自分で火をつけた人が、消防が消火活動を始めた場面でホースを切るなどして消火を妨げたら、放火とは別にもう一つ罪が増えるのでしょうか。
放火罪と消火妨害罪はどちらも刑法の別々の条文に定められており、単純に考えれば二つの罪が同時に成立しそうにも見えます。
実はこの問題に正面から答えた判決があり、消防法第35条が定める火災原因の調査や犯罪捜査への協力のあり方を考えるうえでも参考になります。
放火した本人による消火妨害は、放火罪に吸収される一つの罪として扱われるとされました。
うちの建物で万が一放火の被害に遭って、犯人が消火の邪魔までしていたら、罪はそのぶん重くなるものなんでしょうか。
実は、放火した本人が消火を妨げても、別の罪が増えるとは限らないとした判決があるんです。
吸収一罪という考え方が使われています。
一つの罪にまとめられてしまうと、消火を妨げる行為の悪質さが軽く見られてしまわないでしょうか。
そこがこの判決のいちばんの論点です。
今日はその考え方を一緒に見ていきましょう。
- 刑法第114条の消火妨害罪は、火災の際に消火用の物を隠したり壊したりする行為などを処罰する規定です
- 自宅の建物に放火した本人が、その後消防のホースを切断して鎮火を妨げた事件で問題になりました
- 松江地方裁判所は、消火妨害は放火罪に吸収される一つの罪として扱われると判断しました
- 検察官が主張した放火罪と消火妨害罪の二罪成立という考え方は採用されませんでした
- 防火管理者は消火設備の前を塞がないことが実務上変わらず重要です
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目次
自宅の物置に火を放った本人はその後なにをしたのか

放火そのものだけでなく、その後の行動が争いの中心になりました。
- 夜間、自宅一階の物置に自ら火を放ち、天井や梁などを焼損させた
- 消防が駆けつけ、放水による消火活動を開始した
- その最中に刃物で消防用のホースを切断し、鎮火を妨げた
放火罪と消火妨害罪は刑法の別々の条文に定められているため、単純に考えれば両方が同時に成立しそうにも見えます。
一方で、火をつけた本人が自分の放火を最後までやり遂げようとして消火を妨げたとも見ることができます。
この事件は松江地方裁判所に持ち込まれ、罪の数え方そのものが問題になりました。
放火だけでも重い罪なのに、消火まで妨げたらもっと罪が重くなりそうな気がします。
実は罪の数え方そのものが裁判で争われました。
放火犯人自身の消火妨害は独立した罪になるのか

今回の事件では、この二つの関係そのものが問い直されました。
検察官は、放火罪と消火妨害罪は保護しようとする対象が異なる別の犯罪だとして、二つの罪が同時に成立すると主張しました。
一方で、消火を妨げた行為は自分が起こした火を消されたくないという一つの動機から出たものだという見方もできます。
この対立が、松江地方裁判所でどう決着したのかを次に見ていきます。
放火と消火妨害って、それぞれ別の条文に書いてあるから、別々の罪になりそうな気もします。
そこがまさに争われた点なんです。
罪数論という考え方がカギになります。
裁判所はなぜ消火妨害を放火罪に吸収したのか

その考え方は、放火と消火妨害が結びつく事案全般に当てはまります。
消火を妨げる行為は放火をやり遂げようとする一連の流れの中にあり、放火罪と目的や保護法益を同じくすると位置づけられました。
放火罪の法定刑は消火妨害罪よりも大幅に重いため、重いほうの罪でまとめて評価すれば足りるという考え方です。
つまり、放火した本人が消火まで妨げても、量刑の枠組みは放火罪の範囲で処理されるということです。
自分で火をつけた人が消火まで邪魔した場合は、放火罪の中でまとめて評価されるということですか。
そのとおりです。
保護法益が同じだという点が根拠になっています。
二つの罪が同時に成立するという主張はなぜ通らなかったのか

ですが、この判決はその立場を採用しませんでした。
「条文が別だから罪も別」という考え方は、消火妨害罪が放火罪を補充する規定だという位置づけの前では採用されませんでした。
第三者が消火を妨げる行為とは異なり、放火した本人自身による消火妨害はこの判決の対象に限られる点にも注意が必要です。
罪の数え方は、行為の外形だけでなく規定どうしの関係で決まるということを示しています。
条文が別だから罪も別、と考えてしまいそうですが、そう単純ではないんですね。
はい、規定どうしの関係まで見て判断されています。
この判断から防火管理者は何を確認すればよいのか

消火活動を妨げないための備えという視点で読み替えることができます。
今回の判断は放火した本人自身についての罪の数え方であり、第三者による消火妨害を軽く扱う趣旨ではありません。
消火栓や消火器の前に物を置かない、避難経路をふさがないといった日頃の管理は、消火妨害罪との関わりでも変わらず重要です。
自分の建物で万が一火災が起きたときに、消火活動を妨げる要因を作らないことが実務上の備えになります。
放火した本人の話だから、うちには関係ないと思っていました。
消火の妨げにならない管理という点は、どの建物にも共通します。
よくある質問
まとめ
罪の数え方の考え方がよく分かりました、設備の周りも見直します。
消火設備の点検でお困りのことがあれば、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 松江地方裁判所 昭和52年9月20日判決
- 刑法第108条・第109条・第110条・第114条
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(放火をした本人など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。





