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天ぷら油の火災はなぜ強化液消火器なら消せるのか|粉末や水系消火器が使えない理由を解説

家庭のガスコンロに鍋がかかり壁に消火器が備えられたキッチンの様子

天ぷら油の火は、鍋を見ているだけでは防げません。
消防庁は昭和57年、家庭で起きやすい天ぷら油の火災について、消防研究所と共同で消火方法をまとめた資料を送付しました。
その1か月後には追加の実験結果を踏まえ、当初は「不適当」としていた消火器についても知見を改める通知が重ねて出されています。
消防庁は昭和57年の2通の通知で、天ぷら油火災に効く消火器と効かない消火器を実験で示しました

天ぷら油の火って、水をかければ消えるものだと思っていました。

いいえ、水を使うと火が拡大します
まずは油の性質と通知が示した実験結果を見ていきましょう。

うちの厨房にある消火器で本当に消せるのか、急に不安になってきました。

消火器の種類によって効果が正反対になります。
順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 消防庁は昭和57年の2通の通知(消防予第21号消防予第44号)で、天ぷら油火災の消火方法を実験で検証しました
  • てんぷら油は発火点約390〜405℃に達すると口火がなくても自然に燃え出し、家庭のこんろでも20〜30分で発火点に届きます
  • 粉末消火器は放射を途中で止めると再着火し、水や泡の消火器は油を飛び散らせて火を拡大するため使えません
  • 追加実験の結果、噴霧ノズル付きの強化液消火器は油を冷却でき、粉末消火器より効果が高いことが分かりました
  • 消火器が無いときはガス栓を閉め、濡れタオルや鍋蓋で覆って窒息消火し、絶対に水をかけてはいけません

粉末消火器ハロン消火器水泡消火器強化液消火器の4種類を比較し冷やせる消火器だけが天ぷら油の火に効くという結論を示す図解

てんぷら油火災の消し方はなぜひと月で2通の通知に分かれたのか

天ぷら鍋から火が上がるコンロと噴霧ノズルで検証実験を行う実験台を見比べるイメージ
春の全国火災予防運動では、家庭で起きやすい火災の初期消火方法の指導が重点目標のひとつに掲げられていました。
消防庁は消防研究所の協力を得て、天ぷら油火災の消火方法をまとめた資料をまず送付しました。
「天ぷら油による火災に対する資料の送付について」(昭和57年1月25日 消防予第21号 消防庁予防救急課長通知)=一般家庭における火災の中で、天ぷら油の発火等による火災事故が非常に多い。このことから、本年春季全国火災予防運動における重点目標のひとつとして「天ぷら油による火災などの家庭で起きやすい火災の初期消火方法の指導」を取り上げ、ご指導をお願いしているところであるが、天ぷら油による火災はその対応を一歩誤ると二次的災害を拡大させる危険性があることにかんがみ、住民に対してその危険性及び消火方法等について十分に周知徹底を図ることが必要である。ついては、消防研究所の協力を得て、天ぷら油による火災に対する具体的な指導について別添の資料を作成したので、参考までに送付する。
最初の21号通達は消火方法の目安を示すための資料でした
そこでは水系の消火器(水・泡)は油を飛び散らせるため不適当と結論づけられていました。
ところがその約1か月後、消防研究所が新たに噴霧ノズル付きの強化液消火器で追加の実験を行い、この結論を一部くつがえす結果が出ます。
そこで消防庁は21号通達を土台にしたまま、44号通達で新しい知見だけを追加で示しました。
天ぷら油火災の消火方法が2通の通知に分かれているのは、実験が段階的に進んだからです。

資料が2回に分かれているのは、内容が変わったということですか。

はい、追加実験で新しい知見が加わりました
まずは油の温度がどう変わるかを見ていきましょう。

何度になったてんぷら油がどこまで燃え広がるのか

天ぷら鍋から炎と熱気が立ちのぼるイメージと針が振り切れる温度計を見比べる図
天ぷら油は温度によって燃え方が段階的に変わります。
何度まで上がると火が入り、何度から自然に燃え出すのかを知っておくと、初期消火の判断がしやすくなります。
「天ぷら油による火災に対する資料の送付について」別添=1 天ぷら油の燃焼性状 現在市販されている天ぷら油(菜種、コーン、大豆等)の引火点は約300〜315℃、燃焼点は約350〜365℃、発火点は約390〜405℃である。天ぷら油の温度が引火点から燃焼点の範囲では、コンロ等の火を引いて一時に油面上に火が走ることはあるが、燃焼は継続しない。(略)天ぷら油の温度が発火点以上になれば、口火がなくても発火し、火災となる。この時、炎の高さは20cm以上となり油温の上昇速度は更に大きくなる。一般に家庭で使用する油量である0.5〜1リットルの天ぷら油を家庭用ガスコンロで加熱すれば20〜30分で発火点に達する。
発火点を超えると、火の気が無くても油だけで燃え出します
引火点(約300〜315℃)から燃焼点(約350〜365℃)の間は、コンロの火が一瞬油面を走っても燃え続けはしません。
ところが発火点(約390〜405℃)を超えると口火が無くても自然発火し、炎の高さが20cm以上で安定して燃えているときはすでに発火点を超えていると考えるべきサインです。
家庭で使う0.5〜1リットル程度の油なら、ガスコンロにかけたまま20〜30分で発火点に達します。
鍋を火にかけたら、その場を離れないようにすることが何より重要です。

うちの鍋も、火にかけたまま長時間放置してしまうことがあります。

20〜30分で発火点に達します
油を火にかけたら、そばを離れない習慣をつけましょう。

消火器の種類によってなぜ効果が正反対に分かれるのか

噴霧ノズル付き消火器で消火する人に許可マークが付いたイメージと水バケツをかけようとする人に禁止マークが付いたイメージを見比べる図
家庭や厨房にある消火器なら、どれを使っても天ぷら油の火は消せると思われがちです。
しかし通知が示した実験では、消火器の種類によって結果が正反対に分かれています。
「天ぷら油による火災に対する資料の送付について」別添=3 具体的な消火方法の比較 (2)消火器による消火方法 ア 粉末消火器で消火する方法 一たん消火した後、消火剤の放射を止めると再着火するため、消火器に充填されている全量の消火剤を油の中に入れ、油温を冷却することが必要である。(略)イ ハロン系消火器で消火する方法(ハロン1301、1211、2402) ハロン系の消火剤は油温を冷却しないため、一度消火しても再着火するので適当でない。ウ 水泡等水系消火器で消火する方法 水を主成分とする消火器は、油が飛び散り火災を拡大させるので不適当である
「天ぷら油による火災に対する強化液消火器による消火の効果に関する資料の送付について」(昭和57年2月23日 消防予第44号 消防庁予防救急課長通知)=21号通達では、水消火器、泡消火器等水系の消火器は消火した際に油が飛び散り、火災が拡大する恐れがあるため、天ぷら油による火災への消火には不適であるとしているが、今回の実験によれば、噴霧ノズルを付けた強化液消火器は、その他の水系の消火器と異なり、粉末消火器以上の効果があるということができる
同じ消火器でも、油を冷やせるかどうかで結果が分かれます
粉末消火器は油温を下げないため、消火剤の放射を途中で止めると再着火する危険があり、全量を使い切る覚悟が必要です。
ハロン系消火器も冷却効果が無く、同じ理由で不適当とされています。
水や泡を主体とする消火器は油を飛び散らせて火を拡大させるため、一貫して使ってはいけないとされてきました。
ところが噴霧ノズル付きの強化液消火器だけは例外で、油を冷却できるため粉末消火器より高い効果が実験で確かめられています。

水系はダメで強化液はいいなんて、見た目では区別がつきません。

噴霧ノズル付きの強化液消火器かどうかを確認してください。
家庭用消火器のラベルで種類を確認しておきましょう。

覆う消火法にはどんな落とし穴があるのか

濡れタオルで鍋を覆うイメージと座布団を外した鍋から再び火が上がり禁止マークが付いたイメージを見比べる図
消火器が手元にないときは、覆って窒息させる方法が有効とされています。
ただしやり方を誤ると、消えたように見えて再び燃え出す落とし穴があります。
「天ぷら油による火災に対する資料の送付について」別添=(3)覆いをして窒息消火する方法 ア 濡れたバスタオル、シーツ等で覆うことにより消火する方法 天ぷら鍋を包み込む大きさ以上のバスタオル、シーツ等を水で濡らし、かるくしぼってから鍋を覆う。冷却作用もあるので消火することができる。しかし、あわてて鍋をひっくり返したり、鍋を全面的に覆うことができない場合もあるので、注意することが必要である。イ フタをすることにより消火する方法 ぴったりと鍋全体を覆うようにふたができれば、消火効果があるが、火災時にはなかなかぴったりとフタをすることが期待できないし、また、ひっくり返す可能性もあるので不適当である。ウ 座布団で覆うことにより消火する方法 座布団で覆うと一時的に消火できたように見えるが、完全に消火することはできず、元火を消し10分以上経過した後でも座布団を取り去れば再着火する可能性がある
覆って消えたように見えても、油の温度は下がりきっていません
濡れたバスタオルやシーツで覆う方法は冷却効果もあり有効ですが、あわてて鍋をひっくり返す危険があるため、落ち着いて全面を覆うことが条件です。
フタをする方法は鍋全体をぴったり覆えれば効果がありますが、火災時にうまくフタが合わないことも多く、単独では頼りきれません。
座布団で覆う方法は特に注意が必要で、10分以上経っても座布団を外した瞬間に再着火することがあります。
覆ったあとすぐに座布団やフタを外さず、油が十分に冷えるまで待つことが欠かせません。

座布団で消えたのを確認したら、すぐ片づけてしまいそうです。

10分以上はそのままにしてください
早く外すと再着火する危険があります。

消火器が無いとき明日から何を確認しておけばよいのか

壁に据え付けられた消火器のイメージとコンロのそばでチェックリストを確認する家族のイメージを見比べる図
通知が示した実験結果は、そのまま家庭や厨房の備えに置き換えられます。
最後に、明日から確認しておきたいことを整理します。
「天ぷら油による火災に対する資料の送付について」別添=4 まとめ (1)天ぷら油が着火する温度は350℃以上で、これは、揚げ物をしている時の温度より200℃程度高く、揚げ物をしている時からさらに10分以上加熱しなければならないし、着火直前には多量の白煙を発生する。したがって、天ぷら鍋を火にかけたまま以前に気が付き、火災を発生させることはない。天ぷら鍋を火にかけた時には、絶対にその場を離れないようにし、どうしても離れる必要がある時には、どんな短時間であろうとも、火を消してから離れる習慣を付けなければならない。(略)なお、天ぷら火災の消火を指導する際には、直接水をかけると非常に危険であることを周知することを忘れてはならない
油の性質さえ知っておけば、火を出さないことが一番の対策だとわかります。
まず、家庭や厨房にある消火器が強化液タイプかどうかをラベルで確認してください
粉末やハロン系しかない場合は、消火剤を出し切る覚悟が要ることと、水は絶対に使えないことを家族や従業員に周知しておきます。
消火器が無ければ、濡れたバスタオルか鍋蓋をすぐ使える場所に置いておくことが備えになります。
そして何より、油を火にかけたまま鍋から離れないという基本を徹底することが、実験結果よりも確実な予防策です。

うちの消火器がどのタイプか、帰ったら確認してみます。

まずは消火器のラベルを確認してください
備えを見直すよいきっかけになります。

よくある質問

Q天ぷら油による火災に対する資料の送付についてはいつ出された通知ですか?
A回答は、昭和57年1月25日付の消防予第21号で消防庁予防救急課長から各都道府県消防主管部長に発出されました。消防研究所の協力を得て作成された資料が添付されています。
Q強化液消火器の効果を示した通知はいつ出されましたか?
A回答は、その約1か月後の昭和57年2月23日付の消防予第44号です。消防研究所が新たに行った実験の結果、噴霧ノズル付きの強化液消火器が粉末消火器以上の効果を持つことが分かりました。
Q天ぷら油の火災に水をかけてはいけないのはなぜですか?
A回答は、水を主成分とする消火器や直接の水は油を飛び散らせて火災を拡大させるためです。噴霧ノズル付きの強化液消火器だけが例外として認められています。
Q座布団で覆って消火したあと、すぐに外してもよいですか?
A回答は、外してはいけません。元火を消してから10分以上経過するまではそのままにしないと、油の温度が下がりきらず再着火するおそれがあります。

まとめ

消防庁は昭和57年の消防予第21号消防予第44号の2通の通知で、天ぷら油火災の消火方法を実験で検証しました
てんぷら油は発火点約390〜405℃を超えると口火が無くても自然発火し、家庭のこんろでも20〜30分で達します
粉末消火器ハロン系消火器は油を冷却できないため、消火剤を出し切らないと再着火する危険があります
水や泡を主体とする消火器は油を飛び散らせて火災を拡大させるため使ってはいけません
例外として噴霧ノズル付きの強化液消火器は油を冷却でき、粉末消火器以上の効果が実験で確認されています
覆って消火する方法は有効ですが、座布団は10分以上外さないなど再着火を防ぐ注意が必要です
消火器が無いときはガス栓を閉めて濡れタオルや鍋蓋で覆い、絶対に水をかけないことを徹底します

消火器の種類までは今まで意識していませんでした
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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 「天ぷら油による火災に対する資料の送付について」(昭和57年1月25日 消防予第21号 消防庁予防救急課長通知)
  • 「天ぷら油による火災に対する強化液消火器による消火の効果に関する資料の送付について」(昭和57年2月23日 消防予第44号 消防庁予防救急課長通知)

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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