大きな災害が起きて、隣の県の消防に来てほしい。
知事から相手の県の知事に、応援を要請すればよいのか。
回答は、それはできないとしました。
理由は知事が消防を動かす権限を持たないからです。
他の都道府県知事に、その県内の消防機関の応援を要請できるのでしょうか。
できません。
知事は消防に対し他県の災害防除に応援するよう指示する権限がないためです。
この場合は消防組織法により消防庁長官に要請すべきとされました。
遠く離れた市どうしで、直接に相互応援の協定を結ぶのはどうでしょうか。
法律上は可能ですが、県どうしの相互応援協定により処理することが望ましいとされています。
遠隔市町村間の協定は実効性が乏しいという指摘です。
- 他の都道府県知事にその都道府県内の消防機関の応援を要請することはできません
- この場合は消防組織法第24条の3の規定により消防庁長官に要請すべきとされました
- 遠隔市町村間の相互応援協定は法律上は可能ですが、県間の相互応援協定により処理することが望ましいとされています
- 災害救助法が適用されない災害の場合、知事は災害対策基本法第71条に基づく従事命令または協力命令を発することができません
- 知事の従事命令権または協力命令権は市町村長に委任できますが、連絡がとれない恐れがある場合等に限られます
▼
目次
遠く離れた市町村と協定を結べるか

長野県松本市および長野市と、神奈川県川崎市との間で、災害時における食料の供給等に関する相互応援協定を結ぶ動きがある。
このような遠隔市町村間の相互応援協定は可能か。
長野県松本市、長野市と神奈川県川崎市の間で災害時における食料の供給等に関する相互応援協定を締結する動きがあるが、このような遠隔市町村間の相互応援協定の可否についてご指導願いたい。
(理由)
1 法第67条の規定による他の市町村長等に対する応援の要求は、当該市町村の属する都道府県内の市町村長等に対するものとは限定されておらず、他の都道府県に属する市町村長等に対しても応援することは可能であると解される。
2 しかし、遠隔市町村間の応援協定は、その実効性が乏しく、都道府県の協力がなければ、協定内容の実現は困難である。
3 遠隔市町村の相互応援協定が全国的に行なわれた場合、国および都道府県が行なう総合的計画的防災行政に支障となることが考えられる。
4 遠隔市町村の応援を受けなければならないような災害は、広域地方公共団体である都道府県または国の責任で処理するのに適していると思われる。
可否を聞かれて、可としたうえで別の方法を勧めています。理由が4つ並んでいるのが特徴です。
1つ目は根拠の確認です。第67条の応援要求は同じ県内に限られていないので、他県の市町村にも応援を求められます。ここは前の記事で見た回答と一致します。
2つ目からが実質です。遠隔地の市町村どうしの協定は実効性が乏しく、都道府県の協力がなければ実現が困難。3つ目は、それが全国的に広がると国と都道府県の総合的計画的な防災行政に支障が出る。
4つ目が本質です。遠隔地の応援が要る規模の災害は、そもそも都道府県または国が処理する領域だということです。
規模に応じて動く単位を上げる。市町村どうしで手をつなぐより、県どうしでつないだほうが実際に届く。そういう整理です。
できるとしても、望ましくない場合があるのですね。
実効性が理由です。
協定の相手は、距離も含めて考えてください。
救助法が適用されない災害での従事命令

集団的に発生する傷病者に対する救急医療対策のため、知事は民間の医療関係者に出動を要請したい。
災害対策基本法第71条に基づいて従事命令または協力命令を発することができるか。
(法第71条の規定は、同法第50条第1項第4号から第9号までに掲げる応急措置について適用できるものであるが、救急医療は第3号に該当するものであれば適用できず、第6号もしくは第9号に該当するものであれば適用できることになると考えるがどうか。)
(理由)救急医療は、災害対策基本法第50条第1項第3号に該当するものと考えられる。
質問者は自分で答えの見当をつけていました。第3号なら適用できず、第6号か第9号なら適用できる。回答はそのうちの前者だと確定させています。
第71条は、第50条第1項第4号から第9号までの応急措置について使える規定です。救急医療は第3号に当たるので、第71条の外側になります。
つまり知事は、災害救助法が適用されない災害では、この条文で医師を動かすことができません。
前の記事で見たとおり、市町村長は第65条により、消防吏員や消防団員は消防法第29条第5項および第36条により医療関係者を救急医療に従事させられます。
同じ場面で、市町村と消防には道があり、知事にはない。号の割り振りひとつで、動かせる主体が変わります。
号が違えば、命令は出せないのですね。
適用の場面が分かれます。
根拠の条文を、事前に確かめてください。
従事命令権を市町村長に委任できるか

災害対策基本法第71条第2項は、知事の権限の一部を市町村長に委任できると定めています。
そこに従事命令権や協力命令権も含まれるのか。災害救助法では委任できないと解されているので疑念がある、という照会でした。
(災害救助法においては、従事命令権または協力命令権は委任できないと解されているので疑念をいだくものである。)
(理由)
災害対策基本法第71条第2項では都道府県知事の権限の一部を市町村長に委任することができると規定しているが、委任できる事項を明示していない。地方自治法第15条第2項では都道府県知事が市町村長に委任する場合には、知事の権限であれば委任できると解されているので、特に委任事項が明示されていない本条の場合は、従事命令権または協力命令権も委任できると解する。
ただし、このような委任規定は、都道府県知事がその権限をすみやかに行使できない事態のために設けられているのであるから、たとえば市町村が離島、山間僻地のように都道府県庁から遠隔地にあるため災害時に連絡がとれない恐れがある場合等に限られる。
結論はお見込みのとおり。委任できます。
根拠の立て方が丁寧です。第71条第2項には委任できる事項が書かれていない。書かれていないなら何が委任できるのか。ここで地方自治法第15条第2項の考え方を持ってきて、知事の権限であれば委任できると解しています。
災害救助法とは結論が分かれました。同じ従事命令権でも、根拠となる法律の書きぶりが違えば扱いが変わるということです。
そのうえで、ただし書きが実務を縛ります。この委任規定は知事が権限をすみやかに行使できない事態のためにある。だから離島や山間僻地のように、県庁から遠くて災害時に連絡がとれない恐れがある場合等に限られます。
できるからといって、平常時から手広く委任しておく制度ではありません。
委任できる範囲も限られるのですね。
結論と限定がセットです。
権限の範囲を、書面で整理してください。
アマチュア無線士に協力命令を出せるか

災害時に通信が途絶えたとき、アマチュア無線は有力な手段になります。
第71条第1項の協力命令を、アマチュア無線士に発することができるか。
2つに分けた回答です。命令としては無理だが、別の枠なら活用できる。
使えないと切って終わらせず、非常無線協議会のメンバーとして活用することは差支えないと道を示しています。
命令と協力は違います。命令は相手の意思にかかわらず義務を課す仕組みなので、対象は法令が定めた範囲に限られます。協議会に入ってもらうのは、あらかじめ話をつけておく取り組みです。
現階段では無理という書きぶりからは、当時の制度がまだ追いついていなかったことがうかがえます。
考え方としては、いま事業所が近隣と災害時の協力を取り決めるのと同じです。命令の根拠がないなら、平常時に取り決めておくしかありません。
命令ではなく、別の枠で活かす道があるのですね。
協議会の仕組みです。
協力してもらえる団体を、把握しておきましょう。
他県の消防機関に応援を要請できるか

災害対策基本法第74条により、知事は他の都道府県知事に応援を求めることができます。
その求める中身として、相手の県内の消防機関の応援を要請できるか。
(理由)
災害対策基本法第74条にもとづく応援の要請は、知事の権限内の応援要請にかぎるもので、知事の権限に属さない事項について同条により応援要請をしても意味がない。知事は消防に対し他県の災害防除に応援するよう指示する権限はない。このような場合は、消防組織法第24条の3の規定により消防庁長官に要請すべきである。
できないという結論の理由が、条文の性質そのものにあります。
第74条の応援要請は、知事の権限内のことについて行うものです。相手の知事が持っていない権限を求めても意味がない。そして知事は、消防に対して他県の災害防除に応援するよう指示する権限を持っていません。
消防は市町村の責任で運営される仕組みだからです。県が消防に命じられる立場にない以上、県に頼んでも動きません。
そこで正しい相手が示されています。消防組織法第24条の3により消防庁長官に要請する。広域応援は国の枠組みで動かします。
前の項目までと合わせると、この章の一貫した考え方が見えます。頼む相手はその権限を持つ者に限る。市町村どうしなら第67条、遠隔地なら県どうし、消防の広域応援なら消防庁長官。相手を間違えると、いくら要請しても応援は届きません。
相手を間違えると、要請が届かないのですね。
権限の所在で決まります。
連絡先には、決められる範囲まで書いておいてください。
よくある質問
まとめ
- 遠隔市町村間の相互応援協定は法律上は可能ですが県間の協定で処理することが望ましいとされました
- 遠隔地の応援を要する災害は都道府県または国の責任で処理するのに適しているとされています
- 救急医療は第50条第1項第3号に当たるため、知事は第71条の従事命令を発せません
- 知事の従事命令権や協力命令権は市町村長に委任できます
- ただし委任は連絡がとれない場合等に限られます
- アマチュア無線士は非常無線協議会での活用は差支えないが、第71条の従事または協力は無理とされました
- 他県の消防機関の応援は消防組織法第24条の3により消防庁長官に要請します
頼む相手は、その権限を持っている人でないと意味がないのですね。
すっきりしました。
連絡先を並べておくだけでなく、誰が何を決められるかまで書いておくのが要点です。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 遠隔市町村間の相互応援協定の締結について(昭和45年3月 長野県あて回答)
- 救急医療対策に従事する民間医療関係者の出動要請について(昭和42年12月 山口県あて回答)
- 従事命令権または協力命令権の委任について(山口県あて回答)
- アマ無線士に対する協力命令について(昭和39年7月21日 自消丙総発第167号 佐賀県あて回答)
- 他の都道府県知事に対するその都道府県内の消防機関の応援要請について(昭和45年2月 福島県あて回答)
- 災害対策基本法第50条第1項・第67条・第71条・第74条
- 消防組織法第24条の3
- 地方自治法第15条第2項
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した回答には昭和30年代から40年代のものが含まれ、条番号や機関の名称等は当時のものです。個別の事案についての適用は、所轄消防署または自治体にご確認ください。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)




