消防法第29条第5項は、緊急の場合に火災現場付近に在る者を消防作業に従事させることができると定めています。
従事した人が怪我をしたり、持ち込んだ機械が壊れたりしたとき、誰がどこまで補償するのでしょうか。
消防法第36条の2の補償の対象から外れた場合に、まったく救済がないのかも気になるところです。
この記事では消防作業従事者の要件と補償の範囲を消防庁の質疑応答に沿って整理します。
消防に頼まれて重機を出したところ、壊れてしまいました。
弁償してもらえるのでしょうか。
補償の対象になりえます。
実際の事例では時価により当該市町村が補償すべきとされ、しかも間接の損失まで含まれると示されています。
補償の対象外だった場合は、あきらめるしかないのでしょうか。
そこは道が残されています。
対象とならない場合でも国家賠償法又は民法の損害賠償に関する規定は排除されないとされています。
この記事でまとめて解説します!
- 消防のために使用されなかったならば損失を受けなかったと社会通念上妥当に判断されうる場合はその損失も補償すべき損失の中に含まれる
- 消防団長から消防作業を要請されて出動した者は消防法第29条第5項の消防作業従事者であると解する
- 第29条第5項は第36条の2の規定による第29条第5項関係の補償の要件である
- 第36条の2の補償の対象とならない場合でも国家賠償法又は民法の損害賠償に関する規定は排除されない
▼
目次
消防のために使った機械の損失は間接の分まで補償されうる

昭和31年9月24日付け国消総発第107号は、破壊消防に対する補償の限界についての照会です。
事案は具体的で、延焼防止のため所有者の承諾を得て土建業者のブルドーザーを現場へ移動させ破壊作業にあたらせたところ、途中でキヤタピラの故障により路上において坐傷し焼燬したというものでした。
問題はここから先です。
照会では、そのブルドーザーが坐傷したために自家が延焼し、さらに自家敷地内に在庫のブルドーザーが牽引できなかったために在庫のまま焼燬したという関連の損害についても補償を求められるかが問われました。
間接の損失も含まれます。
直接に壊れた機械だけでなく、それが持ち出されたことで守れなくなった財産まで視野に入れた判断です。
ただし条件として社会通念上妥当に判断されうる場合という限定が付いています。
間接の損失まで含まれた例があるのですね。
時価で補償された事案です。
協力したときは、経過と損害を記録に残してください。
消防団長から要請を受けて出動した者は消防作業従事者にあたる

昭和33年7月29日付け国消総発第65号は、痛ましい事故についての照会です。
火災現場に向かう自動三輪車が転落し、多数の負傷者が出た事案について、報告の3名を消防法第29条第5項の消防作業従事者として取扱うことができるかが問われました。
要請を受けた時点で従事者です。
この照会に添えられた災害状況報告書には、山間部の消防活動の実情が細かく記されています。
人家は道路からいずれも1キロメートル以上の上部に散在しており、5本のホースを運搬するにも2人の人員を要し、燃料や吸水管やポンプ等それぞれ人の肩を借りて道路まで運び出さねばならず、出動の際団員外の者も協力して機械運搬をすることが山間消防の常識となつており、それなくしては山間僻地の消防活動は万全を期せられないのが現状であるという記述です。
団員だけでは活動が成り立たない地域では、住民の協力が前提として組み込まれていることが分かります。
だからこそ、その協力者をどう位置づけるかが補償の面で重要になります。
要請を受けて出動した人も、従事者になるのですね。
該当するとされました。
誰の要請で動いたかを、必ず控えておきましょう。
第29条第5項は第36条の2による補償の要件にあたる

昭和38年10月9日付け自消丙予発第67号は、条文の位置づけを問う照会です。
照会では第29条第5項は消防吏員又は消防団員が従事命令を発しうる要件を定めたものであつて、従事命令により消防作業に従事するものの補償の実施条件を規定したものでないと解して差し支えないかと問われました。
照会の見方は採られず、補償の要件そのものと位置づけられました。
つまり第29条第5項が定めているのは、命令を出せる場面の話にとどまりません。
補償を受けられるかどうかを決める条件でもあるという整理です。
条文は、補償の要件として働くのですね。
位置づけが整理されています。
手続きの根拠を、市町村に確認してください。
補償の対象外でも国家賠償法や民法の規定は排除されない

同じ照会の後段では、要件を満たさないまま従事命令が出された場合が問われています。
消防吏員又は消防団員がたとえ前段の要件のいずれかを具備せざるまま従事命令を発し、それにより消防作業に従事中補償すべき事実が生ずれば、同法第36条の2により補償すべきものと解して差し支えないかという問いでした。
ただし回答はそこで終わっていません。
ただし第36条の2の補償の対象とならない場合においても、国家賠償法又は民法の損害賠償に関する規定は排除されないので、念のためと付け加えられています。
消防法の補償から外れても、国家賠償法や民法による損害賠償の請求という道は閉ざされないという整理です。
要件を欠いていても、補償される場合があるのですね。
扱いが示されています。
迷う事案ほど、記録の有無が効いてきます。
埋設された砲弾の爆発については国の賠償責任が消極に解された

昭和33年6月2日付け国消総発第35号は、国家補償が問題になった事例です。
山林に延焼した火災で消防協力援助者として消火作業中、山林内に埋設されていた旧軍隊砲弾が3回にわたり爆発し、その破片により負傷して160日間の治療を要し障害を残したという事案でした。
そのうえで疑義が示されました。
埋設砲弾について国は管理上の責任を負うべきものであるかどうか、又は管理責任を負うものとしても国の管理の属しない場所で自然爆発等を起した場合において、これが国家賠償法に定めるところの管理等に瑕疵があつたときに該当するかどうかについて疑義があるとされています。
あわせて現在のところ、おたずねのような事故に対して国が損害賠償を行なつた事例はないとも添えられています。
前の項目でみたとおり国家賠償法の道は残されていますが、それが常に認められるわけではないということでもあります。
どの枠組みで救済を求めるかは、事案ごとに検討が要る問題です。
認められなかった事例もあるのですね。
個別の事情で判断されます。
まずは市町村や所轄消防署に相談してください。
よくある質問
まとめ
- 消防のために使用された機械が損傷した場合は時価により当該市町村が補償すべきものと解する
- 消防のために使用されなかったならば損失を受けなかったと社会通念上妥当に判断されうる場合は間接の損失も含まれる
- 火災発生後に消防団長から消防作業を要請されて出動した者は第29条第5項の消防作業従事者である
- 山間部では出動の際に団員外の者も協力して機械運搬をすることが常識となっている実情がある
- 第29条第5項は第36条の2の規定による第29条第5項関係の補償の要件である
- 第36条の2の補償の対象とならない場合でも国家賠償法又は民法の損害賠償に関する規定は排除されない
- 旧軍隊の埋設砲弾の爆発による負傷について国の賠償責任は消極に解せられるとされた
- 鉄道又は軌道の踏切も消防法第29条第3項の消防対象物および土地に含まれる
消防法で難しくても、別の道が残されているのですね。
すっきりしました。
そのとおりです。
ただし個別の請求は事案ごとの判断になります。
まずは市町村や所轄消防署への確認をおすすめします。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第29条・第36条の2 e-Gov法令検索
- 国家賠償法(昭和22年法律第125号)第2条 e-Gov法令検索
- 破壊消防に対する補償の限界は(昭和31年9月24日付け国消総発第107号 総務課長から大館市消防課長あて回答)
- 旧軍隊砲弾の爆発による負傷者に対する国家補償について(昭和33年6月2日付け国消総発第35号 総務課長から徳島県市町村消防従事者災害補償組合長あて回答)
- 消防災害の認定について(昭和33年7月29日付け国消総発第65号 総務課長から愛媛県消防関係災害補償組合長あて回答)
- 鉄(軌)道の踏切は消防法第29条第3項の消防対象物および土地に含まれるか(昭和36年11月29日付け自消丙予発第31号 予防課長から大阪市消防局長あて回答)
- 消防作業従事者の公務災害補償について(昭和38年10月9日付け自消丙予発第67号 予防課長から新潟県消防課長あて回答)
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)の消火活動中の緊急措置等に関する質疑応答を参考に、独自に解説を作成
※本記事は2026年8月時点の法令解釈に基づく一般的な解説です。個別の運用については所轄消防署にご確認ください。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)




