工事中の建物には、完成後のような消防用設備等がまだそろっていません。
それでも毎日多くの人が中で働き、火気も可燃物も持ち込まれます。
平成30年に工事中の建築物で大きな火災が起きたとき、消防庁は翌日に注意喚起の通知を出しました。
その通知は工事現場でなにを再確認すべきかを項目まで並べて示しています。
うちの現場は、まだ内装工事の途中なんです。
消防用設備も動いていないのに、防火管理では何をすればよいのでしょうか。
工事中の建物にも防火管理の義務がかかる規模があります。
平成30年には消防庁が現場向けの注意喚起も出しています。
注意喚起というのは、消防署から言われるあれのことですか。
何を見られるのかを先に知っておきたいです。
通知には再確認する項目がそのまま書いてあります。
管理権原者向けと工事従事者向けの二本立てになっているのが要点です。
この記事の結論
- 通知は平成30年7月26日に東京都多摩市で起きた新築の工事中の建築物の火災を受けて翌27日に出されました
- 対象は新築の工事中で収容人員が50人以上かつ電気工事等の工事中で地階の床面積の合計が5,000平方メートル以上の建築物です
- 管理権原者には消防計画の内容が現場の実態に即しているかの再確認が求められます
- 工事従事者本人にも、たばこと火気管理・消火器・避難経路・通報の四つの再点検が求められます
- 防炎物品の使用は消防計画の法定記載事項に入っていないので別に確かめる必要があります
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工事中の建物の火災を受けて注意喚起はなぜ翌日に出されたのか
通知は火災原因の究明を待たずに出されています。
まず何が起きたのかを通知の書き出しで確認します。
新築の工事中の建築物の防火対策に係る注意喚起等について(平成30年7月27日 消防予第487号) 平成30年7月26日に東京都多摩市で発生した新築の工事中の建築物の火災では、死者5名、負傷者42名(重症13名、中等症11名、軽症14名、搬送辞退等4名)の被害が発生しています(略)。現在、この火災について関係当局により火災原因の究明が行われているところであり、当庁では、消防法(昭和23年法律第186号。以下「法」という。)第35条の3の2に基づき、消防庁長官の火災原因の調査のため、現地に職員を派遣したところです。現時点で出火原因等は特定されていませんが、類似の火災による被害の発生を防止するため、下記1の建築物に対し、個々の施設の態様に応じて下記2の防火対策に係る注意喚起を行い、その徹底を図られますようお願いします。
原因が分かる前に出された通知です。
火災の発生は平成30年7月26日で、通知の日付は翌27日です。
消防庁は
消防法第35条の3の2に基づき、消防庁長官の火災原因の調査のため現地へ職員を派遣しています。
それでも出火原因の特定を待たず、類似の火災による被害を防ぐことを理由に注意喚起を求めました。
つまりこの通知は原因究明の結論ではなく、
同じ条件の現場にいまある備えを見直させるための文書です。
原因が分かる前に通知が出るものなんですね。
そんなに急ぐ理由があったのでしょうか。
同じ条件の現場が全国にあるからです。
原因を待っていると次の火災に間に合いません。
注意喚起の対象になったのはどんな工事現場か
通知は対象とする建築物を四つの条件で絞っています。
条件はいずれも消防法令の規模要件と結び付いています。
新築の工事中の建築物の防火対策に係る注意喚起等について(平成30年7月27日 消防予第487号) 記 1 対象とする建築物 次の条件を全て満たす建築物とする。なお、地域の実情に応じて適宜対象とする建築物を追加して差し支えないこと。(1)新築の工事中であること(2)収容人員(1日の最大時の工事従事者の数)が50人以上であること(3)電気工事等の工事中であること(4)外壁及び床を有する部分が存する地階の床面積の合計が5,000平方メートル以上であること
消防法施行令第1条の2第3項 法第八条第一項の政令で定める防火対象物は、次に掲げる防火対象物とする。(略)二 新築の工事中の次に掲げる建築物で、収容人員が五十人以上のもののうち、総務省令で定めるもの イ 地階を除く階数が十一以上で、かつ、延べ面積が一万平方メートル以上である建築物 ロ 延べ面積が五万平方メートル以上である建築物 ハ 地階の床面積の合計が五千平方メートル以上である建築物
消防法施行規則第1条の2第1項 令第一条の二第三項第二号の総務省令で定める建築物は、外壁及び床又は屋根を有する部分が同号イ、ロ又はハに定める規模以上である建築物であつて電気工事等の工事中のものとする。
三つの規模のうち一つに絞られています。
消防法施行令第1条の2第3項第2号は、新築の工事中の建築物についてイからハまでの三つの規模を挙げています。
通知が対象にしたのは、そのうち
ハの地階の床面積の合計が5,000平方メートル以上のものだけです。
そのうえで通知は、収容人員を
1日の最大時の工事従事者の数と言い換えて、現場が数えやすい形にしています。
自分の現場が四つの条件から外れていても、通知は地域の実情に応じて対象を追加してよいとしているので、所轄消防署から同じ確認を求められることがあります。
うちは地階が5,000平方メートルもないので対象外ですね。
それなら何もしなくてよいのでしょうか。
通知は対象を追加してよいと書いています。
地階のある現場なら同じ確認をしておくと安心です。
管理権原者はなにを再確認するよう求められたのか
通知は管理権原者への指導事項を11項目に並べています。
そのほとんどが消防計画に定める事項と重なります。
新築の工事中の建築物の防火対策に係る注意喚起等について(平成30年7月27日 消防予第487号) 2 防火対策に係る注意喚起事項 (1)管理権原者に対し、次の事項が工事現場の実態に即したものとなっていることを再確認し、必要に応じて見直すよう指導されたいこと ア 消火器等の点検及び整備に関すること イ 避難経路の維持管理及びその案内に関すること ウ 火気の使用又は取扱いの監督に関すること エ 工事中に使用する危険物等の管理に関すること オ 自衛消防の組織に関すること カ 防火上必要な教育に関すること キ 消火、通報及び避難の訓練の実施に関すること ク 火災、地震その他の災害が発生した場合における消火活動、通報連絡及び避難誘導に関すること ケ 防火管理について消防機関との連絡に関すること コ その他防火対象物における防火管理に関し必要な事項 サ 防炎物品が使用されていること
消防法施行規則第3条第1項 (略)二 令第一条の二第三項第二号に掲げる防火対象物(仮使用認定を受けたもの又はその部分を除く。)及び同項第三号に掲げる防火対象物 イ 消火器等の点検及び整備に関すること。 ロ 避難経路の維持管理及びその案内に関すること。 ハ 火気の使用又は取扱いの監督に関すること。 ニ 工事中に使用する危険物等の管理に関すること。 ホ 前号イ及びトからヌまでに掲げる事項 ヘ イからホまでに掲げるもののほか、防火対象物における防火管理に関し必要な事項
消防計画に定める事項とほぼ同じ並びです。
通知のアからエまでは、消防法施行規則第3条第1項第2号のイからニまでとそのまま重なります。
オからケまでも、同号ホが引く
前号イ及びトからヌまでにあたる自衛消防の組織や教育や訓練の項目です。
つまり通知は新しい義務を作ったのではなく、
すでに作った消防計画を現場の実態と突き合わせるよう求めています。
消防計画を提出したきりになっている現場ほど、工程が進んで避難経路や火気の位置が変わっているので、ここが確認の勘所になります。
つまり消防計画をもう一度読み直せということですね。
提出したきりで開いていませんでした。
工程が進むと避難経路も火気の位置も変わります。
計画と現場がずれていないかを見てください。
工事従事者への注意喚起で見落としやすいのはどこか
通知は注意喚起の相手を二つに分けています。
管理権原者への指導とは別に、作業する人への再点検があります。
新築の工事中の建築物の防火対策に係る注意喚起等について(平成30年7月27日 消防予第487号) 2(2)工事従事者に対し、直接又は管理権原者を通じて、以下の対策を確実に実施していることについて再点検を行うよう注意喚起されたいこと ア たばこ、火気管理等の出火防止対策の再周知を行うこと。特に可燃物の近くで火気を取り扱うことは危険であるため、出火防止対策の徹底を図ること。 イ 消火器が適切に配置されていることを確認するとともに、消火訓練等により消火器を用いた初期消火方法を習得すること ウ 火災時の避難が迅速かつ円滑に行えるよう避難訓練等により火災である旨の周知方法、避難経路の再確認等を行うこと エ 火災の際に迅速な119番通報が行えるよう通報訓練等により通報方法の再確認等を行うこと
相手が管理権原者ではなく作業する人です。
記2の(1)は管理権原者への指導ですが、(2)は
工事従事者本人に再点検させる項目なので、消防計画を直しただけでは終わりません。
もう一つ見落としやすいのが、(1)の最後に置かれたサの防炎物品です。
防炎物品の使用は消防計画の法定記載事項に入っていません。
工事用シートなどの防炎は消防法第8条の3と消防法施行令第4条の3が別に定める義務なので、
消防計画を見るだけでは抜けます。
防炎のことは消防計画に書いていませんでした。
書かなくても義務はあるということですか。
防炎は消防法第8条の3が別に定める義務です。
工事用シートの表示を現場で確かめてください。
現場で明日からなにを確かめればよいのか
再確認は見直しで終わりではありません。
消防計画を直したときの手続まで規則が定めています。
消防法施行規則第3条第1項 防火管理者は、令第三条の二第一項の規定により、防火対象物の位置、構造及び設備の状況並びにその使用状況に応じ、次の各号に掲げる区分に従い、おおむね次の各号に掲げる事項について、当該防火対象物の管理について権原を有する者の指示を受けて防火管理に係る消防計画を作成し、別記様式第一号の二の届出書によりその旨を所轄消防長(略)又は消防署長に届け出なければならない。防火管理に係る消防計画を変更するときも、同様とする。
見直したら届け出るところまでが一続きです。
まず通知の記1の四つの条件に自分の現場が当たるかを確かめ、当たらなくても地階のある現場なら同じ点検をしておきます。
次に消防計画のアからコまでの項目を工程表と並べて、避難経路と火気の位置が今の現場と合っているかを見ます。
そのうえで
工事従事者への周知として、たばこと火気管理・消火器の配置・避難経路・通報の四つを朝礼などで再点検させます。
消防計画を直したときは
変更の届出が必要なので、所轄の消防長または消防署長へ様式第1号の2で出し直してください。
見直したら届出も出し直すんですね。
変更のときも同じ様式でよいのでしょうか。
様式第1号の2をそのまま使います。
所轄の消防署へ変更後の内容で出し直してください。
よくある質問
Q通知の対象に当たらない小さな工事現場でも同じ確認は必要ですか?
A通知は地域の実情に応じて対象を追加してよいとしているので、所轄消防署から同じ確認を求められることがあります。消防法施行令第1条の2第3項第2号に当たる規模であれば、そもそも防火管理者の選任と消防計画の作成が必要です。
Q収容人員が50人以上というのはどう数えるのですか?
A通知は収容人員を1日の最大時の工事従事者の数と示しています。日によって人数が変わる現場では、いちばん人が多い日で判断することになります。
Q防炎物品のことは消防計画に書かなくてよいのですか?
A消防法施行規則第3条第1項第2号が定める記載事項には入っていません。ただし工事中の建築物は消防法第8条の3と消防法施行令第4条の3により防炎規制の対象になるので、別に確かめる必要があります。
Q消防計画を見直したら届出も出し直すのですか?
A消防法施行規則第3条第1項は変更するときも同様とすると定めています。記載事項を実態に合わせて直したときは、所轄の消防長または消防署長へ届け出てください。
まとめ
✔通知は平成30年7月26日に東京都多摩市で起きた新築の工事中の建築物の火災を受けて翌27日に出されました
✔出火原因が特定される前に、類似の火災を防ぐ目的で出された注意喚起です
✔対象は新築の工事中で収容人員が50人以上かつ電気工事等の工事中で地階の床面積の合計が5,000平方メートル以上の建築物です
✔収容人員は1日の最大時の工事従事者の数と示されています
✔管理権原者にはアからサまでの項目が現場の実態に即しているかの再確認が求められます
✔工事従事者本人にも、たばこと火気管理・消火器・避難経路・通報の四つの再点検が求められます
✔サの防炎物品は消防計画の法定記載事項に無いので別に確認します
消防計画を出したまま工程だけが進んでいました。
明日の朝礼で避難経路から確かめます。
見直したら変更の届出まで忘れずにお願いします。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
主な活動
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 新築の工事中の建築物の防火対策に係る注意喚起等について(平成30年7月 消防予第487号)
- 消防法第8条第1項・第8条の3第1項・第35条の3の2
- 消防法施行令第1条の2第3項第2号・第4条の3第1項
- 消防法施行規則第1条の2第1項・第3条第1項第2号
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。