災害が起きたとき、市町村長は住民に応急措置への従事を命じることができます。
では、その住民に、市内の会社へ通勤しているだけの人は含まれるのか。
回答は含まれないとしたうえで、別の道を示しました。
住民でなくても現場にある者なら従事させられます。
市内に勤務しているだけの人も、応急の措置に従事させられるのでしょうか。
含まれません。
ただし住民でない者についても現場にある者については従事させることができるとされています。
医師に従事を命じた場合、日当や旅費は払えるのでしょうか。
現行法では実費弁償の規定がなく弁償する義務はないが、資器材の補償のほか日当、手当、旅費等を必要に応じて支出することは差しつかえないとされました。
- 私人の土地に工作して災害防止の措置をした費用は、災害対策基本法第64条第5項では徴収できません
- 第65条第1項の「住民」は地方自治法第10条第1項と同義で、勤務地があるだけの者は含まれません
- 住民でない者についても「現場にある者」については従事させることができます
- 市町村長は消防吏員または消防団員により医療関係者を救急医療に従事させられますが、水防管理者等はできません
- 医療関係者への実費弁償の義務はありませんが、資器材の補償のほか日当や手当や旅費等の支出は差しつかえありません
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目次
私人の土地に工作した費用は請求できるか

土砂採集や宅地造成の現場で災害に対する措置が不十分で危険なため、市町村長が応急措置として私人の土地に工作し、災害防止の措置をした。
その費用を、土地の持ち主に請求できるか。
なお、法第59条による事前措置の場合は、行政代執行手続により可能である。
2つの条文それぞれについて、取れない理由が示されています。
第64条第5項は費用の徴収を定めた規定ではない。第91条は国と都道府県と市町村の間の財政負担の原則を定めたもので、私人との関係を定めた規定ではない。
つまり、条文を探す方向が違っていたということです。
そのうえでなお書きに道が示されています。第59条による事前措置なら、行政代執行手続により可能です。
第64条は災害が起きたあとの応急措置、第59条は災害の前の事前措置です。前に打った手なら代執行の枠に乗り、費用を取れる。あとから打った手では取れない。
費用の回収という観点からも、事前措置を使えるうちに使う意味があるということです。
費用を請求できない場合もあるのですね。
条文ごとに理由が示されています。
費用の負担は、根拠から確かめてください。
従事させられる住民の範囲

この住民に、勤務地が市町村内にあるだけの人は含まれるのか。
なお、住民でない者についても「現場にある者」については、従事させることができることは、いうまでもない。
含まれない理由が丁寧に説明されています。
従事義務は、その市町村という団体の構成員だから負担を分け合う、という考え方から出てきます。構成員かどうかは地方自治法第10条第1項で決まり、そこでいう住民は市町村の区域内に住所を有する者です。
通勤しているだけでは住所がありません。だから構成員ではなく、負担を分任する義務も生じない。
ただし、なお書きが重要です。住民でない者でも現場にある者なら従事させられます。
実際の災害現場では、住民かどうかを確認している余裕はありません。この2つを合わせると、現に居合わせた人には頼めるということになります。逆に、住んでいない人をわざわざ呼び出すことはできません。
義務の根拠は、住所にあるのですね。
構成員だからという理由です。
協力を求める相手を、整理しておいてください。
医師を救急医療に従事させられるか

市町村長は第65条により、消防吏員または消防団員は消防法第29条第5項および第36条により、医療関係者を救急医療に従事させることができるか。
また、水防管理者や水防団長や消防機関の長は、水防法第17条により同じことができるか。
(理由)
(1) 当該市町村長は、医療関係者が当該市町村の区域に居住しているか、または当該応急措置を実施すべき現場にあれば法第65条により従事命令を発せる。
(2) 消防法第29条第5項に規定する「人命の救助その他の消防作業」の中には、負傷者の手当または看護を含むと解される。
結論が2つに分かれました。市町村長と消防はできる。水防管理者等はできない。
理由(2)が実務的です。消防法第29条第5項の人命の救助その他の消防作業には、負傷者の手当または看護が含まれる。だから消防吏員や消防団員が医師に手当を頼むことは、消防作業への従事を求めることとして説明できます。
理由(1)は前の項目と同じ考え方です。医療関係者が区域内に居住しているか、現場にあれば、市町村長は第65条で従事命令を出せます。
水防管理者等ができないのは、水防法第17条の枠に医療の提供が入ってこないためです。
同じ場面で同じ人に頼むのでも、誰がどの条文で頼むかによって結論が変わります。
消防の側から頼める場合もあるのですね。
根拠の条文が分かれます。
依頼の経路を、手順書に書いておきましょう。
医療関係者に日当や旅費を払えるか

一般的には、緊急の必要に基づく短期間の労務であり、住民または現場附近にある者として当然に協力すべき性質の単純労務だから実費弁償の必要はないと解されている。
しかし医師の場合は、医療技術または技能の提供を期待して出動させている。それでも払えないのか。
(……医療関係者に医療技術または技能の提供を期待して出動させた場合は、実費弁償をするのが適当と思われるので、事実行為として提供した資器材の補償のほか、日当、手当、旅費等を支出してさしつかえないか。)
義務がないことと、払ってはいけないことは別だという整理です。
現行法に実費弁償の規定はない。だから支払う義務は生じない。しかし支出してはならないとも書かれていない。特殊技術または技能を期待して来てもらった以上、必要に応じて支出することは差しつかえない。
対象も具体的です。事実行為として提供した資器材の補償。それに加えて日当、手当、旅費等。
必要に応じてという限定が付いている点は押さえておきます。無条件に定額を配れるという話ではありません。
なお、この回答は法令に基づいて従事させた場合のものです。法令の規定に基づかない協定で出動を要請した場合は、当事者間で解決すべきものと解されています。
義務はなくても、支出は差しつかえないのですね。
必要に応じて出せます。
費用の扱いを、あらかじめ決めておいてください。
他県の市町村長に応援を求められるか

災害対策基本法第67条により、市町村長等は他の市町村長等に応援を求めることができます。
この相手は、同じ県内に限られるのか。求められた側は、他県だからと断れるのか。
後段、災害対策基本法第67条第1項に規定する正当な理由とは解し得ない。
前段は求められるかどうかで、お見込みのとおり。つまり他県の市町村長等にも応援要求ができます。
後段が効いています。第67条第1項は、応援を求められた市町村長等は正当な理由がない限り応援を拒んではならないと定めています。その正当な理由に、他県であることは当たらない。
断れない側の理屈がふさがれたわけです。
ただし、遠隔地の市町村どうしが個別に相互応援協定を結ぶことについては、別の回答で慎重な見方が示されています。法律上は可能だが、実効性が乏しく都道府県の協力がなければ協定内容の実現は困難だとされました。
制度として求められることと、実際に応援が届くことは別だということです。
県境は、断る理由にならないのですね。
応援を求められます。
応援の協定の範囲を、確かめておきましょう。
よくある質問
まとめ
- 応急措置で私人の土地に工作した費用は第64条第5項では徴収できません
- ただし第59条の事前措置なら行政代執行手続により可能です
- 第65条第1項の「住民」は地方自治法第10条第1項と同義で、勤務地があるだけでは含まれません
- 住民でない者でも現場にある者は従事させられます
- 消防法第29条第5項の消防作業には負傷者の手当または看護を含みます
- 医療関係者への実費弁償の義務はありませんが、資器材の補償や日当や旅費等の支出は差しつかえありません
- 他県の市町村長等にも応援要求ができ、他県であることは拒否の正当な理由になりません
誰がどの条文で頼むかで、結論が変わるのですね。
すっきりしました。
頼む相手を決めるより先に、どの条文で頼むかを決めておくと迷いません。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 私人の土地に工作して災害防止の措置をした場合、その要した費用の求償について(岡山県あて回答)
- 災害対策基本法第65条第1項の「住民」の意義について
- 医療関係者を救急医療に従事させることができるか(昭和42年12月 山口県あて回答)
- 医療関係者に従事命令を発した場合、実費弁償を支出することができるか(昭和42年12月 山口県あて回答)
- 他県の市町村長等に対する応援の要求について(昭和44年12月 岡山県あて回答)
- 災害対策基本法第59条・第62条第1項・第64条・第65条・第67条・第91条
- 消防法第29条第5項・第36条
- 水防法第17条
- 地方自治法第10条
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した回答には昭和40年代のものが含まれ、条番号や機関の名称等は当時のものです。個別の事案についての適用は、所轄消防署または自治体にご確認ください。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)




