病者で医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要があるものを、救急隊によつて、医療機関その他の場所に搬送することをいうとされています。

この定義の要点は救急隊によって医療機関その他の場所に搬送することという部分にあります。
搬送という行為が業務の中核に据えられているということです。

回答では地方自治法にいうり災者の救護との違いも整理されています。
地方自治法上のり災者の救護が広範かつ広義の抽象的な救護に関する規定であるのに対し、消防法上の救急業務は限定的かつ具体的な救護に関する制度であるとされました。

経緯も説明されています。
救急業務は昭和38年4月に法制化され、翌39年4月に施行されるに至つたもので、それ以前は市町村の消防機関が救急業務を実施するための明確な法的根拠がなかつたとされています。
法制化は昭和38年です

救急業務は、搬送することが中核なのですね。

法律で定義されています。
事業所での対応は、搬送までのつなぎと考えてください。

救急隊の設置は人口10万につき1隊を基本としつつ増設できる

街の区画に救急車が配置されたイラスト

救急隊をいくつ置くのかについても照会があります。
人口29万の市から救急業務実施基準第3条第1項の規定によつて人口10万につき1隊を設置することとされているが、当市の設置すべき救急隊は2隊とすべきか又は3隊とすべきかと問われました。

回答は救急業務実施基準第3条第1項は救急隊の基本的な設置基準を定めているので、貴市の場合、30万をこえていないから基本的には2隊とすべきであるとしつつ、続けて重要な判断を示します。

貴市の立地条件、救急事故件数等から勘案して2隊の救急隊では十分でない場合には、同基準同条第2項の規定に基づいてさらに1隊を増設し、計3隊とすべきであつて、人口10万につき1隊という基準を固執する必要はないとされました。

人口だけでは決まりません
実情に応じて上積みすべきという姿勢が示されています。

基準はあっても、固定ではないのですね。

増設できる余地があります。
地域の体制は、消防年報などで確認できます。

立地条件その他の事情として五つの例が示されている

幹線道路と工場と温泉地がある地域のイラスト

では増設の根拠となる立地条件その他の事情とは何を指すのでしょうか。
具体的に示されたいという照会に対し、五つの例示が示されています。

一つめは市町村の区域と救急自動車の行動範囲との関係が著しく不均衡であることです。
二つめは幹線道路等の沿線に所在し、通過交通量が著しく多いこととされています。
三つめは特殊な工場、事業所等が所在し、労働災害等の発生率が高いことです。
四つめは観光地等で、常時多数の滞在人口を有すること、五つめは昼夜間人口の差が著しく大きいこととされています。

いずれもそこに住んでいる人の数だけでは測れない需要を拾うための視点です。
工場地帯や観光地、オフィス街などは、昼間に人が集まることで救急需要が跳ね上がります。

なお政令指定市以外の市町村についても救急業務実施基準は一応政令指定市の救急業務の実施に関する諸基準を定めたものであるが、救急業務は人命に重大な影響を有する業務であり、実施基準は人命尊重の根本精神に立脚し、関係当局の意向を十分しんしやくして定めたものであるから、政令指定市以外の市町村の消防機関が救急業務を実施する場合も実施基準によることが至当であるとされています。

人口だけでは測れない需要も見ているのですね。

五つの例が示されています。
昼間人口の多い施設は、事故の想定も多めに見ておきましょう。

市町村をまたぐ救急の応援は四つの方式のいずれかによる

四つの市街地が輪で結ばれたイラスト

昭和39年2月13日付けの回答は、名古屋市消防長からの照会に答えたものです。
照会では救急業務未開始の周辺町村域で市内電話分布のもとにある住民から電話をもつて直接救急隊の要請が行なわれることから、これを受付けて救護の手をさしのべるには協力的負荷の立場をとつて当該責任区域の外に救急隊を出動せしめることが生じるという実情が述べられ、あらかじめ文書で締結しておく方法が問われました。

回答では市町村間における救急業務の応援等については市町村間の事情により次のいずれかの方式によつて実施されたいとして四つが挙げられます。
一つめは消防組織法第21条に基づく相互応援による方式です。
二つめは地方自治法第284条の規定により一部事務組合を設けて共同で処理する方式、三つめは地方自治法第252条の2の規定による協議会を設けて処理する方式、四つめは地方自治法第252条の14の規定により事務を委託する方式とされています。

いずれの形をとるにせよ、あらかじめ取り決めておくことが前提になっています。
事前の締結が求められます

市町村をまたぐ応援にも、方式があるのですね。

いくつかの形が示されています。
境界に近い事業所は、通報先を確かめておいてください。

よくある質問

Q. 救急車を呼ぶと料金がかかりますか?
救急車の出動に対してたとえ若干の経費を要したにせよ、それは消防組織法第8条の規定の趣旨に鑑み当該市町村の負担となすべきであって、出動の対象となった個人から手数料その他の金銭をとらないことが建前であると解されるとされています。
Q. 救急業務とは何を指しますか?
消防法第2条第9項で、災害により生じた事故等による傷病者で医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要があるものを、救急隊によって医療機関その他の場所に搬送することをいうと定義されています。
Q. 救急隊は人口だけで数が決まりますか?
決まりません。立地条件や救急事故件数等から勘案して十分でない場合にはさらに増設すべきであって、人口10万につき1隊という基準を固執する必要はないとされています。
Q. 隣の市町村へ救急車が出動することはありますか?
あります。市町村間における救急業務の応援等は、消防組織法第21条に基づく相互応援、一部事務組合、協議会、事務の委託のいずれかの方式によって実施されたいとされています。

まとめ

  • 救急車の出動は消防機関に附与された任務を遂行するためのものである
  • 出動に要した経費は消防組織法第8条の趣旨に鑑み当該市町村の負担となすべきである
  • 出動の対象となつた個人から手数料その他の金銭をとらないことが建前であると解される
  • 救急業務とは救急隊によつて医療機関その他の場所に搬送することをいう
  • 救急業務は昭和38年4月に法制化され翌39年4月に施行された
  • 救急隊の設置は人口10万につき1隊が基本だがこの基準を固執する必要はない
  • 立地条件その他の事情として区域と行動範囲の不均衡や幹線道路や工場や観光地や昼夜間人口差が例示されている
  • 市町村間の応援は相互応援か一部事務組合か協議会か事務委託のいずれかの方式による

昼間だけ人が増える街も、数に入れているのですね。
すっきりしました。

そのとおりです。
事業所での急病や労働災害に備えた体制づくりについてもご相談を承ります。

参考・出典

  • 消防法(昭和23年法律第186号)第2条・第35条の5・第35条の8 e-Gov法令検索
  • 消防組織法(昭和22年法律第226号)第8条・第21条 e-Gov法令検索
  • 地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条・第217条・第220条・第222条・第252条の2・第252条の14・第284条 e-Gov法令検索
  • 救急業務実施基準(昭和39年3月3日自消甲教発第6号)第3条・第27条
  • 救急出動と料金制について(昭和38年2月13日付け 教養課長から彦根市消防長あて回答/別紙は昭和28年6月12日総務課長から豊中市消防長あて回答)
  • 市町村間における救急業務の応援について(昭和39年2月13日付け 教養課長から名古屋市消防長あて回答)
  • 救急隊の設置基準について/救急業務実施基準第3条第2項にいう「立地条件その他の事情」とは/政令指定市以外の救急態勢について/り災者の救護と救急業務について
  • 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)の市町村の救急業務に関する質疑応答を参考に、独自に解説を作成

※本記事は2026年8月時点の法令解釈に基づく一般的な解説です。個別の運用については所轄消防署にご確認ください。

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動
BLOGカテゴリ
最新の記事
防火管理者代行サービス
無料1分概算見積
消防署の車庫に停まる後部扉を開けた救急車
救急車を呼んでも料金はかかりません。 これは慣行ではなく、古くから示されてきた法令解釈に基づくものです。 救急業務とは何か、なぜ費用を求めないのか、救急隊はどう配置されるのかは、あまり知られていません。 この記事では市町...
リクルート 採用情報はこちら →
採用ページ 一緒に働く仲間を募集中 → フランチャイズ (株)防災屋と一緒に開業する → 協力業者 協力業者さん募集中 →