木造で3階建て以上の温泉旅館の客室に、なぜ避難ばしごのような避難器具が置かれているのでしょうか。
消防庁は昭和61年、木造の登録ホテル・旅館で相次いだ火災事故を受け、全国の消防機関へ具体的な防火対策を通知しました。
柱になっているのは、客室から屋外へ直接逃げる経路の確保と、火災をいち早く知らせる設備の設置です。
この記事では、木造宿泊施設に今も通じる防火安全対策の中身を解説します。
うちは古い木造3階建ての温泉旅館なんです。
消防署の検査でなにか言われないか、正直不安なんです。
実は木造3階建て以上の旅館には、事故を機に生まれた対策があります。
事故があったんですか。
うちの旅館にも関係がありそうです。
はい、大いに関係します。
対象と中身を順番に確認していきましょう。
- 木造3階建て以上の宿泊施設の防火対策は、昭和61年の熱川温泉などの火災事故を受けた消防庁通知が土台になっています。
- 通知の原則は「木造の3階以上を客室にしない」ことです。
- やむを得ず利用する場合は、通報設備と屋外への避難経路の両方が必要になります。
- 設備だけでなく夜間の防火管理体制の徹底も求められます。
- 自動火災報知設備等の作動試験を毎日行うことが、通知が求める基本です。
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目次
木造の温泉旅館火災はなぜ通達を招いたのか

きっかけは、温泉地で相次いだ火災事故でした。
昭和61年、静岡県の熱川温泉にあった木造の旅館「ホテル大東館」で火災が発生し、多数の死傷者が出ました。同じ頃、峰温泉でも火災事故が起きています。
消防庁はまず「国振第35号」で避難案内の徹底を指導しましたが、その後の現状把握調査で木造の登録ホテル・旅館に共通する弱点が明らかになったため、より具体的な措置を求める今回の通知に至りました。
背景にあるのは、木造建築物は火の回りが早いという構造的な事情です。
現在も消防法施行令は旅館・ホテルに対して延べ面積を問わず自動火災報知設備の設置を義務づけており、この通知はその土台の上に生まれた実務的な対策と言えます。
そんな事故がきっかけだったんですね。
うちの建物も他人事ではありません。
まずは、自分の建物が対象になるかを確認しましょう。
木造3階建て以上のどの部分が対象になるのか

まず、通知が旅館のどの部分に目を向けているのかを確認します。
つまり通知の一番の狙いは、木造の3階以上に宿泊客を泊めない運用に切り替えることにあります。
とはいえ既存の建物では階数を減らすことが難しい場合も多く、通知は「止むを得ず」利用する場合の代替措置を用意しています。
自分の旅館・ホテルが木造かつ3階建て以上で、3階以上にも客室があるなら、この通知の対象になると考えてよいでしょう。
次の章では、その代替措置の具体的な中身を見ていきます。
うちの旅館も木造の3階建てで、3階にも客室があります。
対象になりそうですね。
その場合は、次に説明する2つの措置が必要です。
3階以上の客室にはなにを備えればよいのか

どちらも、火災をいち早く伝え、屋外へ直接逃がすための備えです。
知らせる設備は、放送設備のスピーカー・緊急一斉呼び出し電話・テレビを使った警報のいずれか1つでよく、スプリンクラー完備なら省略できます。
逃げる経路は、廊下側の戸以外に地上へ直接抜けられる道が原則で、ベランダ等が無ければ避難ばしごなどの避難器具で代えます。
現在の消防法施行令でも、旅館・ホテルの2階以上や地階で収容人員が一定数を超える階には避難器具の設置が義務づけられており、通知の考え方は今の基準にもそのまま通じます。
自分の客室にどちらの設備があるかを、まず現物で確認してみてください。
うちはスプリンクラーが無いので、なにか設置しないといけませんね。
避難ばしごも確認します。
次は、設備だけでなく夜間の体制についてお話しします。
実務で見落としやすいのはどこか

通知は、夜間の防火管理体制にも踏み込んでいます。
通知は、夜間の避難訓練を年末年始などの繁忙期に合わせて計画すること、従業員の役割分担と配置を毎日確認すること、深夜の巡回回数を増やすことの3つを求めています。
設備を設置しても、深夜に手薄な人員配置のままでは初動が遅れ、設備の効果が発揮できません。
特に、臨時の従業員や繁忙期だけの応援スタッフまで役割を周知できているかは、見落とされがちなポイントです。
防火管理者自身が毎日、夜間の配置を確認する習慣をつけることが実務上の要になります。
設備さえあれば大丈夫だと思っていました。
夜間の人の配置まで見直します。
最後に、日々の点検で欠かせないことをお伝えします。
明日からなにを確認すればよいのか

いざという時に設備が動くかを、日常的に確かめる仕組みです。
通知は、自動火災報知設備と非常警報設備の作動試験を原則として毎日、決まった時間に行うことを求めています。
あわせて、臨時従業員を含む全従業員に、警報の伝え方や消火・警報・避難設備の扱い方を日頃から教育しておくことも欠かせません。
毎日の作動試験は手間に見えますが、いざという時に設備が動くかを確かめる方法でもあります。
まずは、自分の施設で作動試験が習慣になっているかを、今日確認してみてください。
毎日の試験は正直サボりがちでした。
今日から時間を決めて行います。
その積み重ねが、いざという時の初動を左右します。
よくある質問
まとめ
木造の旅館だからこそ備えの中身がよく分かりました!
避難器具の点検まで、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 木造宿泊施設の防火安全対策の推進について(通知)(昭和61年8月29日 消防予第119号 消防庁予防救急課長)
- 消防法施行令第21条(自動火災報知設備に関する基準)
- 消防法施行令第24条(非常警報器具又は非常警報設備に関する基準)
- 消防法施行令第25条(避難器具に関する基準)
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





