特定建築物定期調査の報告書には、令や告示に判定基準が定められた法定調査項目とは別に、調査員が現場の経験から確認する任意調査項目があります。
屋上の露出防水層やシーリング材、外壁・屋上・地下室の雨漏りといった項目は、この任意調査に位置づけられています。
判定基準の数字が示されていないぶん、どこをどう見ればよいのか分かりにくいという声もよく聞きます。
この記事では、屋上の防水層からシーリング材、外壁・屋上・地下室の雨漏りの経路まで、実務でよく確認される5つの着眼点を解説します。
うちのビル、去年から天井にシミが出てきたんです。
報告書には任意調査としか書いてなくて、原因がよく分からなくて。
任意調査項目は判定基準の数字が無いぶん、見る場所と考え方を知っているかで差が出るところなんです。
屋上の防水層とシーリング材、雨漏りの経路の3つを押さえると、原因の見当がつけやすくなります。
屋上とシーリングと、あと雨漏りの経路ですか。
晴れている日でも点検できるものなんでしょうか。
はい、シーリングの劣化やパラペット周りの防水層は、晴れの日の目視と触診で十分確認できます。
この記事で5つの着眼点を順番に見ていきましょう。
- 屋上の露出防水層は、ふくれ・破断・接合部の口開きなど4つの劣化パターンを目視で確認します。
- シーリング材の劣化は、被着面からの剥離や破断など複数のパターンに分かれます。
- 外壁からの雨漏りは、ひび割れ・窓枠の取合い部・打継ぎ目地のシーリング劣化など複数の経路を疑います。
- 屋上部の雨漏りはパラペット周辺と屋上平面部で原因の探し方が変わります。
- 地下室への漏水は、二重壁構造があっても排水経路の点検を省略してはいけません。
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目次
露出防水層はなぜふくれを踏んではいけないのか

経年劣化に加えて下地の動きがそのまま伝わるため、法定項目に入っていなくても点検の価値が高い場所です。
露出防水はアスファルト防水・シート防水・塗膜防水が代表的で、熱や紫外線・オゾンといった化学的要因と、建物や下地材の動きという物理的要因の両方を受け続けます。
アスファルト防水は下地の挙動の影響を受けやすく、シート防水は施工時の張り付け不良、塗膜防水は下地の乾燥不良や塗膜厚不足が劣化の引き金になりやすいとされています。
現地調査では必ずゴム底の履物を着用し、ふくれている箇所は踏まずに目視で確認することが基本です。
小さな口開きも放置すれば下地まで浸水する入り口になるため、見つけた段階で位置を記録しておくと後の是正判断に役立ちます。
ふくれてるところ、うっかり歩いてしまいそうです。
点検のときは何を履けばいいんでしょうか。
ゴム底の靴であれば防水層を傷めにくいので安心です。
ふくれを見つけたら踏まずに写真を残しておいてください。
シーリング材の劣化はどんなサインで見分けるのか

熱・紫外線・酸素・オゾンといった要因に常にさらされるため、いずれか1つでも欠けるとシーリング材自体の故障につながります。
被着面からの剥離は劣化現象のなかで最も発生頻度が高く、接着すべき面とプライマーの接着力不足に地震や風などの外力が加わって起こるとされています。
ひび割れ等が無く一見劣化していないように見えても、パネルなどの動きが大きい場合はパネルとシーリングの境目(界面剥離)だけがすき間になっていることがあります。
調査では指などでシーリング材の弾力性を確認し、境目も含めて目視で丁寧に見ていくことが欠かせません。
弾力が戻らない、あるいは表面が白く粉を吹いている場合は、打ち替えの検討時期に入っているサインです。
ひび割れが無ければ大丈夫だと思っていました。
境目のすき間まではさすがに見落としそうです。
そうなんです、見た目より指で触った感触のほうが頼りになります。
硬くなっていたら早めにご相談ください。
外壁からの雨漏りはどこを疑うのか

外壁からの漏水は原因になりやすい箇所がある程度絞られているため、順番に見ていくと効率よく確認できます。
現地調査に先立って建物管理者へヒアリングを行い、雨漏りの場所・降雨と漏水の時間差・風向きや風の強さとの関連を聞いておくと、当たりを付けやすくなります。
外壁のひび割れは幅の小さいものでも雨水の通り道になり、窓枠の取合い部やコンクリートの打継ぎ目地はシーリング材の劣化が進むと同じように浸入経路になります。
台風など強風時だけ雨漏りするという相談は、サッシからの吹き込みが原因になっていることも少なくありません。
天井面のしみ跡や壁面の漏水跡を目視で確認し、しみの位置から逆算して外壁側の該当箇所を絞り込むのが実務での進め方です。
台風の日だけ窓のそばが濡れるんです。
これも雨漏りと考えたほうがいいんでしょうか。
強風時のサッシからの吹き込みも雨漏りの一種として扱います。
発生した日の風向きをメモしておくと調査がスムーズです。
屋上部からの雨漏りはなぜパラペット周辺が要注意なのか

どちらも見た目だけでは判断が難しく、構造を理解したうえで点検する必要があります。
笠木や手すりの取付け部分、あるいは防水層の立上り部分から漏水することが多く、設計や施工面での不具合が原因になっている場合も少なくありません。
屋上平面部からの漏水は、アスファルト防水層自体に損傷や老化があるケースが多く、スラブのひび割れや屋上工作物の埋込み部から浸入することもあります。
どちらの経路も外から見えにくいため、天井裏や上階の点検口を使ってしみの広がり方を確認しながら、対応する屋上側の位置を推定していきます。
パラペット周辺と平面部のどちらが疑わしいかを先に切り分けておくと、限られた点検時間を無駄にせずに済みます。
パラペットと平面部、両方見ないといけないんですね。
どちらを先に見ればいいんでしょうか。
しみの位置が外壁に近ければパラペット周辺を優先して確認します。
中央付近なら屋上平面部から見ていくとよいです。
地下室への漏水はなぜ二重壁構造でも安心できないのか

二重壁構造を採用している建物でも、排水の仕組みそのものが機能しているかを確認しなければ安心できません。
地下外壁は室内環境によって結露しやすいため、事務室や電気室、重要物品の保管倉庫などでは、室内側にコンクリートブロックなどの二重壁を設ける構法が多く採られています。
この構法は外壁からの漏水を二重壁内の側溝でいったん受け止め、通水管を経て湧水槽に導き、ある程度たまった時点でポンプで汲み上げて屋外へ排水する仕組みです。
地下室は照明が暗く外壁面を直接見られないことが多いため、外部からの貫通配管が集中するパイプシャフトや二重壁内の点検口を利用して確認します。
調査の前に建物管理者へ季節ごとの揚水ポンプの稼働状況をヒアリングしておくと、漏水の有無を判断しやすくなります。
地下室は二重壁だから漏水しないと思っていました。
ポンプの調子までは気にしたことがなかったです。
二重壁はあくまで受けて流す仕組みなので、ポンプが止まっていると水があふれてしまいます。
次の点検で稼働状況も確認しておきましょう。
よくある質問
まとめ
任意調査でもこんなに見るところがあるとは思いませんでした。
今度の点検で自分でも確認してみます!
気になる箇所が見つかったら、無理をせず専門の調査員にご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第8条第1項(建築物の維持保全)
- 建築基準法第12条第1項(定期報告における調査義務)
- 建築基準法施行規則第5条第2項(調査の十分性、項目・方法・判定基準の位置づけ)
※本記事は建築基準法及び同施行規則の現行条文をもとに、特定建築物定期調査における任意調査項目の一般的な考え方を解説したものです。個別の建築物における劣化状況の判定や是正の要否は、実際に調査を行う建築士・建築物調査員の判断によります。具体的な点検・報告については所轄の特定行政庁または専門の調査機関にご確認ください。





