夜間の社会福祉施設や病院は、職員が極めて少ない体制で火災に対応しなければなりません。
「本当に間に合うのか」を確かめる方法が無ければ、防火管理は机上の計画のままになってしまいます。
消防庁は昭和62年の通知で夜間の防火管理体制について具体的な指針を作る方針を示し、限界時間という考え方で検証する指導マニュアルを平成元年にまとめました。
この記事では、限界時間の考え方、対応事項の流れ、検証と改善の進め方を解説します。
うちの施設も夜間は職員が1人しかいません。
訓練をすれば十分と言えるのでしょうか。
回数だけでなく、対応にかかる時間が限界時間に収まるかを確かめることが大切です。
限界時間というのは、誰が決めるものなのですか。
建物の構造や設備の状況に応じて、消防機関が個々の施設ごとに設定します。
- 消防庁は昭和62年9月の通知で夜間の防火管理体制の指針づくりを約束し、平成元年3月31日の消防予第36号で指導マニュアルを示しました
- 対象は病院と、自力避難が困難な者が主として入所する社会福祉施設等で、防火管理者の選任を要する施設です
- 建物の構造ごとに出火区画と隣接区画の限界時間を設定し、対応事項が時間内に終わるかを検証します
- 対応事項は出火場所の確認から区画の形成、情報伝達・避難、消防隊への情報提供までの一連の流れです
- 限界時間を超えた場合は区画の構造や訓練方法を見直し、再度検証するところまでが指導の仕組みです
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目次
社会福祉施設や病院の夜間防火管理はなぜ限界時間で検証されるようになったのか

この課題に、消防庁はどのように向き合ってきたのでしょうか。
昭和62年の通知では、夜間の防火管理体制について「今後、具体的な指針を作成する」と予告されるだけでした。
その約2年後の平成元年3月に、実際の指導マニュアルとして示されたのが本通知です。
対象は入所者や入院患者が自力で避難するのが難しい、社会福祉施設や病院の夜間です。
具体的な対応事項と、それを検証する限界時間という仕組みが、このときはじめて示されました。
うちの施設ではもう何年も同じ訓練を繰り返しています。
それで十分と言えるのでしょうか。
回数を重ねることと、時間内に収まることは別の話です。
次の章で対象と仕組みを確認しましょう。
どの病院のどの社会福祉施設がこの指導マニュアルの対象になるのか

まずは自分の施設が対象になるかどうかを確認します。
当時の通知は、対象を定める条文として消防法施行規則第13条第2項を挙げていましたが、この条項は現在スプリンクラー設備の設置免除に関する別の規定に置き換わっています。
現行では、消防法施行令別表第一(6)項ロそのものが「自力避難が困難な者が主として入所する施設」として整理されており、病院((6)項イ)とあわせて指導マニュアルの対象になります。
防火管理者の選任義務は、収容人員が10人以上であること(令第1条の2第3項第1号イ)が条件です。
当初は、延べ面積が大きい病院や施設を優先して早期に検証する計画が示されていました。
当時の条文の番号が変わっているなら、もう古い通知ということですか。
いいえ。
対象施設の考え方や検証の仕組みは今も変わっていません。
限界時間はどうやって決まり、対応事項はどんな流れになるのか

どのように決まり、何を確認するのかを見ていきます。
出火区画を区画等でしっかり防ぎ、就寝室からバルコニー等へ避難できる構造であれば時間は長めに、スプリンクラー設備が設置されていない場合などは短めに設定されます。
通知が示す時間の幅は、出火区画でおおむね2分から12分程度と、建物の条件によって大きく変わります。
対応事項は、①出火場所の確認、②現場の確認、③消防機関への通報、④初期消火、⑤区画の形成、⑥情報伝達・避難、⑦消防隊への情報提供、⑧近隣事業所等の応援という順で進みます。
このうち⑤の区画の形成では、出火した部屋の戸を閉め、就寝室やリネン室の戸も早い段階で閉鎖することが求められます。
限界時間はどの施設でも同じ数字になるのですか。
いいえ、区画の構造やスプリンクラーの有無で数分単位で変わります。
自分の施設の条件を確かめることが出発点です。
対応事項の訓練で見落としやすいのはどこか

通知が特に注意を促している点を確認します。
通知自身が「一般的な構造、形態」を想定した基準であると述べており、施設独自の事情に応じた改善方法も積極的に評価してよいとされています。
また、事前訓練や検証は、通知が出た当時の条文でいう規則第3条第5項に当たる避難訓練とみなしてよいとされていましたが、その後の改正で避難訓練の規定は現行の規則第3条第10項に移っています。
訓練のたびに、消防計画に定めた消火・通報・避難訓練(規則第3条第10項、(6)項は年2回以上)の実施として位置付けておくと、記録の整理もしやすくなります。
限界時間を超えた場合も、それ自体を失敗と捉えず、区画や訓練方法を見直す材料として使うことが通知の狙いです。
限界時間を超えてしまったら、施設側の責任を問われるのでしょうか。
いいえ。
超過は改善のきっかけとして扱われます。
明日からなにを確認すればよいのか

特別な設備が無くても、今日から始められることがあります。
まず、自分の施設が消防法施行令別表第一(6)項イ(病院)又は(6)項ロ(自力避難困難者入所施設)に当たり、防火管理者の選任を要する施設かどうかを確かめます。
次に、夜間の勤務体制のまま出火場所の確認から区画の形成、避難誘導までを実際に行い、かかった時間を計測します。
最後に、その時間が施設の構造やスプリンクラー設備の有無に応じた限界時間に収まっているかを確認し、収まらない場合は区画の補強や訓練方法の見直しを消防本部と相談します。
この一連の流れを、次の消防計画に基づく訓練から取り入れてみてください。
特別な工事をしないと対応できない話だと思っていました。
そうとは限りません。
まずは時間を計測して現状を知ることが第一歩です。
よくある質問
まとめ
つまり、うちの施設でも今の訓練を見直す価値がありそうですね。
はい。
限界時間という尺度を知れば、訓練の目的がはっきりします。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアルについて(通知)(平成元年3月31日 消防予第36号 消防庁予防課長)
- 社会福祉施設等における防火安全対策について(昭和62年9月1日付 消防予第160号 消防庁次長通知)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第1条の2第3項第1号イ・別表第一(6)項イ・ロ
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条第10項
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





